超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
アフィモウジャスの待つ空中戦艦への突入作戦。いつも通りであれば守護女神達が高速で接近して突入したいところだが、なにせ相手は戦艦だ。張りついてさえしまえばこちらの物だがそこまでが過酷極まる。スピード勝負に持ち込みたいがそもそもそれすら厳しい。新幹線と併走して乗り込めと言われているようなものだ。
プラネタワー最上部、イストワールも含めた守護女神達と女神候補生が頭を捻る。「面倒くせぇ、もうこっからぶっ壊しちまおうぜ」とはブランの言葉。それはエヌラスの独壇場だ、とのことで満場一致で却下された。肝心の本人も今は行方不明となっている。
「困りましたね。となると……レオルドさん」
《はひゃいぃ! な、なんすか。死んだほうがいいっすか自分! ごめんなさい!》
「……いえ、その。守護女神近衛機兵団の方でなにか出来ませんか、と思いまして」
レオルドが部屋の片隅で縮こまっていた。借りてきた子猫どころかハムスターのようにビクビクしている。
《女神様と同じ場所にいてすいません! 同じ空気吸って生きてるとか思うだけで恐れ多くて死にます! 不敬罪っすか! ダメっすか俺!?》
「……忘れそうだけど、一応彼らハァドラインの一派なのよね」
そう。忘れそうになるが仮にも狂信者集団である。
しかし現リーダーであるレオルドの信心深さはネプテューヌのみならずノワールやブラン、ベールにも表れている。ましてや女神候補生も集まっているともなれば空気になりたくなるのも無理はない話だ。
それでも何かしら作戦立案をしてもらわないと話が進まない。
レオルドの前にイストワールが本に座ったまま浮遊すると、ため息をひとつ。
「いいですか、レオルドさん。今、貴方がわたし達と同じ場所に身を置いていただいている理由は空中戦艦攻略のためなんです。なにか巨大兵器に対抗できる武装など、心当たりはありませんか?」
《そ、そうは言われても……予算降りなくて……》
「この際、予算には目をつむるものとして。なにかあるんじゃないですか?」
《……一応、あるっす。でも、使っていいんすか……?》
「あるんだ!?」
驚きの声を挙げるアイエフに、レオルドがぎこちなく頷いた。それからどういった兵器なのかを思い出しながら説明する。なにせ使っていたのはだいぶ前の話だ。
《ええっと。俺等が演習で使っていた「サテライトバンカー」と呼ばれる衛星照射ビーコンのことなんですけれども──》
「なぁんだ、衛星砲なんてものあるんじゃーん! ──どええぇぇっ!? なにそれプラネテューヌにそんな兵器あること自体わたし初耳なんだけど!?」
《ひぃっ! ごめんなさい! 許してください! なんにも出来ませんけど!》
「あの、イストワール様。本当にそんなものあるんですか?」
「ありますよ?」
『あるんだ!?』
今度こそ全員が驚愕する。ただしそれは、あくまでも太陽光発電システムの一部、エネルギープランの一環として開発された衛星だ。それ単体に攻撃性能なんてものは欠片もない。──存在してはならないのは当然の話として、だがなぜそれが国境防衛隊に配備されているのか。その疑問を尋ねられて、レオルドはビクビクしながら答える。
《え、えっと……ほら、災害とか起きたりして電力供給が不足したりするじゃないっすか。だからそういった場合に備えて開発された、つまりは非常用超大容量外部バッテリーみたいなもんで……あの、ほら。あれっす。虫眼鏡で火を起こすのと一緒で、衛星がかき集めた熱量をビーコンに照射することで電力を賄うとか、そんな感じっす》
「…………思いの外めちゃくちゃ真っ当な理由だったわね」
《だから厳密に言うと衛星砲なんて物騒な代物じゃないっす》
しかし、それならばなぜ? ベールが頬に指を当てて小首をかしげる。
「どうしてそれが空中戦艦の攻略に使えると思ったんですの?」
《え。いや俺らの拠点もこれでシステムダウンさせられるからっすけど……》
レオルドが言うには、ビーコンの出力を調整することで周囲に電磁パルスを放射させられることに気づいた
今は亡き特務部隊隊長セインが弄くり回して修正不可能となった衛星照射ビーコンは、設置後に超出力サテライトレーザーを受信すると半径数メートルに電磁パルスを放射するクソ害悪な危険物に早変わりした。それ以来誰も使うことはなくなったという。
問題は「サテライトバンカー」に照射されるレーザーそのものにも同様の効果があることだ。
「それでそのはた迷惑なビーコンはどうしてるの?」
《第三資源採掘場に遺棄されてます。危ないんで》
「捨てないで管理しときなさいよ!」
《ご、ごめんなさい……ぶたないで……ぶたないでほしいっす……》
「ぶたないわよ!?」
怒るノワールにレオルドがすっかり怯えきってしまっている。
「とにかく。その第三資源採掘場に向かって、そのサテライトバンカーを回収してくればいいんでしょ」
《総重量軽く百キロ越えてるんで持ち運ぶのは大変だと思うっす》
「オメーが運ぶんだよ!!!」
《ぴえんっ!!》
ブランに怒鳴られ、泣く泣くレオルドは四女神達に同行して第三資源採掘場へと向かうこととなった。
