超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「こほん。まぁつるちゃんは置いといて!」
「おう! 今のおれは置物だ!」
「胸張って言うことじゃねぇだろうが」
《うむ、実にたわわ》
「やかましいわ」
睨みつけられるエヌラスとアルシュベイトが口を閉ざした。ユウコに張り倒されるのは勘弁。
「二人には劣るけども私も実は脱ぐと凄いんだけど」
「知らん」
《黙っていられんのかお前は》
「ひどくにゃーい? むーちゃん久しぶりの出番だってのに扱い雑じゃにゃーい二人共?」
「ムルフェストー、静かにしてねー?」
「はいはい、そうしますよーだ」
ユウコが改めてテーブルの上に資料を広げ、電子ホワイトボードを指示棒で叩く。すると、画面が切り替わり、ゲイムギョウ界の地図が表示された。
各国の情勢の推移が映し出される。そして、赤縁のメガネを掛けてユウコが腰に手を当てて説明を始めた。その様子はさながら委員長。
「おほん。じゃあまず、ゲイムギョウ界で何が起きていたか」
「ゴールドサァドの出現による、守護女神政権の失権だろ?」
「…………厳密に言うと! 守護女神が人々の記憶から消失していた、という記憶改竄! いーちゃんと連絡を取り合って事実確認したところ、どうやらゲイムギョウ界の歴史そのものから守護女神が消えていた、という大掛かりな異変。それにすり替わる形で、ゴールドサァドが政権を担っていた状態でした!」
エヌラスに先を言われて、まくし立てる勢いで解説する。多分、少々端折った。
「各国のゴールドサァドは以下の通り! まず、ラステイションのケーシャちゃん。次にルウィーのシーシャちゃん。それから、リーンボックスのエスーシャちゃん。最後にプラネテューヌのビーシャちゃん!」
それぞれ顔写真付きで電子ホワイトボードに画像が出される。
「それぞれが守護女神のシェアクリスタルとは違う、この黄金の頂の頂上に保管されているゴールドクリスタルという結晶に信仰を集めて変身することでゴールドサァドとしての力を振るう。その実力は守護女神に匹敵、と。シェアを失った女神様からすると強敵この上ないね」
「でもなんとかなったんだろ?」
「…………」
ユウコが、物凄く何か言いたげな目でエヌラスをジッと睨んでいた。その意思を汲み取って、アルシュベイトが腕を組んだまましきりに頷いている。
《うむ、わかる。物凄く言いたいことは分かるぞ、ユウコ。なにせ俺も同じ心境だ》
「じゃあアルシュベイト。私の言いたいことの代弁よろしく」
《テメーが大概無茶したせいでなんとかなったんだろうがこの馬鹿野郎》
「ありがとう、一言一句全く同じ意見」
「アルシュベイトに馬鹿野郎って言われるとなんかすげぇ傷つくな」
「はいはい次! そのバカが無茶を押したせいでラステイションでは大騒ぎ! スピカとカルネの二人は現在教会でケイ教祖の監視下に置かれて拘束! ルウィーでは大魔導師が温泉求めて大奔走! 結果オーライとはいえテメー等師弟は揃いも揃って足並み揃えてバカやってんじゃないよこのバカ! 天元突破バカ! タコ!」
そんなことになっているのか、とエヌラスは他人事のように聞き流していた。
元々あの二人はケイのボディーガードとして活動していたからか、それを踏まえての温情だろう。とはいえ、仮にも守護女神に敵対した身分。今回の一件で前科者としてラステイションで拘束される形となった。
「リーンボックスではアルシュベイトが上手いことやってくれたおかげで丸く収まったけど」
《武装企業様様だな! はっはっは!》
「おれも頑張ったぞ!」
《いや、御姫は悪ノリだろう》
「バカな!?」
割と本気で愕然としている。剣姫の乱入という一大事はあったものの、それでも大きな混乱を招くこと無く、元の鞘に収まっている。ベールと箱崎チカ、そしてキャロラインの誘導による政権交代。エスーシャはソルジャー部隊を私兵とし、総隊長を務める形となった。当人は乗り気ではないが、ある程度の権力を保持して行動の制限を設けるにはそうする以外にない。エスーシャのクリスタルに関する豊富な知識もリーンボックス教会としてはそう簡単に手放せる人材ではなかったこともあるが。
現在は黄金の頂に保管されていたゴールドクリスタルの研究・解析を進めているようだ。
「ルウィーは?」
