超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ニトロプラスちゃんはまだ他にも気になることがあるのか、絶望の魔人である側面について尋ねる。エヌラスはそれに自分が思う限りのことを伝えた。ただその記憶は邪神側の記憶と混濁している部分があるため、正確性に欠ける。
「……なるほど。ちょっと考えさせてくれる?」
押し黙り、考え込んでいたが、すぐに顔を上げた。
「少し整理しましょ。まず、アンタには妹がいる」
「あぁ」
「次、機神の“本体”がある。その右腕がアンタ」
「まぁ……そうなるか?」
「なら、五体満足の機神の存在とアンタは矛盾することにならない?」
「…………そうなるな」
「となると妹さん、何者なわけ?」
そう。そこだけは大魔導師であっても解明に至らなかった。エヌラスはどれだけ考え込んでも答えが出なかったが、自分によく懐き、兄さまと慕ってくる相手を妹と呼び続けたが、そもそも最初のそこからズレていたのではないかと思い始める。
「じゃあ仮に、俺の妹じゃなかったとしたらなんなんだ?」
「さぁね。認識災害なんじゃない? 自分を妹だと思い込ませる。そもそもアンタ、その妹さんの名前知ってるの?」
「そりゃあ──」
口にしようとして、頭にモヤが出来たかのように言葉を詰まらせた。
名前も知らず、ただ猫のように人懐っこい彼女を“妹”だと思っていた。偏愛、狂愛、寵愛を一心に捧げてくる相手をそうと疑わなかった。その疑問を問われてもエヌラスにはそれ以外の言葉が出てこない。
アレは俺の妹だったんだ、と。
「……まあこの際妹さんのことはいいわ。あたしの推測じゃ、多分その妹さんも邪神の一柱じゃないかしら。それこそ絶望の、ね」
「話の辻褄としちゃ、確かにそうかもしれねぇが」
「となると妙よね」
「なにがだよ」
「例の黒幕。アンタそっくりなんでしょ?」
「まぁな」
「ならなんでそいつが“最後の邪神”なのかしらね。妹さんじゃなくて」
ますます首を傾げて、エヌラスは眉を寄せていた。ここまでずけずけと問題に踏み込んでくる相手に恵まれなかった。というよりも打ち明ける機会がそこまでなかった。仮に言ったところで同情されるのが関の山。だが、こうしてあらたまって自分自身に疑問を向けると、ますます不可解なことばかりが出てくる。
ニトロプラスちゃんは心底呆れたように嘆息した。
「むしろなんで今のいままで自分のそこに疑問抱かなかったのよ」
「そんな暇がこれまでただの一度もなかったからだよ」
「人の振り見て、って言葉ご存知ない?」
「俺の故郷じゃその後に続く言葉は「ぶん殴れ」だ」
それはさておき。
「ただ、まぁ……気にはなるな。俺がいてもいなくても“絶望の邪神”そのものはいたわけだ。破壊の権能を持つ機神から俺が創られるよりも以前から。ならやっぱなんかおかしいよなぁ……」
「……本当にアンタ、絶望の魔人とかいう怪物なわけ?」
「俺がいるだけで次元崩壊待ったなしなんだからそらそうだろ」
「うーん……ならなんで超次元は大丈夫なわけ?」
アダルトゲイムギョウ界は元々ゲイムギョウ界の一部だった。それを次元神が切り取り、箱庭にして蠱毒のような戦いを繰り返し始めた。そのルールが原点、となれば生まれ故郷であるアダルトゲイムギョウ界は超次元の一部であり、次元崩壊を免れているということになる。
「考えれば考えるほどにアンタがわからなくなってくるわ……」
「魔人、ではあるんだよな……邪神にすら出来損ないって言われたし」
そこは間違いない。そして自分の妹のこともヌルズ・エクス・モルテスは認識していた。そもそも何故こうも敵視されているのか。敵対どころか懐柔されても絶対にノゥと言える自信だけはあるが。
「なんかこう、半端ものなんだよな俺。絶望の魔人と言っても、銀鍵守護器官で無理矢理人間側に調整されて変神できるわけだし」
「──それつまり、負の極限から正方向に引っ張ってるってこと?」
「そうだな?」
