超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
死人のようなエヌラスは腕が動かない為にお茶を飲むネプテューヌ達を眺めるに留まる。その恨めしい視線と、ふくれっ面にアーウィルが「オモチャを取り上げられた子供じゃあるまいし我慢せい」と一言。それとこれとは話が別。心底楽しくなさそうに唸るエヌラスが両腕の魔術回路に魔力を試しに流すと焼けつくような激痛が走った。死に物狂いで悶える。テーブルに頭を打ち付けて涙目になりながらどうにか乗り切った。
「馬鹿者。繋いだばかりで定着しておらぬ回路に魔力を流せば痛いに決まっとるだろうが。焦らず治せ。その状態ならば三日も掛からんだろうよ。黄金の蜂蜜酒であれば、半日足らずだろうがの」
「じゃあ……寄越せよ……」
「すっかり希少品でなぁ、手に入らなんだ。代わりに嬢ちゃんの誰か貸してくれると言うのなら考えてやらなくも――」
カタ……カタカタ、カタ。
――不意に、アーウィルの収集品が震えた。動かないはずの腕が拳を作ろうと動き、その目から放たれる殺意と敵意と戦意に大気が震えている。エヌラスの周囲の景色だけが歪んで見えた。
「殺すぞ」
それこそ純粋な殺意でエヌラスはアーウィルに叩きつける。それにやれやれと首を横に振り、テーブルの上に小瓶を幾つか並べた。その中身はいずれも黄金の蜂蜜酒だ。
「やれやれ、老いぼれの冗談ひとつ聞き流せんとはな。持っていけ。二度と来ないならばワシが持っておっても仕方あるまい」
譲り受ける数は思ったよりも多い。しかし、その全てが試験官の中に入れられていた。栄養ドリンクサイズの小瓶で販売されているのは一般品だ。アーウィルの用意した黄金の蜂蜜酒は高純度の中でも熟成させた品。他では滅多にお目にかかれない逸品だ。当然ながらその効力も他に比べれば遥かに高い。一本で家一軒建つほどの価値があるとアーウィルが言うとネプテューヌ達が目を丸くしていた。
「どえぇぇぇ!? そんな高級品いいの、アーウィルおじいちゃん!?」
「構わん。持っていけ」
「うん、ありがと!」
「でもこれ、私達が服用したらどうなっちゃうのかしら……」
「ちょっと、気になりますね」
「やめておけ。慣れているそこのバカならともかく、お嬢ちゃん達には刺激が強すぎる。うっかり向こう側の世界に踏み入って帰ってこれないどころか、身体を乗っ取られて化け物になる奴が後を断たなくてな」
「拙者もそれには手を焼いておる」
それがアサイラムの悩みの種の一つ。こうした魔術的ドラッグの服用者が人ではなくなる事案は日常茶飯事だ。その主な原因が服用者の危機感の欠如からくるものだから、後始末をするブシドー達からすればいい迷惑である。
「そうじゃな。もし嬢ちゃん達が飲みたいというなら、こっちのでいいじゃろう。同じものじゃがこっちのが効果は薄い」
「試験用ってこと~?」
「うむ。これでどれほどの効果が出るかじゃが……ここでは飲むなよ」
「どうしてですか?」
「悪酔いされてわしのコレクションが壊されたら堪らん。分かったらこれ持って早く出て行けい」
しっしっとまるで犬猫を追い払う仕草を見せながらアーウィルをネプテューヌ達を自宅兼診療所から追い出した。エヌラスだけはまだ身体に打ち込まれた黄金の蜂蜜酒の酩酊感と格闘を繰り広げているのか、足取りが覚束ない。その体をノワールとネプギアが支えた。
「大丈夫ですか、エヌラスさん」
「無理……」
「大丈夫って聞かれてそこまでハッキリ言う方も珍しいわね」
常人なら今頃別世界の扉を開いて精神的陶酔感と共に身体が変質している。
「……む~…………」
「ズルいよー、二人共。エヌラスふたりじめなんて」
「じゃあネプテューヌが背負っていく?」
「……そうだ、変身しよう」
「思い出したように言わないの」
「変身は……やめとけ……絶対目立つ……」
そして、目立つということはそれだけこの街での犯罪に巻き込まれる可能性が高まるということでもあるからだ。路地裏から表通りに抜ければそこで待ち受ける大喧騒と交通事故とガス爆発のイルミネーション。今日も概ね平和である。平和なのだ。ノワールは思い込むことにした。
その衝突事故やガス爆発を神懸かりなドライビングテクニックで避ける一台のクラシックカーが路肩に止まる。その車窓を開けてクイーンがにこやかに手を振っていた。
「皆さん、よろしければ乗っていきませんか」
「ホント? やったー、乗る乗る!」
「…………後でゼッテェ後悔するからな」
ネプテューヌの楽観的なゴーサインにこの後地獄が待ち受けていたとは思いもよらない。
