超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──心次元。全てが滅び去った次元世界を繋ぎ止めるのは、超巨大シェアクリスタル。
シロトラは崩れた地面を次々と跳躍しながら渡り歩き、目的の場所へと降り立つ。
《──“
「んー」
《例の侵入者ですが、取るに足らない相手です。死にかけた魔人でした》
「そっか」
何をするでもなく、もうひとりのうずめは自分の掌を見つめていた。シロトラの言葉を右から左に聞き流している。手頃な瓦礫に腰を下ろして足をプラプラと揺らした。
やがて呆れたようにため息を吐き出す。
「オレは悲しいよ。アフィモウジャスが裏切っただけでなく、まさか女神達に敗れてしまったなんてね……それどころか、ゴールドサァドまで敵に回るなんて。さぁてどうしよっか?」
事の顛末を見守っていたが結果は見えていた。クスクスと不敵な笑みを浮かべながら、壊れた空を眺めている。
シロトラが周囲を見渡すと、本来ならばいるはずの邪神の姿が見えないことに疑問を持つ。
《ヌルズの姿が見えないようですが、どちらに?》
「あぁ。彼なら、アダルトゲイムギョウ界を滅ぼす手配を整えているよ。他の魔人達はどうにも自由奔放みたいだからね」
《……クロギアを動かせばいいだけのことでは》
「んー、そうなんだけどさ。どうせやるならやっぱり、全部、なにもかもメチャクチャにしてから滅ぼしてやった方が面白いと思ってさ」
次元崩壊の演算を終えてから、絶望の邪神は念を押して下準備に務めていた。
「オレのダークメガミは残り三人しかいないからね。これは全部超次元を滅亡させるためだけに用意している。とはいえ、そうだな……そろそろ死にかけの魔人にはご退場願おうか?」
《存在の核を奪われて、なお、今日まで生き延びた魔人です。相当な戦力を消耗すると思われますが──》
「うーん、そうだねぇ。実に面倒だ。さぁて、どうしよっか」
鼻歌交じりに足を揺らして、そこでようやく黒いうずめの視線がシロトラを捉える。だが、すぐに視線を外して結った髪先を指で弄りだした。まるで自分の視界に入れたくないとでも言いたげな仕草に、しかしシロトラは直立不動の姿勢を崩さない。
「その利口な頭でなにか考えられないのかい?」
《……ならば、僭越ながらひとつ妙策を》
「一応聞いておこうか」
《邪神狩りを果たし、今日まで生き延びた魔人。ハァド大戦の折、邪神ヌルズと相対しておきながらまだ生きている生存能力には驚嘆を禁じえません。生半可な戦力では排除することは不可能と断言できます》
「へぇ、随分肩入れしてるじゃないか」
《──そこで提案なのですが。所詮、魔人は守護女神の敵。超次元の女神達に排除させるのはいかがでしょう》
シロトラの言葉に、黒いうずめはキョトンとした表情を見せた。
《こちらの戦力を減らすことなく、その上で敵方の要を切り崩し、のみならず貴方様の復讐の慰み者にもなるでしょう。どちらに転ぼうとも、精神的ダメージは計り知れないものとなります》
補足してから如何でしょうか、と反応を窺うと手応えは上々。ひとしきり高笑いをしてから、ようやくこみ上げてきた笑いを抑え込むと黒いうずめは微笑んでいた。
「あぁ、どんなくだらない提案かと思ったら──いいね。それは最高だ。採用しよう」
《ありがとうございます。計画に万の一つも狂いがあってはならない。俺はこれから零次元に残る二人を超次元へ遠ざけます》
「そっちは任せるよ。オレはちょっと準備があるからさ」
《それでは、うずめ様。また後ほど》
ヒラヒラと手を振る姿に背筋を正した敬礼を残してシロトラは踵を返す。
《クロワール、手を貸せ》
「おうよー!」
名前を呼ばれて素早く飛んでくるクロワールは黒い蝶々のような姿をしていた。大ネプテューヌはクロギアの話し相手になっている。その大半の話題を聞き流されてちょっとめげそうになりながらも必死に身振り手振りとマジェコンヌを巻き込みながら頑張っていた。
「へへ、いやまったくお前も人が悪いったらねぇな!」
《オレは機械だ。心などあろうがなかろうがどうでもいい。それとわかっているとは思うが》
「わかってるっての、余計な事を言うな、だろ?」
《理解しているのならばそれでいい》
──シロトラと別れてからエヌラスはすぐにうずめと合流する。何があったのか、怪我はないかどうかとしきりに心配されるものの、ただの世間話で終わった。世間話で済ませるにはあまりにも内容が過激だったかもしれないが。
「なんつうか、俺が此処に来たのが敵にバレたっぽいんだよな。そんで、どういう理由かお前を連れて超次元に帰れって言われた」
「……なんで?」
「俺が知りてぇんだ……なに考えてんのか全っ然わからねぇ。ロボットだから表情も変わらねぇし顔色窺うのも馬鹿馬鹿しいし電子音声の抑揚は薄っぺらくて全然わからん」
とにかく何にもわからない。アルシュベイトは厳密にはロボットではないし、アレほど人情に溢れた漢も知らない。
うずめも腕を組んで悩む素振りを見せていた。
「エヌラスは知らないかもしんないけどさ……俺、どうしてもアイツが悪い奴には思えねぇんだ」
「そりゃまたどうして」
