超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「……なるほど。交換条件ということですか。そういうことでしたら、我々も力をお貸ししましょう」
「いいのか? 案外言ってみるもんだな」
エヌラスからの話に、キャロラインはすんなりと提案を受け入れた。
「拠点捜索の方はこちらで請け負います。それらしい取引も可能であれば押さえましょう。ですが基本的にはリーンボックスの警備員に引き渡す形になりますがよろしいですか?」
「ああ、それでもかまわない。とりあえず俺はこのままソルジャー部隊の拠点に向かってみる」
「よろしくお願いします。こちらも早速取り掛かりましょう。アンジー、起きてください」
武装企業の管制AIがキャロラインの音声認識によって起動する。
《おはようございます。何か御用でしょうか》
「これから入力するデータについて照合の方をお願いします」
《了解》
「他に質問はありますか?」
コンソールを打つ手を止めずにキャロラインは視線だけを向けてエヌラスに尋ねた。他に気にかかることと言えば……。
「ならもういくつか。シロトラに襲撃されたって聞いてたが、被害は大丈夫なのか?」
「あぁ、その件ですか。問題ありませんよ。開発途中だった機体が奪取されただけですので。既にこちらも手を打っています」
戦乙女と銘打たれた機体が奪われたところでなんだと言うのか。キャロラインは鼻で笑っていた。あれがどのような変質を遂げたところで問題ない。
彼は別。彼だけは特別。全てを焼き払う獣であるナイルスも、その愛機も改修中だ。どれだけの予算を注ぎ込んだと思っているのか。
「ナイルスの奴はどうなんだ?」
「現在も安静にしてます。怪我の容態も快復に向かっていますが、戦線に投入可能な戦力であるかどうかは」
オペレーター達の生活の保障をしているとはいえ、肝心の切り札が動けないのでは意味がない。しかしキャロラインは信じている。そして知っている。あの獣は、その時が来れば必ず戦いに行くのだと。
「彼の機体も現在急ピッチで製造を進めています。とはいえ『白い死神』ほどの再現とはいきませんが」
「そうか。最後にこれは興味本位なんだが、プレジレントは……」
エヌラスの質問に対してキャロラインの手が止まった。沈黙が続くが、迷っている様子だった。何か言いにくそうにしている。
「社長は……いえ、確かに。機体の損害は深刻な物です。あの機体もワンオフの一張羅でしたので、再現は不可能でした」
「なんか引っかかる言い方だな」
「社長の人格プログラムそのものはまだ残っていますので、機体さえ用意できれば復帰は可能かと」
驚いた。アルシュベイトと一騎打ちしておきながら、肝心の中身がまだ生きていたことに。だが類を見ない機体構成だったためかあの“ビジネススーツ”の再現は不可能であることにどこかエヌラスは安堵する。しかしあの強烈なインパクトを残した人格には一抹の不安がよぎった。
「ご安心ください」
「え?」
「社長のことです。女神代理戦争の結果に満足していました。もし復帰したとしても以前のような暴走はしないでしょう」
口にするより先に意図を汲んだのか、キャロラインが目配せをする。翡翠色の瞳は相変わらず無感情のように感じるが、眼の奥には確かに炎が燻っていた。
「ですので、ご安心を。もし我々に“次”があるのなら、その時は──社員一同、守護女神のために尽力致します」
「そりゃ助かる。それなら俺一人いなくなっても大丈夫そうだ」
エヌラスが腰を上げてオフィスから出ようとすると呼び止められる。
「よろしければ直通エレベーターをご利用下さい」
「またあのバカみてーなとこ階段降りることになんのかと辟易してたところだ。お言葉に甘えて」
キャロラインの案内で一階のフロントまで直通のエレベーターが稼働し、一人になったところで再びコンソールを叩く。
先ほどの言葉を聞き逃すはずがなかった。──俺一人いなくなっても。確かに彼はそう言っていた。
「貴方のような“例外”がいなくなるというのなら……いいでしょう。我々にも意地があるということを見せつけねばなりません。そうでしょう、社長?」
あの人ならばきっと──同じことを言う。
何故ならば、我々こそが武装企業だからだと。
武装企業を出て、エヌラスはキャロラインからの依頼であるソルジャー部隊の拠点へ向かう。場所はダイアルゼブラ荒原の僻地、環境緑地化プロジェクトの先駆者であるバルバロスにとって目の上のタンコブのような存在だ。
向かう前にさらに情報を集めておこうとD-phonを取り出してベールに電話をかける。
《エヌラス、どうかしたんですの?》
「あぁ、ちょっとな。実は武装企業からの依頼が入ってよ。エスーシャに取り次いでもらえるか?」
《少々お待ちくださいませ。あら? ニトロプラスちゃんに代わりますわね》
嫌な予感がした。念の為耳から遠ざけておいてみる。
《スゥ──。アンタいったいどこで油売ってんのよ! アタシからの話はどうなったわけ!?》
案の定、怒声が罵詈雑言を添えてお出しされた。鼓膜が無事なことを確かめてから相手が落ち着くのを待ち、機を見計らって話を切り出す。
