超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
プラネテューヌに向かうエヌラスとニトロプラスちゃんを戦乙女は笑って送り出し、また卓球をやろうと意気込んでいた。
どれだけ白熱していたかを聞くと、戦乙女は自分の体を電気にして瞬間移動しながらどんなサーブだろうがスマッシュだろうが光速で返していたとのこと。大人気なさすぎる。
ハンティングホラーを何度も呼び出そうとするエヌラスだったが、長年の相棒はうんともすんとも言わない。
「なんだよまったく、拗ねてんのか」
「アンタがあたしに預けるー、なんて言ったからじゃないの」
こちらも先を急ぐ手前、機嫌を直してもらわないと困る。
「置いていかれる側の気持ちになってみたらいいわよ」
ニトロプラスちゃんの言葉に、エヌラスの足が止まった。
「そんなもん、嫌というほど知ってる」
孤独に一人置き去りにされて、どれだけ追いかけても追いかけても届かない手を伸ばす。
届かなくて、辿り着かなくて。何度挫折したかわからない。それでも隣には必ず物言わぬ愛犬が居た。
「俺と一緒に地獄を駆け抜けてきた無二の相棒だ。だが俺はそれでも、一緒に死んでくれなんて言わねぇ」
「ちゃんと最後まで面倒みてあげなさいよ」
「預けるってだけだ。心配すんな──覚えてるだろ、ハンティングホラー」
たし、たし。エヌラスは地面を足で叩く。
「いつだったか、お前が邪神の手に落ちた時のこと──」
“脚”を奪われた。
それがあの世界での“
エヌラスにとって最速の脚で、最大の相棒だったハンティングホラーが奪われた。
己の脚で駆け抜けることだけが唯一取り戻せる条件だったのをエヌラスは覚えている。
「お前は俺にとって、かけがえのない相棒だ。全幅の信頼を寄せる愛犬なんだ。他に替えの利かない存在──なのは誰も同じだけどよ。最初の地獄からずっと俺と一緒に歩いてきたのはお前以外にいないんだ。だからわかるだろ、俺の言っていること」
《…………》
ハンティングホラーは沈黙を貫いた。覚えている、知っている、理解できる。だからこそ、言うことを聞きたくない。その命令だけは。
「全部終わって、まだ俺が生きてたら。もしも俺が死んだとしても。俺は、お前を死んでも取り戻しに来る。だから少しだけいい子にして待っててくれ」
その優しい声に、ようやく姿を見せた漆黒の魔獣は主人を一瞥だけする。
ハンティングホラーは、覚えている。朧気ではあるが、エヌラスの言葉を。
──本当に馬鹿げた戦いだった。走って、速い方の勝ち。追いかけっこ。ただのレースだった。勝ち目などあるはずのない勝負に、その壇上に登ってきた挙げ句の果てに走り切った。だがその勝負の最中で発した言葉を覚えている。忘れもしない。
「帰ってこい」と、本気で叫んでくれた事を覚えている。
本気で嬉しかった。自分の帰る場所がここしか無いのだと。
「……ありがとな」
カウルを撫でて、エヌラスはハンティングホラーに跨る。その後ろにニトロプラスちゃんも乗り込むと身体にしがみついた。
「こっから先の地獄は、自分の足で歩くからよ」
プラネテューヌの黄金の頂は平和なもので、チラホラとモンスターがいる程度だった。というのも、その正門前に陣取っている守護女神近衛機兵団である重量特化型ホバー機体のロゼがビーシャとエスーシャの二人を護衛をしている。
怒涛の勢いでなだれ込むモンスターもなんのその。空転を始めたガトリングで薙ぎ払い、担いでいた高出力エネルギーランチャーを叩き込み、近づくどころか滞空時間の長さを活かしてもはや爆撃機の様相を呈している。
その射線を遮ることなくエスーシャが剣で敵陣に切り込み、相手を追い込む。ビーシャのバズーカが着弾し、一掃すると胸を撫で下ろした。
