超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ひとまずネプギアの話は置いといて。猛争モンスターの脅威をレオルド達守護女神近衛機兵団が抑えている間に空中戦艦の対処をネプテューヌ達に任せたいらしい。となれば、一度ベール達はプラネテューヌへ集まる形になる。そこで懸念されるのが各国の戦況だ。
ルウィーではハンター協会がシーシャとワルキュリアを筆頭に事態に備えている。大連続狩猟の勢いは衰えずハンター達は狩魂を燃やしているらしい。
ラステイションでは防衛隊極東支部並びにヤーナムシティの面々、それに加えて教祖である神宮寺ケイの手でスピカとカルネを仮釈放。とはあくまで表向き、真相としてはこのまま無罪放免を企てている。
リーンボックスは言わずもがな。武装企業で事足りている。
プラネテューヌには守護女神近衛機兵団。それとミリアサもいる。
エヌラスは自分が出るまでもないことを確認してから頷いた。
「ま、そんだけ錚々たるメンバーが女神不在の穴を埋めるなら充分だろ」
「……アンタそれでいいの?」
「なにが?」
「出る幕なしって言われて、はいそうですかって引き下がるような奴だった?」
ニトロプラスちゃんの問いにベールとネプギアは言葉を濁した。一番暇を持て余す形となるエヌラスが、我こそはと最前線に向かわないことに疑問符を浮かべるのは無理もない。
「戦艦ぶち落とすなら任せろ。条約違反級の火力出る」
「やっぱアンタ黙ってて」
「では、ひと段落ついたということで。エヌラス、改めてよろしいですか?」
「なんだよ、ベール」
「わたくし達に何か隠し事をしていませんか?」
ベールの言葉にエヌラスは黙秘を行使した。腕を組み、口をへの字に曲げているが、それでもベールは引く気はないのか答えを待っている。
「だんまり見つめあっても平行線よ、観念して話したら。あたしは武器の手入れしてくるから、なんかあったら部屋まで来て。それじゃ」
自分がいては話しにくいかと、ニトロプラスちゃんが気を遣って部屋を後にした。エヌラスはどうするかまだ悩み、ため息を吐く。
「別になんもねぇよ。なんて言っても信じねぇよな」
「話してくださいます?」
「……大したことじゃねぇんだけどな」
ネクタイを緩め、ボタンを外し、エヌラスは自分の右腕を覆うボレロを外す。その下にあるはずの腕は、人の形をしているだけにすぎない黒い塊だった。指は曲がるし、感覚もある。言葉を失っている二人の前でエヌラスは肩を回した。
「俺の根幹にある“右腕”が奪われたせいで身体が保てなくなってきてる。それを神次元にあった女神メモリーを改竄した“魔神メモリー”で補ったからか、破壊の権能が強化されてよ。あんま加減できねぇんだ」
そんだけ、と最後に付け加えてからエヌラスは服を戻す。
「……消滅までのカウントダウンを先延ばしにしてるってだけだ。だからまぁ、そんな顔すんなよ二人とも。少しばかり静かに過ごしたいってだけだ」
「そんな……!」
「別に今日明日の話じゃない。だから泣きそうな顔するな、ネプギア」
「ならもうひとつよろしいのですかエヌラス──その“魔神メモリー”はどうやって?」
「さっきも言ったろ、女神メモリーを」
「それを。誰が、改竄したのですか?」
ベールの鋭い指摘にバツの悪そうな顔をした。
「そんなん俺が知るか。クソ師匠が持ってきて俺にぶちこんだ結果、なんとか俺は生き長らえてる。それだけの話だろ、もういいか? 疲れてんだ」
「……ええ。ごめんなさい、戻ってきたばかりでこのような話」
「気にすんな、それじゃまた明日な」
軽く手を振ってから執務室を後にするエヌラスを見送って、ベールもネプギアも違和感のようなものを感じていた。
「ベールさん」
「ええ。ネプギアちゃんも気づいてるとは思いますけれど、エヌラスはやはり何かわたくしたちに隠し事をしてますわね。自分の身体のことよりも」