「んー、モンスターの群れが雪崩みたいに押し寄せていたのをハンターギルドが追い払ったという話になってるね。さながら英雄の凱旋みたいになってたみたいだけど。これもルウィーの教祖であるミナちゃんのおかげで売上大幅アップだそうです。今じゃルウィー、雪国の利点を最大限活用して年中無休で楽しめる雪国温泉ツアーとか大好評らしいよ?」
その企画原案・大魔導師というちょっとした悪夢。家族連れから恋人同士のみならず、それ以外のぶらり温泉旅行途中下車の旅をやっている若者から年配まで、年齢も性別も人種問わず心身共にリラックスできると注文が殺到している。恐るべし、ルウィー温泉協会観光大使。
それに合わせて、立役者としてゴールデンコンビ。ブランとシーシャは名を広く知らしめる形となっていた。教会もアズナ=ルブを捕縛後、元通り。今では馴染みのルウィーとして運営されている。
シーシャは変わらずハンターとして日々活躍中のようだ。
プラネテューヌを除いた国は、以前の形を取り戻しつつある。
その肝心の国はどうなっているのか、エヌラスは先を促した。
「で、プラネテューヌは?」
「…………うん!」
「いや、うんじゃねぇよ。どうなってんだよ。話せよ。気になるだろうが」
「えーと、以前とほとんど変わってないんだけど」
「はぁ?」
「だってさ、ねぷちゃんなんだよ?」
「わかったもういい何も言うな……」
プラネテューヌだけは、以前と変わりなし。というのも、教祖達が共通して守護女神に関する記憶を保持していたこと。プラネテューヌのゴールドサァドであるビーシャが政治に関与しなかったという点から、ほとんどイストワールが運営していたことで変化が見られなかった。
それについてはネプテューヌの日頃の行いが幸いした、ということだろう。仕事しろ。
レオルド達も立場は変わっても仕事に変化なし。日々精進しつつ人々に親しまれている。
プラネテューヌの黄金の頂も、ビーシャがネプテューヌに対して敵意を抱いていなかったことから、難なくアイエフ達が立ち入り調査を開始していた。
ここまで、シロトラによる妨害行為が見られないことだけが不安である、とアイエフは懸念しているらしい。
「つまり結論としては、ゴールドサァド異変は収束に向かいつつあるってこと! わかった?」
「…………ああ」
「あれ? なんか不満そうだけど。ゴールドサァド総なめにしたかった?」
「最初は本気でそうするつもりだった。だが、思っていた以上に俺の身体にガタが来たから断念せざるを得なかったというだけだ。許したわけじゃねぇけどな」
「……」
その先の話をするべきか、ユウコが躊躇っていた。
壊次元の現状も剣姫と話してまとめていたが、病み上がりの姿に言って聞かせればどうなるかなど、目に見えている。
「ところで――ソラが死んだっていう話、どこまで広まってるんだ?」
「ぁ。え……知って、たんだ」
「ああ。大魔導師から聞かされた。そこに、アルシュベイトも御姫もいたって言うことも含めてな。プルルート達もいたんだろ」
「……」
「その上“機神の右腕”を使われて遅れを取った。百歩譲って、それがプルルート達だけだっていうなら、まだいい。アルシュベイトと御姫も、限度がある。だが――あのクソメガネと、よりによって大魔導師がいて、どうしてそれで! ソラが死ななきゃならねぇんだ! 俺は、そこだけが我慢ならねぇ!」
爆炎のように燃え盛る怒りに、思わずその場にいた全員が押し黙った。
それほどまでに苦境に立たされていたとは、アルシュベイトと剣姫も弁明の余地もない。だがエヌラスの怒りの矛先は、そこではなく、プルルート達でもなく。死んだ琴霧ソラと、大魔導師に対するものだった。
「私も思うなー、それは。御姫から聞いたから話だけだと、疑問があるんだよね」
「と、いうと? まさか大魔導師が手を抜いたと?」
「いやいや、そうとは考えられないけどさ。なーんか、隠してると思わない?」
神次元においては、確かに最大火力でいたのだろう。それが、現時点での最高火力だったとしても。エヌラスの疑問と、ムルフェストの疑問は同じことだった。
それに剣姫は顎に手を当てて考える素振りを見せる。
「……ふむ。ムルフェスト、考えを話してくれるか?」
「えー、いいのー? どうしよっかなー」
「エヌラス、ユウコ。おれが許可する。死ぬほどぶん殴れ」
「オッケー任せろ。滅茶苦茶ぶん殴るわ」
「御姫のお墨付きなら執拗にボディ狙うね」
「んじゃ俺顔いくわ。カルネばりにボコる」
