超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
余計なことを口走りそうになる度にぶん殴られ、機体にダメージが出てきたことでシュラは本格的に口を閉ざして作業に集中しだした。既に頭部のカバーユニットが凹み、なんなら肩部装甲は肩甲骨剥がしよろしく引っ剥がされそうになっている。ここまでされたらどんな馬鹿でも気づくだろう。「このままでは殺される」と。
妙な緊張感の中でデータ修復作業が続けられる。レオルドも見つけた携帯端末の内部データを復元しているが、損傷状況もそうだが文字化けが多い。
二人にデータ調査を任せてバズとゼブラは施設内部の調査任務に戻った。もしかしたらなにか他にも使える物があるかもしれない。
《──解析完了。ソウルブラザー、こいつを見てくれ。モニターに出す》
シュラがコンソールを叩くと液晶のひび割れたモニターが明滅し、やがて映像が映し出された。どうやら此処は研究施設だったらしく、作業着姿の職員が慌ただしく駆け回っている。
「この映像は?」
《復元できた唯一の映像記録だ。他の記録は全て破損しているか、削除されていた》
音声データも劣化がひどく、ぶつ切りの音声に無音の状態が続いていた。
激しく揺れる施設で爆発が起きている。避難誘導をしている人物は恐らく警備員だろう。だが、壁を破壊して迫るモンスター達にどうすることもできずに逃げ出していた。
映像記録はそこで終わっている。ものの数秒程度だった。
「……今の映像、最後にモンスターが出てきた辺りで止めてもらえるか?」
《わかった》
巻き戻し、通路を埋め尽くすモンスターの大群がカメラの端に映りだしたところで一時停止する。画質も悪く、ぼやけているがそれでもエヌラスはじっと注視していた。
「コイツ等……猛争モンスターじゃないか? 輪郭がぼやけてるが、黒いオーラみたいなのを纏っているように見える」
《画質補正かけようにも、そもそもモニターの画質そのものが悪くてこれが限界だ》
「なんで此処が襲われてんだ?」
《それはわからない。レオルド、そっちのデータはどうだ?》
シュラが尋ねるとうんうん唸って苦戦していたレオルドが端末を操作している。
《なんか、大したデータは入ってなかったっす》
《そっかぁ》
《業務日誌みたいなものっすね》
「メチャクチャ大事じゃねぇか!」
《いや、でもほら! 人様の日記読むのって躊躇われません!?》
エヌラスが携帯端末をひったくり、中身を確認した。
──■月■日 担当■ ────
本日の業務内容 製造機体■■■■稼働記録 ■日目
備考 現在も安定した稼働率を確認。モンスター討伐記録も順調に更新。精鋭部隊への入隊も時間の問題だろう。
「……ただの日記じゃねぇか」
《だから言ったじゃないっすか……》
辛うじて読めるその文言から、ここがロボット生産工場だったことが推察される。だがそうなるとますます疑問になるのが映像記録だ。
モンスターを討伐できる性能を持つ戦闘ロボットの生産工場が襲撃されるというのは、なにか明確な意思があってのことか。
近づくホバー音に振り返ると、バズが顔を覗かせる。
《みんな、ちょっと来てくれ。とんでもねぇもの見つけたぞ》
──バズとゼブラが見つけたのは、地下への入口。
製造機体の安置場だったのか、同じ形状、同じ武装のロボットが無数にクレーンで吊り下げられていた。
《これは──》
《……シロトラ教官?》
細かなディテールは異なるものの、そこに安置されていたのは、まさしくシロトラと同系統の機体ブランドのロボットだった。
手にしているブルースザッパーも小型だ。それだけではない、頭部のバイザーアイカメラも小さく、全体的に幼い印象を受ける。ロボットの幼体、とでも言うように。
その場所にロボットであるレオルド達は嫌悪感を覚えたのか尻込みしていた。
エヌラスは構わず手短な一体を観察する。
およそ二メートル前後。サイズとしては機人達と大差はない。レオルド達と違い、武装は共通していた。関節部をチェックすると、拡張性能は完全に廃止されている。そのことから生産性に特化された量産型であることは容易に想像できた。
装備も右手に保持された剣のみ。切っ先が二股に別れているのは、エネルギーライフルも兼ねていることだろう。その特徴もやはりシロトラの持つ大剣と合致している。
