※この作品はR-18です。

超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽-   作:アメリカ兎

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ep.161 一縷の望みを携えて

 

「過去――、と言うのは少々語弊があるか。“前世”としよう。君と、君の周りにした不幸については、最早弁明も弁解の余地もない」

「……お互い様だ」

「そうは言うが、謝罪しても赦さないだろう?」

「当然だ。俺は、俺がしてきた事を許したくない」

 どんな理由があっても。どれだけ憎んでも、恨んでも。殺しても殺しても、この胸の中にある怨嗟を断ち切ることは決してできない。

 クロックサイコもまた、前世の過ちを正せないことを理解している。

 

「以前のような力を私は持たないが、それでも私にできることはないだろうか」

「…………」

「なにか裏があると疑っている?」

「いいや。別に。ただテメェが大魔導師の友人ってことだけが気にかかる」

「それが不都合でも?」

「……今はな」

 国外へ向けて歩き出していたエヌラスと肩を並べていたクロックサイコだが、古臭い車のクラクションを鳴らされて視線を向けた。

 ロメロがタクシーから顔を覗かせている。

 

「浮かねぇ顔してどうした」

「ちょうどよかった。乗せてくれるか?」

「バカ言え、巡回中だ。っておい」

「ちょいと失礼」

「時計屋まで……ったく、どこまで」

「ユノスダス。難しいようなら国外まででいい」

「自分の足でいきゃ良いだろ。仕方ねぇ……」

 タクシーに半ば無理矢理乗り込んで、エヌラスとクロックサイコはロメロの運転に揺らされていた。相変わらず舗装工事は質がいいとは言い切れない。時折大きく揺れながらも、上層都心へと抜けられる道を走る。

 

「それで。先程の話の続きを。大魔導師の友人であるのが不都合、というのは」

「しばらく国を空ける――俺はもう、此処に帰ってこないつもりだ」

「…………そのことは」

「言ってない。話す気にもならねぇよ、あの人には」

「そうか……君の、恋人はどうする」

「あいつは関係ない。だから、此処に置いていく」

「……、」

 また手放すつもりか、と。そう咎めようとしたクロックサイコは、それを一度奪った手前何も言い出すことができなかった。

 

「……初めてだったんだよ」

「…………」

「初めて、本気で誰かに恋をしたのは。最初で、最後の初恋だったんだ。妹がいて、アイツがいて。帰る家があって。毎日が充実してて――それを全部ぶち壊しにされて。今までずっと、取り返そうと戦ってきたのに……その俺に対する仕打ちがコレか。やりきれねぇよ、クソが」

 あまりに多くのものを奪い過ぎた。こんなにも、あの日の遺恨が根付いている。どんな謝罪をしても無意味だろう。

 永劫に繰り返されてきた塔争の中で、自分がどれほど残酷な殺され方をしてきたのか覚えている。思い出すだけでも寒気に身体を震わせた。

 

「何があったのか尋ねても?」

「ソラが死んだ。たった、それだけのことなのにな――なんかもう、どうでもよくなってきた。俺が今まで積み重ねてきた全部、無駄になった気がしてな」

「それは……」

 どれだけ自分達のために血を流してきたのか、知っている。数え切れないほどの塔争を制覇してきた孤独な魔人が、今やこんなにも弱っていた。絶望に打ちひしがれている姿を見るのは、あまりに惨い。だがそれでも、前に歩くことしかできない。

 

「……それでも俺には、これしかねぇんだから。他になにも出来ねぇから、やるしかねぇさ」

「――君は、自分に他の生き方が許されたのなら。どんな人生を選んだ?」

「人並みの幸せと、生活だけで十分だ」

「…………そうか」

 それすら、奪われた。人生の選択肢そのものが、エヌラスには存在しなかった。

 そうさせたのは自分でもあり、大魔導師でもある。

 

「大魔導師は、本当に……俺が守りたかったものを肝心な時に奪いやがる。あの人は俺をただの一度も見捨てなかったが、もう無理だ。顔も見たくねぇ」

 重い沈黙が降りるタクシーの車内で、ロメロは息苦しさを覚えてタバコに火を点けた。

 

「はは、とうとう嫌気が差したってか。普通はそうだわな。むしろそんだけやられて、やっと嫌になるってのは相当感覚が麻痺してるぞ」

「うっせ。仕方ねぇだろ、他がどうとか知らなかったんだから」

「……私も詳細は知らない。だが、大魔導師が意味もなくそうしたとは限らないだろう。考え直してはどうか」

「考えるもなにも、その結果がこれだろう?」

 クロックサイコは、そこでエヌラスには何を言っても無駄だと諦める。

 

 ロメロのタクシーが上層都心に通じる道を走ると、緊急工事中の看板にタクシーを止めた。

 

