超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──反女神派のアジトを隠れ蓑に活動していたぴーしー大陸からの大罪人であるホーリューチューはリーンボックスの裏道を走っていた。数あるアジトはことごとく破壊され跡形もない。新作ソフトをばら撒こうにもウイルス感染したパソコンはバックアップ含めて完全に機能停止。泣く泣く初期化させたが最期、物言わぬガラクタと化した。ならばと中身を移設して新たなパソコンを導入したが、そちらも感染していたどころか繋いでいた回線が遮断された。クラウドストレージも中身を荒らされ、アカウントもBANされ、それどころかアドレス含めて全て食い荒らしたウイルスには手の施しようがなく、ホーリューチューは体一つで街に放り出されていた。
(まずいっちゅね……)
試作品の箱の中に閉じ込めたはいいが、時間稼ぎにしかならない。そもそも正常稼働するかも怪しかった。壊されるにしても頑丈に頑丈を重ねて作られた代物、そう簡単に出られるとは思えない。軍事大国さまさまである。
ぴーしー大陸に逃げ帰るわけにもいかず、かと言ってこのまま留まるのは愚の骨頂。となれば国外逃亡しかない。プラネテューヌか、それともラステイションか、はたまたルウィーか。
有力候補に挙げられるのはプラネテューヌ。他ニ国に比べて幾分か緩そうだからだ。ラステイションはリスクが高い。ルウィーはその辺りの規制が他国よりも一層厳罰化されている。
(こうなればプラネテューヌでまたひと稼ぎさせてもらうっちゅ)
そうと決まれば善は急げ──善ではないが──ホーリューチューはなるべく怪しまれないようにリーンボックスのフェリー乗り場へ急ぐ。
潮の香りが鼻をつき、波の音が聞こえてくる。港町にまでたどり着いて胸を撫で下ろすと、息を整えてから汗をハンカチで拭う。
涼しい顔で歩道に出ると、そのままフェリー乗り場目指して一直線に歩き出す。なるべく他の歩行者と足並みを揃えて怪しまれないように。
信号に捕まり、立ち止まる。
(早くするっちゅよ! どうしてこんな時に限って赤になるんちゅか!)
内心気が気でないホーリューチューは今すぐにでも走り出したい気持ちを抑えつつ、青信号に変わるのを待つ。その間僅か二分にも満たない時間ではあったが、まるで十分も二十分も待たされているような心地だった。
と、そこでようやく信号の色が変わる。一分一秒でも安心を得たいホーリューチューはそれとなく早足で肩を並べる市民達を抜かした。──その時である。
信号無視どころか法定速度ガン無視、国家権力に助走をつけて殴り抜ける勢いで暴走車両が一台。爆音というよりも咆哮じみた轟音を夜闇に響かせながら迫る。反対車線を突っ走り、車両の隙間をカウルから火花を散らしながら横断歩道めがけてアクセルを全開にしていた。
刹那、呆気に取られていたホーリューチューだが、全身の細胞からの危険信号に慌てて歩道を走り抜ける。人々の悲鳴を背中に聞きながらフェリー乗り場まで一気に抜け出そうとするが──。
ゴッ。
後頭部になにか固い物を叩きつけられて意識が即座に闇の中へ落ちていった。
朦朧とする意識と定まらない視界の中、人の足が見える。黒いブーツに、黒いジーンズ。だがその顔を目にする前にホーリューチューは意識を失った。
「…………ぅ、う~ん……」
目を覚ましたとき、そこは見知らぬ部屋の中だったホーリューチューは痛む後頭部と眩む目頭をほぐす。
一体何が起きたのか。
《あら、やっとお目覚めかしら大罪人?》
「この声……」
聞き覚えがある。そして部屋の中を見渡せば、どことなく見覚えがあった。
