超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ヌルズの抜刀術をブラックハートが大剣でいなす。入れ替わるようにホワイトハートが戦斧で殴りかかる。手首を回しながら鞘を持ち替えて戦斧を捌いて、ソラの射撃から身を躱した。
エヌラスとの相違点。それは、ヌルズ・エクス・モルテスは銃を使わないということだ。しかしそれを補って余りある火力を持っている。
独立支援呪法兵装近接型、鳳凰院・凶魔。射撃型、殺戮院・鏖花。
両者を展開されると同時に、二人が距離を取った。地面を穿ち、崩れた壁を粉砕する鏖花のガトリングにホワイトハートが舌打ちしている。
凄まじい火力に手も足も出ない。棺桶状の巨大な戦闘ユニットは単独であっても厄介だが、それが二基。それぞれ左右に展開されていた。
凶魔の機構が稼働する。大きく開かれた棺桶から飛び出す無数の魔剣、魔刃、凶器の数々が絡繰り仕掛けの鋼線によってまるで生きているかのように動きだした。
射出される刃をブラックハートが打ち払い、ソラがライフルで援護する。メガネを直しながら、マスクを取り付ける。
ただ交戦するだけならば、足止めが精々だ。しかし、相手の戦闘データをインタースカイに送信して解析を進めることで後進に任せることができる。できる限り、この場でヌルズの戦闘能力を解析しておきたい――もっとも、そのためにはソラが生存することが最低条件になるのだが、それすらも厳しい。
それほどまでに、熾烈で過酷な戦況に立たされている。
相手は、あのエヌラスの上位互換と思わされるほどの能力を持っている。今となっては、それが覆しようのない事実だ。
右腕一本。たった、それだけだ。
エヌラスの存在の中枢を担っていた核。機神の右腕を失っただけで、あの有様だ。それを取り戻すことが出来たヌルズ・エクス・モルテスの全力は、こちらの戦力を遥かに凌ぐはず。まるで時間稼ぎでもするかのように手を抜いているのは、他になにか考えがあってのことだろうか。
(考えろ、考えろ――! アイツがなんのために此処にいるのか!)
構えていたライフルが閃く鋼線で輪切りにされて、ソラは即座に手放しながらタブレット端末を画面を見ることもなく叩く。転送される
注視すれば、その鋼線は極小の鋸状の刃が連動している。これでは防御したところでひとたまりもない。
これだから魔術師は嫌いだ。合理的な思考と機構を、この世のものではない術理によって完成させてしまう。それに科学技術だけで追いつくのがどれだけ大変かも知らないくせに。
次元演算――。それは、多元宇宙を構築している宇宙規模のネットワークのようなものだ。座標軸がひとつズレるだけでもとんでもない被害が出る。
それを改竄するでもなく、手を加えるでもなく、構築する。それはつまり、魔術の術式が完成するということだ。まさに神をも恐れぬ所業。
ソラは鏖花の銃撃を電磁防壁を構成してホワイトハートを庇い、弾丸を防ぐ。
「わりぃ、助かった!」
「あまり長くは保たないのでなんとか反撃を!」
「わかった!」
とはいえ、三人掛かりでも怪しい。なにせ両側の戦闘ユニットが厄介だ。その二つで相手の攻撃を防いで、本体が攻めに転じれば打ちどころがない。攻略には最低でも四人は必要だ。
力を失っていたとはいえ、それでも女神二人とエヌラスと大魔導師が手こずっていた。撃破一歩手前まで追い詰めたが、逃げられるだけの余力があったという事実は変わらない。
あの時仕留めていてくれればこんな苦労はしなかったのにな。ソラは舌打ちしながらも、やるせない気持ちでいっぱいだった。
結局、他のバカどもの尻拭いをやらされるのはいつも僕だ。
次元演算の構築が間もなく完了する――ヌルズはたしかに、そう言っていたはず。まだ完成に至っていない。だが、それが目前になってこうして目の前に現れたということは目処が立っているということだ。それは例えるなら、終業目前に手が空いたようなもの。
付け入る隙があるのなら、弱点に付け込むのならやはり今しかない。
余裕をかましている顔面に一発叩き込んでやりたい。その余裕ヅラを叩き壊してやりたい。
ブラックハートとホワイトハートが怒気を撒き散らすように。
