※この作品はR-18です。

超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽-   作:アメリカ兎

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ep,147 リーンボックス、黄金の頂にて

 

 

 

 ――黄金の頂、その頂上でゴールドサァド、であるエスーシャと守護女神グリーンハート、パープルシスターが対峙する。

 側近の二人の手には、らん豚が抱えられていた。

 そして、大人のネプテューヌも一緒にいる。

 

「お、お姉ちゃん!? そこで何をしているの!」

「やっほー、ネプギア! なにって出荷のお手伝いだよ?」

\そんなー/

 らん豚達の抗議の声も聞き流しつつ、牧羊犬よろしく追い込んで集めていた。

 それは全て、元ソルジャー候補のリーンボックスの住民達。生贄に集められた千匹を前にしてもエスーシャは変わらない。

 振り返り、グリーンハートとパープルシスターの前に立つ。

 

「お前たちはそのままらん豚を数えてくれ」

「……エスーシャちゃん、本当にやるの?」

「わたしはこのためだけに此処に来た」

「エスーシャ……」

 側近のスライヌレディもスライヌボーイも気乗りしない様子だが、大人ネプテューヌだけは陽気に集めていた。

 

「邪魔をしないでくれ」

「そういうわけにはいきませんわ。そこにいるのはらん豚になってしまったとはいえ、リーンボックスの住民達なのですから。リーンボックスの守護女神であるわたくしが、みすみす犠牲になるのを見過ごせませんわ」

「ここにいる奴らは犠牲の犠牲になるだけだ……」

 エスーシャが武装し、剣を抜く。

 今、リーンボックスの統治者はゴールドサァドだ。これまでの活躍からベールにも信仰が少しずつではあるが戻ってきている。二人がかりとはいえまともに相手できるかどうか。

 しかし、グリーンハートは槍の穂先を下げる。

 

「ベールさん?」

「エスーシャ。わたくしが今ここで貴方と矛を交える理由は、リーンボックスの無辜の民を犠牲にしようとしていることですわ。あなた個人と争うつもりはありません」

「…………」

「国内の執政に興味がないというのであれば、守護女神であるわたくしが引き受けます」

「――」

「“興味ないね”ですか?」

 エスーシャが何かを言いかけようとして、グリーンハートに先回りされた。再び口を閉じる。

 

「権力に興味がなければ、それもいいでしょう。ですが、貴方に対する国民の不満に武装企業が貴方を失脚させようと策を用意しています。失うのは地位だけでは済まなくなる」

「……だからなんだ。手を引いてくれ」

「お断りします。あなたも今はリーンボックスに身を置く一人。ならば、わたくしが守るべき一人に違いはありません。このままでは最悪の事態を招くことになりますわよ。地位も名誉も、尊厳も失って行き着く先は暗い牢屋の中。犠牲になるのはあなた一人ではなく、千人の国民も含めて」

「今更引き返せるとでも?」

「では。引き返せない理由を」

「…………」

 口を閉ざしたエスーシャに、グリーンハートは押し黙っていた。パープルシスターも事の顛末を見守っている。

 沈黙を破ったのはアルシュベイトとゼロワンの跳躍ユニットの噴射音。肩に腰を下ろしてふんぞり返っている剣姫はまだ少し不機嫌そうだった。ニトロプラスも何故か苛立っている様子。

 

《ベール、ネプギア! 待たせた!》

「アルシュベイトさん!

《状況はどうなっている》

「おう、エスーシャ。戻ったぞ。どうした」

「……ああ、手を貸してくれ。この二人をここから追い出す」

「断る」

 これ幸いと見た助け舟を、剣姫が断固拒否した。それには流石にエスーシャも面食らっている。

 

「なんだって?」

「最初に言ったはずだ。おれの相手は、あくまでもアルシュベイト。国内で反旗を翻そうとするテロリスト集団の撃破。その双方を為した今、お前に助力する理由がない」

「だが」

「それはそれ、これはこれ。女神の相手は今の統治者であるゴールドサァドがするべきだ。つまりお前に他ならない。ここまでお膳立てはしてやったのは、心ばかりの厚意だ」

 こちらもデータは欲しかったからな、とゼロワンの義体を一瞥した。

 大人ネプテューヌがらん豚を数えていたが、足を滑らせて転んでいる。

 

