超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
『さぁ~~、それでは皆さァん! レッツ、エンジョイ・ジェノサイドォ!! そーら走れ逃げろ逃げ惑えぇ、路頭に彷徨う僕らの愛犬ロシナンテの如く! ああ、なんだかボクはとても眠いんだ……おはようございまぁす! 朝刊一部くださいなァー! 目覚ましテロ、テロなのねぇん!?』
奇怪な言葉を垂れ流しながらも天災ジェノサイダー君は教会へ向けて移動している。その移動速度は亀より遅い。むしろ進行途中で壊れるのではないかと時折怪しい挙動を見せながら歩いている(?)のだが、それによってもたらされる被害の拡大は並々ならぬ経済的打撃だった。
「エヌラス、どうにかできませんの?」
「手術直後で両腕の感覚がない俺にどうしろと? ていうか今までどうしてたんだよ」
「それはもちろん、アサイラムが全力で潰してました」
「じゃあ今回もそうしろよ」
「出来る限り楽したいではありませんか!」
「そーだそーだー!」
「分かってくれますかネプテューヌさん!」
「分かるよクイーン! 楽したいよね!」
「ですわ!」「だよね!」
二人はがっしりと手を取り合って抱き合った。意気投合するのはいいが街の壊滅的打撃は現在進行中である。エヌラスはノワールの膝から頭を持ち上げようとして、頭痛に襲われた。急激な効能低下による脳の仮想収縮は副作用のようなものである。
「しっかりして、エヌラス。大丈夫よ、大丈夫……よしよし」
「ぬぅぅおぉぉぉあぁぁぁ……!」
呻きながら苦しみもがいて、悶え抜いたエヌラスが身体を起き上がらせた。
「クイーン。携帯貸してくれ……」
「そのようなモノ、持ち歩いておりませんわ」
「ぬぅおおおぉぉい!?」
「あ、じゃあ私のNギアでどうですか?」
「それだ! でかしたネプギア!」
頭をくしゃくしゃに撫でてやりたいところだが、腕が動かないので褒めるだけに留めておく。それを見て、やはりネプテューヌが面白くなさそうに頬を膨らませた。Nギアを取り出して、エヌラスに言われた通りに操作するとすぐに自宅に繋がる。
『お待たせいたしました。ご用件の方をお願い致します』
「スピカ。俺だ、エヌラスだ」
『あら、エヌラス様。どうかなさいましたか? ノイズがひどいようですが』
「街でいつもの破壊ロボが出た。その駆除にお前達の手を借りたい」
『そうは言われましても、私共も掃除などで忙しく――』
『スピカー、ゲームしよう! 暇してるしさー! 掃除も終わったし、ご主人様の部屋でお気に入りのエロ本も堪能したし、それとなくゴムに穴開けておいたから――』
チュドンボガンダダダダダダダ――!
『大変申し訳ありません、今しがた仕事が増えました』
『びゃあああああ!! スピカが本気で撃ったぁぁぁぁぁ!!!』
「泣きたい通り越して死にたい通り越していますぐ帰ってテメェら殺したい気分だよ。いいから来いっつってんだよバカヤロウが。これ以上俺を怒らせるつもりか?」
『いえ、そのような……! ほ、ほらカルネ。支度しなさい!』
『グスッ……だってぇスピカが撃ったぁぁぁ……うぇええええん!!』
『ああほら、いいこいいこ~……で、ではご主人様。すぐに参りますね!』
「三分で来い。それ以上は俺がブチ切れる」
『は、ははははいぃ! 今すぐに!!』
魔導施術を受けてまだ一時間も経過していない。だがエヌラスは怒りで頭がどうにかなりそうだった。それを理性で制御して流し込んだ両腕の感覚は痺れるようだが、戻りつつある。驚異的な回復力にはブシドーもバトラーも感心していた。
それから、二分足らずでスピカとカルネが飛んでくる。文字通り。息一つ乱さず、身だしなみ一つ崩さずに主人の下に馳せ参じて直立不動の体勢から一礼。
『大変お待たせ致しました、エヌラス様』
「言われた通り三分以内に来たな、上出来だ」