壁を見ればそこには『SEXしなければ出られない部屋(試作品)改悪版』と書かれている。わざわざ書き直したのかと思いつつ、ホーリューチューは出口を探した。
唯一、外へ通じる道には、しかし、黒尽くめの男が立っている。ズタ袋をサンタクロースよろしく肩に担ぎながらホーリューチューを睨んでいた。その顔には覚えがある。
「き、貴様はゲイムギョウ界の指名手配犯っちゅね! プラネテューヌ国境警備隊の移動拠点を破壊し、ラステイションでは守護女神に反旗を翻し、ルウィーでは教会近辺で被害を出し、リーンボックスでは一大軍事企業である武装企業の戦力をことごとく粉砕したという「黒衣の破壊神」なのは知ってるっちゅよ!」
「改めて自分の罪状列挙されると、俺よく死刑にならねぇな……」
《そこの大罪人より極悪じゃない、死んだほうが良いわよ》
「馬鹿言ってんじゃねぇ。そうならないように守護女神達が良きに計らって身元を教会預かりにしてんだよ」
《だったら平気な顔で脱走してんじゃないわよ、おとなしく牢屋にぶちこまれてなさい》
「そうっちゅよ」
「うるせぇぞネズミ頭。頭ん中パレード状態かよ気色悪い死ねよ」
ド級の辛辣なコメントにホーリューチューのメンタルがごりっと削られつつ、状況を冷静に観察。
「魂胆は読めるっちゅよ」
「テメェの発言を許可した覚えはねぇんだよペスト野郎。ペド野郎。タコ。死ね」
「…………」
「それなら俺から説明しなくてもいいな? こんな杜撰な設計でよくもまぁ「脱出不可能っちゅよ!(裏声)」なんて言えたもんだな。バカかよ、脳みそカビてんのか死ね」
情け容赦のない罵詈雑言が無慈悲に叩きつけられていく。しかしそれでもめげないホーリューチューの前で、エヌラスはズタ袋を下ろした。
「人がわざわざ設定直してやったんだからありがたく思え。作動するためには部屋の中に“二人”必要だってことは解析済みだ。本業じゃないがその辺は詳しい知人がいたんでね、ちょいと手を加えさせてもらった」
「改悪版ってのはどういうことっちゅか?」
「そりゃ文字通りだよ」
袋の中から取り出されたのは──ケモミミの生えたゼリー状のモンスター。おなじみスライヌ(気絶状態)だ。その頭頂部を掴み、大きく振りかぶる。そして察した、青ざめるホーリューチューが逃げ出そうと部屋から飛び出そうとするがエヌラスの正確無比なコントロールによって顔面にスライヌが叩きつけられた。
ビーッ。小さなブザー音。分厚い鉄の扉が閉じられていく。
気が動転する相手に向けてエヌラスは嘲笑していた。
「待っ、──!?」
「それじゃ、あとは二人でごゆっくりどうぞ」
電子ロック錠が施錠されたのを確認してから、エヌラスはその場を後にする。
「あースッキリした。これでアイツ出れねぇぞ、多分」
「……正直、最初聞いたときは気を疑ったわ。まさかアンタ、あれに手を加えるなんてね」
「やられたからにはやり返す。倍返しで済ませるもんかよ」
脱出後、エヌラスは即座にコントロールルームにとんぼ返りして内部のプログラムを書き換えた。コツを思い出してからは早く、その間にニトロプラスちゃんにはスライヌを捕獲してもらう。あとは脱走を企てるホーリューチューを拘束して連れ戻すという作戦だった。
案の定、犯罪国家生まれ犯罪国家育ちの生粋の大悪党かつ極悪人の魔の手からは逃れられるはずもなく無事に作戦は成功を収めている。
リーンボックス教会へと向ける足どりは軽く、肩の荷が下りたような心地だった。
「あたしは詳しくないからわからないけど、どう中身を書き換えたの?」
「ああ。あれの設定か? 粘膜接触による解錠設定だったんだが、どっかでミスってたせいでキスで解錠されるようになってたのをまず治した」
「ほんとクソみたいな設計ね……」
「ムカついたから「二十四時間に十発」で設定しといた」
