超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──プラネタワー。
「以上が今回の報告になります。イストワール様」
「ありがとうございます、アイエフさん。プラネテューヌに現れた謎の空間と、そこから溢れ出す無尽蔵のモンスター……それに猛争モンスター。これらの事象から、ルウィーで起きた騒動と一致しますね」
「そちらは大魔導師が対応したということで、既に異変は解決しているみたいですけれど」
その解決方法も「歪曲した空間ごと魔術でぶっ飛ばした」とかいう力業の極み。
プラネテューヌでは守護女神近衛機兵団の活躍により早期対応、それにより近隣の住民を退避させることで被害を押さえている。だが猛争モンスターの出現パターンだけは不規則であり、いくつかの被害報告がプラネテューヌ軍からも報告が挙げられていた。
アイエフが頭を悩ませているのを見て、イストワールも考える。
「守護女神の存在を歴史から改変した事象。黄金の頂の出現。そして猛争モンスター、ゲイムギョウ界で起きたこれらの事件は決して無関係ではないとわたしは考えています」
「例の邪神絡みでしょうか」
「そう考えるのが妥当ですが。なにか引っかかりますね……」
絶望の邪神、ヌルズ・エクス・モルテスが絡んでいるにせよ、あれが主犯となると少々やり方が“くどすぎる”気がしていた。
魔人を率いているとはいえ、単独行動で守護女神二人を相手取ったどころか神格者二名を加えた戦力でギリギリ互角かそれ以上。アルシュベイトからの報告では、神次元で“機神の右腕”を招喚さえした、と。
もちろんそれを全力だとは考えていない。何故ならその“右腕”は本来エヌラスの根幹を成していたからだ。
そうなれば当然、残りの半身を有していると考えるのが残当と言える。いわばデモンストレーションという奴だろう。
「これは仮説ですが。おそらくこれらの事件は、邪神の協力者によるものかと」
「根拠になるものでもあるんですか、イストワール様?」
「はい。今回起きている事件は、守護女神に向けられた物です。それに比べると絶望の邪神は無差別破壊、つまりは被害の方向性が異なります。ハァド大戦のことを思い出してみてください、アイエフさん」
武装企業に協力していたヌルズ・エクス・モルテスの行動は、確かに守護女神に対するものではなかった。むしろエヌラス個人に向けられている。
ブラックハートですら太刀打ちできなかった。だがそのトドメを刺さずにあえてルウィー行軍を敢行していたことを鑑みれば、守護女神への対応は二の次とも思える。
「その協力者が台頭して来ている、ということはあちらは戦力を万全に整えたということです」
「……例の空間、調査したほうが良さそうですね」
「はい。ですが何が起きるかわかりません。慎重にお願いします」
「わかりました。守護女神近衛機兵団に通達しておきます」
アイツらが果たして本当に“慎重に”調査任務をしてくれるだろうか、という不安はさておき。
「では、彼らの指揮は引き続き諜報部の方でお願いしますね」
「任せてください」
「わたしは少々……ゲイムギョウ界の過去の歴史をもう少し探ってみます。これだけの大きな異変、なにか手がかりがあるかもしれません。なにか分かり次第連絡します」
「わかりました。こちらも調査が終わり次第報告します」
業務的な会話を終えて、アイエフはプラネタワーを離れる。
コンパは今頃負傷者の手当で忙しくしているだろう。ネプテューヌは今頃リーンボックスへ向かっているだろう。ビーシャも責任を感じているのか、モンスターを怖がりながらも守護女神近衛機兵団のメンバーと共に街に出没するモンスターを撃退している。
となれば、やはり気がかりなのはエヌラスのことだ。
「……ま、たまにはいいわよね」
アイエフが電話をしようとした矢先、声を掛けられる。ミリオンアーサーとチーカマだ。
