※この作品はR-18です。

超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽-   作:アメリカ兎

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ep.163 奪われた命と失ったモノ

 

 

 

 ――エヌラスはプルルートを連れて神次元ラステイションへ転送される。教会の敷地では慌ただしく職員たちがノワールの指示に従って動いていた。ヌルズとの交戦から間もなくしてモンスター討伐に勤しむ守護女神の留守を守るべく街の見回りを強化、並びに吹き飛ばされた地形の修正などなど。業務は立て込んでいる。そんな多忙な時間を見計らったかのように二人が来たものだから、案内も少々急ぎ足だ。

 準備運動も兼ねて、試運転がてらエヌラスとプルルートはモンスター討伐に向かったノワールのもとへ急ぐ。

 

 そこでは、女神化したノワールが縦横無尽に大剣を振り回して群れを薙ぎ払っていた。ラステイションへ続く街道沿いに現れたモンスターは、昨今の影響からか凶暴化しているものが多いようだ。それに苦戦の色を見せていたブラックハートが迷わずカオス化すると、一匹が頭部から叩き割られている。

 

「次!」

 カオス・ブラックハートは難なくモンスターを駆逐すると、大剣を振るってから肩に担いで鼻で笑う。しかし、その様子を見ていたエヌラスとプルルートの姿に気づくと苦い顔をしていた。

 

「…………来たのね」

「クソメガネの遺体を引き取りに来た。こっちで丁重に弔うつもりだからな」

「身体、大丈夫なの?」

「まだ本調子じゃない。それでも前より大分マシだ」

 リザードマン系統のモンスターが大きく丸い体で迫ってくるが、エヌラスが拳の骨を鳴らしてからぶっきらぼうに殴り返す。重く鋭い拳を受けて姿勢が崩れた相手の頭を鷲掴みにして、思い切り振りかぶると地面に向けて叩きつける。

 街道にめり込み、そのまま姿を消すモンスターを見下ろしてから自分の身体を再確認した。

 

「……力の加減が難しいな」

 以前にも増して火力の調整が必要だろう。今まで抑え込んでいた分の魔人としての側面が色濃く出てきてしまっていた。そちらの力を補填・強化する形で作用しているのだから当然のことなのだが、それはつまり自分がより明確に守護女神と敵対する形になる。戦わないことに越したことはない。できるだけ戦闘を避けた方が周囲の被害も抑えられるだろう。

 

「下手すりゃ雑魚潰しだけで街ふっ飛ばしそうだ」

「ちょっと、ほんとに辞めてよね。そんなことしたら流石のわたしも擁護できないわよ」

「しねーよ、極力な。それで、ソラの遺体はどこだ」

「……彼はラステイションに多大な貢献をしたわ。だからうちで預かってるけれど」

「そうか」

 エヌラスは青空を見上げる。

 何もない。何も知らない。全てを見てきたはずの青空は、どこに行っても変わらない景色をしている。何がいいのか、琴霧ソラはそんな晴れ渡る空が好きだった。

 

「ぶっ壊したくなるくらい晴れやがって。クソが」

 不穏な言葉をぼやきながらエヌラスはノワールとプルルートを連れてラステイションの教会へ引き返した。

 

 

 

 ソラの遺体は、痛ましい姿のまま。

 それでも棺桶に入れられて丁重に霊安室に置かれていた。このまま葬儀の手はずを整えようかとも視野に入れていたらしい。

 ノワールとプルルートの前で、ジッと自分の友人の遺体を見下ろしているエヌラスの心境など痛ましくてとても言葉では表せないし、それをどう慰めればいいのかも憚られる。下手な慰めの言葉など傷口を抉るだけだ。

 

「……最初は嘘だと思った。このバカが、何か考えがあって自分の死を偽ったんだと。そう思いたかった。もう二度とこんな姿を見たくなかったから、人が一体どれだけ苦労してきたと思ってやがる」

 独り言のように。

 或いは、事切れたソラの遺体に向けて罵倒するような口ぶりでぼやいている。

 

「……エヌラス」

「悲しいとか、辛いとか。それ以前に、なんでだろうな。“ああ、またか”と思っちまう。散々俺が殺して、散々見てきたからだろうけど。どうせ次には何も知らず、いつものように嫌味と小言の一つ呟いてくるんじゃねぇかって――そんなはず、ねぇのにな。普通は一回死んだらそこで終わりだ。それを俺が自分勝手な都合で、否定してきて。それが認められなくて、勝手に血反吐吐きながら苦しんで……それで、結果がコレか」

 なんて、声をかければいいのだろう。

 

「バカ野郎が。このクソメガネ。テメェひとりが死んだせいで全部台無しだ。だから俺なんか救おうとしなけりゃよかったのに。死んでもお人好しは治らねぇんだぞ」

「そこまで言わなくてもいいじゃない。あなたの為に、必死になって――」

「俺だってそうだよ。最初からずっと。お前達と出会うよりもずっと昔から、必死こいて頑張ってきたのに、こうなっちまったんだから仕方ねぇだろうが」

「エヌラス~。“諦めちゃう”の?」

「……わかんねぇや」

 いつもなら、一言目に否定してきたはずの言葉をエヌラスは正面から否定しなかった。

 もう、こうなってしまったからには仕方がないと諦めてしまおうとする足は、それでも立ち止まらない。辛いだけなのに、苦しいだけで、何も良いことなんかないはずなのに――そうする以外に知らない。

 ただ、前に進む。その先に破滅が待っていたとしても。自分が間違っていたのだとしても、自分が出会ってきた人達は間違ってなどいなかった。

 琴霧ソラの犠牲を無駄にするわけにはいかない。だから、だから――だからこそ。

 