新品同然の機体が無事なのは、この地下施設への入口は完全に隠蔽されていたからだ。たまたまバズがホバーで通りがかった時に音が違ったことから発見できたようなものだ。
そこで新兵の彼らは生まれることなく、そのまま死産されて忘れ去られている。
「死体安置所じゃあるまいし」
《ど、どうするっすかコレ……》
「残しといても仕方ねぇからぶっ壊していく。シュラ、お前確か爆薬持ってたよな?」
起動されても厄介だ。
シュラが地下施設に爆薬をセットし、ゼブラが恐る恐る機体を調べてみる。
《教官が量産型だったとはな……しかも完全に戦闘用だろ、コレ? 信じられないな》
《だが見たところ機体出力も低そうだ。数を用意するということは、当時はそれだけモンスターの猛威に人々が晒されていたということだろう》
エヌラスがもののついでと言わんばかりに爆薬の近くにこじ開けた弾薬箱のグレネードをばらまいていった。そのひとつが足元に転がり込んできて、レオルドが手に取る。
《これ……シロトラ教官がよく使っているエネルギーナパームにそっくりっす》
《アレくっそ痛いんだよな》
《痺れるし熱いし動きにくいしで本当に当たりたくない。いやぁ懐かしい》
「懐かしんでる場合か、とっとと離脱するぞ」
もう少し踏み込んで調査を進めたいところだが、得られるデータの破損箇所が多い以上長居するよりも他の場所を探索した方が良さそうだ。
地下施設の扉を閉めようとして、一度だけレオルドが振り向く。
──量産された機体。戦争への備えとして用意された鋼鉄の兵士達。
それが、今の自分達と何が違うのだろうか。そう思いながら、手に持ったエネルギーナパームをそっと室内に転がした。
来た道を引き返していると、徐々に照明が点滅し始める。どうやら非常電源の残量が底をつきそうになっているようだ。エヌラス達は先を急ぎ、生産工場を駆け抜ける。
外に出てから十分に距離を取り、それからシュラが爆薬の起爆装置を押すと間もなくして衝撃に建物が揺れた。地割れにも似た音が響き渡り、やがて建物が跡形もなく沈んでいく。
「こいつでハッキリしたな。シロトラは別次元のプラネテューヌで製造された戦闘ロボットだ」
《量産されてるなんて欠片も思いませんでしたけどね》
「そこが疑問なんだよな。量産機って割には馬鹿みてぇに強いじゃねぇか」
《お? レオルド、お前それ持ってきたのか?》
《あ!? 戻すの忘れてたっす! ど、どどどうしましょう。やっぱ元の場所に返して来たほうがいいっすかね!?》
レオルドは携帯端末にコードを繋げたまま胸元のラックにしまいこんで忘れていたのか、うっかり持ち出してきてしまったことに焦っている。
「シュラ、あの中身見れるか?」
《レオルドにできて俺に出来ないはずがないのでやってみせましょう! 借りるぞ》
《交番に届けた方がいいっすかね……》
「その交番にすら人がいねーんだから気にすんな」
シュラがコードを引っ張り出して携帯端末の内部データを漁り始めた。ゼブラは念の為周囲の索敵を行い、モンスターの反応が無いことを確認する。
バズは持ち前の機動力で傾いた廃ビルを駆け上がり、高所から他の施設を探し始めた。
《……ほとんどデータが破損していて読めたものじゃないな。いや、だがこれは……? いけるか? ソウルブラザー》
「なんだ死にてぇのか望み通りにしてやる」
《すいませんでしたごめんなさい勘弁してくれ! エヌラス、この日誌を見てくれ!》
「くだらねぇページだったらアルゼンチンバックブリーカーでテメェの腰椎叩き割るからな」
『──ありえない。守護女神■隊ゴッドフリー■が、まさか壊■するとは。それほどまでに■■が暴■していると■か……かくなる上は彼らに女神■■を命じ■他に無い』
「……他のページは」
《待ってくれ、なんとか……駄目だ、ほとんど文字化けしているな。読めたものじゃない。──ん? いや、このログは……いけるな。よし、これでどうだ》
『──女神 は 我々を った。 我らの 頼みの■は── もはや、 彼 しかいない。我々の 技術を全て注ぎ込み 彼を── 投入 女神 害 』
「……ほとんど読めねぇな」
《そこまでしか復元できなかった。だがそれがこのログの最後の更新だ》
ひび割れた液晶モニターから火花が散ると、黒煙をあげて黙りこくってしまった。
当時の状況を振り返る。
「猛争モンスターは当時のプラネテューヌでも観測されていた。その討伐のために戦闘ロボットを量産し、戦線に投入させてたとみていいだろうな」
