超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ソルジャー試験の中でも高難度実地試験というのは過酷な一言に尽きる。例えるならばノルマンディー上陸作戦。三千人に一人たどり着ければマシな方だが、生憎とエヌラスは単騎である。生半可な冒険者三千人が束になって敵う男かと問われれば誰しもが首を横に振る。絶対に「NO」だ。
ブラインドファイアで確実に敵の数を減らし、弾幕が薄れた隙に次の遮蔽物へ向けて素早く移動して身を隠す。カバーポジション命だ。
先ほどの試験官は高い城壁の上、監視の役回りも兼ねてメガホン片手に見守っている。
《大変申し訳ございませぇぇぇんっ!!! 大丈夫ですかぁぁぁっ!》
あまりにうるさいので威嚇射撃。手すりが爆ぜた。
「やかましいわぁっ! ていうかなんだこの試験バカじゃねぇの!? ゴールどこだよ!?」
《あちらのタワーをご覧ください! あの発電施設にあるカードキーの入手が目的となっております!》
試験官に促された顎の先、よく見れば馬鹿でかいパラボラアンテナが見える。その根本はと言うとスクラップ工場の九龍城、増改築の繰り返しによって出来上がった鋼鉄山脈の麓は樹海のようにケーブルが張り巡らされていた。
鉄の大扉が開けばジャンクの継ぎ接ぎメカが職務に取り掛かっている。頭を吹っ飛ばして黙らせた。
「俺! 工場の見学! 武装企業からの依頼! 査察!」
《なるほどわかりました! ですがこちらからは何もできませんので自力でなんとか、あっぶなァァァいっ!!!》
腹が立ったので三連発。空の弾倉に弾丸を装填しておく。
「やってやろうじゃねぇかよこの野郎っ!!!」
エヌラスが身を翻して土嚢から飛び出す。飛んでくる光線を召喚した倭刀で弾きながら自動扉が閉まる前に中へ飛び込んだ。懐から取り出したD-phonでユウコに電話すると、三回もコールしないうちに出た。
《も、もしもーし?》
「ユウコ、ちょい聞きたいことがあるんだけどよ! ハァド大戦終わってからのスクラップ全部工場にぶち込んだの覚えてるか!」
《覚えてるけど、どうしたの? あ、物品受領書の控えなら私持ってるけど?》
「いやそれはいいんだわ! 全部で何機叩き込んだか覚えてるか!」
《あー、んと……ちょっと待って。確かー、この辺のー、ここにー……あった! 総重量ン百トン》
「トン!?!? いやわかるが、そんな量あったのか?」
《なんか? 走る生産工場みたいなやつも廃棄処分確定したから持ってったんだって。多分それじゃない?》
「大怪獣の後始末させられてんのか俺ぇ!!」
工場ひとつ丸々収容された挙句解体されて再利用されている事実にエヌラスは頭を抱える。どうりで重機がやたら多いわけだ。しかし気になる点がもう一つ。
「なんで武装企業と敵対してるソルジャー部隊管轄の工場に運んだんだ」
《運送費用の節約。ガソリン代高いんだよ?》
「お前ならそう言うと思ってたがマジで言われると凹むわ」
《え、なんかマズかったの? っていうかキミ何してんの》
かくかくしかじか。エヌラスはかいつまんでユウコに事情を説明した。
《あー、ね。まぁがんばれ》
「めちゃくちゃ頑張ってんだよなぁ!?!?」
片手で通話しながら迫る警備ロボを蹴り飛ばし殴り飛ばし投げ飛ばし、やりたい放題暴れながらエヌラスは雑多な工場内部を駆け回る。なにか決定的な証拠のひとつでも見つかれば此処に用事はないのだが、生憎なことに空振りに終わった。
やるせなくなったエヌラスはその後試験会場を荒らしに荒らした。具体的には焼け野原。
更地にしながら目標地点であるタワーの麓にまで辿り着くと肩を回す。
「うー、し。肩慣らし完了。あとはこんな馬鹿げた試験終わらせて帰る」
凄惨な現場を後にしてカードキーを挿すとゲートが重苦しい音を立てて開かれていく。エヌラスの前に飛び降りてきたのは巨大な機械の蠍だった。装甲表面に無数の傷跡が残っていることから、それが実地試験のボスを務めていることは容易に想像がつく。
大きな鋏を振り上げ、体長ほどもある尻尾を揺らし、威嚇してくる黒い重装甲サソリにエヌラスは倭刀を構えた。
「試験官、コイツぶっ壊していいかぁ!?」
《既に被害総額が大変なことになってますぅ!!》
