超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「とやーぁ! 久しぶりのネプ子さんの登場だー! 第三部ep.78以来の主人公オブ主人公もはや主人公と言っても過言ではないネプテューヌことわたしの出番だーーー! ネプギア、元気にしてた?」
「お姉ちゃん、久しぶりの登場なのにメタネタ言い過ぎだよ……」
ドン引きである。しかしその程度の冷えた空気をものともせず、めげないしょげないへこたれないのがネプテューヌ。感動の姉妹の再会に胸を弾ませていた。ネプギアに抱きつき、カンガルーのように跳ねる。
「ひっさしぶりー! うんうん、ちょっと見ない間に一回り大きくなったような気がするよー! 大丈夫? ベールに変なことされてない?」
「あらネプテューヌ。久しぶりだと言うのに随分なお言葉ですわね。わたくしはただお姉ちゃんを遂行してただけですわよ?」
「なにをー! それなら私も全力でお姉ちゃんを遂行する!」
お姉ちゃん力の激しい争いを前にネプギアがたじろぐ。だが剣姫もアルシュベイトもそんな仲睦まじい様子を遠巻きに眺めて腕を組んでしきりに頷いていた。
「うむ、姉妹愛とは良いものだな!」
《激しく同意する》
二人に気づいたネプテューヌがネプギアから離れるとすぐに笑顔で駆け寄る。
「アルシュベイトもリーンボックスに来てたんだ」
《うむ。ベールに呼ばれてな、そちらは相変わらず元気そうで何よりだ。プラネテューヌの情報は武装企業を通じて聞いていたが、杞憂だったようだな》
「うんうん、これこそわたしの人望のなせる技だよね。いやー人気者は参っちゃうなー!」
《レオルド達守護女神近衛機兵団の活躍により街の安全が保たれているという話だ》
「おれも聞いたなそれは」
「あっれー??? おかしいなぁ、わたしの活躍の話は?」
剣姫とアルシュベイトが腕を組んだまま身体を傾げる。疑問符を浮かべて。
「まぁいいだろうその辺りは。ネプテューヌはこれからベール達を連れて戦艦に乗り込むのだろう?」
「うん、そうなんだー。本当はノワールのところに真っ先に行こうと思ったんだけど、やっぱりネプギアが一番だからね。リーンボックスに真っ直ぐ来たんだ。だからこれからラステイションに行くつもりだよー」
《こちらの留守は俺が預かる。心配はいらん、大船に乗り込んだつもりで行ってくるといい》
大船というより超弩級戦艦のような安心感にネプテューヌが苦笑いを浮かべていた。なにせアダルトゲイムギョウ界最強と名高い軍神様だ。これ以上の味方がいるだろうか。
「アルシュベイトのやつが武装企業のツテを使ってラステイション海運業者と話をつけた。もし急ぎでなければリーンボックスの港から船旅を楽しむと良い」
「またまたそんなぁ。気を遣ってくれなくて良いのに」
《御姫の友人だ、丁重に扱うのは当然。とはいえ人様の国であまり勝手な真似はな》
「お気になさらず。アルシュベイトもつるちゃんも、わたくしの友人であると同時に共に戦う仲間なんですもの。それにリーンボックス奪還の立役者。多少の融通は利かせますわ」
「ははは、嬉しいことを言ってくれる! そうと言われてはおれも気張らなくてはな」
今以上に? ──そんな疑念の視線が剣姫に突き刺さる。だが矢でも鉄砲でもかかってこいと言わんばかりの御姫様は意に介していなかった。
「ではネプテューヌ、これからすぐにラステイションへ?」
「うーん、そうしたいところなんだけどさ」
「どうかしたの、お姉ちゃん?」
「いやさー、ゴールドサァドの事件が起きてから全然エヌラスの姿見てないから不安になっちゃって。ネプギアと連絡取ってたって話だけは聞いてたんだけど、やっぱり顔が見たいんだよね。何か知らない?」
知るもなにも、今まさにリーンボックスに滞在している。
どう話すべきか顔を見合わせて逡巡する一同だったが、にわかに廊下が騒がしくなっていた。足音からして二人組。
──なぁおい、なんでお前そんな乗り気なんだよ。すげぇ悪い顔してんぞ?
──あら、そう。アンタの顔の悪さに比べたら可愛いものでしょ?
──言い方ァ!! でもってテメェが可愛いのも割りと真実だから腹立つぅ!!
