超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
エヌラスは改めて状況を確認する。ワンルームにはベッドとサイドデスク、小型の冷蔵庫のみ。唯一の出口は固く閉じられており、破壊して脱出しようものなら大怪我間違いなし。一人ならまだしも隣にニトロプラスちゃんがいるのでそれも断念。脱出方法に関しても最終手段とする。
「……さて、どうやって脱出したもんかな」
「絶対やんないから」
「まだなんも言ってねぇぞ俺」
「絶対考えたでしょ。やんないから」
「可能性として考慮してるだけだ。とりあえず部屋ん中調べてみるわ」
小型冷蔵庫の中を開けて確認すると、数日分の水と食料が入っていた。当面は問題なさそうだが、そうなると次に気になるのはサイドデスクの上の小瓶。
「これ、なんだろな」
「知らないわよ」
なんとも素っ気ない。エヌラスが開けて匂いを嗅いでみるが、特に変わった香りはしない。指に垂らして舐め取ってみるが無味無臭の液体に首を傾げるものの、味覚が死んでるのでそりゃそうかと一人納得。ついでに言えば薬物にもバカのような免疫力があるので効果など皆無だ。
「……水じゃねぇしな」
「毒とも考えられないわね。自決したけりゃどうぞ、なんて」
「ちょっと味みてくれねぇか? 味覚死んでんだわ」
「味音痴。舐めるだけよ」
ニトロプラスちゃんも指にとり、舌でなめとる。だが眉を寄せて苦い顔をしていた。
「味覚死んでて良かったわね。クソまずいわよこれ」
「お、おう……そうか。特に変化なさそうか?」
「どんな即効性よ。しばらく経過みないと。それにごく少量なんだし、効果が出るかもわからないでしょ」
「小瓶ってことは原液そのままいくもんじゃねぇのかもよ」
風切り音。
エヌラスは緋太刀を白刃どりで受け止める。
「あっぶねぇな!!!」
「アンタなんてもん舐めさせてるわけ!? 仮にそれで被害出たら責任取ってもらうから!」
「落ち着け落ち着け! まだそうと決まったわけじゃねえんだから! 水でも飲んで一旦落ち着いてくれ! 部屋せめぇんだから!」
ニトロプラスちゃんに水を渡してからエヌラスは再び室内を調べ始めた。背中から突き刺さる視線にチクチクと苛まれつつ、黙って。
特に何か仕掛けがあるわけではない。単純にそういう部屋として用意されているだけのようだ。空調が効いているとはいえ、リモコンがあるわけでもない。単純に過ごしやすい温度で管理されているだけだ。
「……どう思う?」
「最悪」
「俺もそう思う。こんなバカみてぇな仕掛けよくもまぁ作ったもんだよ」
「男なんてそんなもんでしょ」
「それでもこんな強制させるような部屋は普通作らねぇと思う」
「意外ね。アンタこういうのノリ気だとばかり。なんなら無理矢理なんてのも好きそうだし」
「あんま好きじゃねぇんだよ、そういうの」
目を白黒させるニトロプラスちゃんから顔を背けてエヌラスは壁に手を当てる。ソナーのように魔力を反響させて壁の向こうを探っていた。
「なんつうか。女の子泣かせるの後味悪ぃじゃん?」
「女の子いっぱい泣かせてそうな顔で言われてもね」
「不本意ながら心当たりしかねぇんだわ……俺が手を出す相手なんて、命懸けで守ると決めた女だけだよ。それであちこち手出して痛い目見て学ばねぇんだから救いようがねぇバカなんだろうな俺は」
壁を軽くノックしてみる。どうやら完全に地下通路に閉じ込められているらしい。脱出できる道は出口からのみのようだ。だが自分たちが落とし穴に引っかかったことを思い出して天井を見上げる。あわよくば飛んで脱出できないか、とすがるような思いだったが残念なことにしっかり対処済みだ。