「知るかボケェ、ぶっ殺すぞ!!!」
《お願いします! どうか機能停止に留めてください、大事な試験ボスなんですザトムくんは!」
「名前なんか知ったこっちゃねぇわバァァァーカッ!!!」
《メソメソ……》
尻尾の先端から発射される電磁波を纏ったニードルを弾き、エヌラスは大きく回り込む。広場のような場所は幸いにも身を隠す場所に困らない。ところどころ壊れたままにされているのは戦場の雰囲気を彷彿とさせるためのものだろう。そんな心配りなど気にしていないが、エヌラスは足元の石ころを幾つか拾い上げるとザトムの複眼網膜ユニット目掛けて投射した。
素早くハサミを振り上げて防御すると、反撃として装甲表面からパーツを射出する。
上空で展開し、プロペラを回して停滞すると下部センサーで目標を捕捉。プロペラを閉じて位置を調整しながら熱源目掛けて落下。垂直式ミサイルの爆撃に晒されながらエヌラスは無傷で飛び出して受け身を取ると身を翻してザトムへ駆け出す。
《ちなみにザトムくんの弱点は雷なので!》
エヌラスは言われるまでもなく、既にハサミの連続攻撃を掻い潜って背中に取り付いていた。顔に照準を定めるテールニードルガンに倭刀一閃、尻尾を斬り落とすと鋒を頭部に押し当てる。
整息──電磁発勁。
“鬼哭掌”を倭刀から通電させて装甲を貫く。内部の回路だけをショートさせてシステムダウンしたザトムから刀を抜いて降りると静かに納刀した。
瞬殺。
「機能停止に留めてやったぞチキショウが」
ただし中の回路は完全に破壊してある。これぐらいしないと割に合わない。エヌラスは自分の身体の感覚を確かめるが、だいぶ力の加減が効くようになってきた実感を覚えていた。魔導発剄も今は以前と遜色ない程度には威力が見込める。魔神としての側面が出ている点を考慮すれば、以前に増して破壊力が上がっていると考えていい。
(生身の相手にはもっと手加減しねぇとな……)
この威力を叩き込んだら血煙になってしまう。もっとなにか戦法を考えなければならない。そうなってくるとやはり銃器が安定する。手放しで一定の威力を確保してくれる戦術となるとこれが一番合理的だ。
エヌラスはタワー内部にある階段を登り、頂上のカードキーを奪取するとそのまま飛び降りて戻る。時間が惜しい。
試験官に押しつけるように突き出すと、試験合格の報酬としてソルジャー部隊に支給されている携帯端末が渡された。特別な刻印のされた上級者向け端末のようだが、エヌラスは興味がないので受け取り拒否。
「……待てよ? そういや俺がぶっ壊したあのクラウンブレイカーとかいう機体はどこに運ばれたんだ?」
「え? あれ壊したの貴方だったんですか!? 流石だぁ……」
なんか腹立つので試験官の頭に銃口を押しつける。涙目になりながら首を横に振っているが知ったことではない。
「町中でぶっ壊したからには多分それなりに近場だと思うんだけどな……いやしかしな……マッチポンプってのも考えにくいしな……」
武装企業に喧嘩を売るような相手。他に誰がいるだろうか。反動勢力? キャロラインが反女神派であることを考えれば候補のひとつだ。
《こちらキャロライン。なにか?》
「例の査察だが、ソルジャー部隊の施設はシロだ。なんかクソ余計な試験やらされたが問題ねぇ」
《そうでしたか。ご苦労さまです。こちらは順調です。それらしい姿がここ数日見られています》
「なにか共通点はあるか?」
《人目を避けている、という点ぐらいでしょうか。路地裏の方などが主な現場のようですね。のちほどデータをまとめて教会の方へ送信しておきます》
「そりゃ助かる。時間に余裕あるし、こっちも追加で回っておく──なぁキャロライン」
《はい、キャロラインです──なにか?》
「そのー……反女神派? なんだよなお前」
《そうですが?》
「お前の古巣からの刺客って線はないか?」
《────なるほど。それは盲点でした。それならば話は簡単です》
長らく連絡を取っていない古巣の仲間達が、自分の離反を懸念して排除を目的として動いた。仮説としては十分考えられる。ハァド大戦が終戦した今ならば、可能性としては濃厚だ。プレジデントの恩恵があまりに大きすぎたせいでキャロライン自身、失念していたらしい。