「なんだぁ? 工事中って、なんでまた……」

「車じゃ此処までか。わりぃな、ロメロ。無理言って」

「ったりめーだ。ここまでのタクシー代払え」

 エヌラスが二人分のタクシー代を支払い、関係者以外立入禁止の看板を無視して工事している区画に入る。その後ろからクロックサイコが付いてきていた。

 

「……テメェはどこまで付いてくる気だ」

「ユノスダスに少し用事があってね」

「そこまで一緒かよ。マジやってらんねーわ」

 廃墟と瓦礫まみれの区画は上層都心教会の公安局まで一直線に伸びており、とてつもなく見晴らしが良くなっている。こんな馬鹿げた事をするのは一人しか思い当たらない。

 二人が互いに距離を置きながら歩いていると、不意に人混みの中で頭一つ抜け出した巨体を発見する。

 頭部から突き出したアンテナが邪魔なのか、黄色のヘルメットを首から下げている。

 『安全第一』と書かれていた。その傍らにも、同じようにヘルメットをかぶって交通整理をしているプルルートがいる。

 一国の王様と守護女神が何をしているのかと。

 

《エヌラス。お前――その様子では大丈夫そうだな》

「悪い、ちょっと幻覚見てるかもしんねーわ。アゴウの王様とプラネテューヌの守護女神が交通整理している夢でも見てんのか俺は」

《ふむ。これにもとある事情があってな》

 公安局で一晩宿を借りた。というのも大魔導師がアルシュベイトに気を利かせてのことだ。その御礼にこうして協力している。

 エヌラスの姿を見るなり、プルルートが腰にしがみついた。

 

「ん~~♪ えへへへぇ、エヌラス。ひさしぶりぃ~」

「……そうだな。カオス化事件以来か? そっち、特に何もなかったか?」

「ぎゅ~~」

「…………」

 相変わらずのマイペースで安心する。だが、アルシュベイトが此処にいることにエヌラスは疑問を抱いた。果たして何の用事で足を運んでいるのか。プルルートも含めて。

 

「アルシュベイト。聞きたいことがある」

《聞こう。なんだ》

「――ソラが死んだという話を大魔導師から聞いたが。本当か?」

《……事実だ》

「そう、か…………あのクソメガネ、本当に死んだんだな。全然実感湧かねぇくらい、殺してきたからな。遺体はどうした?」

《ふむ。恐らく、ラステイションか、ルウィーの方で回収しているはずだが……》

「はずって、どういうことだよ」

《なにせ、邪神が相手だった。こちらも引き取っている暇がなくてな》

「……お前と、大魔導師と。ソラの三人だけか」

《――――いいや。御姫と、プルルートを含めたあちらの守護女神が総出で相手をした。だが、それでも僅差でこの始末だ》

「……そこまでやって、アレに劣るとか。寝ぼけてんのか、大魔導師は」

《しかしだな、アイツは機神の右腕を》

「腕一本だけで遅れを取るとか、それこそ冗談かましてんのか。俺と妹が使っていた機神を殴り飛ばしたような奴が?」

 今、自分の身体の中にある機神の右腕の代替品である魔神メモリーの力は問題なく稼働している。しかし、そこにどういうわけか膨大な量の魔力も含まれていた。これは十中八九大魔導師が細工をしたのだとわかる。恐らく魔導書――死霊秘術の書を紐解いたのだろう。

 今となっては、それすら重荷に感じて仕方なかった。

 アルシュベイトが顎に手を当てて、考え込む素振りを見せる。

 

《だが――》

「この話は、ここまでだ。クソメガネの遺体を引き取ってくる」

《…………頼めるか》

「準備運動がてら、行ってくる。プルルートも送っていかないとな」

「え~。あたしエヌラスと一緒にいたい~」

 相変わらずの黒一色。頭の先から、靴の先まで。しかし、元々伸ばしていた前髪で左目の傷を隠すようにしていたからかあまり顔の傷は目立っていなかった。それでも、アルシュベイトが何か気づいたのか、手を伸ばして左の前髪をかき上げる。

 顔の左半分。目の周りが、まるでテクスチャでも剥がれたように崩れていた。その奥で赤い瞳が輝いている。

 

《そこは、どうにもならなかったのか》

「ああ。残念なことにな。右腕も」

《……そうか》

 こうして目の当たりにしてしまうと、自分が唯一無二の好敵手と呼んでいた男は人間ではなかったのだと痛感していた。しかし、それが何だというのか。その程度で揺らぐ信頼ではない。

 

《さて。交通整理のバイトもここらで切り上げてユノスダスまで送ろう。俺もアゴウへ急ぎ戻らなければならんからな》

「そうか。んじゃ、行こうぜ」

「は~い。エヌラス、あたしぃ抱っこがいいなぁ~」

 にこにこ笑顔で手を叩くプルルートに、エヌラスは一度だけため息をついてから抱き抱えた。アルシュベイトはその様子を眺めて腕を組むと、深く頷く。

 

