超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「ほらアンタいつまで寝てんのよ、さっさと起きなさい。目覚まし代わりに鉛玉ぶち込まれたい奇特な趣味の持ち主でもないならね」
「…………」
寝ぼけ眼と寝ぼけた頭に冷たい鉄の塊がごりごりと押しつけられるが暖かい布団の魅力と魔力に逆らえる人類はそう多くない。
翌朝、ニトロプラスちゃんに叩き起こされて渋々といった様子でエヌラスはこの日も犯罪組織の拠点潰しに付き合わされた。
──それから二日、三日と立て続けにハズレを引いただけでなく、ベールからの話では被害が一向に収まる気配がないとのこと。
「いつまで! 寝てんの! さっさと起きなさいよ!」
「あっっぶぁ!!!」
つい三秒前まで頭を預けていた枕がレイジング・ブルマキシカスタムの銃弾と砲声じみた銃声に加えて、ニトロプラスちゃんの怒声も受け止めたストレスに耐えかねて爆散した。
一週間、まるで手応えは感じられず、それどころか増加傾向にある相手の動きにおちょくられている気さえする。ますますそれが腹立たしかった。
「お前いい加減に俺を起こしに来るのやめねぇか!?」
「アンタ起こしに来なかったら二度寝どころか三度寝するでしょ」
「当たり前だろが、俺は基本ダメ人間だ」
「胸張って底辺自慢してもなんの生産性もないわよ。さっさと支度して」
どうやら相当に頭にきているようで、なだめる余裕もない。エヌラスは寝起きの頭を引きずって身支度を整える。すると、間もなくしてベールと廊下で鉢合わせた。
「あら? エヌラス、今日もニトロプラスちゃんとお出かけですのね」
「これがお出かけなんて可愛いものかよ」
お前の目には俺の隣で刃物突きつけて引き金に指をかけた起爆剤が見えないのか、と思いつつもエヌラスは欠伸と共に噛み殺した。
「まったく、いくつ拠点潰せばいいんだよ。焼き払えよもう、いいよリーンボックスなんて軍事大国なんだから。ちょっとくらい大丈夫だよ大丈夫大丈夫。火をつけりゃいいんだよ、なんかもうそこら辺全部に」
「女神様の目の前で放火宣言してるんだけど、コイツから燃やしていいかしら?」
「武装企業に頼めば一晩で星ぐらい焼けるだろ。バカみてーな火力してんだから」
「エヌラスっ」
ベールが頬を膨らませながら物騒な提案を持ちかけるエヌラスに指を突きつける。
「いくらなんでもそれはいけませんわ」
「ほらみなさい」
「そうは言うけどよぉ、ベール。コイツとカチこむ拠点、片っ端からもぬけの殻なんだぜ? ひとっつも当たりも掠りもしやがらねぇんだ。どうせ今回行くところもハズレだろうからもう面倒臭くてよ……」
「刺すわよ?」
「先っちょ当たってんだよ。いてぇんだわ」
その言葉に、胸を持ち上げながらベールは考え込む素振りを見せた。いくらなんでもおかしい。犯罪組織がどれほどの狡猾さを持ち合わせていたとしても、行く先々の拠点全てがハズレなんてことはありえないはずだ。
「これは……もしかすると、内通者の可能性が出てきましたわね」
「どういうこと?」
「刺さってんだよ痛ェってんだろうがいい加減抜けや!?」
「あ、ごめん」
緋太刀を引き抜くと、ニトロプラスちゃんが緊迫した面持ちで尋ねる。エヌラスは痛む脇腹をさすりながら口をへの字に曲げていた。
確かに違和感はあった。犯罪国家生まれ、犯罪国家育ちの身からすれば、どれほど優れた犯罪者であろうと拠点の全てがブラフである可能性は限りなく低い。身のこなしがどれほど軽かろうと、立ち回りが上手かろうと相手は人間のはずだ。完璧からは程遠いからこそ必ずどこかでボロが出る。まぁ犯罪者の時点で人としてボロなのだが──ともかく。
「心当たりあるか?」
「あるわけないでしょ」
「ニトロプラスちゃんは教会からしか出入りしていませんものね。最近他に外出した場所はありませんの?」
「アクセサリーショップとか、武器屋くらいよ。あとは……別に足を運んだ覚えはないわね」
「おめーホントに犯罪者追うくらいしかやることねぇのか?」
「うっさいわよ顔面テロリスト」
「んだとこの野郎。テロ屋風情と一緒にするんじゃねぇ、俺はその気になれば物理的に国家転覆させられる男だ」
「存在がテロリズムなのよアンタのそれはもう!」
しかし気にかかる。こちらの動きを読まれている以上、まずはその相手を特定するところから始めなければならなくなった。