《アンジーからの検索結果です。どうやら私の古巣は資金難に追われていたようですが、ここ最近は随分と羽振りが良くなっています。おそらくどこからか資金援助を受けていると見て間違いないでしょう》
「となると……そうだな、考えられるのは」
《ええ。どうやらお互い目的は同じと見ていいでしょう。こちらから座標を送ります》
キャロラインから送られてきた座標ポイントを確認してから、エヌラスは地図上に照らし合わせる。
相手はどうやら意外にも首都近郊に潜んでいたようだ。なるほどこれは確かに探すのに一苦労させられるわけだ、エヌラスは犯罪者を追跡する鼻が鈍くなったことに半分寂しさを覚えながらキャロラインに感謝の言葉を投げる。
「助かる」
《内通者の件ですが、おそらく……彼女に接触していた警備員が怪しいかと。すでにこちらから動いています》
「ほんと仕事はえーな……」
《敏腕秘書官ですので》
淡々と自慢げに話す言葉の中に、自嘲の色が含まれていた。プレジデント亡き今、敏腕秘書を名乗ることの滑稽さに。
「そうと決まれば速戦即決、こっちから打って出る」
《どうかご武運を。こちらも業務に支障をきたさない程度の機体を動員します》
──そんな話をしていたのが、つい三時間ほど前の出来事。
エヌラスがニトロプラスちゃんと合流し、敵のアジトへ乗り込んだのが一時間ほど前。
そこまではよかった。そこまでは──。
「……ねぇちょっとアンタ。これどういう状況だか説明してもらえない?」
「俺が聞きてぇんだよ起爆剤女」
本拠地に乗り込んで大暴れしてたまでもよかった、何もかもが順調だった。親玉であるスーツを着たネズミも追い込み、あと一歩というところまで追い詰めた。武装企業の機体が増援として現れ、反女神派勢力のアジトは半壊し、犯罪者を一網打尽。完璧なプランだった。
そう、二人揃って落とし穴とかいうコッテコテの古典的な罠に引っかかるまでは。エヌラスを下敷きにしていたニトロプラスちゃんが真っ暗な穴の中を手探りで周囲の様子を窺う。
「他に罠があるようには思えないわね」
「よかったな。コイツが感覚遮断落とし穴とかじゃなくて」
「アンタの趣味かなんか?」
「俺の地元じゃ「イソギンチャク」とか言われてたニッチな名物だ」
「アンタの故郷、深海とかじゃないわよね」
「んなわけねぇだろうが、地下帝国だよ」
「ああ、地底人だから常識ないのね」
「あーうんそうかもしれんわ、はよ退け」
落ちてきた穴は遥か天井。飛べば届かなくはないが、案の定閉じられた。普通は閉じ込めるわな、そりゃそうだ。エヌラスは納得しながら明かりを用意しようとして、次の瞬間──まばゆい光に目を細める。ニトロプラスちゃんも臨戦態勢だけは崩さなかった。
二人で背中合わせに周囲を警戒するが、敵襲などはない。
《チュ~ッチュッチュッチュ、引っかかったッチュねふたりとも》
「気色悪い」
「死ね」
《……そ、そこは我々が割れによる資金で作ったトラップ部屋ッチュ》
「今どきそんな語尾付けてまでキャラ付けするやついねぇぞ」
「哀れね。そうでもしないと人に覚えてもらえないんでしょ」
《………………だ、脱出不可能ッチュ!!! そこを出る手段はひとつしかないっチュよ》
「聞いたか? 脱出不可能なのに出る手段だとよ」
「聞いて呆れるわね、自分でも何言ってるかわかんないんじゃない?」
鼻で笑う二人に、心がへし折れたのか鼻をすする音が聞こえてきた。
《い゛つ゛ま゛て゛そ゛ん゛な゛態度で、い゛ら゛れ゛る゛か゛、グスッ、見ものッヂュ!!!》
「ここ出たらアイツ殺そうぜ。半殺しな」
「いいわね、じゃあアタシ残りの半分殺すわ」
全殺し確定である。
そうと決まれば二人はストレッチを開始する、特に何か危険があるわけでもない。
ワンルームのこぢんまりとした部屋。ベッドと小瓶と小型冷蔵庫があるだけの部屋から唯一外部へ通じる扉の上には、脱出方法と思わしき手段が書いてあった。
──『
その文字列を見てエヌラスは目頭を押さえた。
ニトロプラスちゃんは見て見ぬフリをした。黙って弾丸を装填している。
「…………どいつもこいつもみな死ねばいいのに」
「アタシは何も見てないわ。アイツ絶対ぶっ殺すわよ」
そして、現在。
二人揃って途方に暮れていた。