語気を荒げる声に、ネプテューヌ達の視線が執務室の扉に向けられた。
開け放たれたそこには──ニトロプラスちゃんにがっちりと腕を掴まれて引っ張られるエヌラスの姿。
「ただいま、ベール。不審者一名確保完了よ」
「えぇーと……ごくろうさまですわ?」
「町のベンチに平日昼間っから座り込んで女の子と駄弁っていた住所不定無職前科持ち外見年齢二十代の容疑者よ」
「事実陳列罪やめろやオメー! 言われなくても理解してんだわそんぐれぇわ!」
喧々囂々と罵り合う二人を見て、ネプテューヌが目を丸くしていた。
「エヌラスが二人いる!?」
「「ぶっ殺すぞ!」」
《阿吽の呼吸とはこのことか》
「「黙れアルシュベイト!」」
生き別れの兄妹と言われても信じる。
「やっほーエヌラス久しぶりー! なぁんだもう、リーンボックスにいたなら言ってよー」
「言ってどうなるってんだ。お前もお前で忙しかっただろうが」
「でもあちこちで暴れてたんでしょ? プラネテューヌでも連日ニュースになってたんだから」
主にラステイションで起こしていた武装勢力との正面衝突。メイドと軍服の女性の方が目立っていた気もするが「突撃メイド隊」としてプラネテューヌでも噂が持ちきりになっていた。
エヌラスは自分がラステイションとルウィーでゴールドサァドを探していたこと。その途中で力尽きたこと。そこからベールに呼び出されてリーンボックスに来たことを説明し、プラネテューヌを後回しにしていた理由も述べる。
「まぁ確かにレオルド達のおかげでプラネテューヌは他に比べて全然平和だったけどさぁ。それを言ったらリーンボックスだって武装企業あるじゃーん!」
「だってプラネテューヌで大した事件なんかそうそう起きねぇだろ」
「ぅぐ……それはそうなんだけどさぁ」
ニトロプラスちゃんが話に耳を傾けながら深く頷いていた。
「なるほどね。つまりエヌラスに会えなくて寂しかったってこと?」
「ねぷっ!? いや、それは、まぁ、そういうことなんだけど」
「だってさ色男。こんな小さい子泣かせるなんてサイテーね」
「プラネテューヌで指名手配されてんだぞ俺」
「アンタなんで平気な顔してんのよ……」
頭が痛くなってくる。しかし、照れくさそうな顔をしているネプテューヌがいつものようにしまりのない笑顔をエヌラスに向けていた。
「だからほら、なんていうかぁ。言わせないでよもう恥ずかしいなぁ。一緒に世界を救った仲間なんだから、これからも頑張ろうねーって」
「────」
無邪気なネプテューヌの笑顔を見て、ついつられて頬が緩む。
その無邪気な笑顔があったから、あの時“もう一度”を選ぶことができたのだ。それを後悔などしていない。していない──筈だったのだ。今でもあの時の決断は間違っていなかったと胸を張って言える。
だが、それからはどうなのか。ずっと後悔ばかり引きずってきた。
独りで戦い続けて、沢山巻き込んで、大勢泣かせて。
「──やっぱお前の笑ってる顔を見るのは気分がいいな」
「へ」
「つまらんことで悩んでるのが馬鹿馬鹿しくなってくる」
そう。そうだ。それだけのことだ。
“つまらん戦いをしてきた”というだけのことだと、今更ながらに思う。
ネプテューヌがみるみる顔を赤くすると、気恥ずかしさを誤魔化すようにワタワタと手を振っていた。エヌラスが頭を鷲掴みにして乱暴な手つきで頭を撫でる。
「俺がいようといまいと、お前なら何とかしちまうんだろうから。油売ってねぇでさっさとノワールのとこ行ってこいよ」
「一緒に来てくれないの?」
「ピンチになった時にでも呼べよ。かっ飛んでくから」
「……えへへ。そうだよねー、エヌラスってばわたし達のこと大好き過ぎるもんねー」
「今からお前の頭かち割ってもいいんだぞ」
「いたたたた!! 照れ隠しの仕方がアダルトゲイムギョウ界式なんだけど!!!」
ネプテューヌの頭部からなにか骨の軋む音が出ていた。
リーンボックス教会をアルシュベイト、並びに箱崎チカに任せてネプテューヌはネプギアとベールを連れてラステイションへの道を急ぐ。女神化してすぐに青空へと飛び立っていく姿を見送ってから、エヌラスは腕を組んで息を吐いた。
「さーて、何すっかな。そこらの悪党でも憂さ晴らしに犬の餌にでもしてくるか」
《ひき肉にでもする気かお前》
「リーンボックスの景観を損なう、やめろエヌラス」
「アンタを犬の餌にしたほうがいいと思う」
