超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
エヌラスとニトロプラスちゃんの二人が辿り着いた廃工場は、静まり返っていた。気配を殺しながら周囲の索敵をするが、もぬけの殻に等しい。
「どう?」
「……誰もいないな。少なくとも感知範囲内には誰も居ない」
隠れていた茂みから身を乗り出して建物に近づく。元々なんの為に建設された工場なのかはベールに尋ねるとして。今はそれよりも潜んでいる犯罪組織の拠点が留守であることに首を傾げる。
全員出払っているにしたって無警戒過ぎた。罠の可能性も考慮しつつ、エヌラスは裏の出入り口の扉に手をかける。案の定、鍵はしっかりと掛かっていた。
「犯罪者のくせに防犯意識の高い奴らめ」
「知ってる? 犯罪でのし上がるやつは勤勉家なのよ」
「知ってるよ。頂点に立ってる奴の脳みそが理解できないことくれぇは」
「ピッキングとかできないの?」
「扉ぶち抜いた方が早い」
「絶対隠密行動向いてないわ」
だって身を隠す理由がないんだもの。仕方ないのでエヌラスは侵入できそうな場所を探すことにした。すると、工場内の換気のためか二階の窓が開きっぱなしになっているのを見つける。
「おい爆裂娘。あそこから入れそうだぞ」
「アンタの顔面耕してやろうかしら? アタシが中から開けるから足場になってくれる?」
「仕方ねぇな」
壁に背中を預けて軽く屈み込み、手で足場を作る。それを見てニトロプラスちゃんは少し怪訝な表情を見せた。
「なんだよ」
「アタシのことリフトアップして投げるつもり?」
「他にあるか? はやくしろよ」
「ハァ……覗いたら斬るから」
「だったらミニスカやめろやオメー」
目を閉じてあらぬ方向にぶん投げても文句を言われるに違いない。背に腹は代えられないのかニトロプラスちゃんはエヌラスの手に足を乗せた。何度か確かめると、肩に手を添えて頷く。
「すゥー……、フンッ!」
震脚。最小限の動きで最大の剄を発する。あわや工場の屋根上まで吹っ飛ばしそうになったが、ニトロプラスちゃんはうまいこと窓枠に手を引っ掛けた。一発で上手くいったことに一人頷く。
「おい、爆弾娘」
「誰がボンバーガールよ。なに?」
「……お前結構派手な下着履いてんだな」
「ふふ、死ね♪」
バガァン!!! 窓から手だけ覗かせるとレイジング・ブルマキシカスタムが火を吹いた。
「あっぶねぇなバカがボケェ! 風穴開くわ!」
「ちっ……。今開けるから待ってなさい」
「っの女……」
間一髪で避けたからいいものの、今の銃声を聞かれていたらどうするつもりだったのか。
内鍵を開けられた裏口の扉に手をかけて、エヌラスは不意にその場から横にズレた。案の定、ドアノブが動いた瞬間ニトロプラスちゃんが勢いよく扉を開け放ち、レイジング・ブルマキシカスタムを振りかぶっている。そこにエヌラスの姿が無いことに二度目の舌打ち。
「なんで避けてんのよ」
「当たったら死ぬからだよ、当たり前だろうが」
「当たりどころがよかったら生きてるかもしれないでしょ。一発だけなら誤射よ誤射」
「グシャッといくわ。何口径だと思ってんだそれ」
「50口径よ」
「奇遇だな俺のもだよ」
ニトロプラスちゃんの額にレイジングジャッジ・フリークスハントカスタムを突きつけながらエヌラスは苦い顔をしていた。何が楽しくて今日知り合ったばかりの女と銃を突きつけ合わなければならないのか。
深くため息をつくとエヌラスは横を素通りして廃工場の内部に足を踏み入れる。
「バカやってねぇでこんな仕事さっさと終わらせちまおう」
「……そうね、不本意だけど同意するわ」
工場内部は静かなものだが、どこからか電力を引っ張ってきているらしく機械のタービンが唸る音が低く響いていた。肝心の機材はどれもこれも埃被っており、長らく使われていないことが見て取れる。
「けほ、けほ……まったく、埃なんだかカビ臭いんだかなんだか知らないけど衛生管理がなっちゃいないわね」
「薄汚れた人間の集まりに言ってもな」
「それもそうだわ」
エヌラスが不意に立ち止まり、その背中にニトロプラスちゃんがぶつかって遅れて止まった。