「………………」
「そんでアイツはスライヌと二人きりなわけだ。あとはわかるな?」
ニトロプラスちゃんは恐怖した。頭がどうにかなりそうだった。
特殊性癖だとか、性癖倒錯者だとかそんなチャチなものでは断じて片付けられない。
もっと恐ろしいものの片鱗を味わっていた。
「十発……?」
「? そんぐらいいくだろ」
「いや、ちょっとあたしもその手の話は疎いんだけど……そんぐらいいくの、アンタ?」
「……その気になれば多分一日中は」
「百獣の王じゃないんだから加減しなさいよ……」
「女満足させられないやつは群れから追放されるんだぞ、知らねぇのか」
「知ってるわよ。知ってるから問題なの」
「──試すか?」
「死ね」
有無を言わさず緋太刀が閃く。だがエヌラスはそれを難なく避けた。
「誰が試すもんですか。でもまぁ……アンタが結構本気で怒ってくれたことに関しては、ちょっとだけ感謝してる。ありがと」
「さーて、お前の問題も解決したことだしこれからどうすっかなー」
大きく体を伸ばす。
ゴールドサァド事件は解決した、ならばあとは猛争モンスターの対処だけだ。今だに各国で猛威を振るい、冒険者や復権した守護女神達の手によって討伐されているがその出処も定かではない。
「とりあえず教会に戻ってベールに報告しましょ」
「それもそうだな、そうすっか」
──エヌラスとニトロプラスちゃんからの報告を聞いたベールとネプギアは信じられないものを見るような顔をしていた。
「ってな感じで報復してきた。反省も後悔もしてない」
「エヌラス……いくらなんでもそれは……」
「なんだ、ヤンキーキャットの方がよかったか?」
「いえ、その、そうではなく……やめておきますわ」
やりすぎではないか、と言おうとした。なにせあまりに相手が気の毒すぎる。仮にそうした特殊性癖だったとしても限度というものがある。ましてやそこから脱出した、ということはそういうことになるだろうしエヌラスはそれを知った瞬間ここぞとばかりに広めるだろう。こと犯罪における抑止力においてこれほど凶悪な制圧効果を持つ人材もいない。本人に反省の色なし。
「と、とにかくこれでニトロプラスさんの問題も無事に解決しましたね」
「そうね。自分の手で決着をつけられなかったのはちょっと残念だけど……ま、いいわ」
「さて、そんじゃ次の問題としては──例の強化個体の件か?」
「ええ。リーンボックスでは主に武装企業とソルジャー部隊が対処に当たっている猛争モンスターのことですわね」
「基本的にゴールドサァドぶっ殺すことしか眼中になかった頃だしな、そっちのことなんか意に介してなかったがそんなに問題なのか?」
「エヌラスさんは例外過ぎるのでそうかもしれませんけど……」
「今さらっとディスられなかったか俺」
「残当よ」
ニトロプラスちゃんからのいらないフォローにちょっと凹みつつ事実なので何も言い返せないエヌラスはギュッと黙るしかなかった。
「えっと、アイエフさんからの情報なんですけれど。レオルドさん達が怪しげな場所をプラネテューヌ郊外で発見したと同時に、空中戦艦の目撃情報が」
「撃ち落とせばいいか? 多分一撃でぶち抜けるぞ」
「アンタちょっと火力がバカ過ぎない? こんなんと一緒にいてよく無事ねあたし……」
「それともうひとつ問題が起きてまして」
「なんだよまだあんのか。今度はなんだ」
ネプギアの深刻な表情から、エヌラスも気を引き締める。
「守護女神政権が復権の兆しを見せてからというもの、ネット上にお姉ちゃん達の誹謗中傷コメントが相次いでて……お姉ちゃんの分はわたしが擁護コメントを書きこんでるからいいんですけれど」
「…………インターネットやめろ」
ちょっとでも