「……なぁ。これからバカな提案するんだが、できれば一緒に考えてくれねぇか?」
「一応聞くだけ聞くけど、なに?」
「仮にだ。マジでセックスしないと出られない部屋っつーなら、どっからどこまでが性行為に認定されると思う?」
「……死にたいの?」
「いや真面目に考えてんだよ。仮にその方法で脱出するとして、どう認識してんだろうなって」
「…………熱源感知、とか? 動体センサーだとしたら、それっぽい動きで誤魔化せるんじゃないかってこと?」
「そういうことだ。試してみる価値はあると思うが、どう思う」
「あたしの貞操のこと、ちゃんと考えてるのね。ちょっと見直してあげる」
「……一応聞くが経験あるのか?」
「上がった評価わざわざ下げなくてもいいでしょ。死にたいわけ? ないわよ。あるように見える?」
黙っていれば、素性を知らなければ寄りつく男の一人や二人いそうなものだが、生憎と男運には恵まれていないのか。なびくような女でもない。孤高の狩人として過ごしてきたのが目に見える。
「まぁ、多少は」
「あっそう。世辞として受け取ってあげる。それで? どうするつもり?」
「そうだな……ベッドで寝てみるか」
「……寝るだけよ。指一本でも触れたら斬るからね」
【テイク1】
──シングルベッドに寝転ぶ二人。
肩が触れ合わない程度に距離を置いて仰向けになり、天井を見つめるエヌラスとニトロプラスちゃん。
当然何かが起こるはずもなく……。
「違うでしょうがニトロプラスちゃんよぉ!!!」
「いきなり大声出さないでよ、なに!? なにが違うの!?」
「話の流れからして一緒に寝るの意味合いがこう……さぁ! 添い寝ですらねぇじゃんこれ!? 思春期の距離なんだよこれはよぉ!」
跳ね起きるなり熱弁を振るうエヌラスに気圧されてニトロプラスちゃんはぎこちなく頷く。
「た、確かにこれはちょっとなんか違う気はしてたわ……」
「いや俺も大声出して悪い。最近ツッコミ不足だったもんだからよ。ふぅー……、よし。もっと近づいてみるか」
【テイク2】
「…………」
「…………どうだ?」
「…………話かけないで」
距離を詰める。腕の中にすっぽりと抱きしめられたニトロプラスちゃんは背中を向けていた。それでも拳ひとつぶん程度の隙間を開けているだけにもどかしい。エヌラスは黒髪の後頭部に視線を向けつつ、扉の反応を窺う。うんともすんとも。
「ダメそうだなこれも」
「……息しないでくれる? 呼吸も止めて一生」
「人のことゴミクズロンリネスにでもするつもりかテメェは。もっと身体寄せてくれ」
「もっと? ……──あぁ、もー。これでいい?」
渋々といった様子で隙間を埋めてぴったりと身体をくっつけてくる。エヌラスはそれをしっかり腕で抱きしめながらも、扉から視線は外さなかった。
「ダメだな」
「……しにたい」
「そんなこと言うな。別に汗臭くないぞ」
「別に感想なんか聞いてないわよ! どうもありがとうね、アンタからは血と硝煙と薬とどうでもいいわよねあたしからの感想なんか! 次いくわよ!」
「キレッキレじゃねぇかなんなんだよ……」
【テイク3】
思うに。後ろから抱きしめるから判定基準を満たさないのではないか? という提案にものすごい顔で睨まれた。しかし、現状を突破するための手段を選んでもいられない。こうしている間にも犯人は逃亡しているのだから。
両腕を突き出して視線を合わせようとしないニトロプラスちゃんと抱きしめ合い、ベッドに転がる。頭を胸板に浅く押しつけながらエヌラスは艶のある黒髪に頭を埋める。