「ごめんやめてほんっっっとごめんなさい! 正直に話すから暴力反対!」
「暴力じゃなくて躾ならいいんだな?」
「教育不足を痛感したので体罰解禁」
「あたしもぉ~、いいかなぁ~?」
「ぷるちゃんこわい! 笑顔がこわい!」
三人ににじり寄られて壁際に追い詰められたムルフェストが涙目で震えていた。
「み゛ゃー! 話すからやめてよー!」
「はよ喋れ。二秒以内だ」
「地味に短くないっ!? いやさ。大魔導師って、今までで“本気”になったことある?」
「? いや、確かに大魔導師は四六時中ふざけた態度のバカだけどよ。何回かはあるんじゃねぇか?」
「エヌラス、本当にそう思う? そもそも大魔導師の扱う魔術がどういった原理と理論で構築されている術式か、一番知ってるはずだけど」
ムルフェストに言われて、エヌラスが大魔導師の扱う魔術の数々を思い返す。今なら、なんとなくその感覚が掴める。
「自分の肉体を魂の牢獄と仮定して。死者から信仰を集めている、だろ? それを魔力と融合させて放出する――合ってるよな」
「うん、それで二重属性。ところが、大魔導師って基本的に“三種類同時”に展開してるって知ってた?」
「まぁ、なんか確かに馬鹿げた威力と精度と術式と強度だとは思ってたが……」
「魔力・信仰――もう一つは」
そこで一度だけ区切ったムルフェストが難しい顔をしていた。
「なんて言えばむーちゃんも難しくてわかんにゃーい」
エヌラスが無言ではっ倒した。ついでに蹴った。ユウコもフライパンを振りかぶっているし、プルルートも頭を踏んづけている。
「吸血鬼でも痛いものは痛いんですけどー! いーたーいーんーですけどぉー!?」
「うっせぇバカ。茶化すな」
「むぅ、ヴァンパイアジョークが通じない若者怖い……何ていうかさ。難しいんだけど、強いて例えるなら概念的な武装?」
「……概念的な武装?」
「そ」
例えば弓矢なら必中。槍なら貫通。そういった固定概念を、魔術に武装させている。
手元から放たれた矢は必ず命中し、手にした槍は相手の強固な盾も鎧も貫通する。それを上回るほどの大魔術は、世界を書き換えるようなレベルだ。――神でもない限り。
だからこそ、大魔導師は地上最強の魔術師として君臨している。
「だから、それが押し負けるとか。ぶっちゃけ考えにくいし? あといつまで踏んでんのエヌラス。そういう趣味?」
「わりぃか」
「なんか、めっちゃ機嫌悪くない?」
「今の俺がどうしたら上機嫌に見えるんだ」
「ま、つまり――大魔導師は、その気になればヌルズにも勝てるってこと。なのに、何故かそうしなかった。考えられることとしては」
《全力を出す相手は、ヌルズではなかった》
「……それもあるかもねー?」
「も、とはどういうことだ」
「
「ええい、ややこしい。おれはそういう魔術だなんだと、根暗な話は苦手だ! ハッキリと言え! おれが許す!」
しびれを切らした剣姫が腕を組むと、足蹴にされていたムルフェストが立ち上がる。そして、エヌラスの胸に指を突きつけていた。
「大魔導師は、ヌルズ・エクス・モルテス相手に全力も本気も出さない。死力を尽くして立ち向かうべき相手は、最初から次元神セロンだけ。今の身体じゃ、耐えきれないってわかってるからかもね」
「…………」
「限られた選択肢の中で、最善を尽くした。その結果、ソラが犠牲になった。大魔導師を責めるのは勝手だけど。相手、間違えちゃ駄目だぞーエヌラス。セロンをどうにかしないことには、私達の運命なんてどこまで言っても神様の玩具なんだから」
「それをどうにかしようと死物狂いで戦ってきた俺に。そんなことを言うんじゃねぇ」
「怒らない怒らなーい。おっぱい揉む?」
「ちぎるぞ」
「前言撤回」
「――じゃあなにか? アイツが死んだのは、仕方がなかったって言うのか!」
「そこはどう受け取るか、エヌラス次第かな?」
臓腑が煮え返る音が聞こえてくるほど、エヌラスの怒りが伝わってくる。それ以上に悲しいはずなのに、その涙すら燃料に焚べて。身を焦がすほど、身を滅ぼすほどに怒り狂う。
自分の左胸を握りしめて、歯を食い縛っていた。
「そんなことのために――そんな奴のために、俺は生き長らえるつもりはねぇ!」
「おい。そんなことを言うな、お前を案じてソラは」
「誰が頼んだ。俺が惨めに死んでいく様を見ていられなくて、助けようとして死んだバカのために誰が泣いてやるか。誰が、これ以上悲しんでやるか。やりきれねぇよ、こんなんじゃ」