《エスーシャ、俺からも頼む。事は一刻を争う事態なのだ。下手を打てばリーンボックスそのものが陥落しかねん》

「それには及ばん。あの天下の大馬鹿者が何をしでかそうと、ここにおれがいる。手を下そうとした瞬間に殴り飛ばす」

 大魔導師を相手に啖呵を切れる相手はそう多くない、片手の数ほどだ。その中に剣姫もいる。

 

「そもそもお前の目的が不明瞭だと言うのに、誰が手を貸すか。腹を割って話せ。話せぬ事情があるならばこちらも手を貸しようがない」

「…………」

《……俺の仮説だが。エスーシャ。お前がやろうとしていることは、その身体の本来の持ち主である、イーシャのためではないのか?》

「――! どうしてそれを!?」

《図星か。お前自身、気づいていないようだが俺はイーシャとは何度か接触している》

「……ッ。どうして勝手なことを……!」

 毒づくエスーシャに対し、その手札を切ることが最短最効率とみたアルシュベイトが腕を組む。

 

《イーシャは、お前の行動に不満を抱いている。嘆いていたが、どう止めるべきか困っていたようだ。俺はその相談に乗ってこれまで手を回してきた》

「では、アルシュベイトが行ってきたテロの片棒を担いできた理由は……」

《変な話だが、もうひとりのゴールドサァドであるイーシャからの依頼もある。その裏でフリーの傭兵部隊にも声を掛けて武装を整えてきたのだが――結果はコレだ》

「エスーシャさん、教えてください。イーシャさんのために、何をしようとしていたのか」

「…………」

 スライヌボーイとレディの二人が手を止めて、肩を叩いた。

 

「エスーシャちゃん、もうやめにしましょう」

「イーシャが望んでいないことをこれ以上やるのは」

「っ……! ここまできて……ここまでしておいて、今更!」

「ふーむ……つまり、今。そこにイーシャがいるのだな? ならイーシャに聞けば早い話だ」

《イーシャ。頼む》

 怒りに任せていたエスーシャの身体が一瞬、ガクッと脱力したかと思えば落ち着き払う。一見すれば何も変わらないように見えるが、アルシュベイトは目の色を確認した。

 心穏やかな、緑。

 

「…………」

「なんだか、雰囲気が」

《彼女との会話は、基本的には電子メールでやり取りしていた。その履歴は確実に消去してある》

「まるで浮気現場を取り押さえた気分だぞ、アルシュベイト」

《それについては繰り返す謝罪しているだろう……》

「いいや許さん。戻ったら地獄の反復メニュー三倍だ、次の親衛隊候補も選抜を兼ねる」

 ゼロワンが遠い目をしていた。何人が活動停止するだろう。

 

《彼女からのメールはこちらで表示する。イーシャ》

 小さく頷くと、エスーシャ――イーシャが携帯を取り出して文を打ち始める。

 

『まずは彼女の非礼を代わってお詫びします。大変申し訳ありませんでした』

「エスーシャに罪はありませんわ」

『ですが、彼女を責めないでください。エスーシャは、わたしを救おうとしただけなんです』

「……ふむ。大層な訳ありと見たが、話してくれるか?」

『過去に、瀕死の状態に追い詰められた彼女を救うために、わたしはこの身体を使うことにしたんです。今、この身体にはわたしとエスーシャ、彼女の二人分の魂が入っています』

 その文面に、剣姫が思うところがあるのか眉を動かした。

 

『このままでは、身体が崩れてしまうとエスーシャが焦り、今回の事態を引き起こしました』

「そんな……」

『彼女は、いつか私に身体を返そうと考えていました。ですが、それは叶わない願いです』

「当然だな。そんなことをすればエスーシャの魂が消えてしまうのだから――だが、腑に落ちん話だと言うことは分かった。イーシャ、確認したいことがある。一人の肉体に二人分の魂が入っているからといって、身体が壊れるという話は聞いたことがあるのか?」

「……いいえ」

 その否定の言葉だけは、イーシャ自身の口から告げられる。剣姫も腕を組んで、頷いていた。

 