《うむ。なんというか……懐かしい心地になるな》

「そうだな。この三人だと初めてユノスダスに連れて行った時のことを思い出すよ」

《ああ。お前が無様にもフォートクラブの群れに追われて逃げ惑っていたアレだな。たまに思い出し笑いをしているぞはっはっは》

「今かよテメェ!」

 そんな三人の様子を一歩引いた位置から見守っていたクロックサイコが肩をすくめていた。

 

「いやはや、なんとも。仲睦まじいことだ。あの時は私も何かと気を利かせていたのだがね」

《おお、クロックサイコ。懐かしい顔ぶれだな。すまんな、こちらで昔話に花を咲かせて》

「かまわない。狂言回しとしての任を果たしていただけだ」

《積もる話はまた近いうちに》

「勿論だとも。さて、では改めてユノスダスへ向けて行くとしようか」

 

 

 

 ――商業国家ユノスダス。

 エヌラス達が訪れると、そこはいつもと変わらない活気を見せていた。どうやらソラの訃報を知る者は限られているらしい。耳聡く、てっきり情報が出回っているものだと思っていたが。

 まっすぐ教会へ向けて進路をとっていると、クロックサイコが不意に道を外れる。

 

「すまないな、私はこちらだ。加勢が必要な時は声をかけてくれ」

《了解した。では、またな》

「ああ、じゃあな」

「またね~」

 会釈して去っていく後ろ姿を見送ってから、再び歩き出す。

 パルフェ通りの中にある一軒のカフェテリア。ソラがよく軒先のオープンカフェでデスクワークの傍ら、コーヒーやケーキを頬張っていたが、生憎と席は埋まっていた。

 国王もとい店長が不在でも通常営業。商魂のたくましさはユノスダスに負けず劣らず。そもそも、ソラが不在でも問題なく営業できるように従業員達は訓練されている。

 急いては事を仕損じる――盤石な営業努力こそが実を結ぶ。手堅い戦略によって、以前と変わらず客足を引き込んでいた。良くも悪くも、いつも通りの光景にどこか寂しさを覚える。

 そこに、いつものメガネ姿がいないというだけで。

 

「…………」

 足を止めていたエヌラスの手を握り、プルルートが引っ張る。

 

「お茶、していこっか~?」

「……また、今度な」

 ユノスダス教会へ到着すると――そこでは、もはや定番と化した不法侵入者。

 月面国家ナナイト国王、ムルフェストがユノスダス教会制服に袖を通してユウコに怒られていた。その傍らでは髪を結い上げた軍服姿の剣姫が書類の束を手にしている。公務の真っ只中だったのだろう。相変わらず自由奔放、無邪気なあっぱらぱー吸血姫だ。大方、仕事の邪魔をして怒られているといったところか。

 教会の正面広場。直通の販売店や飲食店が立ち並ぶ通りのど真ん中で、ムルフェストは正座させられていた。だが野次馬の中にエヌラス達の姿を見つけると説教を即座にやめて駆け寄ってくる。

 

「エヌラス、もう大丈夫なの!?」

「なんとかな。で、またなんかあったのか?」

「ムルフェストのバカがさー!」

「はいはい。詳しい話は中で聞かせてもらうぞ」

「おう、エヌラス。歩けるならもう大丈夫そうだな!」

「相変わらずお前は元気そうでよかったよ」

「私は!」

「うっせぇあっぱらぱー」

「なんか私だけすっごい雑なんだけどぉ!?」

 ユウコがムルフェストの首根っこを掴んで引きずる。その隣をエヌラスとプルルート。後ろから、脱走防止のためにアルシュベイトと剣姫が付いてきた。

 

 途中まで進めていた剣姫との会合に、ムルフェストが給仕を装って乱入してきた――というのが事の発端らしい。相変わらず自由人だ。

 わざとらしく咳払いを挟んでから、ユウコが腰に手を当てて資料を見せる。

 

「ゲイムギョウ界とこっちの近況をまとめておいたから、折角だしエヌラスも聞いていく? 寝たきりだったんだし」

「寝たきりっつうか死にかけてたんだけどな」

「おいバカ。その話題でユウコが半べそかいてたのだから口にするな」

「おめーも口に出してんじゃねーよバカ姫ぇ!」

「はっはっは! いやぁすまん許せ! 照れ隠しも愛い奴めぇ、ちょっと待て痛いぞ!?」

 次から次へと飛び交う文房具、カップソーサーを受け止めようとした剣姫だったが、顔を真っ赤にしたユウコが力づくで押さえ込んでいた。

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