ソラは二人以上に、ヌルズが許せない。
あの日、コレが壊次元に現れなければ――。
「お前さえいなければ――!」
「それは違うな、インタースカイ国王。アレが、戦わなければ俺は此処にいないのだからな。お前達を見捨ててさえいれば、世界は平和を保つことができたのだ」
「そうだとしても、お前が消えればいいだけの話だ!」
「そうだとしても――邪神の餌食になるのは時間の問題だったが?」
遅かれ早かれ、世界は邪神の手に落ちていた。涼しい顔でブラックハートの剣撃を刀で受け止めながら、凶魔で反撃する。鋼線による斬撃を大剣で受け止めながらも離脱していった。
「もとより。セロンの箱庭でしか生きたことのない貴様には関係のない話だ」
「あるさ」
塔争を戦い抜いた先で見たのは、あまりに残酷で無慈悲に過ぎる世界の真実。
作られた箱庭。繰り返される輪廻。用意されていた王の座席。
自分達は、神の退屈を紛らわせるための玩具であったのだと思い知らされて、無気力に怠惰に無為に過ごすだけの日々に――退屈を知らない毎日を持ってきた。
毎回バカなことをして。毎回アホに付き合わされて。酷い目にあっても、繰り返して。
あんなにも退屈だった毎日が、あっという間に過ぎていった。
「アイツが居ないと、退屈で仕方ない。僕は暇を持て余した神様のような毎日を送るのはゴメンだからな!」
あんな風にまた、バカみたいに笑って過ごせる日々を取り返したくて此処にいる。
ソラの射撃で鏖花を抑え、ブラックハートとホワイトハートが凶魔に大剣と戦斧を全力で打ち込む。その衝撃に後ずさりながらも、ヌルズは笑っていた。
本体に攻撃が届かない。戦闘ユニットだけで相手されていることにブラックハートが眉をつり上げた。
「あぁ、もう!! しつっこいたらないわねこの棺桶!」
毒づきながらもブラックハートがヌルズの猛攻を凌ぐ。カオス化も視野に入れながら、なんとか攻撃の隙を突こうとするが、射出された刀を弾いた瞬間に鋼線が大剣に巻き付く。動きを封じられて、鏖花の銃口と目があった。辛うじて割り込んだゲッターラヴィーネの氷塊が銃撃を防ぐ。
テンツェリントロンベによって棺桶を強烈に打ちつけて照準を逸らし、その間にソラがナイフで鋼線を切り裂くとブラックハートが自由を取り戻した。
凶魔に突きつけられるダブルバレルショットガン。内部機構に撃ち込まれる徹甲弾が一瞬ではあるが誤作動を引き起こした。
「このっ!!!」
「ほう」
切っ先を打ち払い、返し刃から続く蹴り上げを避けるとヌルズの前髪が数本、風圧によって断ち切られて風に舞っていった。有効打にならないことに、ブラックハートの苛立ちが有頂天に達しながらも拘束から逃れた鏖花と凶魔の砲塔が再稼働する。
再び邪神の猛攻が始まり、猛勢によって遺跡が崩れ落ちていく。もはや、瓦礫と土煙だらけで見る影もなくなっていった。
刀を鞘に収めて、ヌルズが鼻で笑う。
「さて。まだやるか? その悪あがきを」
不意に青空を見上げれば、攻撃から逃れていた守護女神とバイクに跨ったソラが息を切らしていた。これだけやって、これだけの攻勢を前にしてヌルズは息一つ乱していない。
自分達の力不足にブラックハートとホワイトハートが苦い顔を見せていた。
「……お前の次元演算が何を目的としているのか、仮説を検証しているところだよ」
「目の前の戦闘に集中しなさいよ」
「冗談を。あれに勝つっていうなら、守護女神があと四人は必要になる」
冷静に戦況を分析した結果だ。それが覆しようもない現実であることを、どこか二人も認めている。しかし、それ以上に見誤ってはならない。自分達にとっての勝利条件は「女神メモリーを確保すること」だ。それさえ達成できれば、こちらの勝利となる。
ソラがレンズの裏側に投影されるデータを盗み見た。戦闘開始から、十分が経過している。
ラステイションに滞在していた折に、様々な気象データは入手ずみだ。それは例えば天候であったり、モンスターの発生地点であったりと。それらをすり合わせて、それ以外のデータが観測された場合女神メモリーの出現である可能性が高い。
「あと四人って言われてもね……」
