超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――高速で空中を移動するラインの戦乙女を追撃するゼロワンとニトロプラス。
レイジング・ブルマキシカスタムで狙い撃つが、両肩に設置されているサイドブースターを瞬間的に起動させて強烈な横加速によって回避される。その設計思想は傑作と名高い第四世代の機体構造をしていた。予算が最も潤沢な時期に建造された自立型学習戦闘人工知能。狂信者の狂気によって造形された美しすぎる完成度の戦乙女は、しかし、戦場という華を知ることなく籠の中の鳥としての生涯を余儀なくされた。
「ッ……どういう速度で! どういう戦闘機動してんのよ!」
《およそ人間には耐えられんGを無人化でねじ伏せているとしか、思えんな!》
急激に姿が小さくなっていく相手の加速に追いつけない。突き放されていく二人が毒づくが、ゼロワンが先に複眼ユニットによって捉えた敵機の旋回行動に気がつく。加速したままの速度を維持しながら百八十度回頭。Uターンしてくる相手がマイクロミサイルポッドを展開して一斉射しながら横へ逸れていく。
ゼロワンが手持ちの短機関銃で迎撃できるだけ迎撃すると、ニトロプラスがその背後に回る。
機影を目で追って、ゼロワンの背面ラックに手を掛けて左手で狙いを澄ませて戦乙女めがけて発砲した。ライフルで狙っていた相手は回避行動を優先して再び二人から離れていく。
「一撃離脱ってわけね」
《こちらとしてはやりにくいことこの上ないな》
「アタシもブーツに仕込んでる合当理の消費熱量が大きいから長引くと不利よ。一応携帯食料は持ち歩いてるけれど、無駄に消費したくないわ」
《こちらも間に合わせの義体。戦闘データは取りたいが、損害は避けたいな》
「となれば利害一致ね。適当に相手して撤退しましょう」
《アルシュベイト様もそれを望まれる》
ベールがエスーシャとらん豚達を避難させている間に、こちらも適当に戦乙女を相手するしかない。パープルシスターと大人ネプテューヌの戦闘を観察すれば、お互いに手加減しているからか剣呑な空気は感じられなかった。それでも真剣に打ち合っている。
「とぉりゃー!!」
「くっ……! 負けません、たぁー!!」
「ぅわっとと……! ネプギアってば女神化してるなんて卑怯だぞー!」
「ひ、卑怯だなんて言われても!?」
「今だ隙有りー!」
「きゃあ!? もぉー、お姉ちゃんの卑怯者!」
戸惑っている隙に両手の大剣を振りかぶる大人ネプテューヌへ向けてパープルシスターが苛立ちを込めて頬を膨らませていた。しかし、小さく舌を出して迫ってくる。
「そうは! 言われても! わたしも結構切羽詰まってる状況だから、さ! そこはなんとかネプギアのやさし~い心で大目に見てくれないかな!」
「わたしだって……! エヌラスさんのためにも! 何よりお姉ちゃんのためにも負けたりなんかしてあげられないんだから!」
「うわー、だめだーやられたぁー! ごめーんシロトラ! 女神様相手じゃわたしでも役不足だよー! 一足先に帰るね!」
明らかな棒読み。わざとらしさ全開で大人ネプテューヌがパープルシスターの一撃を防いで尻もちをついていた。立ち上がり、ポケットから何かを渡す。
(ネプギア。これ、上手く使ってね。多分役に立つから♪)
「えっ?」
クロワールが作り出した次元の裂け目へと飛び込み、ウインクを残して大人ネプテューヌが立ち去った。それを視界の端で見ていたシロトラだったが最初から頭数にすら入れていない。
目の前の軍神と刃を合わせて火花を散らす。押し合い、それでも一進一退の攻防が続いていた。
《剣技の冴えは凄まじいものだな、惚れ惚れするほどだ》
《下手な称賛は不要だ》
《だが解せん。だがわからん。何故貴様はそうまでして女神のために他の女神を排そうとする》
《お前には何一つ関係のない話だ、失せろイレギュラー!》
《それはこちらの台詞だ! 鏡に映してそっくりまるごと叩き返してくれる!》
どちらもゲイムギョウ界にとってはイレギュラーでしかない。しかし、互いに譲れぬ一線があるからこそ正面から衝突していた。
ゴールドサァドと接触を試みていたのは、女神へ差し向けるため。双方が弱ったところで両者を討ち取れれば最善の結果となったが、その計画を全てアルシュベイトの手によって阻まれた。それだけではない。ここまで勝負を流されたのは、雇い主から不評を買っていた。それがますます腹立たしい。
《お前とて女神の狂信者だろうに! 何故わからん!》
《否、だからこそ分からんのだ! プレジレントを見ただろう。貴様もそばにいたのなら見たはずだ! 女神のために、愛する国のために尽くした男の姿を。あれこそ正しく狂信者であっただろうに!》
《――世迷い言をほざくな》
腰部ラックからエネルギーグレネードをまとめて放り投げながらアルシュベイトから距離を取るシロトラが背面ブースターで加速しながら横へ回り込む。
《そんなものは、守るべき国と女神が存在するお前らだからこそ言える詭弁だ!》
