超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──エヌラスがダンジョンの内部から去ったあと、残されていたレオルド達の身にまもなくして異変が起きた。特務強襲班班長であるシャニが隊長機としてのブレードアンテナの索敵範囲からモンスターの敵性反応が消失していくことに気がついた。
《レオルド。ダンジョンからモンスターの反応が消失していくぞ》
《どういうことっすか?》
《そんなもの俺が知るか!》
何かが起こっていることだけは確かだ。素早くシャニは強襲班を先行させながら退路を確保する。その後ろへ続きながら守護女神近衛機兵団はダンジョン内部から撤退した。道中にあれほどはびこっていたモンスター達の姿がなくなっていることを疑問に思いながら。
やがて出口を抜けると、そこでは拍子抜けした様子でディル達が待っていた。
《全員無事なようだな。急にモンスター達がいなくなったから何事かと思ったんだが》
《ソウルブラザーはどうした!》
《誰っすかそれ!?》
エヌラスのことらしいが、それはさておき。
急にモンスターの敵性反応が消失していったことに疑問を抱きつつ、守護女神近衛機兵団はダンジョンの監視に数名を残して引き上げていく。
道路を腰部スラスターを吹かしながら帰投する道を走り、レオルドは首を傾げていた。
あまりにもタイミングが良すぎることに違和感を感じている。
《うう~ん。ゴウさん、どう思うっすか》
《先程の一件か。彼の身を案じるのなら問題はないだろう。だがしかし、あまりにもうまく行き過ぎている節は否めないな》
《やっぱりそう考えるっすよねぇ》
重装班班長、古株のゴウはレオルドにとっても頼りになる先輩だ。標準機として開発されたレオルド、そして重量機として開発されたゴウ、軽量機として開発されたシュラの三機。その最初の三機から、派生型の仲間たちがいくつも製造されてきた。
それら全てをまとめあげ、戦闘技能を授けてきたのはシロトラ。今はなき最高司令官。狂信の叛逆者──今や、世界の敵となってしまった。
レオルドの思考パターンは至って標準的なレベルだ。平均値よりやや下といったところで止められている。それらが人格形成AIとしての“個性”とも言うのだが。
《ゼブラはどう考えてる?》
《え? あー、そうだな。モンスターは陽動で、騒ぎを起こすことによって相手を引き込むための罠って線も考えられるんじゃないか》
《なるほど。となるとやっぱり、エヌラスさんが心配っすね……》
《だがどうする。こちらもそう簡単に身動きはとれないぞ》
ゼブラ。初期に生産された性能のトータルバランス向上を名目に作られた標準機もまた、レオルドにとっては古い友人のひとり。その思考パターンはやはり、自分よりも一回りも複雑なものが組まれていた。
《だが何が目的で、あそこがどこに繋がっているのかも分からないのが不安材料だな》
《例のほら、邪神騒ぎとか?》
《案外黒幕がすぐそこまで来てたりしてな》
《まっさかー、ははは!》
《ちょっと二人共、そろそろ中継ポイントに到着するっすよ。アイエフさんに業務報告の用意》
プラネテューヌ国境防衛隊である事を考慮して、プラネテューヌ諜報部は軍部を動員。前線拠点を設営していた。そこには電脳国家インタースカイから間借りしているフォートクラブが数機待機しており、それらのマニュアルをアイエフが作成。現在は各国で少数ながら採用されていた。そしてアイエフ本人はというと、この変態機械集団の手綱を握れる数少ない相手としてイストワールから派遣されている。
「あ、きたきた。待ってたわよ、レオルド」
《お疲れ様ですアイエフさん。守護女神近衛機兵団団長、レオルド到着っす。さっそく報告なんですけれども、いいっすか?》
「ええ、お願いね」
レオルドはできるだけ簡潔にまとめた。
ダンジョン内部の構造はそこまで複雑なものではなく、ギルドの冒険者でも攻略は可能だろうと判断。
「なるほど。猛争モンスターの出没については?」
《それが妙なんすよ。最初こそ波のように押し寄せてきてたのに今じゃすっかり普通のモンスターしか出現してないっす。それどころかエヌラスさんが到着した途端にモンスターがいなくなってしまって》
「……一足遅かったみたいね。あたしがもっと早く来てれば一緒に調査に乗り出してたのに」
《仕方ないっすよ。アイエフさんは諜報部の仕事が忙しいんですし》
「忙しくしてるのはどこのロボットなのかしらねー?」
レオルドは黙って顔を逸らした。ゴウとゼブラも遠くを見つめている。その視線の先、青空に浮かぶ空中戦艦についつい視線が集中した。
《……いいなぁ、空中要塞》
《いいよねぇ、戦艦……》
《ロマンっす……》
「ちょっとアンタ達、話聞いてる? それにしたってあんなデカブツ浮かべたりなんかしてどこの馬鹿なんだか。廃スタジアムに乗り込んだネプ子達はロボットとっ捕まえてくるし」
《どんなロボットっすか?》
「忍者ね」
その瞬間、三人の脳裏に浮かぶのは今はなき最強の変態の姿。ケモナール開発者にして他の追随を許さない超弩級変態忍者、セイン。
「絶対そっちじゃないからね」