「あら、ミリアサ。今帰り?」
「先程クエストを終わらせたばかりだ。そちらは?」
「こっちもちょうど仕事帰りよ」
「仕事に追われて大変ね」
チーカマからの言葉に嘆息する。よりにもよって同行させられる連中が「アレ」なことは二人も知っているからだ。
「あんなスケベポンコツ共と組まされるならエヌラスと組みたいくらいよ……」
「そういえば最近名前も姿も見なくなったけれど、どうしてるのかしら?」
「向こうも積極的に連絡してくるタイプじゃないから一度気にすると止まらないのよね」
「ガスの元栓」
「それ」
普段は気にならないが、一度気にかけると途端に頭の片隅で不安の種になる。あわや大惨事になりかねない点でも類似性が高い。
「ちょうど連絡しようと思っていたところなの。よかったら一緒に話してみる?」
二人が頷き、アイエフがプライベート用の携帯で通話を試みる──。
──リーンボックス。
エヌラスはその日、ホーリューチューの下へ足を運んでいた。武装企業のロボット達が警備に目を光らせている。もしも万が一にでも脱走しようものなら即座に勾留する勢いで確保するためだ。
「おっす。状況は」
《特に動きはない》
「はは、だろうな」
《……その肩に担いでいるズタ袋はなんだ?》
「いやなに、ちょっとしたプレゼントだ。気にするな、通してくれるか?」
《かまわない》
青のパーソナルカラーが特徴的な第五世代型フレーム。エネルギーライフルと上下二門の大型マシンガンを持ったマグノリアがエヌラスを通す。
アジトにしていた廃工場は見る影もなく、もはや廃墟どころか更地寸前だ。エヌラスは地下へと通じる階段を降り、非常灯の明滅している通路を歩く。
内部システムは既に掌握済み。だが非常事態に備えた緊急停止システムのコントロールだけは管制室に残していた。向かう先はそこ。
一度や二度、地獄に叩き込んだだけでは気が済まない。女絡みで人を怒らせるとどれだけ恐ろしい目に遭うか身体に叩き込んでやるとエヌラスは意気込んでいた──スライヌとセックスしなければ出られない部屋にぶち込んだだけでは飽き足らず、新たな獲物を引っ提げて戻ってきた理由はそれだけである。
薄暗い管制室に入るなり、エヌラスはコンソールを叩く。一度は手を加えたシステムだ。
動作感知、粘膜接触判定の回数を見るに相手はどうやら諦めているらしい。それでは面白くないのでエヌラスは少しだけ手を加えた。
脱出用通路から部屋の扉にアクセスして開くと、ホーリューチューはやつれた顔をしている。スライヌはと言うとベッドの上ですやすやと眠っていた。
うつろな目が向けられる。だがエヌラスは容赦なくズタ袋の中から数日分の食料を部屋の中に滑り込ませた。
「……勘弁してくれっちゅ……悪かったっちゅ……もう二度としないっちゅよ……」
「知らん」
血も涙もない。
エヌラスが新たに用意した獲物は、哀れなヤンキーキャット(♂)。
「ぢゅわぁああああああっ!?!?!?」
「追加だ持ってけぇぇぇぇええええっ!!!!」
絶叫が木霊する。悲鳴を挙げ、目を覚ましたヤンキーキャットが暴れだす。エヌラスが振りかぶり、ホーリューチューの顔面に叩き込んだ。そこで更に扉が動作し、分厚い鉄の扉が閉じられる。
ブザー音と共にロックがかかった。
「よし、巨悪は去った」
やりきった顔をしていたエヌラスの懐でD-Phoneから着信音が鳴る。取り出せば、懐かしく思える名前がそこにあった。
「もしもし、どうしたアイエフ」
《あら、思ったより元気そうね》
《私もチーカマもいるぞ。随分と久しぶりな気がするな、エヌラス》
「その声は……ミリアサか。なんか用事か?」
《ううん、大した用事じゃないのよ。ただちょっと、どこで何をしているのか気になっただけで》
「ああ。今リーンボックスで大罪人に拷問してたところだ」
電話越しに相手が愕然として押し黙る空気を感じる。
「犯罪国家式じゃないから心配すんな?」
