超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──リーンボックス沿岸部。貿易港の片隅に置かれたコンテナの扉をぶち抜いてエヌラスは潮風を吸い込む。磯臭い。
白昼堂々の密入国。だがこれもまた武装企業からの手引によるものだ。ハンティングホラーで国境を越えてもよかったが、自分の身体の負担を少しでも軽減させたかった。まさに渡りに船。
かくして、エヌラスは武装企業の管理・運営している港よりリーンボックスへ何事もなく入国を済ませる。
軍事大国というだけあり、町の中を武装企業のアームド・ビット達が労働に勤しんでいた。ハァド大戦の負債も驚くべき速度で返済額を減らしている。一部では世界を手球にとったマッチポンプだったのではないかと問われているが、女神政権に真っ向から喧嘩を吹っ掛けた張本人は今やただの鉄くずとなっていた。反女神派であるキャロラインが社長代理を務めているが、その経営手腕は流石は狂信者の秘書官だけあって不足の事態にも予測していたかのように対処している。
ゴールドサァドであるエスーシャも現在はソルジャー部隊の指揮官という形に落ち着いていた。
のんびりと歩きながら考える。はて、リーンボックスの知り合いらしい知り合いと言えば……それこそトップアイドルの5pb.ちゃんくらいのものだが。
ひとまずベールに連絡をいれてみる。
「もしもし、ベールか?」
『あら、エヌラス。もうリーンボックスに着いたのですか?』
「ああ。武装企業の手引で密入国してきた。警備ザルいな」
『もう少しこう、犯罪に躊躇してくださいまし……』
「いや、うん。すまん」
ルウィーからラステイション行きの貨物に乗り込み、武装企業管轄の運輸会社経由で六時間程度で到着してしまった。現在昼下がり。
「それで、俺はどこに向かえばいいんだ?」
『あら、私としたことが。そうですわね……でしたら、教会の方に来ていただけます?』
「わかった。っていうかそっちのが大丈夫なのか。一応俺も指名手配犯なんだが」
『まぁそれはそれ、これはこれですわ』
うーん、大人ってズルい。いや自分も大人の一員ではあるがダメな大人の見本なので。エヌラスはベールに言われた通りに教会へ足を運ぶことにした。
「アンタを殺すわ」
「初対面の一言じゃねぇんだよ」
──リーンボックス教会。ベールの言う会わせたい人物、という相手と対面して出てきた言葉はまさかの殺害予告だった。
黒い髪。赤い瞳。黒を基調とした白のツートンカラーのゴシック衣装。ミニスカ。手には緋色の太刀と左手にはレイジング・ブルマキシカスタム。
ベールの言う会わせたい人、というのは彼女。ニトロプラスちゃんのことだった。
「まぁまぁまぁ、落ち着いてくださいませ。ニトロプラスちゃん」
「落ち着いていられるもんですか。何よこいつは、死臭と血生臭さと殺意の塊みたいなもんじゃない。ベール、よくこんなのと一緒にいられるわね」
「初対面の相手にボロクソ言われてるんだが、恨み買うような真似したか?」
「アンタに似ているという理由だけでアタシが一日に何回職務質問されてるかご存知?」
「知るわけねぇだろうが逆恨みかよ」
「朝に一回、昼に二回。夜に三回! わかるかしら日に六回も職務質問されるアタシの気持ちが! 最近じゃ顔を見るだけで「最近どっすか調子は」とかそんなフランクに声かけられるまでにもなったわよどうしてくれんのよ!!!」
「いや知らねぇよ……」
なんだこの女。エヌラスから見たニトロプラスちゃんへの第一印象がそれだった。
横目でベールと苦笑いを浮かべているネプギアを見るが、助け舟は出してくれそうにない。
「まー、なんだ。とりあえず落ち着いてくれ。ちょっと話し合う気はないか?」
「アンタのこと一発ぶん殴ってからなら考えてもいいわ」
「なんでこんな起爆剤みてーな女と会わせたんだよ、ベール」
「え? ……面白そうでしたので、つい」
「ニトロプラス。ベールぶん殴ろうぜ、一発ずつな」
「そうね、いい提案だわ。じゃあアタシ右の頬をぶん殴るから左の頬をよろしく」
「!?」
すぱん、ぺちぃん。ベールは両頬を二人に軽く叩かれた。
一呼吸置いてから改めてお互いに向き直る。ニトロプラスちゃんが頭のてっぺんからつま先までじっくりと値踏みするように観察して、やはりそれから眉をひそめていた。
「……ベールからの話で散々聞いてたけど。アンタ絶対普通じゃないわ」
「そりゃそうだ。魔人だからな」
「──、コイツ斬った方がいいわよ」
人の首元に緋太刀を当てておきながらよく言うものだ、等と他人事のように思いながらエヌラスは手で刃を払い除ける。
「俺のことはともかく、お前こそなんなんだよ。人のこと一方的にボロクソ言いやがって」
「アタシはニトロプラス。“ぴーしー大陸”から大罪人を追って此処に来たの。そいつを追跡していたらアルシュベイトってのと出会って、そこからベールと知り合って。それで訳あって今は同行してるってわけ。わかった?」
「概ねわかった、特に質問はねぇよ」
「で、こっちは相棒の生肉」
「よろしくにく」
「質問が今ので増えたわ。なんだそいつ?」