「そういうことならしょうがねぇ。お前は待機してろ。試しに俺一人で暴れ回ってみる」
「たしかに、アタシがマークされてる可能性が高いわね。場所は覚えてる?」
「任せろ、更地にしてくる」
「被害を考えろって言ってんの! ちょっとベール、こいつ野放しにしていいの?」
「エヌラス、控えめにしていただけるとわたくしも助かりますわ」
「ベールに言われちゃ仕方ねぇな。んじゃ軽く行ってくる」
教会を後にするエヌラスを見送ってから、ベールは頬に手を当ててため息をつく。
「ニトロプラスちゃん、ありがとうございます」
「別に礼を言われるようなことなんてしてないわよ。犯罪者追っかけてるのはアタシの一身上の都合なんだし」
「そちらもそうですが。なによりもエヌラスのことですわ」
「アイツのこと?」
「ええ。何があったのか言ってくれませんでしたけど、ひと目見て落ち込んでいるのはわかりましたわ。形と経緯はどうあれ、気を紛らわせることが出来てるみたいですし」
「落ち込んでるようには見えなかったけどね」
「……そうですわね。自分の怪我を隠すのがとても上手いから、つい見逃してしまって」
空元気というほどでもない。いつもエヌラスは自分に対して怒りを覚えている。誰も救えない自分が許せなくて、世界のひとつ救えると自惚れていた自分を戒めて。立ち止まることすら忘れてしまった、愚かな人。可哀想な魔人。なけなしの友人すら失い、それでも足を止めれば二度と歩けなくなるから痛みを我慢して歩み出す。茨の道と知っておきながら、それでもやめない。
万全の状態など、見なくなって久しい。
「わたくしも今は動くのが厳しい状況なので、ニトロプラスちゃんが相手をしてくれてとても助かりますわ」
「はぁ。子守やらされてる気分だわ」
「ふふっ、大きい子供のようなものですもの。そこが可愛いところでもあるのですが」
「人を出汁に惚気けないでもらえない? 仕方ない、アタシも今日は大人しくしてるわ」
「もし予定がないのでしたら、わたくしのお仕事を手伝っていただいても?」
「そうね、そうさせてもらおうかしら」
二人で肩を並べてリーンボックス教会の廊下を歩き、執務室に向かう。
──その頃、街に駆り出したエヌラスは顎に手を当てて考えていた。
一体誰がニトロプラスちゃんの動向を探り、犯罪組織に情報提供を行っていたのか。少なくともここ数日間、行動を共にしていたがそれらしい素振りを見せていた人物が思い当たらない。
「うーん?」
とりあえずこれまで通り、予め襲撃すると決めていた拠点へ足を運ぼうとするエヌラスが声をかけられた。
相手は武装企業所属のアーマード・ビット。純白の機体に、背面に背負った天使の羽根のようなレーザー砲が特徴的な武装企業幹部のジェラルドは会釈にとどめると、頭部ユニットを近づける。
《キャロライン様がお呼びです。本社の方へ》
「……俺を? 名指しで?」
《はい。よろしければご同行を》
「わかった、すぐ行く」
ひとまず内通者の特定を後回しにして、エヌラスは武装企業本社。現在は社長代行として活動している反女神派のキャロラインのもとへ案内された。
ハァド大戦の折、大暴れした功績を評価されての依頼になるが、相手からしたら不本意この上ない人選だろう。当然あまりいい顔をされないだろうが、そもそもどこか感情表現の乏しい秘書様だ。
武装企業本社はいまだ傷痕深く、外壁の修繕工事がまだ終わっていない。そのため支社との連結橋を撤去、本社の自衛戦闘機能を縮小させる形で再建中だ。だが社長代行キャロラインは頑なに本社ビルの専用オフィスから動こうとはせず業務に追われている。
エヌラスが案内されたのはフロントまで。乗り込んだエレベーターは途中で止まり、オフィスまでは階段を登らされた。
「…………アホかよ!!!」
現在二十三階。目的の階層までは二十五階だ。ちなみにエレベーターは十四階で止まった。
体が汗ばんできたところでようやく目的のオフィスに到着、扉をノックすると電子ロック錠が解除される音から間もなく扉が開かれる。
「ようこそ。お待ちしておりました、エヌラス様。おかけください」
「アホみてぇな階段登らされたんだが、君どうやって移動してんの?」
「? 社員用の直通エレベーターですが」
「俺じゃなかったら途中で挫けてる階数だったからな? 早く直しとけ?」
