超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──「禁猟区」に指定されたルウィーの黄金の頂。その近隣区域は、金と銀の飛竜の縄張りと化していた。モンスターの雪崩に乗じて秘境より飛び立ったつがいの王者達は現在、黄金の頂の頂上を根城としていた。
ハンター協会はその未知数の脅威を深く受け止め、モンスターの生態観測所による調査を進める一方でベースキャンプを設営。いざという時のために備えていた。
「よいしょーっ! ふぃ〜、こんなもんか」
ハンマー使いの古参ハンターである黒鉄は持ち前の筋力で丸太を積み上げる。キャンプファイヤーの準備を進めていると、長年の相方である太刀使いのハンター、蒼鬼がオトモネコルーのキャラバンを連れて青い支給品ボックスを組み立て始めていた。
「いやぁ、手慣れたもんだね」
シーシャもまた、そんな顔ぶれの中にいる。大連続狩猟祭、もといルウィー防衛戦の折に世話になったことで何かと縁があるが、ベテランというだけあり足並みを揃えやすかった。
「ハンター協会からのクエストの中でも、このキャンプ設営ってのは難易度が高い。安全を確保した上でモンスターに襲われにくい場所を見つけてやらなきゃならない」
だからベテランハンターに直接依頼されることもある。
温泉街が盛況しているぶん、ハンター協会も本腰を入れていた。雪と魔法の国であるルウィーでも異質な立ち位置ではあるが、身体は資本。
黄金の頂が見える位置で、かつ安全な場所。それが今回ハンター協会から提示されたキャンプ設営地の条件だった。何度か金銀夫婦の襲撃に遭い、被害を出しながらも調査団が見つけた安全地帯。無駄にするわけにはいかない。見張り台の建設もオトモネコルー達が肩車をしながらテキパキと木材を組み合わせて建てていく。
「よいせっ、よいせっ……ふぅ。せんぱーい、ただいま戻りました!」
すると、そこへ大きなバックパックを背負った新米ハンターの片手剣使いが戻ってきた。その隣には黒ずくめの怪しい男が一人、エヌラスである。
「エヌラス!? はは、なんだか久しぶりだね。わざわざ顔を見せに来てくれたのかい?」
「よ、シーシャ。ここにいるって話を聞いてな」
エヌラスは設営中のベースキャンプを見渡し、それから働き者のネコルーの様子を見てひとり頷いていた。
「手伝うことなさそうだな、俺」
「まぁこっちは間に合っているかな。アタシから手伝うことはある?」
「なら、そうだな……ゴールドクリスタルの回収に来たんだ。黄金の頂の中に入りたいんだが、いけそうか?」
シーシャは難しい顔をする。だが、黒鉄と蒼鬼は頷いた。
「黄金の頂近辺地域は今、金銀夫婦の縄張りになっていてな」
「金銀……なんだって?」
「金銀夫婦」
「伝説の飛竜のつがいが頂上を根城にしていてな。おかげで我々ハンターの仕事に支障をきたしているんだ」
飛竜のつがいで夫婦。それが金色と銀色、だから金銀夫婦。実にシンプルで分かりやすい。
「でも、エヌラスからの頼みなら仕方ないね。アタシが手を貸すよ」
「くれぐれもアイツらを刺激するような真似だけはしないでくれよ?」
「何いってんのさ。大蛇の腹の中を探検するよりずっとマシだよ」
まるでやったことでもあるような口ぶりにエヌラスがシーシャに聞くと、知人のデビルハンターの武勇伝らしい。他にも色々な話が出てきた。例えば、武具を質屋に売り払って店を建て直したとかなんとかかんとか。
世間話も程々にして、エヌラスとシーシャの二人は設営中のベースキャンプ予定地を後に離れていく。その背中をオトモネコルー達も大きく手を振って見送っていた。
──三人のハンター達から離れて、黄金の頂へ向かう道中。雪国らしいルウィーの景観は一面の銀景色にチラホラと新緑が見えた。大自然の厳しさと逞しさが入り混じった景色にエヌラスは懐かしさを覚える。絶対に忘れもしない地獄のような修行の一環。全裸で雪山サバイバル一ヶ月。
白い息を吐き出しているとシーシャが足を止めた。
「どうした?」
「……やっぱり、アンタには謝っておこうと思ってさ。ごめん」
「なんだよ急に」
「アタシがゴールドサァドの一人だってこと、ずっと黙ってて。でも」
「なんだ、そんなことか。いいよ別に。事情があったんだろ? そんでもってどっかのバカが仕組んだ罠だったんだろ。過ぎたことだし今はどうでもいい」
「……、でも」
「それでお前が納得いかないなら。せめてケジメつけてルウィーを守れ。できねぇ時は俺がぶっ飛ばす。そんだけだ」
ゴールドサァドは利用されていただけ。それだけの話だ。それでシーシャ達を恨んだところでどうもしない。自ら手を下す前に判明しただけマシだと言える。
ソラが死んだのと、彼女たちは一切無関係なのだから。
「そういやブランはもう行ったのか?」
「ああ、ブランちゃんならもうプラネテューヌに向かったよ。なんか急いでいたみたいだけど」
「ゴールドクリスタルの回収の件はエスーシャから聞いてたか?」
「まぁね。アンタが来るってのも聞いてた。教祖様からも頼まれていたことさ──とはいえ」
シーシャが顎で指し示す先。黄金の頂に続く道にはモンスター達がひしめき合っていた。
「アレを突破しなきゃ話にならないわけだけど」
「マジやってらんねーな」
手のひらに拳を当てて、シーシャが不敵な笑みを浮かべる。
