超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ルウィーの黄金の頂を後にしようにも、入り口前のエリアには縄張りに侵入してきた外敵を排除しようと金銀夫婦が目を光らせていた。その鱗の表皮を観察すると、守護女神にも似たエネルギーの波長を感じられる。アレを相手しようとすると苦戦は必至だろう。
「まさかちょっと通るだけであんなブチギレるとは思わなかった」
「だから「禁猟区」って言われてるんだよ。何回調査団が資材をぶっ飛ばされたことか」
「もう封鎖しとけこんな場所」
「代名詞みたいなもんなんだけどねぇ……」
立ち入り禁止区域と同義なはずだが、命知らずはこうして堂々と突入している。
のしのしと周囲を歩きながら鼻を鳴らし、匂いを嗅ぎ回っていた。おもむろに顔を上げると、羽ばたいて寒空へ巨体が飛び去っていく。
それから少し遅れて着弾した砲弾が衝撃と熱風を叩きつけた。
何事かと目を凝らしてみれば、ベースキャンプから離れたエリアに備え付けたハンター協会の大砲から黒煙が上がっている。そこにはオトモネコルーと新米ハンターの姿があった。
怒りの咆哮を轟かせる飛竜を見て、すぐさま身を翻して撤退していく。
銀の火竜は大きく翼を広げて身体を持ち上げると、火球を吐き出して大砲を爆発させる。急降下して熱風を広げながら砲弾に引火させると、すぐさま離脱していた。
野生のモンスターにしては頭の回る戦法に感心していたエヌラスの袖を引っ張ってシーシャが黄金の頂の正門から駆け出す。
「なにぼさっとしてんのさ、今のうちに逃げるよ!」
「お、おお。すまん」
怒髪天と言った様子で銀の火竜は粉塵と共に炎の息吹で数少ない新緑の自然を焼き払うと、やがて気が済んだのか黄金の頂の頂上へと飛び立っていった。その後を追うように金の飛竜も地上でひしめいていたモンスター達を蹴散らしてから飛び去る。
エヌラスとシーシャがベースキャンプ予定地に戻ってくると、新米ハンターの片手剣使いが四つん這いになって必死に息を整えていた。
「ぜぇー、ぜぇー……! し、死ぬかと思いました……」
「大丈夫か?」
「大丈夫です! これでも逃げ足には自信があります! なにせ先輩方の足を引っ張っているので!」
「それは自慢にならねぇ」
鋭い指摘に再び肩をガックリと落としている。とはいえ注意を引いてくれたおかげで脱することが出来た。
「……あれ。放置しといていいのか?」
「じゃあアンタは自分の命と引換えにしてアレを倒してくれるってのかい。アタシは御免だよ」
「そーだそーだと俺達も言っている!」
話を聞けば、黒鉄と蒼鬼の二人にとって因縁の相手らしい。手柄を譲って欲しい、というわけではない。復讐のつもりもない。ただそれは、やはり、過去のケジメをつけて前に進むために必要な狩りだ。
一筋縄ではいかないことは百も承知している。だからこそこうして敵の生態の観察、着実に地盤を固め、盤石の布陣でもってハンター協会総出での狩猟の下地を整えていた。
今はまだ、耐え忍ぶ時なのだ。そう自分たちに言い聞かせて。
その話を聞いてエヌラスは、自分と違って“嗚呼、強いな”と。本気で思った。そうして前に進もうとする意志を貫く姿は頼もしくあった。
「なら俺がどうこうするなんてのは無粋ってもんだな。邪魔したよ」
「もう行っちまうのかい」
「ああ。温泉街で人を待たせてる、そいつ迎えに行ったらすぐプラネテューヌに行かねぇと」
狩猟の無事を祈ってから、エヌラスがすぐにベースキャンプを離れていく。その背中がどこか寂しそうで、引き留めようかともシーシャは思った。だが、拳を固く握りしめて思いとどまる。