「あたくしのリーンボックスでそのような真似が出来るとお思いで?」
総スカンを喰らって肩をすくめる。
「なんだよ、ちょっとした冗談だろうが」
《エヌラス。悪いがお前の冗談は笑えない》
「やりかねんし」
「絵面が最悪」
「治安悪化の一助でしかありませんわ」
「なんだよちくしょう、揃いも揃ってなんの嫌がらせだ」
お前が言うなと全員から口を揃えて言われた。別に嫌がらせのつもりで口にしたつもりはない。ただ自分にやれる善意、また或いは地域貢献活動として最適な物が「犯罪者撲滅委員会活動」だった。それをエヌラスが口頭で説明するが、これだから犯罪国家生まれは、大魔導師の弟子はこれだから、とでも言いたげな生暖かい目線と空気で返される。反論したいがそれもこれも全部事実。人は正論を言われ、反論できなくなるとわけもなく腹が立つ生き物だ。
なんとか弁明できないかと思索していると、エスーシャの姿があった。
「よ、エスーシャ。進捗どうだ?」
《他に聞き方はないのかお前》
「ちょうどよかった。エヌラス、話がある。来てくれるか」
「俺に?」
不思議がり、首を傾げながらもついていく。
案内されたのは、リーンボックスの黄金の頂。その入口だった。相変わらずソルジャー部隊が配線やら配管やらパイプやらを繋げた機械とモニターを行き来して慌ただしい。
しかし、エスーシャはそれらの計測機器に目もくれずに開け放たれたままの黄金の頂へと入っていく。その後を追い、頂上を目指した。
行き止まり。つまり頂上に辿り着いたということを意味する場所。無人の玉座、空っぽの王座が掲げているはずのゴールドクリスタルは無惨に砕かれ跡形もない。その破片を用いてシェアクリスタルを強化するという計画をエスーシャ主導のもと、ソルジャー部隊が動いていた。
「こんなところまで呼んで何のつもりだ?」
「……見て欲しいものがある」
そう言って、エスーシャは掌を見せる。そこには砕けたゴールドクリスタルの破片があった。その破片を握りしめて、エスーシャが静かに意識を集中させる。
「変身──」
指の隙間から黄金の淡い光が溢れ、エスーシャの瞳が青から金色の光を灯した。
プロセッサユニットに相当する「ゴールドユニット」を纏い、その姿を見たエヌラスが臨戦態勢を取る。しかしそれをすぐに手で制した。
「……妙なんだ」
「なにがだ?」
「ゴールドクリスタルの解析を進めた。その結果、これは人間でもシェアを力にすることができる性質を持っていることが判明している。だがそれがこうも砕け散って尚も効力を発揮しているのが」
エスーシャの話によれば──本来クリスタルというものは、砕ければ当然効力を損なう。それなのにゴールドクリスタルにはその性質を変えず、力を保っているということらしい。
「それの何が問題なんだ?」
「問題どころか好都合。これを使えばシェアクリスタルを強化することができる。私達人間が使ってもコレなんだ。女神に集中させれば爆発的な力を得られるに違いない」
「……強化、ね」
──“機神の右腕”こそが自分の存在定義であった。ならばゼロクリスタルは一体なぜこの手の中にあるのか。エヌラスは不意に自分の右腕に視線を落とす。
絶望の魔人として受肉するために“機神の右腕”を用いたというのなら、大魔導師が招喚したのは“
「────?」
エヌラスはそこで、何かが引っかかった。
それならばなぜ自分を“人の形”で受肉させたのだろうか、と。
壊すためならば、そのまま鋼の肉体と無数の螺子と歯車で作り出せばよかったものを。
「どうかしたか?」
「ああ、いや、なんでもねぇ。俺を呼び出したのはそれを見せるためか?」
「……勝手を承知で頼みたいんだ。他のゴールドクリスタルをかき集めるのを手伝って欲しい」
「そりゃまたどうして俺なんだよ。他に頼れるのいくらでもいるだろ」
意地の悪い質問かもしれないがエヌラスは聞かずにはいられなかった。エスーシャが困った顔をしながら変身を解除する。
「武装企業のロボットも、他次元の守護女神も、私は興味ないね」
エヌラスは顔を覆った。その一言で察する。消去法で頼れる相手が自分だけだったという話に目頭が熱くなった。泣いてなんかないやい。ちょうど暇を持て余した無職だったとしても泣いてなどいない、断じてそんなつもりはない。
なんか手に職つけておこう。このままじゃ良いようにこき使われるだけだ。エヌラスはそう固く誓った。