超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
零次元の新しい破壊の痕跡を見渡してから、ネプギア達は息を呑んだ。レオルド達も顔を見合わせている。猛争モンスターの大群に襲撃されていたという話から先を急いでいた。しかし、当のエヌラスは無傷。その代わりに廃墟が消し飛ばされて荒野となっている。
「あの……エヌラスさん」
「なんだ、ネプギア」
「怪我とかされてませんか?」
ネプギアの質問にエヌラスは振り向くことなく左手を振ってみせた。
「暴れ放題の俺がどんだけ危険かはよく知ってるだろ」
《街一個消し飛んでるんですけど》
「お前らの拠点一撃で消し飛ばしたんだから驚くなよ」
《そういやそうっすね! 深く突っ込まないことにします!》
ロボットだって命は惜しい。
「海男、大丈夫なのか?」
「…………」
うずめの言葉にエヌラスは気まずそうに沈黙を貫いた。零次元の北東部を目指して移動している全員の足音だけが虚しい。
「いや言えよ!? 無事なんだよな!?」
「多分。きっと。そうだといいな。俺はそう信じてる。恐らく無事、なはず」
「海男ーーーー!!!!」
慌てて声を張り上げて海男の名前を呼ぶが、返事はなかった。巻き込んだ可能性はなきにしもあらず、下手したらうずめの拠点をいくつかまとめて吹っ飛ばしたかもしれない。
「エヌラスさん、無差別破壊はやめてください!」
「む。俺だって一応分別ついてるんだぞ」
「そうなんですか?」
ユニから疑いの眼差しが飛んでくるが、エヌラスは遠い目をしていた。
「ただちょっと。俺の威力に街が耐えられないってだけだ」
それは大問題だが? ──全員からの視線を無視して先頭を歩く。
不意に、エヌラスは足を止めた。これから向かう先は敵の本拠地だ。そこにはくろめがいる。囚われたネプテューヌ達もいるだろう。そしてシロトラも。それだけではない。
クロワールがいたということは大ネプテューヌもいる。クロギアだっているはずだ。そして忘れそうになるが、零次元で衝突した相手の中にはマジェコンヌだって生き残っている。
オルタとマガツビはラステイションにいるが、こちらと刃を交えるかまではわからない。
一番の懸念は──絶望の邪神、ヌルズ・エクス・モルテスだ。
「これから敵陣に突入するわけだが。俺から先に言っておくことがある」
そこで初めてエヌラスは全員に向き直る。
「──ネプテューヌ達を奪還する。それが俺達の目的だ。最優先事項として忘れないでくれ」
「ど、どうしたんですかエヌラスさん? いつもはそんな冷静なこと言わないのに」
「心外な。俺でも戦況を冷静に分析することは出来る。ただちょっと途中から面倒くさくなって暴れ回るだけで」
「台無しじゃないですか……」
「とにかく、だ。ここで決着を急ぐ必要はないって話だけは頭の片隅に置いといてくれ」
レオルドが名前を呼ばれて周囲の警戒をしていた頭を向けた。
《なんですか、エヌラスさん?》
「シロトラの妨害が入る可能性が極めて高い。それはお前たちに任せる」
《了解です!》
「うずめ。ネプギア達と一緒にネプテューヌを頼む」
「お、おお。わかった、任せとけ!」
「エヌラスさんはどうするんですか?」
「その他大勢の相手」
シロトラだけは現状、このメンバーでは対処できるのが守護女神近衛機兵団だけだ。ただ、くろめがどう出てくるかだけは未知数なことが気がかりだが、エヌラスはかぶりを振る。
「……あの」
「なんだ、ユニ」
「アタシ、てっきりエヌラスさんがもっと怒るものだと思ってました。なんならブチギレるかも、なんて考えてましたけど……なんでそんなに冷静なんですか?」
全員が薄っすらと感じていた違和感はそれだ。いつもらしくない、エヌラスらしくない振る舞いに不安を感じている。
ハァド大戦の時は、それこそ一人でリーンボックスを陥落させかねない勢いだった。それがどうだ、今のエヌラスは焦るわけでも、怒るわけでもなく、ただただ冷静に状況を分析して振る舞っている。それが、どうにも不思議でならない。
そのことはエヌラス自身、首を傾げる。自分でもなぜこうも落ち着いていられるのか。
「なんでだろうな。俺もわかんねぇや。アレだ、ちょっとばかり暴れて頭スッキリしてるし?」
「暴れないと死んじゃうんですか?」
「……死ぬかもしれん」
神妙な面持ちで呟かれ、どうツッコミを入れたらいいかあぐねていると、うずめが見覚えのある尾ヒレを見つけて駆け寄っていく。
「海男! よかったぁ、無事だったんだな!」
「うずめも元気そうでよかったよ。ひよこ虫達もみんな無事だ、安心してくれ」
「おー海男。巻き込まれなくてよかったよかった。いやアジト吹っ飛ばしたのはともかくお前まで巻き込んでたらどうしようかと」