キャロラインの専用オフィスは薄暗く、無数のモニターがチラついていた。一部のモニターは以前の戦闘で故障したままなのか画面が黒いままだ。エヌラスは言われた通り、近くに置いてあった丸椅子を引き寄せて腰を下ろす。
「俺を指名するほどの依頼があるのか?」
「話が早くて助かります。貴方に不本意ながら依頼したいことが幾つか」
「素直でよろしい。手短に頼む」
「まずこちらをご覧ください」
手元のパネルを操作すると、モニターに何かの部品が映し出された。
水晶の埋め込まれた基盤に続けて、普及しているビットの映像。
「それは?」
「ハァド大戦に向けて我々に技術提供が行われました。相手は貴方も良くご存知かと思いますが、邪神からの物です」
眉を動かすエヌラスだが、顔をしかめる程度にとどまる。キャロラインはそれを見てから指示棒を伸ばし、画面を指した。
「これはそのひとつです。『システム・シェアドライブ』と名付けられたこちらの部品は、いわば外付けの信仰心増幅回路のような物です。プラネテューヌの優れた自律思考回路に基づき、女神信仰を根源としたプログラムの搭載によって機体性能を強化する……擬似的なシェアクリスタル、といったところでしょうか」
「なるほど。それでハァド大戦の時に女神様が苦戦したわけだ」
「こちらの製造技術が盗用された疑いがあります。増産体勢に入られる前に、貴方にはそれを突き止めていただきたいのです」
「ッスーーー……そんなこったろうとは思ったけどよぉ……!」
嫌な予感ほどよく当たる。キャロラインとしても武装企業の技術が横領されるのは好ましくないらしく、早急に手を打って欲しいようだ。自社内で対応しようにも先方に勘づかれれば逃走される恐れがある。
「コレが判明したのは、数日前です。我が社の機体に対して攻撃を仕掛けてきた所属不明機を撃退した後、回収して解体したことで発覚いたしました。リーンボックス製であることは間違いありません」
「その根拠は?」
「こちらを」
映像が切り替わり、今度はパーツごとに分解されたロボットが映った。
『システム・シェアドライブ』を搭載したビットが胴体パーツに収まる。それに頭部パーツ、両腕パーツ、脚部パーツが装着されることで武装企業所属のアームドビットとなる。
「解体した機体のハードポイントがこちらです」
胴体パーツから伸びた背面に二つ。両肩に一つずつ。前腕部に一つずつの合計六箇所。それからさらに武装企業所属の機体と照合すると、一致した。
「加味しますと、我々の製造している第五世代型の機体は中枢であるビットの生存能力を高めています。今回襲撃してきた機体はそれに該当します。忌々しいことに」
だが不運なことに中枢のビットは完膚なきまでに破壊され、離脱も帰還も許されなかったらしい。エヌラスは腕を組み、考える。
「……質問をいいか?」
「許可します、どうぞ」
「相手の目的は」
「現在のところ不明です。しかし、襲撃してきたことから恐らくは
「増産されると判断した根拠は?」
「複数機による襲撃だったからです。幸いこちらもランカー……あぁ、武装企業役員のことです。ランカー機体でしたので、被害は最小限で済みましたが」
「となると、少なくとも機体を製造できる工場を根城にしてる可能性が高いか」
規模の差はあれど、ハァド大戦が終結してからの製造で複数機体を投入したことから大型の拠点であると見て間違いない。
「俺の仕事は拠点の捜索だけでいいか?」
「そうですね」
「……俺、暴れなくていい感じ?」
「……暴れていただけるならこちらも助かりますが、治療費の方などは自費になります」
「なら任せる。目星の方は」
「複数の候補があります。そのうちのひとつはソルジャー部隊管轄の拠点となるのでこちらから刺激するわけにもいかず、有力候補として挙げさせていただきます」
なるほど、とエヌラスは一人納得する。自分が戦線離脱した際に大魔導師から催促(脅迫)されたアルシュベイトが武装企業を利用してソルジャー部隊を出し抜いたのは記憶に新しい。思惑に利用された形と言えど、一般ソルジャー達からの武装企業へ対する風当たりが厳しいのが現状だ。
「ああ、報酬の方はご心配なく。こちらである程度の金額はご用意させていただきます。無論、報酬に見合う戦果が前提となりますが」
「善処する。ならこっちからもついでに頼み事がある、片手間でも構わないがとある犯罪組織について調査を頼みたい」