「それを維持できる魔力、そっから引き出してるならそもそもその魔力の源泉どこなのよ?」
その点はルウィーの教祖である西沢ミナも指摘していた。そしてそれがエヌラス自身を“特異点”とするためだとも仮説を立てて。
「特異点、ねぇ。なら常に未来の分岐点に突っ立ってる立場なわけだ。ご愁傷様としか言えないわ」
「そもそもこの鍵、本当になんなんだろうな」
「知るわけないでしょ。見たことないんだから」
「脱ぐか?」
「死ね」
ド辛辣な言葉が飛んできた。
「ただ、そうね。アンタが特異点だと定義すればいくつか考えられることはある。例えば、魔力の供給源のこと。過去のどこか、時間も空間も次元も超えた“ある場所”から引っ張ってるとか」
「なんかそんな話を昔師匠から聞かされたな。忘れたけど」
「大事な話だったんじゃないの、なんで忘れるのよ」
「だって俺頭わりーもん。確か……なんだっけな……ダメだ殺されかけてた思い出しかねぇ」
「例えば他にも、アンタが生まれたから妹さんが生まれたとか」
「……そっちの方がしっくりくるな」
絶望の邪神を模倣し、エヌラスを作った。その根幹として“機神の右腕”を奪い取った際に“妹”も副産物として生まれた。となれば妹の存在そのものは完全に想定外である辻褄が合う。そしてそれをヌルズ・エクス・モルテスが知覚していることもまた同様に。
そもそもにして。エヌラス、という名前そのものがヌルズをもじったものだ。大魔導師がそう名付けたのだから。
「師匠が俺を「エヌラス」と名付けたのは「ヌルズ」と区別するためだった? そんで元々の「ヌルズ」が邪神で、俺の妹自体は本来存在しない世界のバグそのもの……?」
「アンタの存在からして世界の分岐が始まってたなら、それが一番可能性が高い、か。アンタの妹さんについては、副産物ということで決まりね」
そこに言葉にできない違和感を感じながらも、一応の結論とする。となれば次は銀鍵守護器官の魔力そのものへの疑問が残る。
どこから引き出している魔力なのか。
「供給元は全部俺の身体の中からなんだよな……」
馬鹿げた食事量、それこそ胃袋が宇宙空間並なのもそうだが、腹痛とは無縁。食事を燃料に魔力を加速させる原理はエヌラスでも理解できる。
「そもそも無限の魔力貯蔵庫だっていうなら、それにアンタの体が耐えられるわけが」
「耐えられるように鍛えられたんだよ」
それでも限界熱量は九割がせいぜいだが。そうでない場合、引き出せる出力は二割が限界だろう。臨界出力にともなればエヌラス以外に耐えられる存在などいない。魔力のバックファイアを考慮すれば、やはり他の人間が手を出すべき代物ではない。
破壊の権能というのも使い方次第だ。
「はぁ。なるほどね、アンタのその馬鹿げた耐久力と生命力の原因がわかったわ。普通なら即死よ即死。なのになんでそこまで身体を維持できてるのかと思ったら、そういうこと。死ににくいったらありゃしないじゃない。ゴキブリも泣いて逃げるわよそんなん。むしろどうやったら死ぬのよアンタ」
「首を切られて流石に死にかけたことあるな」
「だから普通は即死なんだって!!」
そんなキレられても困る。
エヌラスはレイジングジャッジの整備を終えたので今度は倭刀の手入れを始めた。その慣れた手つきを見てから、ニトロプラスちゃんも緋色の太刀を取り出す。
「で。なんか結論出たか?」
「強いて言うなら「わからない」ってことね。いくつかの情報整理が出来たとはいえ、矛盾が生じる上にその上で全部破綻してるんだから。はぁ、なんでこんな奴に付き添わなくちゃならないのかしら」
「そんなん言われてもよ……」
「大体。ゲイムギョウ界の狂信者が引き起こした大戦の英雄なんて言ってたけども蓋を開ければ指名手配で凶悪犯で女たらしで穀潰しだなんて──似てるって言われたあたしの苦労の一割でも知りなさい」
「俺の苦労九割でも知ってから言ってくれねぇか?」
「ほぼ全部じゃない、嫌よ」
この女、とりつく島もない。非情で無情だが、冷血というわけではない。
「その師匠、大魔導師だったっけ? どういう頭してるのよ」