《シロトラ教官はその戦闘ロボのひとつ。ログの日付からすれば、最後の生き残りという可能性が高い》
「ああ。となると、ゴッドフリー……」
《フリートじゃないっすかね? 艦隊ってことで》
「なるほど、女神艦隊でゴッドフリートね。有りだなそれは」
《猛争モンスターとの衝突が激化、ゴッドフリートが壊滅。恐らく彼らはその元凶を叩こうとしていたのかもしれない》
「……ただそうなると、その後の文章なんか考えたくねぇな」
まるで、守護女神である天王星うずめこそが猛争モンスターの元凶であるかのような文章だ。そのうえ彼らはプラネテューヌを守るための戦闘ロボを守護女神に差し向けようとしていた。
守護女神を殺害するために。だがそれは恐らく失敗に終わったのだろう。当然だ。こうして此処にまだプラネテューヌは残っているし、天王星うずめは生き残っている。
《ど、どうするっすか……? こんなの教えられないっすよ》
《とんでもない厄ネタを掴んじまったな……》
「……このことはうずめに秘密にしておくか。だがイストワールには報告しておいてくれ」
レオルドとシュラが首を傾げ、ゼブラはバズが慌てて廃ビルから駆け下りてくるのを見ていた。
《せっかくですし、エヌラスさんも報告しに行きましょうよ。俺だけ教祖様と会うの恐れ多くて今でもエラー吐きそうなくらい緊張するんで……》
「……レオルド。お前ここから生きて帰れると本気で思ってるのか?」
何やらゼブラとバズの二人が大慌てで駆け寄ってくる。シュラもただ事ではないのを察知したのか、レーダーユニットを展開した。
《やべぇやべぇやべぇって! マジでやべぇって! 見たことねぇ量で猛争モンスターの群れがこっち向かってきてる!》
「そら見ろ。どうやら連中、自分の手を下すことなくこっちを始末する気満々だ。シュラ、数はわかるか?」
《とりあえず四桁は確実ってところだ! どうする、爆薬はさっきので使い切ってしまったぞ! そういうわけだからメチャクチャ頑張れバズ!》
《無茶言うなよ!? せいぜいやれても十体が限界だ!》
《お前ってやっぱ優秀だよな……》
最悪弾薬が尽きても近接武器があるからだが、流石に無茶が過ぎる。
言い合っている間にも猛争モンスターの群れが地響と共に突撃してくるのが見えてきた。ドス黒いオーラに包まれたモンスター達の殺気は機械であるはずのレオルド達ですら背筋が震え上がる思いだったが、エヌラスだけは倭刀を静かに寝かせて構えている。
「レオルド。絶対に振り返らずに、全力で走れ。そのデータは絶対にイストワールに届けろ」
《エヌラスさんはどうするつもりっすか。まさかアレと戦うつもりじゃないっすよね!?》
整息。
“
「
その手から放たれるは蒼き迅雷……そのはずだった。しかし、エヌラスの手から放たれたのは黒い閃光。それは赤い残光を残して猛争モンスターの群れをど真ん中からかち割った。
群れが半壊している。黒い霧の中から現れるモンスターは先ほどまでよりも明らかに数を減らしていた。
「お前らがそこにいたら俺が暴れられねぇだろうが。わかったら行けよ」
《で、でも……》
「心配すんな。猛争モンスター程度に本気は出さねぇよ。それに──」
エヌラスは自分の身体に付き纏う紫電を弾くように指の骨を鳴らす。
「ちょっとばかり魔神の力ってのも試しておかねぇとなぁ! いざって時に困るからよぉ!」
断鎖術式・一号“ティマイオス”。二号“クリティアス”起動。地面を蹴って、宙を蹴って飛んでいくエヌラスが群れの中心に降り立つと手短な魔物から切り捨てて蹴り飛ばし始めた。
それはまるで冗談のような勢いでモンスター達が水平に吹き飛んでいく。倭刀を振り下ろせば大剣のような剣圧で群れが切り裂かれていき、小型モンスターが宙を舞ってはサッカーボールのように蹴り飛ばされていた。
《もう全部あの人一人でいいんじゃないかな?》
《そういやエヌラスさんってハァド大戦の撃墜スコア一人だけ五桁いってたっすね……》
《馬鹿言ってないでさっさと撤収! 装備整えて、援軍引き連れて戻るぞレオルド!》
《りょ、了解っす! エヌラスさん、先に戻ります!》
レオルドの声に、ただ背中越しに親指を立ててエヌラスは答える。
──離れる頃には既に残り三割程度にまで数を減らしていたが、地図を書き換えかねない勢いで街にも損害が出ていた。