超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
空中戦艦アフィベース内部は複雑なダンジョンのような構造になっていた。内部もモンスター達が蔓延っており、レオルド達の行く手を阻む。しかし猛争モンスターでもない、通常モンスター。
《ふはははは! たかが雑魚モンスター程度でこの俺を止められるものかぁ! ターンエンド》
《終わってんじゃねぇよハゲ!》
《誰がハゲだこの野郎! 馬鹿! アホ! 間抜け! ゴリラチンパンジー! パキケファロザウルス!》
《パキケファロザウルス!?》
言動そのものは十割ふざけているが実力は折り紙付き。足を止める間もなく、すり抜けるようにして敵陣を切り抜けていく。
隣り合うエリアを繋ぐ通路でレオルドは安全を確認すると、ステマックスを下ろした。
すると、腕の拘束を解除する。
《な、何をするで御座るか……拙者は敵のはず》
《いや、そうなんすけど。立場上とはいえ、友達を拘束してるのはちょっと心苦しくて》
《友達……拙者が、レオルド殿の? しかし拙者は、皆を騙していたも同然で御座る》
守護女神近衛機兵団として治安維持部隊の名目で街の平和を守るためにモンスター達と激戦を繰り広げていたことはステマックスも風の噂を聞いていた。
危険と見た将軍の命令で監視していたが、そんな影の薄いステマックスに気づいてレオルドはよく声を掛けていた。
《騙すもなにも、気づかなかった俺が悪いんす。それにステマックスも、その将軍の命令で俺等を監視していたんじゃないっすか。なら気に病むことはないっすよ》
《レオルド殿……》
《お互い職務に忠実、よくあることっす》
《もし拙者が逃げたりしたらどうするつもりで御座るか?》
《…………ちょっと俺の口からは言えないっすね》
ステマックスが寒気に振り返ると、そこには変態三人衆。山のような変態が指を滑らかに動かしながら何かを揉む仕草で迫ってきていた。
《ステマックスゥ……お前かわいいなぁ……》
《びゃああああああっ!!! にににに逃げるなんて滅相もないで御座る!》
《よし、進軍再開! 目標、敵艦ブリッジ! 行くぞぉ!》
先行する三人がモンスターの群れに突入するとあっという間に敵を蹴散らしていく。
《ステマックス。ひとつ聞いてもいいっすか?》
《なんで御座るか、レオルド殿》
《将軍は一体なにを目論んでいるんすか?》
《……実は、拙者も詳細は知らされていないで御座る。詳しく聞こうとすると「お前には関係ない」と》
《なら、ちゃんと俺達に付いてきてください。真意を将軍の口から聞くまではぐれちゃ駄目っすよ》
《レオルド殿は、優しいで御座るな》
《万年ビリケツドベ太郎なんて言われていた俺っすけど、今の俺がここにいるのは支えてくれた仲間達のおかげっすからね。だから俺も誰かを支えたいって思ってるだけっす》
サムズアップすると、レオルドは腰部ブースターを吹かす。
《……友達、で御座るか……》
ステマックスはレオルドの言葉を繰り返し反芻してから、駆け出した。
その直後、艦内が激しく揺れ出す。
《ぉわあ! 大丈夫っすかステマックス!》
《思いっきり転んでるレオルド殿も大丈夫で御座るか!?》
《大丈夫! 慣れてるんで! 今の振動は何っすか!》
《おーいレオルド、外を見てみろ!》
特務隊は突然の衝撃をものともせずにしっかりと立っていた。通路の窓枠に張り付き、外を見るとゲイムギョウ界が一望できる。
《めっちゃ景色綺麗!》
《真面目に仕事しろって言ってんでしょうがグレートソード一閃!!!》
《ぐわぁああああーーーー!!!》
しかし、その高度はぐんぐん下がっていた。徐々に振動が収まっていくと、やがて着艦する。
