超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──リーンボックス教会でエヌラスとニトロプラスちゃんがベールに一部始終を包み隠さず事の経緯を全部説明した。
「この女になんべん殺されかけたかわからん」
「こいつに何回下着覗かれたかわからないんだけど」
「ミニスカやめろやテメェ」
「目玉抉って花でも挿すわよ」
剣呑、殺意混じりのジョークが飛び交う執務室であっても、そんな二人のやり取りを眺めているベールとネプギアの表情はどこか嬉しそうにしている。眉を寄せて疑問符を浮かべるエヌラスに、しかしニトロプラスちゃんは鼻先に指を突きつけた。
「いい、明日も拠点潰しに行くんだから絶対逃げないでよ」
「どうせ逃げても引きずり回すくせによく言うぜ」
「アタシは武器の点検とかやって寝るから、あとはよろしく。おやすみ、ベール、ネプギア」
執務室を後にする相手を見送ってから、エヌラスは深く嘆息する。何が楽しくてあんな爆発寸前の起爆剤を抱えたまま犯罪組織を追わなければならないのか。
「正直アイツと仕事するのめちゃくちゃ嫌なんだけど……」
「でも、いい気分転換にはなったみたいではありませんか」
「……気が晴れるかどうかと聞かれたら微妙なところなんだけどよ」
だが実力は申し分ない。背中を預けることに不満はないが、それと同じくらい命を狙われているような気がしないでもなかった。そこまで恨まれるようなことをした覚えなど微塵もない。
「なぁベール。アイツってそんなに俺の血縁者と間違われてたのか?」
「…………えぇ、まぁ。そうですわね」
「わたし達と一緒にいる時も何度も尋ねられて怒ってましたし」
「だからって俺に八つ当たりせんでも。でもま、確かにちょっと新鮮な気分だ」
「あら、やっぱり新しい女の子とお知り合いになるのがお好みみたいですわね」
「ちゃうねんて。そうじゃなくて」
あんな風に最初からこちらを敵と認識してくれる相手、というのは久しく見ていなかった気がする。だからだろうか、妙に居心地が良いのは。
魔人である自分をきちんと否定してくれるのは、正直な話とても助かる。
ベールやネプギア、他の守護女神達と違って自分の存在を受け入れてくれる優しさとは別に厳しさをもって接してきてくれるのは新鮮な心地だ。
「退屈だけはしなさそうだよ、アイツといるのはな」
「わたくし達に飽きてしまったみたいな言い方ですわね。じとー」
「そうじゃなくて。はぁ……そんな拗ねるな、ベール」
「じー」
「……ネプギアまでノるな。とりあえず俺も明日に備える。あの起爆剤女に叩き起こされちゃたまらねぇからな」
「わたくしのお楽しみはどうしてくれるんですの?」
「我慢しろよ、お姉ちゃんだろうが」
「はぁい♡ お姉ちゃんですから我慢しますわ♪」
バタン、とエヌラスが執務室を後にしてからハッとする。
「もしやわたくし、謀られませんでした!?」
「ましたね……」
「もう、エヌラスったらつれませんわ! ぷんぷん」
口では怒った素振りを見せつつも、いつもと様子の違うことはベールも気づいていた。
「なにか、あったんでしょうか」
「……そうですわね。あの右手も気になりますけれど、それ以上にいつもの覇気がどこか無くなってしまっているのは気がかりですわ」
リーンボックスの情勢は落ち着いている。ゲイムギョウ界全体の騒動そのものは沈静化の方向に舵を取っているようだが、エヌラスは妙な胸騒ぎを覚えていた。
状況を洗う。
ゴールドサァド事件が起きて、黄金の塔は沈黙している。エスーシャを始めとした面々は今となっては女神の味方となった。それはあちらにとっても痛手のはずだ。
ここまで動きをほとんど見せていないクロギア、シロトラ、オルタ、マガツビもまた自分たちから動こうとはしてこない。さらに言えば、ヌルズ・エクス・モルテスの共犯者もまだ判明していない状況だ。
そんな睨み合いの情勢の最中で、琴霧ソラだけが退場したことにエヌラスは額を壁に打ちつける。
機神の右腕を失い、身体を維持することで精一杯の自分を、それでもソラは信じて次の一手を打った。その妨害に魔人ではなくヌルズが自身の手を下したのはおそらくそれが最も自身にとって打撃となるからだろう。だからこそ、その事実が尚更に裏付けしてくる。
自分の延命こそが最善の一手だということに。
不貞腐れて戦線離脱など、ソラが見たら嫌味のひとつやふたつでは済まされない。
それでも自分が戦場に赴けば、どうしても大魔導師の思惑通りになる。それは我慢ならなかった。それだけはもう、我慢の限界だった。
真っ暗な室内の壁に背中を預けて、エヌラスはそのまま座り込む。灯りの消えている真っ白な天井を見上げて深く息を吐き出した。諦観が重く身体にのしかかる。足が取られてベッドまで歩けそうにない。
