超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
――ユノスダスで一夜を明かし、エヌラスが最初に向かった先はルウィーだった。
自分が倒れて、途中で仕事を投げ出したことも含めて立ち寄るべきだと判断したからだ。
アダルトゲイムギョウ界を出る前に、ユウコからは「具合悪くなったらすぐ戻ってきてよ」と睨まれながら言われたが、そんなことなら永住している。
いつまでも自分だけが休んでいるわけにはいかない。その一心で戻ってきたゲイムギョウ界は、ゴールドサァドによる統治体制から以前の守護女神による執政に戻っていた。一見すれば、それは以前と何一つ変わりない世界にも思える。
エヌラスがルウィー教会に現れると、教祖の西沢ミナが驚いていた。一緒に連れて歩いていたお揃いの帽子をかぶったオトモネコルーも抱えていた本を落としている。
騒然となる教会に、ブランが何事かと怒り心頭で現れるものの、エヌラスの姿を見て目を点にしていた。
「…………生きてたのね」
「勝手に殺すな」
「その……具合はどうなのかしら?」
「前よりは遥かにマシだな。ひと暴れしたいくらいだ」
「暴れないでちょうだい。その様子じゃ心配しなくても良さそうね」
ジッと顔を見上げてくるブランに、エヌラスが顔を逸らす。
「雰囲気が少し、前と違う気がするけれども……なにかあったの?」
「まぁ、ちょっとな。でも大丈夫だ、気にすんな」
「貴方の「気にするな」は、信用できないわ」
「じゃあ聞かなかったことにしてくれ。街の方に出てくる」
「あっ、ちょっと……もう。まだ聞きたいことは山程あるのに……」
早々に話を打ち切って、エヌラスが教会を後にする。その後姿を不安そうに見つめながらも、ブランは占拠されていた間に教会から持ち出された物が無いか、職員からの報告を待っていた。
――相変わらずハンター協会と呼ばれるギルドが街を取り仕切っているようで、その中でも注目されているシーシャはどこに行っても人々の輪の中心に立っている。どうやら、前回の事件の立役者でもあるらしい。
聞けば、街に押し寄せてくるモンスター達を相手に奮戦していたとのことだ。後に、自分がこのルウィーを治めるべき立場であったが放棄した責任を取るべく現在も尽力しているらしい。
行き交う人々の中を進み、エヌラスが向かった先は温泉街。
大魔導師の命令を受けて現在はそこで滞在しているワルキュリアが警備に一役買っている。
エヌラスが到着すると、そこではオトモネコルーと子豚を相手に戯れている姿があった。
「それそれー、ふふふ」
腕を組みながら、しばらくその姿を観察する。視線に気づいたのか、振り向くや否や固まっていた。
「えー、っと。おかえりなさい?」
「ただいま。こっちはどんな調子だ」
「まぁ、普通に平和ですね。ちょっと前は大変でしたけども、今は落ち着いています」
「……そうか」
「?」
未だに謎が多い、この戦乙女との関係は契約者という形が一番しっくりくる。
「俺と離れて、だいぶ長く感じるが大丈夫だったのか」
「ええ。倒したモンスターを経験値、という形で私の中に保存しているので。それを少しずつ使って現在も活動しています」
「一応、俺との契約は活きているわけか」
「そうなりますね。ですので、私を戻せば経験値はそのまま貴方に還元されます」
「俺が万が一、契約を破棄した場合は」
「……ただの、
腰の細剣に手を触れながら、ワルキュリアはそう呟いた。生きているように振る舞っているが、真似事に過ぎない。生前、そうやって生きていたように。
エヌラスが自分の中にある炎の直剣を発現させると、契約者をワルキュリアに書き換えてそのまま譲渡する。
「な、なにを?」
「……俺には、もう必要なさそうだからな」
「だからといって、こんな形で」
「俺の魂の補強になるなら、幽霊のお前にとっても同じだろう?」
「そうですけれど……」
ワルキュリアの頭に手を置いて、少し乱雑に撫で回した。