《……もう、この話はここまでにしておくべきだ。自ら傷を広げるな、エヌラス。その命を粗末にだけはしないでくれ》
「――、例え。お前が唯一無二の戦友だとしても。それをどうするかだけは俺が決める。俺のやり方も、生き方も。死に様も、俺が決めることだ」
《……なら、お前の邪魔はせんよ。後悔しても遅いぞ》
「ああ。今となっちゃ、あの野郎の弟子であることを死にたくなるほど後悔しているよ。大魔導師は、俺から恋人を奪った。俺の妹も! 俺の生き方の選択肢を奪った。それだけじゃ飽き足らず、今度は俺の友達を奪った。そうだとしたら、もう我慢ならねえ。アイツは、俺の敵だ! 顔も見たくねぇよ!」
「…………」
剣姫は、そう言い切るエヌラスを見て息が詰まるほど胸が締めつけられる思いだった。
この男は、奪ってきた。他人の命を、他人の人生を、幸福を踏みにじってきた。それが望まなかったものであれ、そう宿命づけられた星の下で生まれてしまったのだ。
絶望の魔人として生を受けた。いっそ、生まれてさえこなければよかったとさえ自負するほどに、過酷で凄惨な生き方をしてきた。
だがそれ以上に――、エヌラスは奪われた。諦観も、撤退も、立ち止まることさえ。
道を踏み外そうと。どんな地獄に落ちようとも。選択を間違えようとも、その道を進むことしかできなかった。
それは、どんなに残酷なことだろう。
――それだけの呪いを、大魔導師は与えたのだ。
ただ、一言で。最初のたった一言だけで。
“諦めるな”という、最大の呪詛を。
「エヌラス。お願いだ……もう、それ以上言うな。おれは、そんなお前を見るのがとても心苦しい。だから頼む。お前が怒りに身を任せて吼えるのはおれにも責任の一端がある。そんなことを言うな」
「ここまでされて、黙っていろと! ふざけるんじゃねぇ! 俺は、アイツの道具じゃねぇんだよ! ここまで来て! ここまで、死にものぐるいで戦ってきて! それで台無しにされてそれで、黙っていられるか! ふざけるんじゃねぇ――ふざ、っけんな!! 俺は、そんなことのために今まで命懸けで戦ってきたんじゃねぇんだよッ!!」
エヌラスの目から、涙が流れ落ちていた。感情の爆発、その抑制も制御もきかないほどの怒りに呑まれている。燃え盛る獣のように。今までずっと堪えて抑え込んできた怨嗟が止まない。
「
――救おうとするべきではなかった。
自らが築き上げてきた全てを、自ら全て否定して。最初の一歩を、踏み外したのだと。
「……ここまでが全部、大魔導師がセロンと決着をつけるための下準備だって言うのなら。俺はもう知らねぇ。ここで降りる」
《何処に行くつもりだ》
「ソラの遺体を引き取ってくる。そこから先は、俺の勝手にさせてくれ」
《…………気が向いたら、いつでも会いに来い》
「ああ。ユウコ、転送装置借りるぞ」
「……、ん」
小さく、か細い声で頷く。今にも泣き出しそうな顔をしていたが、それを堪えている。
さすがのムルフェストも苦い顔をしていた。
エヌラスとプルルートが会議室を出てから、沈黙が降りる。
――最初から、わかりきっていることだった。とっくの昔に限界を迎えていたことは。
あの塔争の地獄で、既に擦り切れていた。心が折れていた。それでも、まだ。まだ、と。
呪詛を信じて、歩き続けた。そんなことをすれば、自分が真っ先に壊れるなんてわかっていたというのに。
それほどまでに、自分が赦せなかった。自分のこれまでの行いを悔いていた。
何もかも、間違えていた。
生まれたことも、育ての親も。何もかもが、全部。
「……エヌラスがあそこまで言い出すなんてねー」
「ああ。よほど重傷、というか致命傷だな……」
《俺たちの誰が欠けたとしても、ああ言っていただろうな。アレは》
それだけ強く想われている裏返しではあるが、それだけに自分達も同罪だ。
エヌラスの怒りを身勝手とは言わない。むしろ、憐憫の情しか湧かなかった。同情などではなく、ただただ、哀れだと。
「……だから、お前は間違えていると言ったんだ。大魔導師め」
お前ほど強い男はいないというのに。
お前が目指した高みに届く存在などいない――しかし、あの日。
それでもと口にした。
――それでもいないというのなら、創ればいいだけのことだ。
その結果が、コレだ。
師弟揃ってつくづく、どこまでも救いようがない馬鹿だ。
剣姫は静かに目を伏せる。
神を造ろうとした男の過ちは、まだ続いている。