(……やるせねぇよなぁ、ホント)
自分が。
自分こそが、と。誰よりも前に向かって邁進してきたはずなのに。その自分が立ち止まって周囲を見渡せば、誰よりも足を引っ張っている。
目を閉じた。
馬鹿な真似をしていたのは重々承知している。過ちも間違いも繰り返してきた。
長い地獄の中でようやく辿り着いたのは、自分が求めていた守護女神達のゲイムギョウ界。ならばもう、これ以上どこに行くというのか。
旅路の終点はここだった。そのはずなのに──。
この足はまだ、何処かに向かおうとしている。
「……地獄のど真ん中で立ち止まるこたぁねぇだろうに」
死体を引きずって歩く趣味などない。自分が死霊術師であるならまだしも。
疲労で重くなった身体を叩き起こしてエヌラスは窓を開け放ち、月明かりを頼りに銃器の点検を始めようとして──。
「あ」
「あ?」
──自分とまったく同じことをしようとしていたニトロプラスちゃんとバルコニーで目があった。
「アンタなにしてんのよ、そんなとこで」
「見てわからねぇか。銃の整備と点検だよ。お前は?」
「あら奇遇ね、アタシも同じよ。真似しないでもらえる?」
「してねぇよ、たまたま行動が被っただけだ」
「それが腹立つって言ってんの」
あぁ言えばこういう。エヌラスは勘弁してくれ、と言外に表情に出しながらも手元の作業に集中する。
備え付けのテーブルに分解した部品を並べていくと汚れを落とし、油を挿しておく。分解した手順とは逆に組み立てていき、元通りにすると軽く弾倉を回転させる。
「ねぇ」
「なんだよ」
「アンタ、なんでそんな銃使ってるの?」
「なんでって……別にいいじゃねぇか」
「理由を聞いてるの。銃なんてごまんとありふれてるのに、どうしてそれを選んだわけ?」
「どうしてって、そりゃ……いやちょっと話すと長いんだが」
どこから話そうか考え、エヌラスは所々を端折って説明した。
故郷のこと。犯罪国家における超常災害の数々。それらに対抗するための銃器の大型化。サイバネティクス工業分野の発展。サイバネマフィアを台頭としたガイノイド産業。それらの犯罪摘発や沈静化や制圧における重工業の発展に、ニトロプラスちゃんは意外にも興味を惹かれたのかしきりに頷いていた。
元々エヌラスが扱っていたレイジング・ブルマキシカスタムもそうした流れから生まれたものだ。吸血鬼に匹敵する
長年愛用していた銃が壊れたので、新調したレイジング・ジャッジフリークスハントカスタムとして生まれ変わった。とまでエヌラスが話し終えてから何か質問がないかと聞き返すと「ふぅん」とだけ相槌を返してニトロプラスちゃんは銃から目を離さない。
「お前が聞いてきたんだろうが、そんだけかよ」
「アンタの話が長いのよ。オタクの自慢話みたい」
エヌラスのやる気が下がった! 【絶不調】
「こころがしんどい」
「なんで一を知るために十の話題を引っ張り出してんのよ。アタシが聞きたいのはなんでそれを選んだのかって理由。話そのものは面白かったから許すけど。そんなもん最後の一文だけでいいじゃない。吸血鬼相手に用意した、はい終わり。なんでそれが出来ないわけ? お母さんじゃないんだから話全部聞いていられる余裕なんかないわよ」
「お前マジで俺になんか恨みでもあんのかよ!!!」
「半泣きになんないでよ、大の大人がみっともない」
「今ここで引き金引かねぇのマジで感謝しろよ!? だったらお前みてぇなか弱い女(笑)がなんでまたそんな馬鹿みてぇな銃使ってんだよ!」
「火力は正義、はい終わり。アンタと違って秒で終わるわよ、他に解説や説明が必要?」
なにか言い返そうと思ったが、一度深呼吸を挟んで思考をクールダウンさせる。どうにも頭に血が上りやすいのは治らない。
「あとアンタ、自分のこと棚に上げて他人を貶すのやめたほうがいいわよ。馬鹿なんだから」
「よーしお前のことぜってぇ許さねぇって今決めた。俺が決めた。そう判断した」
「逆恨みしないでくれない? はい、銃の点検終わり。じゃあアタシ寝るから。また明日頼むわよ、それしか頼りにしてないんだから」
「あー寝ろ寝ろ、朝までその面見せんじゃねぇちくしょうくそったれ!」
「そんだけ怒り散らせるなら元気じゃない。それじゃね」
ヒラ、と手を振って室内に消えるニトロプラスちゃんのなびく黒髪が見えなくなってからエヌラスは手を止める。
今まさに、弾丸を装填しようとしていた。しかし、最後の言葉にそんな気もなくなる。
初対面であっても、ベールやネプギアの反応からして自分が落ち込んでいるのはわかっていたらしい。だからといってあんな憎まれ口のような言い方はないだろうに。
「……へたくそめ」
もっと他にあるだろう。
だが、エヌラスの口元は──僅かに綻んでいた。
気休め程度にしかならなかったが、それでも肩の荷が軽くなった気がした。