「ふ、ふぅ~……うまくいってよかったぁ……」
《おー》
相変わらずのんびりとした口調でロゼが近づくと、ビーシャはまるでそこが自分の定位置と言わんばかりによじ登る。
土煙が薄れ、そこへエヌラスとニトロプラスちゃんが到着すると片手を挙げて挨拶を交わす。
「思ったより早かったな」
「これでもちょっと遅れた方だ」
「なに、あたしのせいにするわけ? まぁどうでもいいんだけど」
エヌラスの視線の先、そこにはリーンボックスの黄金の頂でも見た機材が運び込まれていた。
「ここの回収は済んでるんだな」
「ああ。だからそちらの持っているもので全部になる」
「にしてもゴールドクリスタルで女神を強化、ねぇ……」
半信半疑だが、クリスタルの構造に詳しいエスーシャが可能だと断言できるのなら口を挟む余地はない。
ラステイションとルウィーで回収してきた分を手渡してから、エヌラスはハンティングホラーと向かい合う。すると、相棒は漆黒の猟犬の姿となってその場に座り込んだ。
「……ちょっとだけ待っててくれるか、ハンティングホラー」
《──ヴゥゥ……ルルル……》
低く唸り声をあげて抗議の意思を見せる。エヌラスが立ち去ろうとすると、コートの裾に噛みついて引き止めていた。ここで別れてしまえば会うことはないと本能的に理解している。
だからこそ、ハンティングホラーは自分の影の中から野太刀を差し出した。それが主人にとって必要な武器だと判断してのことだったが、エヌラスはそれをやんわりと拒否する。
「いいよ、大丈夫だ。今の俺にはこいつ一本あれば十分だ」
左腰に帯びた倭刀を叩き、懐に忍ばせたハンドマグナムを見せた。
魔術刻印を譲り、相棒すら預け、残ったものはそれだけ。だが、それっぽっちの力しかなかった時でも戦い続けてきた。
ハンティングホラーの頭をしきりに撫でてから、ゆっくりと離れていく。
「ニトロプラス、コイツを頼んだ。悪い奴じゃないからよ」
「飼い犬は飼い主に似るって言うけどホントかしら」
「俺に限れば迷信だ。それじゃあな」
パチリ、と紫電が奔った。次の瞬間にはエヌラスの姿が空へとかき消え、宙を蹴って遠ざかっていく。
「こちらも早速取り掛かろう。ビーシャ、手伝ってくれ」
「オッケー!」
荷物も届けた。エヌラスの監視も終わって手持ち無沙汰になったニトロプラスちゃんはどうするか考え──横目でハンティングホラーを見つめる。
「あいつが戻ってくるまでの辛抱よ。短い間だろうけどよろしくね、ワンちゃん」
《……》
撫でてこようとする手をすり抜けてニトロプラスちゃんの靴と地面の隙間に姿を隠した。人が歩み寄ろうとしているのになんてかわいくない。肩を落としてため息ひとつ。
「アイツそっくりね」
エヌラスはレオルド達が現在交戦中という話のダンジョンへ向かう。その道中、森の中を駆け抜けていると懐かしい場所を通りがかった。
森の中に不釣り合いの採掘場、フラッシュバックしてくる変態共の顔を即座に消し去って先を急ぐ。今からその変態共の顔を見ることになる現実から目をそらしつつ。
銃声が近い。何やらものすごいワチャワチャとした声も近い。あぁ行きたくねぇ。
《接近する生体反応! 貴様ぁ、何者だ名乗れ! いややっぱ名乗らなくて良い! 顔を見て思い出した! 久しぶりだなソウルブラザー!》
《なに、そこにいるのはソウルウブラザー!?》
《久しぶりだなソウルブラザー。アイエフさんから話は聞いている、援護に感謝する》
「もう帰っていいか?」
ディル、シュラ、ジーン。元プラネテューヌ国境警備隊特務班として活動していた精鋭中の精鋭──またの名を変態の中の変態。ただの変態ではないド変態な連中の顔を見た瞬間にエヌラスは鳥肌が立った。顔も見たくなかったが秒で思い出されたので逃げ道を塞がれる。