「カッコいい、ってのもあるんだけどよ」
「まぁビジュアル的には正統派主人公メカって感じで俺も嫌いじゃねぇが敵だしな……」
「なんつうか、うまく言葉にできないんだけど……懐かしい気がしてさ」
そういえばうずめは記憶喪失だった事を思い出す。そのうずめが懐かしさを覚えるということは、なにか過去の手がかりに繋がるのかもしれない──エヌラスはシロトラがうずめに対して敵意を見せていなかったことの理由がそこにあると見て考える。
しかし、そうなるとどうしても解せないのが零次元の存在だ。
うずめがプラネテューヌの守護女神だったとして。プルルートの存在も加味した上で考えるものの、やはりどうしても零次元だけが引っかかる。
(なんつうか、妙なんだよなこの次元……滅んでるっつー割には随分とまぁ長生きっつうか……雑草みてぇなしぶとさっつうか)
ダークメガミという存在も気がかりだ。ダークパープルだけ、とは考え難い。となれば残りの三人も存在していると考えてもいいだろう。
思考に没頭するエヌラスが口寂しさを覚えてポケットから携帯タバコを取り出すと、その中からドラッグシガーを一本口に咥える。
着火しようと右手の指を鳴らして──そこにクトゥグアの魔術刻印が無いことを思い出した。
「くそったれ……」
自分でやったことだろうが、と毒づいてからファイアスターターで着火する。
右手ではなく左手で紫煙を吐き出すと、うずめからの視線に気がついた。指を絡めあわせて緩みきった顔をしている。
「ほにゃあ~……」
「…………ぼばっふっ!?」
何今の鳴き声!? エヌラスは思わずむせた。変なとこに入って盛大に咳き込む。味覚が死んでいるからか、いつもの柑橘系の香りが薄く感じた。ただ口内に煙たい感触だけがあった。
「わぁ!? エヌラス大丈夫か!?」
「げっほごほっおっふっしぬっ! あーびっくりした……! なんだうずめ……」
「え!? あ、あー……その、タバコっておいしいのかなって思ってよ!」
「やめとけ、ろくなもんじゃねぇ。特に俺のは最たる例だ」
効能から何から何まで説明すると、羨望の眼差しからだんだんと青ざめた顔になっていく。
「そんなもん吸うなよ……」
「だから俺は必ず言うようにしてんだ。絶対にやめとけって。相手がどんな聖人君子だろうが煙草吸うやつはろくなもんじゃねぇ」
シロトラが戻ってくるまでの間、エヌラスは一服していた。
携帯灰皿に吸い殻を入れると、ちょうど相手が戻ってくる。その背後に何やら見覚えのある黒い蝶々が見えた。
《お待たせいたしました、うずめ様》
「お、おう……よきにはからえ」
「なんか見覚えのある奴がいる気がするんだが?」
「よー! 久しぶりだなエヌラス! へへ、こんなとこで会うなんて奇遇だな」
「こんなとこで、ね……」
鼻で笑う。灯りに誘われる蛾ほど馬鹿ではない。奇遇? 馬鹿を言え。
「なんでテメェがいるんだよ、クロワール」
「面白そうな方の味方すんのがオレの信条でね。悪く思うんじゃねーぞ」
《無駄口はそこまでにしてもらおう。場所を変えるぞ》
──シロトラが案内したのは、廃墟の町並みから外れた寂れた荒野。エヌラスは土塊を足でどかすとそこから枯れた雑草の根を見つけた。どうやらここは元々草原だったようだ。
「そーらよっと」
クロワールがふわりと舞うと、エヌラスとうずめの前にワープゲートが現れる。次元渡航していた時にすっかり見慣れてしまったものの、こうもあっさりと作られてしまうとエヌラスはやるせない気持ちでいっぱいになった。
うずめが固唾を飲む。──この先にネプテューヌ達がいると思うだけで、頬が綻ぶ。だがその期待と同じくらい恐怖があった。
「うずめ。こっちは私に任せて、行ってくるといい」
「海男……」
「ところでクロワール。これ抜けたら青空に放り出されるなんてこと起きねぇよな?」
「大丈夫だって。そんなことしたらオレがコイツに殺されちまう」
《…………安全なんだろうな、クロワール》
ガチャリと音を立ててブルースザッパーを構えるシロトラにクロワールが慌てて大丈夫だと連呼する。安全な場所にワープゲートを作ったと弁明していた。
足踏みするうずめの手を掴み、エヌラスはワープゲートに踏み込む。
二人の姿が完全に消えてから海男はヒレを組んでシロトラを見上げていた。
「さて。君のことをいくつか質問させてもらってもいいかな」
《すまないが魚類と交わす舌など無い。クロワール、帰投するぞ》
「へいへい。まったく冗談通じねぇロボット様だこと。このワープゲートはどうすんだ?」
《そこに残しておけ。彼女がいつでも戻ってこれるようにな》
海男を一瞥してシロトラが歩き出す。
《こちらから危害を加える真似はしない》
「取るに足らない存在だからかい?」
《……彼女の支えだからだ》
クロワールが肩に止まると、身を屈めて背中のバーニアをフル稼働させて駆け出した。ブルースザッパーで空気を切り裂きながら甲高い音を残して走り去っていく背中を見送って海男は深く息を吐き出す。
あの言葉に嘘偽りはどこにもなかった。だが純白の騎士はどこか言葉にならない不気味さが尾を引いている。
──人はそれを“おぞましい”と呼ぶものだ。