それにホッと一息、安堵した二人だが――
「帰ったら首から下はぶっ壊す。覚悟しとけ」
次の一言で、一気に顔から血の気が引いた。
「そうされたくなけりゃ、どうするか分かるな? ああ、いやなに。お前らは俺が手がけた、これ以上ない“最高傑作”だ。優秀なのは分かってる――だから、これ以上、俺の手を煩わせるようなことは、万が一にもねぇよなぁ!」
怒っている。エヌラスは今、完全にキレていた。本人がどう意識しているかは分からないが、その頬がひきつっている。こめかみに浮かぶ青筋に二人の背中は氷柱でも刺したように冷たく震えていた。
「限界駆動を許可する。せいぜいぶっ壊れるまで役に立て、
『ありがとうございます!』
エヌラスを見て、ブシドー達を見て、ネプテューヌ達を見て、そして破壊ロボを見上げて、二人は跳ねるようにその場で最善を尽くすべき相手を認識する。朽ち捨てられたビルに巣食っていた魔導生命体の群れは翼竜や四足の肉食獣、巨大トカゲが殆どだ。中には見慣れない進化を遂げたものたちもいるが、それは人間が変質したものが彼らの
カルネが胸元を開き、スピカがロングスカートを留めていたピンを外す。
「魔導燃焼機関《ハザード・ランプ》最大燃焼――!」
ギギギギ――、鈍重な歯車の音を立てて――ガチン! “噛み合った歯車”の音と共にカルネの髪留めがはじけ飛んだ。そして、その銀の髪が根本から毛先まで紅く染まっていく。その口から熱い吐息が漏れた。
「いィィのちを、燃ォォやせェェェーーーー!!!」
左手の剣指で朱い太刀をひと無ですると、真っ赤な陽炎が揺らめく。限界まで燃焼させた魔導燃焼機関《ハザード・ランプ》による超魔導炎熱の属性付与は、物理のみならず超常現象すら灼き尽くす神性の炎だ。ぐっと身を屈めて、群れの只中に臆することなく――それ以上の恐怖に駆られて――カルネが飛び込む。一閃、更に一閃。更に更にその更に、加速していく斬撃は留まるところを知らない。人間の限界ですら越えた超神速の抜刀がカルネの周囲で血風となって火の粉と共に舞い散る。
「そぉーら、そらそらそらそらそらぁ! オラオラオラオラオラオラー! 今日の私は一味違うぞー! 死ぬほど怖いぞご主人様ー! あーっはっはっは、やべぇ超涙出てくるぅぅーー!!」
目にも留まらぬ斬撃を周囲に奔らせながら自動車を追い越して走っていく。刀を担いだメイドが群れに突っ込んで来て、それに翼竜達が殺到しようと――ガチャリ、と鈍重な音が構えられるのを“頭上”から聞いて絶命した。乾いた破裂音に頭を撃ち抜かれて死んでいく。
スピカは、ビルの壁に“張り付いていた”。片腕を壁面にめり込ませて、飛びかかる翼竜達を避ける為に壁面を蹴り飛ばす。それだけで破片が何十と地面に降り注ぐが、知ったこっちゃねぇと言わんばかりにツインテールの髪留めを外した。
「拘束制御:任意解除――“無間心臓”稼動開始」
掌で踊るピックにも似た髪留めから、“はらり”と一筋の光が垂れる。それはすぐに消えて見えなくなってしまったが、確かに存在した。それが紡ぐのは――。
「死ぬまで踊れ、タップダンスの時間だ」
スカートの中に隠し持っていた多重次元位相偏差空間へ保管していた無限の銃火器。
キリリリィ――。“見えない”はずの鋼糸が張り詰める音。それを手繰るのはスピカの両手だ。
まるで流星群がスカートの中から溢れ出すように翼竜達は残らず肉片となって絶叫しながら死んでいく。
「オラオラオラァどうしたぁ! ピーピー泣いてんじゃねぇぞ害獣共がァァァァ!! 死ね、死んでしまえ、死んで腐って死に絶えろ! 一匹残さずブチ殺しにしてやる!」
スカートの範囲外、背後から接近した翼竜が頭を“握り潰されて”死んだ。クリスヴェクターコンバットカスタムを構えて、今度こそは全方位に弾幕を張りながらスピカはビルの壁を蹴りながら翼竜達の肉片を地上にプレゼントしていく。