不満そうにしながらも、企業の手を借りる合理的な判断には流石に納得せざるを得ないのか、やはり不満そうにしていた。
「だからこっちの仕事をさっさと片付けて、武装企業の集めた情報頼りに動くのが早いと思っただけだ。そんな怒んなよ」
《……そうね。今のはアタシが浅慮だったわね、ごめん》
「ちゃんと謝れんだな」
《…………》
「あー、悪い。今のは別に悪気があったわけじゃないんだが」
《ベールが戻ってきたから代わるわ。そっちの動き、落ち着いたらまた連絡して》
それじゃ、とニトロプラスちゃんはそっけなく告げてベールに代わる。
《エヌラス、お待たせしました。エスーシャの方ですが、今は黄金の頂付近に居るそうなのでそちらで直接お話を伺うとのことでしたわ》
「そうか、悪いな手間取らせて」
《いえ、気にしないでくださいませ。無事に戻ってきてくれればわたくしはそれだけで十分ですもの、うふふ》
「……なんかこう、含みありげな言葉だな?」
《状況が状況とはいえ、エヌラスを独占できているのは仕方ありませんものね♪》
うーんこれだからベールは。エヌラスは肩を落とした。
黄金の頂の付近ではソルジャー部隊が駐屯地を形成して周囲を警戒している。武装企業との衝突や様々な思惑に利用されたとはいえ、彼らの仕事は変わりない。それを率いるエスーシャはと言うと、大量のケーブルが繋がれた機材とモニターを見ていた。
エヌラスが要件を簡潔にまとめると、すぐに案内される。
「よ、エスーシャ」
「君か……私に用事があるという話だったが」
「武装企業からの依頼でな。最近襲撃があったらしい、何か知ってるか?」
「さぁ。興味ないね」
「だろうと思った。こっちで調査を進めるから許可証があると助かる、ソルジャー部隊の管轄区域に立ち入ることになるからよ」
「…………」
面倒そうな顔を見せながら、エスーシャはすぐに他のソルジャー部隊に指示を出した。それから間もなくして渡されたのは電子コード。それを通行証代わりに見せればいいらしい。カードキーは施設内部のアクセスに用いるようだ。
「あの企業にはあまり良い思い出がない。私の邪魔ばかり……」
「そう悪く言うなって、向こうも仕事だったんだから」
「……ダイアルゼブラ荒原にある拠点は半ばスクラップ工場だ。ハァド大戦が終結してから無数のジャンク品が集荷されてる。今も稼働を続けているはずだから注意だけはしておいてくれ」
「わかった、ありがとな」
「もうひとつ」
「なんだよ?」
「……君は、私を恨んでいないのか?」
戸惑うような声に、エヌラスは鼻で笑う。
「ああ。なんかもう、全部どうでもよくなっちまったよ。それじゃあな」
背中を向けて走り去っていく姿にエスーシャは手を伸ばしたが、それが届くことはなかった。
ダイアルゼブラ荒原。アルシュベイトの大立ち回りによってアブラカンが完全粉砕された場所。その際に懸賞金目当てで大勢のバウンティハンター達が殺到したものの全て撃退されている。大量に転がっていたスクラップはユウコと剣姫の手によって工場へ全部搬送された。アホのように武装企業のロボット達が使い潰されたが、エヌラスが向かうのはそのスクラップ工場だ。
ハンティングホラーで長距離をドライブがてら走り、殺風景な景観に圧倒されながら到着した工場は現在も元気に稼働中。中からは重機の駆動音が絶え間なく響いていた。
「此処か……」
現着したエヌラスがハンティングホラーから降りる。足と地面の隙間に出来た影に身を隠す猟犬はいつもより気にかけているのか、戻るのを躊躇っていた。足で地面を二回叩いて催促すると、ようやく姿を消す。
スクラップ工場はソルジャー部隊の実地試験会場としても活用されているのか、リーンボックスの軍事大国としての側面が強く出ていた。繰り返し採用可能なガードメカを多数配置しているが、当然入り口付近には試験官が配置されている。
赤い制服のソルジャーと青い制服のソルジャーがエヌラスの姿を見かけるなり声をかけた。
「エスーシャ様からお話は聞いています。どうぞ中の方へ」
「もう話通されてんのか。んじゃちょっと見学させてもらうわ」
「……? ソルジャー試験では?」
「え? いや違うけどよ」
即座に訂正し、首を横に振って否定すると二人のソルジャーが滝汗を流す。エヌラスが一歩足を踏み入れた瞬間、けたたましい音を立ててゲートが閉まり始めた。
「は?」
「っべー、試験だって聞いてたから思いっきり高難度実地試験にセッティングしてた……!!!」
「バカじゃねぇの!? どうすんだよこれ!?」
「ご安心ください我々もサポートしますので! では試験スタートです!」
「とりあえず生きて帰ってきたらテメェらボコるわ」
ソルジャー部隊高難度実地試験が開始され、一人取り残された状態から振り向く。
いくつかの監視塔。障害物としてのバリケードまで設置されているが、気の所為でなければガードロボ達が威嚇抜きのレーザー射撃を始めて弾幕を形成していた。咄嗟に積み上げられていた土のうの影にスライディングで身を隠す。
「生きて戻ったらぜってぇアイツらボコる……徹底的にボコる!」
指の骨を鳴らしてエヌラスはレイジングジャッジを取り出すと、弾倉を確認する。フリークスハントカスタムが開戦の号砲を鳴らした。