《先程のサテライトバンカーが効いているらしいな》
《ジーン、それは本当か?》
《計器の狂った飛行機に乗っていたいか?》
確かに怖い。安全性を考慮すれば着陸させておくのが先決か。
レオルド達はアフィベースブリッジで待ち構えるアフィモウジャスの下へ急いだ。
その一方で、サテライトバンカー収容班は遮断装置に格納後、問題なく打ち上げを開始する。ロケットエンジンによる発射ではなく反重力装置による浮遊。まるで自由を与えられた風船のように浮き上がっていくテトラポットを観測して、問題ない事を確認するとシャニ達は頷いた。
《さーて、なんか戦艦も着陸してるし俺等も乗り込むか》
《シャニは行かないのか?》
ツキカゲとバズの二人が腕を組んで立ち尽くすシャニに振り返る。ゴウもまた、疑問符を浮かべていた。
《どうした?》
《……お前たちに聞きたいことがある。果たして俺達でシロトラ教官に敵うと思うか?》
《シャニ……》
戦闘用に“唯一”設計されたシャニは、装甲こそ薄いが機動力、ブースター容量、索敵範囲。全てにおいて最高水準に設計された二脚型だ。特務部隊を除けば、最強の強襲兵装だと自他共に認めている。人格構成プログラムもまた、エリート志向。実力主義者だ。だからこそ誰よりもシロトラに憧れている反面、レオルドに強く当たりがちなのも知っている。
そのシャニが。総力を挙げて敵うかどうかと問いかける。
《俺は思わない》
《でも新型フレームをグラさんが作ってるじゃねぇか。アレを使えばいいとこいくんじゃあないか?》
《バカを言うな。思い出せ、俺達が造られた理由を。──勝てるとしたら、レオルドだけだ》
忘れもしない。忘れてもいない。
レオルドを除いた全員が、レオルドのためだけに造られた。その真相を知らないのは当人だけ。
《だから何があろうと俺達でアイツを守り抜く。新型も俺が使う》
《いいんじゃねーの? どうせ泣き言言われるだろうけどさ》
《そうそう。正直、守護女神様がどうのこうのとかわからんけど。友達が大切な人って言ってんだから、それ守るために命張るのも業務の一環》
《そうと決まれば俺は教会へ戻る。グラさんに掛け合ってくる、調整も必要になるからな》
《オーケーだ、こっちは俺等に任せとけシャニ。ゴウさん、行きますよ》
《待て。イストワール様から通達だ。……ゴールドサァドが現在こちらへ向かっているそうだ》
その護衛をロゼが務めているらしい。確かにアイツの堅牢さならば問題はないが……ゴールドサァドがなぜ? 疑問に思いながらも突入準備を進めていた三名は到着するまでの間、現場で待機となった。
──零次元に放り出されたエヌラスは、うずめと海男を連れて当てもなく廃墟を歩き回る。
「さーて、どうすっかね。帰ろうにも帰れねぇしな」
「……なぁ、エヌラス」
「ん? なんだ」
「その、俺の気の所為ならいいんだけどよ……なんか、前よりも禍々しくなってないか?」
「気にすんな。俺の中にある均衡が崩れて、化け物に偏ってるだけだ」
自分の身体は、本当にギリギリの均衡の上で成り立っていた。それが崩れ去ったことで身体が維持できなくなった、という話をうずめにすると泣きそうな顔をされる。こうも新鮮な反応をされるとエヌラスも驚く他になかった。
「じゃあ、今のエヌラスは──俺の敵ってことなのか?」
「少なくともお前と戦う気はねぇよ。死ぬまで女神の味方だ」
うずめに背中を見せて歩きだして、すぐに足を止める。
崩れ去り、人気のない廃墟の町並み。気が滅入るほど灰色の世界にあって、一点だけ白無垢のごとく輝かしい白銀の騎士が佇んでいた。
──シロトラ。
「よりによってテメェかよ」
《…………》