「お前はこのまま、ルウィーでみんなを守ってやってくれ。そこらのハンターよりはマシだろうからな」
「……言っても聞かないでしょうし、私が引き下がるしかないですね。わかりました」
「悪いな。押しつけて」
「かまいません。貴方の方が、よほど大きな物を背負ってるようですし」
そこもお見通しか。エヌラスは頭を掻いて、そのまま街の様子を見て回る。
特にこれといった異変は見られないが、モンスターの被害が大きい。それが気にかかる。
「今、ハンター協会では金と銀の翼竜を捜索することに全力を費やしてます」
「そいつらがどうかしたのか」
「なんでも、ルウィーではとても希少価値のある存在らしくて。討伐を目的としてますね」
前回の災害に乗じて姿を表したことから、本格的に調査に乗り出しているらしい。それでやたらとひっきりなしにハンター達が行き交っている。最近はずっとこんな調子のようだ。
「しばらくルウィーに滞在を?」
「……いや、すぐに離れる予定だ。プラネテューヌか、リーンボックスに向かおうと思っててな」
「そうですか。なら、いつでも私を頼ってください。貴方とは、契約の有無を除いて協力したいと考えてますから」
「その時は遠慮なく頼るさ」
なんとなく嘘だな、とワルキュリアは感じる。この人はどんな逆境においても他人の力を頼ろうとはしない。
「もしよかったら、おすすめの温泉にでも行きます? 玉子がまた絶品の場所があるんですよ」
「あー……いや、遠慮しておく。軽く見て回りたかったからな。それにやっぱ、雪国は寒いわ」
「私はあそこの温泉宿で下宿してますので、用があったらいつでも来てください」
一通り街を見て周り、教会へと戻ってきたエヌラスをブランが出迎えた。ちょうど執務の休憩時間だったらしい。ロムとラムは相変わらず、無邪気に教会ではしゃいでいる。ミナとフィナンシェの子守でも手を焼いているようだ。
ブランの寝室に案内されて、二人でテーブルを挟んで一服していると、エヌラスに違和感を覚えたのか眉をひそめる。
「エヌラス。ちょっと、いいかしら?」
「ん?」
手を伸ばして、前髪を上げると左眼周囲の“化けの皮”が剥がれていることに驚いていた。もののついでと、右腕も見せる。人間の形をした、真っ黒な腕に泣きそうな顔をしていた。
「仕方ねぇさ」
自分の今の姿を、そうハッキリと言い捨てる。これまでの無茶をしてきたツケが全部ここに来て回ってきただけのことだ。
「……仕方ない、で済ませていいわけないじゃない」
「そうかもしれないが、こうなっちまったからにはな」
「これから、どうするの?」
「そうだな……ラステイションには近づけないから、行くとしたらプラネテューヌかリーンボックスだな。まだプラネテューヌの方のゴールドサァド、片付いていないんだろ?」
「そうだけど……あんまり問題がなさそうなのよね」
「ネプテューヌだしな」
「ええ。ネプテューヌだもの」
とはいえ、それで放置していてもいいわけではない。プラネテューヌを経由して、リーンボックスに向かうのが妥当といったところか。
「……急いでいないなら、今日くらいはゆっくりしていったらどうかしら」
「今まで散々休んでたからな、遅れは取り戻しておきたい」
「貴方が休んでいたからといって、誰も咎めないわよ。むしろ、今までろくに休めてなかったじゃない」
ハァドライン抗争から、ずっと。連戦続きだ。だからこそ、少しでも長く休んでほしい。
「……そうだな。其処まで言うなら、ちょっとは休ませてもらうか。急に行っても驚かれるだろうし、こっちから事前に連絡入れておかないとな」
「わたしのところにはいきなり来たのに?」
それを言われると何も言い返せなくなる。気まずそうなエヌラスの顔を見て、ブランの表情が柔らかくなった。
「積もる話は、ゆっくりと聞かせてもらうわ」
「そうだな。俺も色々と話が聞きたい」
――自分に残された時間は少ないかも知れないけれど、それでも。
今は、この限りある穏やかな時間を大事にしたい。