「わぷっ。ちょっと、どうしたの?」
「……いや、なんか妙だなと思ってよ」
不意に足元を見下ろせば、埃が積もっていない。換気を目的として窓を開けているにしたって妙な話だ。何気なく工場内を見渡してから、エヌラスは埃の積もっていない通路を辿る。
そうして行き着いた先は鉄の扉で閉ざされていた。壁にテンキーパネルとカードリーダーが設置されていることから部外者の侵入を拒んでいることがわかる。
「ビンゴ。あとはこの扉をどうにかできれば……」
無造作に手を伸ばしてタッチパネルを掴み、エヌラスが電磁パルスで回路をショートさせた。加減を間違えたのか、黒焦げになっている。
「あ、やべ」
「あ、やべ……じゃないわよ。ぶっ壊してどうするつもり?」
「ふんっ! おう、開いたぞ」
「前世はバーバリアンかなんか?」
無理矢理手でこじ開けるのを見てニトロプラスちゃんがドン引きしていた。
開け放たれた扉の中には積み上げられた数々のゲームが山脈を築いており、その傍らには無数の配線が繋がれたモニターと見上げるほどのタワー型デスクトップがファンを唸らせている。
ちらつく画面に表示されているのは、解析されたゲームのプログラムとそのコピー。データ移行作業中なのか、ローディング画面で放置されていた。
「どうやら当たりを引いたみたいね」
「具体的にこの連中はなにやってんだ?」
「そうね。“割れ”って知ってる?」
「……いや?」
「雑に言うと中身そっくりそのままのコピー品とか海賊版とか。そういうのばら撒いてる連中なのよ。“ぴーしー大陸”の方じゃその被害が甚大だったの。流石にいられなくなったのか逃げ出したみたいだけどこの様子じゃ懲りてないみたいね」
「そういう連中ぶちのめすなら任せろ、大得意だ。二度とベッドから降りれない身体にしてやる」
「それが得意なアンタも牢屋にぶち込んだほうが世の平和のためだと思うわ」
ニトロプラスちゃんはタワー型パソコンを前に、何故か腕を組んで考え込んでいる。
「どうした」
「物理的に壊しても、中のデータが無事だったら意味がないのよね。結局データが生きてたら効果が無いもの」
「コンピューターウイルスでも仕込んどくか?」
「そんな便利なもの持ち歩いているわけないでしょ」
「持ってる」
「……じゃあそれ使って。早く。さっさとして。ハリー」
エヌラスがポケットから取り出したのは大容量記憶端末。毒々しい紫色なのは外見で把握できるようにしておくためだ。
空いているポートに挿し込むと、間もなく中のウイルスが注入されていく。
「それ、どういうウイルスなの?」
「触った瞬間起動するし勝手に増えるし勝手にデータを消す上に消しても増える」
「なんでそんなもん持ってんのよ」
「……使い道なくて」
「なおさらなんで持ち歩いてるのよ」
「使うかもしれなくて……」
「アンタ、絶対部屋汚いでしょ」
「なんで知ってんだ。物が溢れて置き場がねぇだけだ、場所は把握してる」
「典型的な片付けが出来ない人間の言い訳よ、それ」
失礼な。
「そんな手先が器用にも見えないんだけど」
「そりゃそうだ、作ったの俺じゃねーもの」
ウイルスのセットアップを終えてからメモリを引き抜き、まじまじと見つめる。
こんな小さな物だが、確かにソラの残した功績は計り知れない。
いつも目の届かないところで人一倍考えを張り巡らせていた。誰かの仕事が上手くいくようにと、影の功労者に徹していた理由は知っている。他の誰よりも弱かったからだ。だが、その弱さを盾にしたことはない。
琴霧ソラが居なくなったとしても、その全てがなくなるわけではない。
「なによ、しんみりした顔しちゃって」
「いや。コイツを作った友人の顔を思い出しただけだ。死んじまったけどな」
「……誰でもいつか死ぬものよ。それが今日じゃないだけ。明日かもしれない、そうじゃないかもしれない。アタシだってそうよ。アンタだってそうじゃないの?」
「俺は人間じゃない」
「じゃあなんで人の形をしてるのよ。本当に化け物なら化け物らしい姿形してなさいよ」
「そんなの言われたって仕方ねぇだろうが。生まれたときからこの姿なんだから──」