逆手に持ち替えた大型片刃刀でシロトラの両刃剣を防ぐ。
《シロトラ、まさか貴様は……》
《俺の信仰は失われた。俺の愛国は喪われた。それでもと信じ続けて、裏切られた女神を想えばこそ――嗚呼そうだアルシュベイト。俺は亡国の騎士だ。ただ一人、惨めに無様に生き残った! 誓いを立てた仲間も、女神も、国も、何もかも――だからこそオレは女神を殺すのだ》
異様な気配と共に、アルシュベイトの剛剣を打ち払う。シロトラが構える大型両刃剣を青いエネルギー刃が包み、その熱量を持って女神の加護が付与されているはずの刃を焼ききった。
《オレは、オレの信仰のために、オレの信じる女神以外を殺す――例えゲイムギョウ界を滅ぼそうとも。それが我が女神の望みとあれば》
《そのあとで。貴様は何を望む、シロトラ》
《いいや、なにも》
――狂っている。シロトラはもう、壊れている。何が彼をそうまでさせたのかは定かではない。信仰ではなく、狂気だ。盲信だ。
プレジレントのように、自らの意思を持って敢行した愛国心による狂信ではない。
シロトラの抱く女神への信仰は、世界の破滅以外になにもなかった。
眼前に刃を突きつけられて、なおもアルシュベイトは不動の構えを見せている。
《お前もここで消えるがいい、軍神》
頭部を撃ち抜こうとしたシロトラの刃だが、アルシュベイトが前腕部に格納していたナイフを咄嗟に展開して銃口を逸らす。
《悪あがきを――!》
《ああそうだ! 足掻くとも! 俺には負けられん理由がある! 敗けるわけにはいかん。プレジレントの愛した国であり、同時に御姫が友達と認めた女神の国を! 貴様程度に滅ぼせるものか、そうはさせん!》
ナイフの柄頭にあるスイッチを押して、跳躍ユニットをパージすると蹴り飛ばした。相手に押し付ける形にして、投擲したナイフが圧縮されていた爆薬に信管が反応して起爆する。推進剤と化学反応を起こし、大爆発に飲み込まれるシロトラの機影。
黒煙と爆炎から弾き出された相手めがけてアルシュベイトが駆け出し、飛び蹴りで更に隣の足場へと吹っ飛ばした。
《例え得物を失い、矢が折れ弾が尽きようと! この俺の武は奪えん! かかってこい!》
《――味な真似をしてくれる……!》
静かに怒りを表すシロトラだが、機体の損傷とエスーシャの遠ざかる反応にこれ以上の作戦続行は不利益であると判断する。業腹だが、ここは相手の粘り勝ちという結果に終わった。
クリスタルを稼働させようとしていた手を抑え込み、ラインの戦乙女に撤退命令を下す。
《……次があると思うなよ、貴様ら》
《望むところ。こちらも引けん戦いだ》
次元の裂け目へと姿を消すシロトラへ向けて、アルシュベイトは戦友の礼儀に則ってサムズダウンを見せた。その横を暴風と共に駆け抜けるラインの戦乙女が四脚で滑走しながら火花と共に去っていく。
後を追うようにアルシュベイトのもとへやってきたゼロワンは、左腕部が大破していた。ニトロプラスはすっかり玉のような汗を流している。
「ハァ、ハァ……! まったく、もう……ほんっと、無茶苦茶な戦闘してくれるわね。生身の人間には荷が重いわ」
《アルシュベイト様、ご無事ですか》
《応、健在だ。ネプギアも無事なようで何よりだ》
「はい! 皆さん、大丈夫ですか」
ひとまずは全員の無事に胸を撫で下ろす。後は、エスーシャの処遇とベールとチカ、そして武装企業による女神政権の復興に向けて全力を尽くすだけ。
《……――大魔導師、聞こえるか。こちら、アルシュベイトだ。応答願う》
『…………聞こえている。どうした』
《リーンボックスをゴールドサァドから奪還することに成功した。辛うじて、な。そちらはどのような塩梅だ》
『ルウィーに攻め込んでいる猛争モンスターの巣窟へ突入して進行形で殲滅中で、今。巣の破壊が終わったところだ』
それがゲイムギョウ界の霊峰の地形を変形させていることとはつゆ知らず、アルシュベイトはただその功績を労う。
《これで、プラネテューヌ以外はどうにかなったか》
『あそこはどうにも今までと変わりが無いように見えるがな。だからこそ貴様の方を急務としたのだ。そちらの舵取りは問題なさそうか』
《ああ、後は俺に任せてくれ。くれぐれも退屈しのぎに狙撃なんてするなよ》
『あんまりにも暇を持て余した場合はやるかもしれんがな』
冗談きつい。誰が防げるんだ、大陸間弾道狙撃魔砲とか。
……いや、一名ほどそれができそうなのがリーンボックスに滞在しているが。名前は絶対に口にしないことにした。
《予想以上に手間取ってしまってな。俺も一度アゴウへ戻る。多少手薄になるが、リーンボックスにはネプギアもいる。それに心強い協力者もな。安心してそちらに取り掛かってくれ》
『お前の言葉、二言はないだろうな。任せた』
間もなく大魔導師との通信が切れる。
アルシュベイトは腰に手を当てて深く息を吐き出す仕草を見せた。
徐々にだが、状況は好転しつつある。
だが、それとは別にエヌラスの容態は悪化の一途を辿っていた。