「はい……でも話してくれないと思います」
「そうですわね……と、なれば。うふふ」
「何か手があるんですか?」
「ええ。こういう時こそ、持つべきこそは頼れる友、ですわ」
翌朝。
エヌラスが軋む身体を準備体操でほぐしていると、寝室の扉がノックされる。朝から誰かと顔を覗かせるとニトロプラスちゃんが立っていた。
「おはよ。よく眠れた?」
「まぁな。こんな朝から何の用だ? もう大罪人の件は解決しただろ」
「なに、顔を見に来たら悪いの?」
「そうとは言ってねぇよ」
肩を並べて廊下を歩く。肘で小突かれ、耳を傾ける。
「アンタ、昨日あれから何を聞かれたか知らないけれど、言ってないでしょうね?」
「言うわけねぇだろ。適当にはぐらかしといたわ」
「あぁよかった。ベールに勘ぐられると面倒そうだから助かるわ」
(アイツあぁ見えて結構勘が鋭いし、多分バレるの時間の問題だと思うんだけどな)
いつものようにエヌラスとニトロプラスちゃんがベールとネプギアの待っている執務室に足を運ぶと、そこには物珍しい来客が我が物顔で腕を組んで仁王立ちしていた。
「……アルシュベイト?」
「と、剣姫ね」
《む、エヌラス。身体の具合はどうだ》
適当に片手を振って挨拶を交わす。神妙な面持ちのベールにエヌラスは眉を寄せる。
「ベール。なんかあったのか」
「──いえ、ちょっとした相談事ですわ。気にしないでくださいまし」
「ああ。アゴウを空けて大丈夫なのかよ」
《心配には及ばん。今のところ向こうは静かだからな》
「とはいえその静けさが逆に気がかりだ」
それはつまり、邪神側の戦力を整える時間でもあるからだ。こちらから打って出るにも所在が知れない以上手の打ちようがない。
超次元で起きている目の前の問題を解決していくしかないもどかしさは全員同じだ。
「ま、それならちょうどいいか。アルシュベイト、ちょっと話があるから一緒に来てくれ」
《わかった。御姫、また後でな》
「うむ。おれも後でお前には話がある」
「あいよ。んじゃ後でな」
エヌラスとアルシュベイトの二人が離れ、残された剣姫が腕を組み直してから深々と嘆息する。
「……まぁ、言った通りだ。アイツは絶対に口外するつもりはないだろうけどな」
「何の話?」
「あ、ええと。ニトロプラスさんは知らない人だと思うんですけど──」
ネプギアの口頭から説明されるのは、超次元とは異なる次元の話。そこはニトロプラスちゃんもアルシュベイトや剣姫の存在から察していた。
電脳国家インタースカイ国王、琴霧ソラという人物がどれだけ貢献してきたか。次元転送システムの設置、神次元側のポータル設置、戦災復興。数えだしたらキリがないほどの功労者、影の立役者。
エヌラスにとって大事な親友の一人──だった。
その琴霧ソラの訃報を、ベールとネプギアは剣姫から知らされる事となった空気の重さをニトロプラスちゃんは静かに受け止める。
初めて壊次元に訪れた時からずっと、自分たちに寄り添って戦ってきてくれていた。
事情を知らない頃は互いに敵対していたけれど、弱い王様はいつだって力になってくれた。
“前世”の記憶がなかったとしても。記憶が戻ってからも。
「……そう。エヌラスのやつにとって大事な友達だったのね」
「はい……」
「友達が死んだって話だけは聞いてたわ。まさかそんな相手だったなんて知らなかったけれどね」
だがこれで合点がいった。エヌラスの様子がおかしい理由は、つまりそれだったのだ。あまりに大きい喪失感も時間の経過で慣れるだろう。だが決して慣れたくないはずだ。それを受け入れることもできない。エヌラスはそういう人柄だ。
良くも悪くも、絶対に諦められない呪いにかかっている。
だからこそ今のエヌラスには休息が必要だ。心の整理をするための時間が。
「つるちゃん。これからのわたくし達ですが」
「うむ。プラネテューヌに一度女神が集合だったな、リーンボックスは任せておけ。アルシュベイトの奴を置いておく」