「? 生肉って言ったけど」
喋る生肉。いや、それを言ったら広義的に人間もそれに分類される。エヌラスは哲学の扉を蹴り破りそうになりながらなんとかそれ以上の言及を止めた。
「いやいいわ、突っ込みだしたらキリがねぇ。ベール、俺をリーンボックスに呼んだのはなにか理由があるんだろう? まさかこの起爆剤みてーな女と会わせるためじゃねーだろな」
「え、ええ。ニトロプラスちゃんの目的は聞きましたわね?」
「? ああ……その、大罪人とやらを追ってゲイムギョウ界に来たって話だろ?」
「それなのですが。私も今はちょっと手が離せない状況でして。犯罪者を追跡するのなら馴染み深いエヌラスが適任ですわ」
「…………」
いや、まぁ、たしかに。犯罪者相手が馴染み深いと言われたらそれもその通りなのだが。エヌラスは腑に落ちない表情をしていた。
「引き受けていただけますか?」
「タダ働きじゃなければ考える」
「でしたら、なんなりと言ってくださいまし」
「ベール」
「はい?」
「だから、ベール」
「私がなにか?」
「んな無茶振りしてくるお前が報酬だってんなら考えるって言ってんだ。割に合わん」
頬を赤らめてから、少しだけ考え込む素振りを見せてからベールが咳払いを挟む。
「私は安くありませんわよ?」
「知ってる。こっちもぶっ壊れかけた身体引きずってんだ」
そう言いながら、エヌラスは指先まで埋め尽くした右手を振って見せる。
「ベール。こんな奴の担保になんかならなくていいわよ」
「ええと……ニトロプラスちゃんの気遣いは私もとても有り難いのですが……なにぶん私も顔を見たのは久しぶりなもので、期待している部分があるというか」
「男を見る目だけはなさそうね……」
「んじゃさっさとその大罪人とやらをしばき回してぶち転がしに行くぞ」
「殺さないでよ。アタシが轢き回して犬のエサにしてやるんだから」
肩を並べて教会から立ち去る二人の背中を見ながら、ベールは薄く笑みを浮かべた。その横顔を見ていたネプギアもつられて微笑む。
「最初はどうなるかと思いましたけど、案外いいコンビになれそうですね」
「ええ。私の目に狂いはありませんでしたわ」
「ただちょっと……」
「そうですわね……」
あの二人、並ぶと絵面が危ない。具体的には血生臭さで。
事件は速攻で解決するだろうがいかんせん周囲の被害が危惧される。
「そういえば、エスーシャさんのクリスタルの解析はどれくらい進んでるんですか?」
「元々そっち方面の造詣が深かった方みたいですし、もうすぐ解析が終わると仰ってましたわ」
「でも、ゴールドクリスタルの破片なんて一体なにに……?」
「もしかしたら、もしかするかもしれませんわよ。守護女神のさらなる進化が見込める、と言ってましたもの」
これまで後手に回ってきた守護女神達から、ようやく反撃の芽が出始めた。
もうこれ以上、エヌラスだけに無茶をさせない。
リーンボックスの近代的な町並みを眺めながら、エヌラスはニトロプラスと肩を並べて歩く。
互いに何か話すわけでもなく、無言で。何も知らなければ、兄妹のようにも見える黒尽くめの二人組だが、近寄りがたい雰囲気をしていた。
不意に口を開いたのはエヌラスだった。沈黙に耐えきれなくなったからではない。
「おい起爆剤」
「なによ不良債権者」
「なんか手がかりとかねぇのか」
「あるわよ。アタシが今まで何回取引潰したと思ってるのよ」
「俺だったら現場ごと消し飛ばしてる」
「歩く火薬庫みたいな奴と一緒にしないで。はい、これ」
ニトロプラスがスカートのポケットから取り出したのは、一冊のメモ帳。リーンボックス内で行われていたと見られる取引場所にチェックマークがつけられていた。
そこから離れた場所。人気のない廃工場が拠点として候補に挙げられている。横に書いてある数字は、恐らく候補としての順番だろう。
「なんだ、あるじゃねぇか。なんで攻め込まなかったんだ?」
「ハァ……アンタ、頭数って言葉知ってる?」
「ぶちのめす奴らの人数だろ?」
「か弱い女の子一人で犯罪組織に乗り込めるわけないでしょ」
「か弱い女はレイジング・ブルマキシカスタムなんて使わねぇ」
「うっさいわね! 例えよ例え! そういうのが趣味なわけ!?」
「銃の趣味ならたしかにそうだが、ってぇなヴォケェ!」
ニトロプラスがエヌラスのケツを思いっきり蹴り飛ばした。スパァンと小気味良い音を立てて崩れ落ちる。
「と・に・か・く! 想定以上に敵組織の規模が拡大してるの。だからそんな場所にベールとネプギアを巻き込むわけにはいかなかったわけ。ただでさえゴタゴタしてたんだから、これ以上余計な迷惑かけられないし」
「それで俺が呼ばれたわけか。まぁいいんだけどよ……俺に迷惑かけんのはいいのか?」
「アンタの存在がアタシにとってクソ迷惑だったからいいの。慰謝料だと思って」
「冤罪ってことにならねぇかな……なんねぇかなぁ……っかしいなぁ……俺なんもしてねぇのになぁ……」
とはいえ。ここしばらくは殺気立った連中とばかり戦ってきた。たまにはフランクに犯罪者をぶちのめすのも気分転換になるだろう。
普通は気分転換にぶちのめしたりする相手ではないのだが。