 ――()()()()()()()()()()()()

 本当に救われるべきは、自分ではないのに。目指してきたハッピーエンドに、一人でも欠けることは許さなかったはずなのに。このまま本当に先に進んでしまっていいのかと、足踏みしてしまう。

 

 プルルートも、それきり黙ってしまった。

 

「……もう俺は、本当に。自分がどうしたらいいのかも分からねぇくらい、戦うことしか知らねぇんだな。この先、生きていても辛いだけで、いっそ死んで楽になりたいくらいだ」

 自嘲気味に笑って、ソラの棺桶を次元テレポーターまでエヌラスが運び出す。重苦しい沈黙を引きずるようにしてノワールは一言も発さなかった。何度も、何かを言いかけて口を閉ざす。

 アダルトゲイムギョウ界へ戻ろうとする直前になって、ようやく。

 コートの袖を掴む。手が震える。言わなきゃならない言葉があって、声を絞り出す。

 

「エヌラス――!」

「……なんだよ」

「あ、――の……ね。わたし、言いたい事があって――守って、あげられなくてごめんなさい」

「……お前の謝罪でこいつが生き返るなら耳が腐るほど聞いてやる」

「そうよね……だから。もう、こんなことにならないようにわたし達、もっと強くなるから」

「俺の問題だ。俺が自分勝手な理由と都合で始めた、馬鹿げた話だ。だから、それにお前達がこれ以上首を突っ込むな。こうなる前に」

「……そんなことしたら、あなた。本当に一人ぼっちになるじゃない」

「そうだな。だけど――」

 ずっとひとりぼっちで泣いている妹の顔を思い出す。

 あの暗闇しか無い場所で。ずっと、一人ぼっちで泣いている。

 寒くて、寂しくて、苦しくて。あの日からずっと。

 女神と別れた日から。自分の足で道を選んだ日から、ずっと、ずっと――。

 こんなにも世界には沢山の優しさが溢れているのに、その温もりも知らず泣いている。

 ――だから。心底本気で、助けてやりたいと思っている。

 

「だけど、俺はずっと泣いて待たせている妹がいる。アイツに比べたら、全然マシだ」

「……」

「ちゃんと。アイツも救ってやらないとな……()()()()()()()

 だから、この話はこれでおしまいだ。嘆いて立ち止まっていたも時間は進み続ける。

 一度だけエヌラスはソラの棺桶に視線を向けた。

 救われた命をどう使おうと自分の勝手だ。それに今さら文句を言われても、そうしたのは自分自身の行いだ。死んだソラにだけは、言われたくない。

 

「それじゃあな。ノワール、プルルート」

「……また、そのうち来てくれる?」

「死んでなけりゃな」

 唇を引き締めながら、ノワールは視線を逸らした。

 エヌラスらしくもない弱々しい言葉を最後に、そのまま転送されていく。

 烈火のごとく怒るのならば、まだ自分にも非があったと認めることが出来た。実力不足だと、力及ばず申し訳ないと頭を下げた。しかし、そうしなかった。

 こうなったのは、全部女神の責任だと。鬼の首を取ったように責めなかった。

 むしろ一方的に自分を糾弾するような言葉と態度に、それ以上何を言えばよかったのか。

 悔しくて、苦しくて――ノワールの頬を一筋の涙が伝っていく。

 強くなりたいと願う。だが、それだけではカオス化の時とおんなじだ。

 ――今度は、みんなで一緒に。二度とこんな悲しみに負けないように、強くなりたい。

 

 

 

 ユノスダスへ一人戻ってきたエヌラスは棺桶を担ぎながら歩き出す。その様子はさながら死神か葬儀屋のようだが、他人に死をもたらすという意味ではあながち間違いではない。思わず鼻で笑ってしまう。

 背負っている棺桶は生憎と満員だというのに。

 教会職員を捕まえて、棺桶を引き渡す。後のことは全部ユウコに任せておくとして――さて。この先どうするべきか。

 ひとまずゲイムギョウ界へ向かおうかとも考えていたが、ゴールドサァドの一件は収束しているのならば自分が行ったところで混乱を招くだけだ。今頃ラステイションでは指名手配でもされているだろうし。

 プラネテューヌはもってのほか。国境警備隊本拠点を襲撃して壊滅させた件について都合よく消えているとも考えられない。

 行き詰まるエヌラスが立ち尽くしていると、ユウコがその姿を見かけて肩を叩いた。

 

「戻ってきたんだ」

「ああ。ソラの遺体の処理、あとは任せていいか」

「……うん」

「助かる」

「……、あのさ。エヌラス」

「ん?」

「キミ、大丈夫?」

「わかんねぇ」

「……ご飯、作ってあげてもいいけど。お腹すいてない?」

 空腹かどうかと聞かれれば、確かに小腹が空いている。それがユウコの手料理で埋められるのならばそれに勝る贅沢はない。そのはずなのに、全く食指が動かなかった。それどころか、食事をしたいとも考えられない。

 ――ラステイションで差し出された、スピカの料理を思い出す。何一つ味のしない固形物。ただ胃に流し込むだけの作業というのは苦痛だ。

 それでも、ユウコの手料理ならば違うかもしれない。そう心底願って。そうであってくれと希望を抱いてエヌラスが小さく頷いた。

 

「なんか、適当に頼むわ」

「うん。わかった、頑張るから」

「そんな気合入れなくていいぞ。忙しいだろ」

「いつものことでしょ。人が忙しい時に限ってくるんだから」

 何も言い返せないが、四六時中忙しい相手にそう言われても仕方がない。

 ぐぅの音も言えないが、腹は空くもので鳴っていた。飼い慣らされた胃袋め。

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