「よろしいのですか?」
「ああ。それにプレジレントの件もある。ソラの奴が残した
そう。忘れそうになるが、アルシュベイトもまたソラの親友だ。それだけではない、守護女神の狂信だけで世界に反旗を翻したプレジレントと拳を交わし、衝突し、その上で
「ソラの件に関しては、おれも無関係ではない。エヌラスのことはおれに任せて行ってくるといい」
「助かりますわ、つるちゃん。ネプギアちゃん、ネプテューヌはいつ頃到着すると?」
「アイエフさんの話ですと、明日くらいには来れるみたいです」
プラネテューヌで調べ物があると言っていたことから、ネプテューヌなりに事態の収拾に努めているらしい。たまには女神らしいことをするものだ、と感心したのも束の間、イストワールにせっつかれた旨の一文が添えられていた。
「ベール。これはあくまでもおれの直感だが──気をつけろよ。嵐の前の静けさとは言うが、息を潜めている時間が長いほど災害の爪痕は大きいものになる」
「ええ、ですがご安心を。こちらも切り札を用意しておりますもの」
エスーシャの話では調整がうまくいき次第、他のゴールドサァドにも話を持ちかけるつもりらしい。守護女神の戦闘能力が飛躍的に上昇する可能性に望みを賭けている。
「久しぶりに来たことだ、なにか積もる話でも片手間に仕事でも手伝うぞ」
「あらあらまぁ、では遠慮なく頼らせていただきますわね」
──エヌラスとアルシュベイトは教会から少し離れた裏庭にいた。なにか話があるにせよ、人目を避けるにしては少しばかり遠すぎる気がする。あえてそこを言及しようとしなかったのは互いの仲だ。
森の中で立ち止まり、向き合う。
《……聞かれたくないにしろ、よほどのことか?》
「んー? まぁな──多分、お前なら話しても大丈夫だと思うからよ」
《当然だ。存分に話すと良い》
「毎度のことだから言うまでもないことなんだけどな」
苦笑するエヌラスに、アルシュベイトも肩をすくめる。
《お前のことだ──どうせ自分が死んだあとのことを頼むとでも言うつもりだろう?》
「──ああ、なんだ。よく理解してるじゃねぇか。そうだよ、アルシュベイト。他に頼れねぇんだ」
組んだ腕の力を僅かに強めて、アルシュベイトは押し黙っていた。
《……俺にまだ、背負わせるつもりかエヌラス》
「強者の特権なんだから文句言わねぇでくれよ。俺はそろそろ限界だからよ」
そうなる前にどうして頼ってくれなかったのか──そう糾弾し、非難したところでどうしようというのか。
そうなってでも守りたかったものが、他ならぬ自分たちの命と、無垢な明日だったのだから。
国を護るばかりで、友すら守れなかった漢には口を挟む余地などない。
《──エヌラス。俺はお前が好きだ》
「なんだよ、いきなり」
《お前のその愚直さが好きだ。羨ましいと思っている。それが俺たちのためであったことが何よりも嬉しく思う。命を預けるに足る
今でもだ、とアルシュベイトは続ける。
《だから答えてくれ。お前の最期の戦いは、俺たちのためか?》
「…………どうだろうな。そんなみみっちいもんじゃねぇかもな」
《この俺をして“みみっちぃ”等とはな、御姫に聞かれたら怒られるぞ》
「はっはっは、それもそうだわ。──強いて言うなりゃ、全部だよ。俺の愛した奴等と、俺を愛してくれた奴等全部のためだ。こんな言っても聞かねぇで止まらない大馬鹿野郎なのによ。何も持っていない俺に返せる恩なんて、命張るしかねぇだろ?」
《俺と違い、お前に“次”など無いんだぞ。それでもか》
「それでもさ。だから──アルシュベイト」
エヌラスはそこで、ようやく笑ってみせた。
「俺は、俺の知っている“最強”を信じる。──だから頼んだぜ、
《…………──────、わかった。承ろう……!》
今この瞬間ほど、鋼の身体を恨んだことはない。
アルシュベイトは震えた声で返すことしかできなかった。