見慣れない赤い機体がスナイパーキャノンでダンジョンからあぶれてくるモンスターを撃ち抜いていた。はて、毛色が違うがどこの所属だろうかと考えて、それが武装企業の所属なことに気づいた。
「レオルドはダンジョンの中か?」
《現在内部調査中! そこまで深度はないことから脅威性は低いものと見られる! が、いかんせんモンスターめっちゃいるのでやっぱキケーン!》
「おい、コイツから殺していいのか」
《やめてくれ。そんなでも特務重装班の班長なんだ》
ジーンが静かに高出力光学狙撃銃のスコープを覗いて、即座にモンスターの頭を撃ち抜く。
「なら俺は内部調査の援護に向かう。こっちは任せたぞ」
《今日も一日!》
《ご安全に!》
《安心してください。万全ですよ》
「とりあえずお前ら口を開くな」
一応念のためエヌラスは遠巻きにこちらを援護していた警備隊長にも手を振って合図する。
いいから行け、とでも言いたげに追い払う仕草をされた。
「あいつ感じ悪いな」
《みんな言ってます》
ジーンが左腕のマガジンを狙撃銃に装填しながら相槌を打つ。こちらを狙われている気がしたのでエヌラスはそそくさとダンジョンの中へと小走りで向かった。
──ダンジョン内部・???
最初に中へ入った感想は、奇妙な場所だという違和感。明らかにゲイムギョウ界に不釣り合いな景観にエヌラスも眉を寄せる。
青い壁に、青い床。まるでテクスチャの貼り忘れだ。ポリゴンで作られた内部に違和感が拭えなかった。しかし、モンスター達は自然発生しているらしく、時折通路のど真ん中に出現していた。これらを入り口で撃退しているのが元トライアドの三人らしい。
内部に進んでいくと、レオルド達の話し声が聞こえてきた。揉めているわけではないが、どうしたのだろうか。
《──いや、だから此処は俺達が率先して安全の確認を》
《馬鹿めが! それでお前が危険に飛び込んでどうすると言っているだろう、ここは俺が!》
「……喧嘩両成敗って知ってるか?」
《あ、エヌラスさん。お久しぶりっす! なんか前会った時よりも……ワイルドになってませんか?》
「そんなに野性味が増したか」
《どちらかと言うと危険性?》
「今から暴れ出すぞテメェ」
エヌラスは事の経緯を尋ねる。すると、レオルド達が道を開けた。
ダンジョン内部の最深部。そう深くない場所にぽっかりと出来ている謎の入り口。だがエヌラスはそれに見覚えがあった。
次元の入り口。ポータルのようなものだ。つまり、ココから先は完全に未知の領域。どこに繋がっているのかさえ定かではないポータルへ突入するか否かを議論していた。
レオルドの意見としては、調査続行。
特務強襲班班長、シャニの意見としては調査中断。道を引き返してダンジョンの維持に務めるべきであるとのこと。そこで完全に意見が別れていたが、他の仲間達としては引き返すべきだという意見が大半。
「ならわかった。俺が突入する」
《え!? いいんすか、でもそれじゃ……いややっぱ俺も行きます!》
《ダメに決まってるだろうが馬鹿か貴様!?》
「いやいいよ。俺ならどうにでもなるから一人で行く」
終わりそうにない議論の間を抜けてエヌラスがポータルに手をかざす。すると、まるで吸い込まれるようにポータルが動き出した。
ものは試しと腕だけを入れてみると、向こう側のどこか湿った空気が感じる。
「ま、多分大丈夫だろ。んじゃ行ってくる──レオルド」
《はい!》
「ネプテューヌ達のことは頼んだ」
エヌラスはそう言い残して、次元の入り口を通った。その姿が完全にかき消えた後、どうするか顔を見合わせる。
おもむろに踏み出そうとするレオルドの頭を全員が思いっきりぶっ叩いて止めた。