「そうだろうな。そのはずだ」

「? どういうことです、つーちゃん」

「ベール。ネプギア。お前たち二人も知っているはずだ。肉体を魂の牢獄として、一人や二人どころではない。千にも勝る万人の命を身体に収めている怪物を」

「……大魔導師?」

「ああ、そうだ。妙な話だと考えなかったか? なぜ、守護女神であるおれとアレが、対等に渡り合えているのかが」

「大魔導師ですし……」

「エヌラスさんのお師匠さんですし……」

「――、死者の信仰は揺るがない。何故ならば、それが命の灯火であるから」

「ニトロプラスさん?」

 ぴーしー大陸の大罪人である男の話――、曰く「神を造ろうとした男」だ。

 その男の名前は誰も知らない。その男の犯した罪は、誰もが知っている。

 神様を造ろうとした。ぴーしー大陸にはいない、女神を作り出そうとした。

 すなわち、アダム(ADAM)イブ(EVE)。だが、ゲイムギョウ界に――超次元における禁忌に等しい研究は、いつしか潰えていた。

 その大罪人は忽然と姿を消して、ただ残されたのは一冊の魔導書。

 それは、死者の血肉を使い、魂を擦り減らし、精神を侵す。

 ――“死霊秘術書(ネクロノミコン)”だ。

 男の罪と偉業は、ただそれを為そうとした痕跡だけで語られる。

 その名を、大魔導師(グランドマスター)

 

「死者の魂は決して消えない。潰えない。それを自分の利益のために利用する男なんて、生きている価値すらない。死んで然るべきよ。そうでなければ、地獄に墜ちて苦しみ続けるべきだわ」

「道理だな。人の道を外れた獣に生きる理由など無い。つまりはそれだ、女神を越えようとした……つまりはおれだな。それであの男が行き着いた先が死者の魂を身体に収めることだ」

 それにはイーシャも驚きのあまり携帯を握りしめていた。

 

「そうしてアイツは、神をも喰らう獣となった。人ですらなくなった。神にもなれないまま」

「……、御姫様。大導師(マスターテリオン)という名前に聞き覚えはある?」

「いいや、初耳だ。誰だそれは?」

「聞いたことが無いならいいわ。気にしないで」

「応、忘れることにする。つまりだ、イーシャ。人間の肉体というのは、一人や二人の魂が増えたところで壊れるような器ではないということだ。そもそも魂の重さというのもたかが知れている。そうでもなければ、女神などという奇跡は生まれていない」

 しかしそれでは疑問が残る。

 エスーシャは、なぜそんなことをしたのかだ。

 

《イーシャ。お前なら知っているはずだ、なぜエスーシャがこのような事をしたのか。壊れるはずがないと知っていながら、壊れると()()()()()()()のだから。誰がそんなことを吹き込んだのか、答えてくれないか》

「…………!」

 携帯を握りしめて震えるイーシャに、アルシュベイトが歩み寄る。

 この少女は、エスーシャを通して見たはずだ。犯人の姿を、顔を。だが、それが言えない。言い出せないのは青い顔色から恐怖という感情なのが見て取れる。

 アルシュベイトの脳裏に浮かぶのは、ヌルズ・エクス・モルテス。エヌラスに瓜二つの邪神。絶望の名を冠する災厄。もしそうであるならば、それで済む話だ。

 アレが黒幕であることは疑う余地がない。

 

《……シロトラか?》

 だが、敢えて口にした名前は狂信者。それを否定する。

 なぜアレがゴールドサァドの命すら狙っていたのかは定かではない。しかし、解るのはただひとつだけ。

 もはやアレは、超次元の敵だ。

 

「んー? 何回数えても一匹足りないなー、おっかしいなー……」

「……お姉ちゃん……」

「あ、ネプギア! やっほー、元気にしてた? ご飯食べてる? ちゃんと寝てる? プリン持ってない?」

「何をしてるの?」

「なにって、お手伝い! らん豚を数えるだけの簡単なお仕事!」

 どやぁ! とでも言わんばかりに胸を張る。

 

「二人共、本当に千匹集めたの?」

「もちろんよ」

「でも何回数えても一匹足りないよ?」

「おかしいわね。もしかして、運んでいる途中で落としちゃったのかしら?」

 

 ――不意に、アルシュベイトとゼロワンが跳躍ユニットを点火して大人ネプテューヌの頭上を飛び越えた。

 そして空中で火花を散らして二人が着地する。

 