ハァドラインの筆頭目。無機質なバイザーのアイカメラがエヌラスを見つめている。
「……?」
正確には、その背後。身構える天王星うずめに視線を向けていた。
シロトラの手にはブースター付の大剣が携えられている。こちらを倒そうと思えば、いつでもやれるはずだが、一向に動く気配がない。
「お、おい! なんとか言ったらどうなんだよ!」
「うずめ。あまり彼を刺激しない方がよさそうだ」
《……エヌラス。話がある、ついてこい》
うずめの言葉を無視して背を向けたシロトラが廃ビルの角に消えていく。
「な、なんだぁあの野郎……」
「ともかく俺に話があるらしい。ちょっと行ってくる」
「ヤバくなったらすぐ呼べよ」
エヌラスは小さく頷くと、シロトラの後を追いかけた。
廃ビルの影、裏路地を抜けて寂れた公園に出る。
かつては咲き誇っていた森林公園は荒れ果て、木々は朽ち果てていた。ベンチも錆付き、腰を下ろせば壊れてしまいそうだ。
周囲を見渡せば、枯れた噴水の前でシロトラは佇んでいる。
いつでも倭刀を抜ける状態に構えつつエヌラスは近づいた。
「俺に話ってなんだ」
《……彼女の名前は、天王星うずめで間違いないか》
「それがどうした」
《そうか……彼女がそうなのか……》
エヌラスは妙な違和感を覚えていた。
「お前はプラネテューヌのハァドラインなんだろ? だったらネプテューヌの狂信者なんじゃねぇのか」
《そうだな。そのはずだ──
「何が目的だ、お前」
単刀直入に話題に切り込むと、シロトラが視線を外す。その方角は零次元の北東部。うずめの話ではダークメガミの手によって破壊された場所だ。そして次元の裂け目が出来ている場所でもある。
《──絶望の邪神、ヌルズ・エクス・モルテスの計画が最終段階に入った》
「…………そうかよ」
《実行されるのも時間の問題だろう。だがそれには超次元の四女神が邪魔になる》
死にかけのこっちには見向きもされないことに歯がゆさを覚えつつ、抑え込む。
《我々の協力者が、その排除に乗り出した》
「そう簡単にやられるものとは考えられねぇけどな」
《だろうな。私もそう信じている》
「……テメェ、どっちの味方だ」
《愚問だな。私は私の信じる者の味方だ。今この場で、貴様の命が残っていることをありがたく思え》
「はいはいそうだなくそったれ。それで話はそれだけか?」
《いいや。本題はこれからだ。折り行って頼みがある──彼女を、天王星うずめを超次元に連れて行ってやってくれないか》
「はぁ?」
突然の頼みにエヌラスは思わず喧嘩腰になってしまった。そもそもその帰り道すらわからないというのに連れて行けとか喧嘩売ってんのかポンコツ野郎は。
「いやだから、そもそもなぁ」
《超次元への道ならばこちらで手配する》
「…………お前、なにが目的だ?」
誰の味方なのかもわからない。何が目的で動いているのかもわからない。信じるのは自分だけ。そういった相手は不気味で仕方がない。警戒されるのは当然と言える。
シロトラは自分の機械の掌に視線を落として拳を作った。
《私の目的は、女神を守ること──今はそう断言できる。そしてその相手が天王星うずめであることも》
「……お前のその口ぶりじゃ、うずめもプラネテューヌの女神ってことになるんだが……あー、もういいわ。ゴチャゴチャ考えんの面倒くせぇ、とにかくこっちから超次元へ繋がる道を用意してもらえるなら何も言う事ねぇよ」
《感謝する、エヌラス。こちらもすぐに手配する、しばらく待っていてくれ》
背中の高出力ツインバーニアから甲高い音を立てながらシロトラが駆けていく。遠ざかる白い背中を見据えたままエヌラスはため息を吐いた。
「……アイツらの中じゃ、俺なんかとっくに眼中にねぇってのか。ムカつくな、やっぱ」