かつて特務部隊トライアドの派遣地域──もとい、変態の巣窟。あるいは隔離施設。性癖の流刑地。悪夢の迷宮。様々な蔑称はあれど、そこはかつてプラネテューヌで活用される資源の採掘を行っていた坑道であることに変わりない。現在は稼働を停止しており、立ち入る人間もいなければモンスターも寄り付かない。
ちなみにアイエフも案内人として来てくれないか、という頼みは猛火の如く断られた。そこに行くくらいなら死んだほうがマシだとさえ涙を浮かべながら叫ばれては仕方ない。まるでその場所にトラウマでもあるかのような拒絶の真相を知るものは、その場にはいなかった。
プラネテューヌの森林地帯の奥深く、道路沿いから外れた場所。守護女神達が上空から降り立ち、レオルドだけは森林地帯を抜けて合流する。
坑道内部はトライアドが使っていた資材や機材諸々が放置されており、混沌としていた。
《あいつら掃除するってこと知らないんすかね……》
「ぅげ、なんだこの……煮詰めたゲロみてぇな臭いは」
ホワイトハートが鼻を押さえる。パープルハート達も顔をしかめていた。
見れば、セインの製薬工房が開け放たれたままになっている。臭いの元はそこらしく、レオルドが戸締まりをしっかりと確認してから換気扇を再稼働させた。坑道内の空気が外の新鮮なものに変わっていくと、ようやく守護女神達は胸を撫で下ろす。
予めレオルドがディル達から聞いていた場所を目指して坑道を進んでいくと、トンネルの途中で別れ道に突き当たった。吊り看板には『この先廃棄処理場』と書かれている。迷うことなく突き進んでいくと、さらなる混沌が待ち構えていた。
一言で言えばゴミ山である。
「ここ、資源採掘場じゃなかったの?」
《いやまぁ、その……名目上は。実際に資源採掘してたかどうかは怪しいところっすけど……》
「ゴミ山から探さなきゃならないわけね」
「そういえば、サテライトバンカーはどのような形状をしているのですか?」
グリーンハートの質問に、レオルドが腕を組む。
《えっと、こう──俺の胸くらいまであるデカい機械の松ぼっくりっす》
「……松ぼっくり」
《投げたりしても壊れない頑丈な機械なんで、多少雑に扱っても大丈夫だと思うんすけど》
「だったらこいつでスパッと散らしてやるぜ!」
ホワイトハートが狭い坑道内で白く大きな戦斧を振るい、氷塊を撃ち飛ばした。威力を控えめにしてあったからか、ゴミ山が散乱するだけに留まっている。粉砕されたゴミに関してもすぐさま凍りついて床や壁に張りついていた。
「へん、どうだ!」
「乱暴ですわね」
《ぶっ壊れてないっすよね……》
「多少雑に扱っても壊れねぇって言ったばっかだろうが! あぁん!?」
《殺さないでください! お金持ってないです!》
チャリーン(300クレジット)。
「カツアゲじゃねぇよ! いらねぇ! そんでもって所持金すっくな、お前隊長だろ!? 給料貰ってんのかよ……」
《俺らの新型フレーム作るのってお金かかるらしくて……》
現状八割の給料がその軍資金に当てられている。その上弾薬費も修理費用も全額差し引かれているだけでなく機体と武器の整備点検も維持費用が嵩んでいた。そのためレオルドの懐に入る金額はスライヌの涙ほどのクレジットしかないという。
ブラックハートが呆れていると、ゴミ山の中から頭を覗かせるメカニカルな物体を見つける。他のガラクタや薄汚れたジャンク品や古ぼけた雑誌と違い、新品のような輝きに大剣を振るう。風圧だけでゴミを取っ払うと、サテライトバンカーがゴトリと重厚な音を立てて転がった。
「ねぇ、捜し物ってこれじゃないの?」
《あ、それっす! よかったー。見たところまだ使えそうっすね》
「ノワールが壊さなくてよかったわね、レオルド」
「なによ! それを言ったらブランの方が先に壊しそうな勢いだったじゃない!」
「なんだとぉ!?」
「なに、やる気?」
「ちょっと二人共急に喧嘩腰にならないでちょうだい。一刻も早くアフィモウジャスをなんとかしないとわたし達のシェアが下がっていく一方なのよ?」
パープルハートに窘められて、二人が渋々引き下がる。女神化するとその自信から好戦的になるからか、ちょっとしたことで衝突しそうになってしまう。
レオルドがサテライトバンカーに不備がないかスキャンしているのをグリーンハートが様子を見守っていた。
「特に不備はありませんか?」
《問題無さそうっす。あとはコイツを持って帰るだけっすね》
「落とさないでよ?」
《大丈夫っす!》
言い終えるなり、レオルドはサテライトバンカーを投げる。アンダースローから綺麗な放物線を描いて緩やかに落下していく機械をキャッチして、再び同じ動作を繰り返す。
「重量と見た目の割に落下は緩やかですのね」
《あ、そうなんすよ。ほい。セインの奴があれこれいじくり回したせいでなんか中身の、反重力発生装置? 反射板? まぁなんか中身の放射物質が作用して重力に逆らうようになったみたいっす。もしコイツが、よいせっ、壊れたりなんかしたら汚染物質垂れ流しになるっすね》
「そんなもん投げんじゃねぇ!!!」
「もっと丁重に扱いなさいッ!!」
「それを持ったまま近づかないでいただけますか?」
「ごめんなさいレオルド、わたし達先に行ってるわね! 急ぐわよみんな!」
爆速で守護女神達は狭い坑道の中から飛び去っていった。
取り残されたレオルドは首を傾げる。──その汚染物質で俺達動いてるんすけど?