《気になるのはそこじゃないんだけど。まぁいいわ、元気にしてた?》
「まぁぼちぼち。そっちはどうだ」
他愛のない世間話をしながらエヌラスは地上へ戻り、リーンボックスの平和な町並みを歩いた。
腰を落ち着かせたかったこともある。近くの公園でベンチに座ると、アイエフとミリアサの話に耳を傾けていた。プラネテューヌの近況報告を聞いて、ミリアサの美少女談義に相槌を打ち、チーカマからの労いの言葉に苦笑する。
束の間の平穏。そんな言葉が頭をよぎり──エヌラスは深くため息をつく。
《どうしたの? なんかだいぶ疲れてるみたいだけど》
「いんやまぁ、別に。こっちもこっちで色々あったからよ。急に疲れがどっと押し寄せてきたんだ」
《あぁ、そうなのね。お疲れ様。でもそっちにもっと疲れるのが向かってるわよ》
「何が来ても驚かねぇよ」
《ねぷ子が向かってるわ》
「台風の方がマシだ。まじかよアイツ来てんのか」
《嬉しくないの?》
「顔は見たいが黙らせる方法ねぇかな。ダクトテープとか売ってねぇかなホームセンターで」
《何するつもり?》
「口と手と足をふん縛って放置」
《絵面が誘拐犯だから辞めて頂戴》
アイエフに怒られたので浮かせた腰を再び降ろす。
「昔似たようなことやられたのを唐突に思い出した──いや、なっつかしいなぁ……」
《アンタをテープでなんとかしようとした相手がいたことの方が驚きなんだけど》
「……元気にしてんだろうなぁ、アイツら」
ボンヤリと青空を眺めながら呟く。ミリアサがなにかの気配を察知したかのように声を張った。
《美少女の話か!?》
「んー? そうだな。美少女……まぁ、アイドルだったし美少女だったな」
《ちょっとー、女の子と話してる時に他の女の子のこと考えないでよー》
「ヤキモチ焼くなよチーカマ」
《焼いてないです》
絶対嘘だ。
《でも元気そうで安心したわ。なんかちょっと腑抜けた感じもするけど》
「…………平和だと改めて実感するな。なーんもやることねぇわ俺」
《ならそれでもいいじゃない。無いなら無いなりに、見つけることの楽しさがあるんだから》
「そういうもんかね」
《そういうものよ。何ならアタシの仕事手伝ってもらいたいくらいよ。諜報部とかどう?》
「潜入捜査とか向かねぇよ俺は。情報収集やるツラかよ」
《……あー……》
誘っておきながらなんだその反応は。エヌラスはちょっぴり傷ついた。人相の悪さに定評があるとはいえ知人から指摘されるとそれはそれで凹む。
その後も他愛無い話に花を咲かせていると、ニトロプラスちゃんがマカロンを頬張りながら隣に腰を下ろした。
「もくもく……ごくん。アンタ、こんなところで油売ってていいの?」
「あー? いいんだよどうせ暇なんだから」
《……知らない声ね。どちら様?》
「リーンボックスで俺をなんべんか殺しかけた物騒極まりない名前と武器を使う起爆剤みてーな女」
「そのセリフそっくりそのまま鏡見て言ってみて。なんべん人の下着覗き込んだかわからない物騒極まりない名前と武器と顔と態度の起爆剤みたいな男」
《……とりあえず仲がいい事だけはわかったわ》
「「どこが!?」」
そういうとこだぞ、とミリアサちゃんからの鋭い指摘にエヌラスとニトロプラスちゃんが睨み合う。
通話越しに軽い自己紹介を済ませ、ついでにプラネテューヌの守護女神がこちらへ向かっている旨も報せると「ああ」と軽く頷いていた。
「さっきなんかやたら騒がしい子が来たのよ。ベールとネプギアの知り合いだったみたいだし、あたしがいても邪魔だと思ったから見回りがてら出てきたんだけど」
「もう来てんのか……」
「あの子が守護女神だったわけね。どおりでネプギアに似てるわけだわ」
《あら、もう到着してたのね。結構飛ばしたじゃない、ねぷ子》
「会いたくねぇぇぇ……」
俺の平穏なひと時を返してくれ──今からでもどっかにバックれようかと割と本気でエヌラスが悩むのを見て、ニトロプラスちゃんは悪い顔をしていた。