「は? ──アンタ、輪廻転生って言葉知ってる?」
「聞いたことはあるが体験したことはねぇよ、それがどうした」
死後の話に興味などなかったが、師が師なので致し方なく知識だけは蓄えてある。
「生まれたときから死ぬ時までその形を保てるなら、最初からアンタには“次の人生”なんてものはないのよ。生命のカテゴリから逸脱してるってわけ」
「だから魔人だって言ってんだろうが……」
「だとしてもよ。なんか引っかかるわね……」
二人でぶつくさと物を言い合いながら廃工場のアジトを後にしようとして──。
ガードロボの大群に包囲されている状況に気がついた。
「……なるほど。無人の理由がわかった」
「そりゃそうね。リーンボックスって軍事大国だもの。人間配備するよりロボット配置した方が効率的だわ」
「誰が電気代払ってんだろうな」
「知らないわよ」
ニトロプラスちゃんはトリガーガードに指をかけたままクルクルとガンスピンを繰り返し、エヌラスは首の骨を鳴らしていた。
「とりあえず──」
「──目につくやつからぶっ壊す!」
エヌラスがガードロボを蹴り飛ばし、ニトロプラスちゃんが銃でカメラを撃ち抜き、刀で関節部を切断していく。
手頃な大きさの頭部に紫電を集中させて帯電させると、エヌラスは電磁加速蹴撃で打ち出した。次々と感電していくガードロボ達は回路がショートしたのか黒煙を吐き出しながら崩れ落ちて物言わぬガラクタと化していく。
振り上げた拳を避けると、手を添えて呼気を整えて掌底を打ち込む。鉄の肌に触れただけにも関わらず、次の瞬間全身の回路が爆ぜたように膝から折れていく姿を見てニトロプラスちゃんが目を丸くしていた。
「アンタそれ……紫電掌?」
「? いや、鬼哭掌って技だが……」
「そう。似たような技を知ってるから同じだと思ったわ」
ノールックでエヌラスの頭目掛けて引き金を引く。それを見向きもせずに、これまたエヌラスは避けた。
「だからあぶねぇんだっつうの!」
──ガードロボの大群を二人で制圧する頃には日が傾いてしまっていた。
茜色の夕日に照らされながらエヌラスはニトロプラスちゃんと肩を並べてリーンボックスの町外れを歩く。
「ったく、散々な一日だわ」
「何言ってんのよ。明日もあるんだから」
「はー? なんでだよ」
「今回はあくまで連中のアジトをひとつ潰しただけ。本命の相手に辿り着いてすらいないんだから当然でしょ」
「……気分転換程度には付き合ってやるけどよ」
「何なら今から次の拠点潰しに行ってもいいんだけど」
「行かねぇ」
足早に先を行くエヌラスが不意に、見覚えのある巨体が道路を走っているのを見つけた。
貨物輸送用フォートクラブ。リーンボックス教会職員が運用しているそれは、アゴウからの贈呈品だ。ハァド大戦による瓦礫の除去や物資の輸送に役立てて欲しいという申し出を受けたベールが採用している。
「また立ち止まって、どうしたのよ」
「いや。別に、なんでもねぇよ」
「夕焼けだからってセンチメンタリズムに浸ってるわけ?」
「死んだ友達が残した物は沢山あるなと思っただけだ。俺は、どうだろうな……」
壊すばかりの権能を持って生まれた魔人は、走り去っていくフォートクラブの後ろ姿を見送った。
そんなエヌラスの背中をニトロプラスちゃんが叩く。
「いてぇな」
「アンタみたいな化け物に言っても仕方ないかもしれないでしょうけど、言っておくわ。──目に映る全てが世界の全てじゃないわ。人の心なんて見てわかるものじゃないでしょ? 形ばかりに囚われてちゃ足元掬われるわよ」
「……そりゃどうも、覚えておくよ」
化け物と呼んでおきながら人の心を説くとは、どういう神経をしているのやら。などとエヌラスは思ったが口にはしなかった。どうせまたレイジング・ブルマキシカスタムを突きつけられるに違いない。きっとそうだそうに違いない、うん。
「なんかムカついたから蹴るわね」
「いってぇんだよ起爆剤テメェ!!!」
「だったら人の名前くらい覚えなさいよ、自己紹介したでしょ!」
「そんなん忘れたわ!」
「鋳潰されて死ね!」
互いに激しく罵り合いながらも、夜のリーンボックスを歩く。
教会へ戻る頃には既に夕飯時を過ぎていた。