「さて、と。なんかいい案はあるかい?」
「ねぇよ、んなもん。全速力で正面突破だ」
「相変わらずなようで安心したよ──!」
アイコンタクトを交わし、二人が身をかがめて全力で駆け出した。
突如現れた縄張りの侵入者に対してモンスター達が咆哮をあげて殺到する。
エヌラスが倭刀で切り抜け、シーシャは拳で道を切り開きながら黄金の頂の前まで辿り着こうとした矢先空が急激に明るくなった。
降り注ぐ火球と炎のブレスに行く手を阻まれて足を止めるシーシャに対し、エヌラスはその腰に手を回すと軽々と肩に担ぎ上げて速度を落とすことなく突っ込む。
「ぅひゃあっ!? ちょ、ちょっとどこ触って!?」
「緊急事態につき無礼講! どぉりゃあああ!!!」
左手の魔術刻印が凍てついた風を舞わせて炎の波をかき分ける。空から響く怒りに満ちた咆哮を無視してエヌラスは黄金の頂の正面へ電磁加速で強行突破。ひとりでに開く扉にシーシャを投げ飛ばし、身を屈めると爆発的な加速と共に金火竜の踏みつけを間一髪で回避して転がり込む。
「ふぃー、あっぶね。もうちょっとで轢きガエルになるところだった」
「いったたた。まったく、もう。スタイリッシュじゃないね、こういうの」
「俺はそういうのとは無縁な奴だからいいんだよ」
「アタシはよくないんだ」
腕を組んで不機嫌そうにそっぽを向くシーシャのお尻を叩いてエヌラスは先を急いだ。
「んひゃあぅっ! ちょっと!」
「あっはっは。ほれ行くぞ、俺も暇じゃねぇんだ」
「……もう」
叩かれたお尻を撫でながら、エヌラスの後を小走りで追いかける。
「そういや、俺ルウィーでぶっ倒れてから記憶が飛んでるんだが結局此処のゴールドクリスタルって誰がやったんだ?」
「あー……ほら。大魔導師」
「ハァ? あの万年暇潰しで生涯退屈極めたクソボケ外道が? どういう風の吹き回しだ」
「いないからってボロクソ言いすぎじゃないかい?」
「いいんだよ。俺は言っても許されるから」
なお許されない模様。
黄金の頂の内部構造は概ね同じだ。ラステイションと同じように転送ポータルで移動を続けて二人は頂上を目指す。どこからともなく出現しているモンスター達の相手をしつつ、玉座の間に辿り着くと、そこは大魔導師が立ち入ってから誰も中に来ていないのか砕けたゴールドクリスタルが野晒しにされていた。
シーシャがかがみ込み、その小さな破片を手にする。
「……こんなにちっぽけなカケラだってのに、効力は損なわれてないんだろう?」
「らしいな」
「ゴールドサァドに女神代理人の仕事を押しつけておきながら虫のいい話だね。今では守護女神に信仰が戻りつつあるってのに」
「女神の転換期の件もあるしな。黒幕引きずり降ろさねぇと」
「それは……」
「ま、多分そっちは俺のとは別口だろうし。俺は俺の仕事するだけだ」
今のところそれに繋がる手がかりはプラネテューヌに出現したという謎のダンジョンくらいだ。
「……エヌラス。アンタ、無理してないかい?」
「無理してないように見えるか? なんつーか、ぶっ壊れたグラスに水を注ぎ続ける感覚がずっとついて回ってる」
明らかなキャパシティオーバー。
エヌラスがふと、自分の存在を繋ぎ止めているゼロクリスタルを取り出す。
無数に走るヒビが今にも砕け散ろうとしているのを、赤と黒が入り混じった光が金接ぎのように繋ぎ合わせていた。指に軽く力を入れるだけで壊れてしまいそうなそれを見て、シーシャの手からゴールドクリスタルの欠片がこぼれ落ちる。
「アンタ、それ──」
「……思ったより崩壊進んでんなぁ」
「戦うとか、そういう状況じゃないってわかってる!?」
「それでも」
そう、それでも。
この生き方を選んだのは自分だ。今日までの選択肢を選び続けてきたのは、他でもない。
エヌラスはゼロクリスタルを戻すと手を固く握る。
「それでも俺は、戦うことをやめるつもりはない」
「……どうして?」
「なんつーかな。こいつは俺にとっての“呪い”だ。だけど同じくらい“
我ながら馬鹿な生き方だと思う。それで取りこぼした物を拾い集めて、抱えきれなくて背負い込んで。その重荷に潰されながらも前に向かって進み続ける。
「此処まで来たんだ。今更どの面下げて引き返すんだよ、過去は選べねぇんだ」
「…………」
「だから、そんな泣きそうな顔しねぇでくれねぇか? 美人の泣き顔に弱いんだ、俺」
エヌラスは手からこぼれ落ちたゴールドクリスタルの欠片を集めてしまい込む。残すところはプラネテューヌに向かうだけとなった。
今頃ネプテューヌ達は空中戦艦に向かっている頃だろうか。
「エヌラス。確かにアンタはスタイリッシュとは縁が無さそうだね。でもさ……そんな風に泥臭いのも、悪くないってちょっと思うよ。ほんのちょっぴりだけど」
「よせよ。おだてられると調子乗るんだから、俺」
「いいじゃないか。燻ぶる炎みたいで。でもさ、やっぱりアタシは生きていてほしいと思うよ。ちょっとでも長くさ。知り合って日は長くないかもしれないけど、それくらいの人情は持ち合わせるつもりだから」
「泣きわめくなら俺が死んだ後にしてくれ。いってぇ!!」
シーシャに尻をひっぱたかれてエヌラスは危うく転びそうになった。
「だーかーらっ!」
「死んだことねぇんだから言いたくもなるっつうの──あぁ、くそ。そういやコレ言って怒られてたの思い出したわ、今。なんだって昔のことばっか思い出すんだか」