《……守護女神が二人も揃っているとは好都合だ》

「シロトラ……!」

《武装企業本社を襲撃して何を強奪したかは知らんが、こちらの留守を狙うとは卑怯な真似をしてくれる》

《相手に打撃を与える戦法は総じて卑怯なものだ》

「もしや、貴方がエスーシャを誑かしたのですか?」

 グリーンハートからの問に、シロトラは無言で応えていた。

 ゴールドサァドの玉座に手にしている刃を向けて、エネルギー弾を放つ。ゴールドクリスタルが砕け散り、イーシャが膝をつく。

 

「なにを!?」

《元よりゴールドサァドに期待などしていない。守護女神は俺の敵だ》

「ほう、随分と恐れ知らずの馬鹿が出てきたな。気に入った、お前みたいな馬鹿は嫌いではない」

 シロトラの傍らの空間が歪む。そこから姿を現したのは、武装企業本社の地下深くに安置されていたはずの戦乙女。過去に製造されたハァドラインの傑作機体。

 四足の脚部に、密かに改修工事が重ねられていたのか部品が新調されていた。それに手をかざして、黒く淀んだ卵状のものを埋め込む。

 

「今のは……」

《邪神の卵だ。これを埋め込まれた対象は、魔人と化すようだぞ?》

 つまり――この瞬間、ラインの戦乙女は機械の魔人と化している。守護女神狂信者によって作られたはずの戦乙女が、不気味な脈動と共に起動する。

 

「あいつ卵生だったのか」

《言っている場合か、御姫! くるぞ!》

《こちらで戦乙女は引き受けます!》

「女神の力を無効化する相手に加えて、戦乙女ですか……」

「イーシャさんを連れてお二人は早く逃げてください」

 全身の関節を軋ませていた戦乙女だったが、頭部ユニットを上げて敵性対象を認識すると両手のライフルを持ち上げる。

 

《……対象、確認。排除、開始》

《こっちだブス乙女!》

 電子音声を向けながらゼロワンの射撃を回避して、足場を蹴って離れていく戦乙女。

 シロトラは静かに刃を振るってグリーンハート達に歩み寄ろうとしていた。だが、その前に立ちはだかるのはアルシュベイト。

 

《お前たちはイーシャとらん豚を頼む。あれは俺が請け負う》

「良いのか?」

《あいつとは因縁があるのでな》

《……また貴様か。いい加減に邪魔だぞ》

《こちらのセリフだ》

 女神を唯一殺戮せしめる兵器を相手に女神を差し向けるわけにはいかない。

 

「女神様に分が悪いなら、アタシは無関係よね」

《そうなるが、あれは手強いぞ》

「ご心配どうも。慣れてるわよ、そういうの」

 携帯していた非常用マカロンで消費した熱量を補給しつつ、ニトロプラスがレイジング・ブルマキシカスタムの残弾を確認する。

 

「そういうわけだから、ここは任せて」

「……わかりました。お二人はエスーシャを。わたくしとネプギアちゃんでらん豚を誘導します」

「でも、お姉ちゃんが」

 大人ネプテューヌは大剣を抜いて、両手でブンブンと振っていた。

 

「わるいこはいねがー、いねがー! 毛刈りしちゃうぞー!」

「そんなー」

 逃げ惑うらん豚をグリーンハートが誘導しつつ、パープルシスターは大人ネプテューヌの前に立つ。

 

「……どうしてシロトラに加勢してるの、お姉ちゃん」

「うーん、それはちょっとわたしも色々と混み入った事情があるから言えないなー。ぶっちゃけ脅されてるとしか」

「そんな!」

「そういうことだから、ごめんねネプギア! 痛くしないように手加減してあげるからかかってきなさーい! てやー!」

 振り回される両手の大剣を防いで、パープルシスターが後ずさった。手加減、とはいってもシロトラの目がある手前、下手な真似はできない。

 

「聞きたいことがあるなら、拳で聞くよ!」

「……そういうことならわたしも全力でいきます!」

「わたし手加減するって言ったのに!?」

「え、えっと、じゃあ! 全力で手加減します!」

 自分で言っておきながら、なんか違和感がある。

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