「俺が知りてぇわ。何を思って死霊秘術なんぞ極めたんだか……」
ニトロプラスちゃんの手が止まる。
「……死霊秘術? ネクロマンサーってこと?」
「言ってなかったか。まぁそうなる」
「………………」
すごい複雑な顔をしていた。ドン引きしているような、引きつった笑みを浮かべているような、心底嫌悪しているような。信じられないモノを見た顔で。
「多岐に渡る魔術理論の中でも死霊秘術なんて外道の集大成の煮凝りみたいなものよ」
「わかる。ただ魔術の一点にのみおいて並の邪神を凌駕してんだからわけわからねぇんだ」
「……────、到底理解できない理論だけれども。そうなるとますます頭が痛くなってくるわ」
「そんなん長年連れ添った俺でも一割も理解できてねぇよ。「覇道理論」とか言ってた気がするけど」
「──覇道?」
「知ってんのか」
額に手を当ててニトロプラスちゃんがかぶりを振る。
「正気……? アンタ、本当にとんでもないのに目をつけられたのね。その理論を下地にアンタが作られたっていうなら、狂気の沙汰よ」
「あの人が狂ってるのはとっくの昔からだ」
「平行世界ってわかる? パラレルワールドのこと」
「まぁな。それがどうした」
「さっきの覚えてる? アンタが特異点の話」
「あぁ……」
「それらを踏まえると、考えようによっちゃアンタ死んだほうがいいわよ」
「ひでぇいいようだな。いいよ今更だし、言えよ」
──そもそもにして覇道理論というものは「覇道構造」をもとにした理論。
曰く、世界は残酷である。何故なら人の営みの全ては神の掌の上である。というもの。それだけならばまだ他の宗教論にだって存在する。だが、覇道構造はそれだけではない。
曰く、世界は“邪神の遊び場”であるというものだ。ゆえに、彼らのさじ加減一つで容易く人の営みは滅び、世界は容易く崩れ去る。子供が水辺に石ころを投げるように、街や国を消し去って。
ならば戦わねばならない。立ち向かわなければならない。
あまねく邪神の尽くと戦い続ける永久不変の力を持って。
朽ちることなく。滅びることなく。砕けることなく。
しかし世界は広い。あまりに広い。
自らが生きる世界だけではない。知らない誰かが生きる世界。見知らぬ誰かの生きる世界。誰も知らない世界。平行世界、次元宇宙の全ては邪神の掌の上にある。
だが戦い続けるには人の身体では限界が存在する。寿命の壁を越えるにせよ、人知を越えるにせよ。
ならば、一から造り上げるだけのこと。
“宇宙の全てと戦い続けられる存在”を。
「あたしの知ってる覇道構造、まぁ覇道理論でもどっちでもいいんだけどね。邪神と戦い続けるための機神がどっかの世界にはあるって話よ。生肉からの話では」
「とんでもねぇな。むしろ寄越せって感じだわ。で?」
「それも覇道理論のひとつの形ってこと。だからアンタも同様に、その集大成よ」
「……んじゃなにか? 俺はこの身体一つで宇宙全ての敵と戦えって話か?」
「規模の差はあれどそういうことになるんじゃない。そもそも次元神倒せって話だったんだから」
「でも俺の師匠は守護女神四人と戦えるように設計してねぇって言ってたんだよな」
「それはそうでしょ。聞いた話じゃアンタの世界に守護女神ひとりしかいないってことなんだし」
「……んじゃ俺の元になった機神は結局なんなんだよ」
「は? 知るわけないでしょ、大方“禍動破壊神”なんじゃないの。存在するだけで宇宙ぶっ壊すとかいう機械の神様の」
「なら納得できるわ。スカッとした」
豪勢な部屋に泊った男と女は色気もクソも何もなく、物騒な話に花を咲かせていた。
時折、鉄と硝煙の香りを漂わせて。
結局のところ──大魔導師が絶望の邪神ヌルズ・エクス・モルテスより機神の右腕を簒奪し、創り上げた存在がエヌラスであり、妹は副産物による存在だと二人の間でまとまった。
銀鍵守護器官の魔力の出処については今だに不明。だが、エヌラスは清々しい気持ちだった。
どこまでいっても、結論として自分はどうしようもなく救いようがない魔人なのだと判明したのだから。