「嗅がないで息しないで呼吸しないで心臓とめてお願いだから来世も死んで」
「嗅ぐし息もするし呼吸もするし心臓止める気もなけりゃ頼まれたって死ぬもんか」
「あたしなんでこんなことしてるのかしら……」
「俺に聞くんじゃねぇよ……」
「これでまだ開かないわけ?」
「開く気配ねぇな……」
鍵が開いた気配もなければ音もしない。残酷なことに。
「……なに考えてるのよ」
「なんつうか……お前ってやっぱ胸でかいよなーと」
「背骨へし折られたいわけ?」
「イデデデデデ、アバラが軋んでんだわ!!!」
【テイク4】
ベッドで寝転んでいてもダメ、抱きしめあってもダメ。両方合わせてもダメ。それはここまでの実験でわかった。となれば次のステップだ。
「……ねぇ。ホントにするわけ?」
「試してみねぇことには何も言えないからな。スクワットみたいなもんだと思ってくれ」
「…………本番無しってだけマシね」
エヌラスがベッドで仰向けになり、その上にニトロプラスちゃんが馬乗りになる。あとは上下に反復運動をして誤魔化せることができれば恩の字。
「よいしょ、んっしょ……ねぇ、これ結構疲れるんだけど。アンタの方から動いてくれない?」
「俺が動いたら怒るだろうがお前」
「そうね。頭に銃口押しつける自身があるわ♪」
「笑顔で言うんじゃねぇよこえーんだよ! いいからほれ、がんばれ」
「……筋トレだと思うことにするわ」
諦めたように呟き、背筋を伸ばしてエヌラスに跨ったままスクワットを始める。
「…………」
「…………」
無言で見つめ合う二人。静かな部屋にベッドのスプリングが軋む音が規則的なリズムを刻んでいた。
ギッ、ギッ、ギシッ──ギシッ
ニトロプラスちゃんの顔がみるみる赤くなっていく。
「なんか文句あるの!?」
「ありませんけど!?」
「じゃあなんか言いなさいよ! なんで黙ってるわけ!?」
「なに言っても怒られる未来しか見えねぇんだよ!」
「当たり前でしょうが!」
「キレんなや! 余計な体力使うなよ!」
「……っていうか助け呼べばよくない?」
エヌラスがニトロプラスちゃんにD-Phoneの画面を突きつけた。そこには無慈悲な「圏外」の二文字。通信遮断も抜かりなし。
「はぁ、もう。この部屋あっついんだから、変な運動させないでよね」
黒のレザージャケットを脱ぎ捨てると、水分補給。空にした容器を小型の冷蔵庫の上に乗せた。
黒いリボンとフリルの着いた白いコルセット一枚という薄着にエヌラスが参った顔をする。下はミニスカートときている上に、白の紐パン。
「北風に勝ち目がねぇってのはよくわかる」
「いきなり何の話? アンタもそんなクソ暑そうなスーツ着てないでちょっとは涼しい格好したら? 見てるこっちが暑苦しくなってくるんだけど」
「俺まで脱ぎだしたらそれこそ拍車がかかるだろうが」
このいかがわしい空間のいかがわしい空気に。敢えて言わないが。
「あたしが思うに、無駄な努力してる気がする」
「んじゃあさっさとやることやって此処を出るか? 俺は気が乗らないけどよ」
「なに、あたしのこと嫌いなわけ?」
「別にお前のこと嫌いなわけじゃない。腕は立つし、自分のやることに一直線で、ちゃんと俺のこと危険人物扱いして警戒するだろ? 平和ボケしたどっかの守護女神と違って」
「……ベール達のこと?」
「他にいるかよ。しみったれたお別れなんか、大っ嫌いだ。好きになればなるほど後が辛くてしょうがねぇんだ。こればかりは何回繰り返しても慣れねぇな。泣きたくなるぜ、ほんと」
「あたしは優しく慰めたりなんかしてやんないわよ」
「そりゃ助かる。俺にはそれぐらいがちょうどいいんだ、人でなしだからよ」