それこそ無粋ってものだ。
ルウィーの温泉街へ戻ってきたエヌラスはニトロプラスちゃんと戦乙女を探す。ハンター達と旅行客が賑わいをみせる盛況の中、黒尽くめの危険人物が歩いていれば嫌でも目立つ。しかし前科があるだけに誰も声を掛けることはなかった。
なんせこの温泉街を一人で大成功まで持っていった大魔導師の一番弟子なのだから。
「しまったな、待ち合わせ場所くらい決めとくんだった」
とりあえず誰かに姿を見ていないか聞いてみると、それらしき二人組が入っていったという温泉宿へ向かう。
行き交うハンターの中には顔見知りもいた。片手を挙げて挨拶を交わしながらエヌラスが暖簾をくぐると、髪を掠めたボールが壁にめり込んでいく。
人だかりの中心。なにやら盛り上がっている様子だが……エヌラスが覗き込むと、そこには浴衣姿のニトロプラスちゃんと戦乙女がラケットを持って対面していた。肩で小さく息を整えながら真剣な表情でボールを手にしている。
「やるじゃない。見直したわ」
「そちらこそ。ですがコレについてこれますか!」
「何をしとんねん君らは!?」
「? あら、戻ってたの。見てわからない?」
「風呂上がりには卓球ですよ!」
激しい運動でちょっとだけ着崩した浴衣を直しつつ、いい汗を流していた戦乙女が屈託ない笑顔を向けてきていたがエヌラスは目頭を押さえていた。
「くつろげ言ったのも俺だし休んでろって言ったのも俺だが、なんで卓球でいい汗流してんだ」
「ここ最近私の中でトレンドなので」
「お前本当に幽霊なんだよなぁ!? どこの世界に温泉入っていい汗流して風呂上がりに卓球やっていい汗流して満喫している幽霊がいんだよ今俺の目の前にいたわ!」
「あ、やります? 結構楽しいですよ」
「やんねぇわ。そんでニトロプラス、お前の具合はどうだ?」
「温泉に入ったらだいぶ良くなったわね。結構効果あるみたいよ、ここの」
別に感想を求めていたわけではないのだが、体調が回復したのなら言うことはない。
「んじゃあ早いところ支度してくれ……」
「アンタもちょっとくらい休めばいいのに。長旅運転してて疲れてんじゃないの?」
「半分自動運転みてーなもんだし疲れてない。体力だけは自信がある」
「…………あ、そ。そういやそうね。じゃああたし着替えてくるから」
なにか言いたげにしながらニトロプラスちゃんが脱衣場へ消えると、戦乙女もついていった。
二人を待っている間にエヌラスはプラネテューヌへ電話をかける。相手はアイエフだ。
まもなくして電話に出ると、互いの状況を報告する。
《ネプ子達ならついさっきこっちに到着したばかりよ。それで、不審な人影を見たって話で今は使われていないドームに向かっていったわ》
「戦艦の方と例のダンジョンは」
《今のところはおとなしいものね。ただ、例の書き込みの件なんだけど。どうやら発信元を辿っていくとその戦艦からみたいなのよ》
「んじゃやっぱ戦艦ぶち抜いた方がはえーな」
《そんな火力を地上から出せるのアンタくらいよ。また騒動になるからやめてよね》
怒られてしまった。
《それで目撃された不審者ってのが、どうも教会の窃盗犯みたいなのよね。これも最近判明したことだったんだけど、ルウィーで教祖様が気づいてね。ま、一番はうちなんだけど》
「さすが諜報部。優秀だな」
《ありがと。それで女神様と女神候補生のみんなが追跡中って状況よ》
「こっちもこれからプラネテューヌに向かうところだ」
《ゴールドクリスタル回収の件だけど、ビーシャ……あぁ、プラネテューヌのゴールドサァドだった子なんだけど。その子がリーンボックスから来たエスーシャと既に回収して加工の手はずを整えてるみたいなの》