助手席にはブシドー。後部座席は向かい合うように席が三つずつ。ネプテューヌを挟むようにクイーンとネプギア。そして、仰向けに寝かされたエヌラスを膝枕するようにノワール。プルルートはその“腹の上”に座っている。
「……なんで俺の腹の上に座ってんだ。重いってぇぇぇぇっぇあああああごめんなさい!」
「お仕置き、されたいのかなぁ~?」
「してるされてます勘弁して下さい!」
ミシミシと悲鳴をあげる胸骨にエヌラスが絶叫した。じっとりと汗ばむその額にノワールは手を置いて髪を撫でる。少し跳ねた、くせ毛混じりの髪を優しく梳いた。
「ほら、無理しないの」
「してねぇし……無理してねぇし……むしろ殺されかけてるし……」
「泣き言言っちゃうとこうだよぉ~」
「ひぎぃぃああああごめんなしあ!?」
「……彼はいつもああなのですか?」
「割とそうだよ?」
「はい、大体あんな感じです……」
突然、車が揺れた。クイーンの胸にネプテューヌが頭を突っ込ませる。
「ふぁっ!? なになに何なのさ!?」
「バトラー、もう少し静かに運転してください」
「申し訳ありませんが、クイーン。それは無理な相談というもの!」
「ふむ。拙者も迎撃に参ろう」
横転する車や突然飛び出してくるタンクローリーの障害物を紙一重に回避して、今度こそぶつかると覚悟を決めた直後、一筋の光が走る。衝突の直前に眼前のタンクローリーが真っ二つになって道が切り開かれていた。ブシドーの手がいつの間にか車の外で刀を握りしめている。
しかし、地響きにも似た震動はまだ止まなかった。安全な場所で停車すると、バトラーとブシドーの二人が車外に出て、何事かとネプテューヌ達も顔を出した。
「なにー、また魔導プラントとかの爆発ぅー?」
「それともなに、どっかで爆破テロ?」
「実は地割れとかですか?」
「なんでもいいよぉ~……」
エヌラスから離れるわけにもいかないのでノワールとプルルートは車の中にいるので外の様子は伺えないが、震動の大きさからすれば相当規模がデカイ。
だが、ネプテューヌ達の予想はいずれも外れた。
『やぁやぁやぁ、ハァイ皆さん! 今日も元気にしてるかなぁ! 九龍アマルガム名物、天災ジェノサイダー君二十七号~今年度の私は一味違う合金製~が本日も元気に街の一区画を破壊して参りまーす。なんか重要施設とかぶっ壊してる気がするけど気のせいだ!』
『何あれェェェェーーーーーーー!?!?』
途方もなくデカイロボット(?)が九龍アマルガムを破壊している。地下帝国なので青空は仰ぎ見れないが、アダルトゲイムギョウ界の下層世界と言ってもいいほどに広大な空間に収まっている国を破壊して回るアレは一体何なのか。全長は高層ビルを優に越え、両腕にはドリルをくっつけたドラム缶。寸胴ボディに無限軌道をくっつけたその天災ジェノサイダー君(以下略)はまっすぐ教会に向かって進んでいた。そのせいで足元にある施設やら車やら人やら何やらが潰れて爆発と悲鳴が起きている。
「おぉ、もう今日はそんな日でしたか。すっかり忘れていました」
「え、毎度なの?」
「はい。週に一度、多い時は二度。あの破壊ロボは出没します。どこからともなく」
「研究ラボとやらがあるようだが拙者達も足取りは掴めておらぬ」
「あ、あはは……なんかもうデタラメ過ぎてどうでもよくなってきちゃった……」
「ですが、素材はそこら辺から拾ってきたガラクタの寄せ集めですので破壊は容易です」
「あ、破壊ロボってそういう……」
街を破壊するロボットではなく、破壊するのが簡単なロボット。しかし、ガラクタの寄せ集めとはいえあれだけの巨体を作り出す技術者はさぞかし腕がいいのだろう。天才か、はたまたバカなのか紙一重。というか完全にトリップ状態で向こう側に行ってる気がする。
『あァ~、見える。見えるぞォ。私を褒め称える市民の叫び』
「ザッケンナコラー!」「人の迷惑考えろー!」「死に腐れー!」
『ンッン~。今日の瘴気は実に濃い。私が今朝飲んだコンデンスミルクホワイトドリップアッツアツと同様に超濃いぃ……あひぃらめぇ。熱くて飲めらぃぃ……! ハッ! お寝坊さん!』
完全にヤバイ人だった。クスリとかキメてるとかそういうレベルではなく、精神的に――いや、超常的に思考がヤバイ人間の言動は破壊ロボの操作にダイレクトに伝わってドリルが高層ビルを破壊する。その中に巣食っていた魔導生命体が溢れ出し、逃げ出すなり人々を襲い始めた。
混沌と破壊と悲鳴と大暗黒にして大黄金にして大混乱。九龍アマルガムに誰も近寄らない理由であった。