神次元に残る守護女神はベール、プルルート、ピーシェの三人だ。あと一人だけ足りない。
「なぁ、それだったらカオス化で一気に畳み掛ければどうにかならねぇのか」
「できればリスクは背負いたくない。手堅くいきたいところ」
勘違いをしてはならないが――あくまでも、女神メモリーの確保が勝利条件だ。ヌルズの撃破ではない。仮に撃退したところで、焼け石に水だ。それに加えて、アレはまだ全力ではない。力を温存した上で、この状況だ。
ソラがメガネのテンプルを叩く。至近距離限定ではあるが、無線通信ができる。それを守護女神のプロセッサユニットを通じて行う。
(聞こえてると思うけれど、顔には出さないように)
(……すごいわね、ホント)
(どうやってんのとか、電話代とかは気にしてる余裕ねぇな)
(できることなら、カオス化は女神メモリーを確保したあとでしてほしい。アイツを短時間だけ押さえることはできるけれど、破壊されたら元も子もない)
(そもそも、何処に出現するのかもわからないじゃない)
ブラックハートの意見はもっともだ。鏖花のガトリングとミサイルが迫る。
(それについては心配無用。こっちで出現予測範囲を絞り込んでいる)
(場所は? 近いの)
(――リギホウテン跡地近辺)
遠くはない。が、しかし。それでみすみすここから見逃すような相手ではないし、背中を見せられる状況でもない。
飛行能力を有する女神であっても、上空から降り注いでくるクラスター爆弾にはひとたまりもなかった。
改造車両『スレイブニル』による電磁防壁発生装置で二人を防御しながらソラが自動運転の傍らで狙撃銃を構える。インタースカイのバックアップがあれば、展開速度は引けを取らない。
電磁徹甲弾によって鏖花の装甲の隙間を縫うように稼働を阻害する。遠距離攻撃を封じてから、二人が一気に畳み掛けた。
それでも凶魔が残っている。それはどちらかが請け負い、本体を叩けばいい――なんとかギリギリの攻略方法を見出したが、ヌルズが構える。
「――“
雲を裂く雷撃の抜刀術。辛うじて回避したブラックハートと、掠めたホワイトハートがきりもみしながら落下していく。ソラも射程圏内から回避したが、電撃の余波で武器の転送速度に支障をきたしていた。
「最弱である、がしかし。一番厄介な相手でもあるんだぞ、貴様は? よって此処で潰させてもらう。アイツ同様に、何一つ救えぬまま此処で果てるがいい!」
「くそ、――!!」
再展開を急ぐソラだが、腕に走る痺れとエラーメッセージに武器の転送が間に合わない。一時的な通信障害に毒づく。
眼前にまで迫っていた凶魔の斬撃を防いだのは、長槍。
二人の間に割り込んだかと思うと、今度は蛇腹剣がヌルズとソラの間を薙ぎ払った。
「ただならぬ事態に、急いで様子を見に来てみれば……これはどういうことですか」
「はぁい、メガネくん。だいぶ危なかったみたいねぇ?」
「……死ぬかと思った。ご助力に感謝しますよ、ええ。女神様」
アイリスハート、グリーンハートの二人が加勢に駆けつけてきてくれたが、それだけではなくイエローハートまでもがすでにヌルズへ向かって殴りかかっている。抜刀を避けて、アイリスハートの隣に並んでいた。
「ぴぃ、あれ嫌い! なんかやだ!」
「今まで悪さをしてきたぶん、たぁっぷり礼を返させてもらおうじゃない」
守護女神が五人。神格者が一人。
それでもまだ、ヌルズ・エクス・モルテスは笑っている。果たして今、窮地に立たされているのはどちらか。
「この俺が、まさかとは思うが――この次元の女神を総じて相手をするのに、なんの準備もしていないとでも考えているのか?」
「してたと言うなら驚きだよ」
「“
ヌルズの展開している左右の呪法兵装が胎動する。そして、次の瞬間にはおびただしい量の血と瘴気を撒き散らしながら内部機構を解放した。
まるで蜘蛛のように、粘液に塗れて鮮血に濡れた機械の指が地面を掻く。
無数の砲口が獲物を求める雛鳥のように虚空を見つめている。その暗闇の奥に眼球を光らせながら。
「世界を終わらせるためのウォーミングアップだ! そう簡単に倒れて落胆させてくれるなよ!」
絶望が笑う。
その左眼を黄金色に輝かせて、希望を抱いて足掻こうとする者たちを嘲笑う。