「仕事が早くて助かる。そっちに着いたあと、俺はどうしたらいい?」
《そうね……それならレオルド達の方に手を貸してあげてくれないかしら。たまに苦戦してるみたいよ。そもそもモンスターの群れを相手して一歩も引いてないのは本当に褒めるべきことなんだけども……はぁ~……》
アイエフが苦労をにじませたため息をつく。あの連中と共同作戦、心労もかさむというものだ。エヌラスは思い出すのも嫌になる、が、プラネテューヌに向かう以上どうしても顔を合わせることになる。
ニトロプラスちゃんと戦乙女が着替え終わったのか、通話中のエヌラスを見て小さく手を挙げて合図していた。それに手を振り返してから、通話を終える。
「誰かに電話してたの?」
「ああ。プラネテューヌ諜報部の知り合い」
「アンタって本当に顔が広いのね」
「そりゃ世界中に迷惑かけてるからな」
「……本当になんで野放しにされてるんだか」
場所を移してから、エヌラスは戦乙女との契約をニトロプラスちゃんに仮譲渡させようとした。しかし、肝心の戦乙女の方はどこか戸惑いを見せている。
「なんだよ、どうした」
「あ、いえ……なんというか、不思議な感覚なもので。だって貴方は、自分が消えてしまいそうだからと、私のことを気にかけているわけじゃないですか」
「まぁ……そうだな?」
「なんでかなぁって、ちょっと思ってしまって」
なにせ相手は細い直剣に憑いた幽霊だ。もう一振りの黒い直剣は今だに沈黙を貫いているが。
それを言われてエヌラスも腕を組む。こうして離れ離れになっても互いに好きなように過ごしてきた。
「……なんでだろうな? ラステイションで俺がぶっ倒れた時、お前が助けてくれたろ? 別に悪霊ってわけじゃないし、良い奴なんだなって思った。だからそんな奴が、こんなやつに引っ張られていなくなるのはちょっと勿体ねぇだろ。どうせなら少しでも長くこの世界で楽しんでくれよ」
「それには感謝してますけど、でも」
「それに──痛いのも、苦しいのも、全部。俺が全部背負っていきゃいいだけの話だ」
「……、────」
戦乙女が息を呑む。
「俺に出来る甲斐性なんてそれくらいなもんだよ。だから、気にすんな──始めるぞって、どうして泣くんだよお前?」
「えっ。あ、あぁ……あはは、なんでですかね。なんでかわかりませんけど、なんでか──」
なんでかは戦乙女本人にもわからない。そもそもなぜ自分が幽霊なのか、生前に何をしていたのかさえ記憶が定かではない。それでも自分に与えられた使命だけははっきりとしている。
この人を守ること。不思議と居心地は悪くなかった。
漠然とした感覚だったのが、今初めて形として理解できた。
「貴方のその言葉が、すごく嬉しくて」
「……よくわからん奴だな、お前」
ニトロプラスちゃんの手を取り、エヌラスが契約の魔術刻印を刻み込む。手の甲に走る幻痛に顔を一瞬だけしかめるが、それはあっという間に終わった。
手の痛みを振り払うようにすると、眉をひそめる。
「ねぇ。この魔術刻印、契約印以外のも付いてきてない?」
「ん? ああ、クトゥグアとイタクァもまとめてつけてやったからな」
「なんでそんな余計な真似するのよ」
「何いってんだ、お前に全部預けるつもりだぞ俺。ハンティングホラーもな」
「はぁ!? なにそれ初耳なんだけど!」
「今言ったんだからそりゃそうだろ」
「理由!」
「他に預けられそうなアテがねぇ」
「絶対ウソだってわかる」
「お前なら使いこなせそうだと思って」
深々と、それこそもう、呆れに呆れ果てて怒りを通り越して何も言えなくなったニトロプラスちゃんが肩を落とした。
──本当に、なんでこんな奴がいいんだか。
それからも言い合いを続ける二人を見て戦乙女が笑っていた。