そして、地上と上空で二人のメイドが暴れ回っていたが、それでも増え続ける魔導生命体の数は計り知れない。破壊ロボ自体の破壊は、至極簡単なのだ。だが、その巨体と鈍重な動きによってもたらされる被害はご覧の有様。これが破壊ロボが破壊ロボたる由縁なのだが老朽化した建物を無料でぶっ壊してくれるのでそれはそれで一部の解体業者から嬉しい悲鳴。いや仕事しろよ、職務放棄すんな。そうすればここまで被害はでかくならないだろうに。
ブシドーとバトラーの目前にまで魔導生命体は迫っていた。
「喝ッ!」
短く、一息で目前に迫る等身大の恐竜じみた骨格の魔導生命体をなます切りにするブシドー。その隣、燕尾服を着た執事は無手だった。だが、革手袋を鳴らすほど握りしめた拳が消える。
「シッ!」
ほんの短い動作、牽制程度のジャブ。だがそれは、類人猿のような魔導生命体の骨格をタコのように砕きながら全身に打ち込まれていた。都合、十六発。全てが急所と関節を砕いている。
ブシドーは肩に刀を担ぎあげながら歩み出る。
その隣でバトラーは革手袋の爪先を詰め、ネクタイを緩めていた。
この狂気の混沌とした街の中で、その狂気に正面から正気で挑むは二人。荒れ狂う瘴気を、狂気の沙汰にも等しく日本刀と拳で斬り裂き、打ち砕く。
「懐かしいものよな、こうしてお主に背を預ける形とは」
「ええ、そうですね」
大魔導師に挑むとき以来だ――この二人で持ってしてもあくびをしながら片腕一本であしらわれたものだ。
「あの御方に比べればこの程度、困難にも数えられませんね。行きますよ、ブシドー」
「違いない。推して参る!」
そして、ネプテューヌ達の下に走ってくる魔導生命体は一匹もいなかった。
なぜなら辿り着く前にスピカに撃ち抜かれるか、カルネに斬られるか、ブシドーに斬られるか、バトラーの拳で砕かれていたからである。クイーンを含めた女性陣と、エヌラスの足元に転がってくるのは即死した魔導生命体だけだ。
「……これ、私達必要?」
「生き残りが一匹でも俺達の足元に転がり込んできたら、その時はあの二人の首から下が無くなってる」
「こわ……」
ノワールの背筋が震える。今のエヌラスは、何というかいつもの冗談のような怒り方ではなく本気で頭に来ているのが分かった。その怒りの源がスピカとカルネの二人であるというのは言うまでもないが、チラリとネプテューヌを盗み見る。
「……ねぇ、エヌラス」
「あん?」
「そんな睨まないでよ。もしかしてネプテューヌにだけ冷たい理由って……」
「カルネに似てんだよ」
「逆じゃないそれ! カルネが私に性格似てるからだよね!」
「ぶっ殺すぞ」
「まさかのブッコロリ宣言!?」
「……今、俺の両腕が動かないことに死ぬほど感謝しとけネプテューヌ」
「え~っと……あんまり聞きたくないけど聞いておくね。腕が動いてたら、どうしてたの?」
「“螺旋砲塔”神銃形態と超電磁抜刀術のどっちがいい?」
「どっちもやだよっ!! 死んじゃうから!!!」
本気でネプテューヌが嫌がって涙目になりながらエヌラスに泣きついた。
「なんでそんな怒るのさー、私そんなにウザいー!?」
「テメェがぐぅかわなのがすんげぇムカつくんだよ!」
「なにそれ超理不尽!」
「っていうかさりげなくかわいいって言ってるし……」
「多分、気づいてませんよエヌラスさん……」
「あと基本的にテンション高ぇから付き合うのが大変なんだよ!」
「メソメソしてたってやりたいことやったもん勝ちだよー! ドヤァ!」
「ぶん殴りてぇぇぇぇ……!!」
「あ、テンション高くて大変っていうのは分かるわ」
ノワールがさりげなく同意している足元に全身の関節を砕かれた魔導生命体が滑りこんできたが、エヌラスに蹴り飛ばされて逃げ遅れていた酔っぱらいの足元を引っ掛けた。口から吐き出される飲み過ぎた昨夜の消化物と思い出に名も知らぬ酔っぱらいが沈む。