目の据わったアイエフに注意されて首を横に振った。いやまさかそんなはずがない。だが有り得る。あの超弩級の変態ならば或いは。
「青くて、忍者みたいなっていうか忍者型ロボットで。古風な喋り方をする奴よ。女神様たちに叶うはずがないのに律儀に立ち向かってきて今は勾留中よ」
《もしかしてそれって……アイエフさん。もしよければ事情聴取、俺達に任せてもらえませんか》
「あら、いいの? アンタ達の尋問で口を割らないやつはいなかったから頼りにしてたのよ」
尚。その手段については一切言及しないものとする。
──プラネタワー・諜報部取調室。
椅子にがんじがらめにされたステマックスは部屋にひとりで置き去りにされていた。諜報部のみなさんがとても哀れんだ目をしていたことだけが気がかりだったが、一体何をされてしまうのか。しかし、そこは忠義に厚いステマックス。何が起きても絶対に口を割るつもりはなかった。
……そう。
現れたのが“あの連中”でさえなければ。
《拙者の口から首謀者を聞き出そうとしても無駄で御座る!》
マジックミラーの後ろで、諜報部員達が頷いてゴーサインを出す。
ブザー音と共に扉が開かれて、現れたのは見覚えのあるロボット集団。
《お、お主達は──》
《久しぶりだなステマックス!》
《本当に久しぶりだなスケベマックス!》
《俺達の貸したエロ本をそろそろ返してくれないかマックスド変態》
《イヤァァァーーー!!! やめるでござるぅぅぅーーー!!!》
ディル、シュラ、ジーンの三名がそれぞれ手にしていたのは、ビニ本。ちょっと際どめ。なんなら放送コードに引っ掛かりそうな絵面のピンク色の表紙。取り調べの際はやり取りが録音されている。
《俺は山の如き変態、ディル!》
《疾きことエロの如く、シュラ!》
《静かなる変態のジーン》
《三人揃って、トライアド! ちなみに隊長は戦死した。さぁ尋問を始めるぞスケマックス! なんだそのシースルーは誘ってんのか! いいのかぁ俺は誘われたら仮に男だとしてもイケなくはない境地に辿り着いてしまった男だぜぇ見ろよこのナイスボディどぅひひひ今からお前の目の前で高速で屈伸するから見とけよ見とけよぉフォーーーーーーウ!!!!》
《やめるでござる! 離すでござる!!! イヤーッ!!! 喋るでござる! 全部喋る、だから拙者を解放してぇーーー!!! そんなところ触らないでほしいでゴザルゥゥゥ!!!》
「……今すぐ音声切って、早く」
取り調べ室の隣、待機している諜報部員達は全員の顔が死んでいた。アイエフの顔色を伺えば“無”だった。なるべく今この瞬間起きている目の前の出来事を記憶の忘却の彼方に投げ捨てようとしている。脳の片隅にだって置いておくものかこんな記憶。
再度付け加えておくが、尋問の際のやり取りは録音されているしそれは公的記録として保管される。この悪夢のような尋問が数十件、プラネテューヌの保管庫には存在していた。
一通りの情報を聞き出してから合流して、なぜかやりきった顔をしたディルが気持ちよく敬礼をしている。
《守護女神近衛機兵団副長、特務重火班班長ディル! プラネテューヌ諜報部の要請による事情聴取完了しました!》
「ええそうねごくろうさまもうさがっていいわよにどとかおみせないで」
《そんなヤサイマシマシニンクアブラカラメみたいな呪文初めて聞きました》
心なしかアイエフの口調もどこか早口になっていた。
《名前はステマックス。所属は秘密結社『アフィ
「報告ありがと」
《それとアフィモウジャスについてですがもうひとつ。重要な情報が》
真剣な声色にアイエフも背を正して耳を傾ける。
「詳しく報告して」
《性癖は金髪巨乳。リーンボックスのみならず各国で発売されている同人誌を健全発禁問わず収集しているようです。直近では壁サークルの初版同人誌をプレミア価格で競り落としたとの情報が。同人誌タイトルですが「ドッピュ》
「死ね」
《あぁぁぁぁっぢぃぃぃぃーーーーー!!!》
警告無しでアイエフはディルの頭部めがけてデッドクリムゾンをぶっ放した。
こんな連中に頼むんじゃなかった。本当に頼むべきではなかった。何よりも困るのがどんな犯罪者だろうとコイツらの前では全員揃いも揃って口を割るものだからどうしようもない。
流石に他の諜報部員達に止められたが泣きたくなるのはこっちの方だ。
「人が真面目に耳を傾ければなによその情報!? 馬鹿じゃないの!? 必要な情報だけ聞き出せって言ってんの! 真面目に仕事する気がある!?」
《いえ、すいませんアイエフさん。多分この変態超真面目に仕事してます》
《詳しくって言われたから……めそめそ……》
「ぐ、っくくく……! 他にわかった情報は!」
《あ、本拠地は空中戦艦だそうです》
「そっちの方が重要でしょうがぁぁぁーーーー!!!」
アイエフの手から放たれた二発目の魔弾がディルの胸部ボディを黒焦げにした。
裏も取れた。確かな情報に涙目になりながらアイエフは取調室を後にする。
《ディル、どうした》
《女の子にひどいことされるのも、イイかもしんない……目覚めそう……!》
《死んでくれ可及的速やかに》
最近ちょっとコイツの性癖についていけそうにない、長い付き合いのジーンはそう思った。