「猛争モンスターの大群が接近してくることは私の尾ヒレが感知していたからね。その時には既に主要なアジトから離れていたよ。まぁ……」
ヒレを組みながら海男がなにか言いたげに視線を向けるのは、廃墟に出来上がった更地。
「まさかあんなに壊されるとは思いもしなかったんだけれど、被害状況だけで言うならダークメガミ相当だね」
「正直すまん」
「仕方ないさ。なにせ津波のような猛争モンスターの軍勢だったんだから」
海男が言うには、零次元が埋め尽くされるのではないかという程の量だった。改めてそれを単騎で蹴散らしたというのだから驚かされる。
「さて、それでみんながここに来たということは……目的地はあそこということでいいのかな?」
確認してくる口ぶりに、全員が頷いた。
ダークメガミが破壊して出来上がった次元の亀裂に全員で突入する。その内部は黄金の頂に酷似していた。
暗闇の中に星空のようなものが輝いている。それにロムとラムがはしゃぐが、やはりというべきかモンスター達が蔓延っていた。
「先に行ってるぞ。モンスター共は俺がやっておく」
エヌラスの足元が“バチリ”と紫電が奔る。断鎖術式の起動、
「あ」
っと、うずめが言う間に段差の前に陣取っていたモンスターが斬られ、上階にいたモンスターが、次から次へと消滅していく。
ポカンと開いた口が塞がらないネプギア達を置き去りにしてエヌラスは姿を消していた。残るのはただ静けさばかり。
《……い、行きますか!》
《レオルドお前、女神様達の前でイキますなんてそんな》
《ディルさん、謹慎一週間》
《近親相姦だって!?》
《おい、誰かコイツ撃っていいぞ》
《ケツが爆ぜるように熱いッ!!!》
ガチャコン──。誰かがマガジンを確認する音が聞こえた。ディルはフレンドリーファイアでダウンするものの、すぐにシュラが修復装置で復帰させる。多分撃ったのはジーンだろう。リロードしている。
「……アイエフさんの苦悩がすごくわかります」
状況がわかっているのだろうか。むしろ、こんな状況でもいつもと変わらないことに安心感を覚えるべきか判断に困る。
《でも、こんな都合のいい道を用意されてるとなると罠の可能性がやっぱり高いっすね……》
《そうだな。見たところ通り道はここしかないようだし……レオルド、ちゃんと道を覚えておけよ》
《一本道なんだから迷うわけないじゃないっすか!》
賑やかなレオルド達の姿に緊張感が解けてきたのか、うずめ達の間にあった緊迫感が薄れていく。ネプテューヌ達が囚えられた、という話に最初こそ息巻いていて焦りがあったがエヌラスの無事も確かめられた。
宣言通り、エヌラスはダンジョンの出口までのモンスターを一人で一掃して待っていたが口をへの字に曲げている。
「おせぇぞ、人がモンスター倒しといてやったのに」
「ごめんなさい。あの、レオルドさん達がはしゃいでて……」
《すいません……》
「……仕事してくれりゃそれでいいよ」
ため息を吐きながらゲートをくぐり抜ける姿に続く。だが、ネプギアはやはりエヌラスに感じる違和感を拭えずにいた。
──ゲートを抜けた先でうずめも海男も絶句している。零次元に長くいたうずめ達だが、此処に入ったのは今回が初めてだ。
ネプギアも驚き、レオルド達も周囲を見渡している。
ただひとり、エヌラスだけは静かに拳を握りしめていた。
「此処、は……」
「零次元の果てのように、なにもない世界だね。驚いたよ、こんな場所があるなんて」
《……まるで、滅んだ世界みたいっすね》
「レオルドさん」
《え? あ……》
──懐かしい、とさえ思ってしまった。見慣れてしまった世界だ。見覚えのある光景だ。
嫌というほどに。夢にまで出てくる始末だ。
エヌラスは、ただこの次元に対して親近感さえ覚えていた。居心地の良さすら感じる。
くろめは言っていた。心次元で待つ、と。ならばここがそうなのだろう。
「……超次元も滅んだら、こうなっちまうんだろうなぁ」
そんな感想が、不意に口をついて出てしまった。
ゲートを抜けた先の世界は、何もなかった。辛うじて足場が残っている程度で、まるで宇宙の漂流物のように街がチラホラと見える。
その世界の中心とも言うべき場所に、巨大なシェアクリスタルが浮かんでいた。
《俺から提案だ。一度この辺りで休息を摂らないか? 何があるかわからない、索敵は俺達の方で請け負おう。幸いにも近くに街も見える》
ゴウの提案にネプギア達も賛成する。猛争モンスター達の足止めを食らってからずっと走りっぱなしで疲労感を感じていたからだ。
《ただ、俺達がこれ以上先に進むのは厳しいっすね……足場が無いんじゃ》
「それならわたし達が運んであげますよ、レオルドさん」
「移動中に敵襲されたらどうすんだ」
相手が相手なだけに、手が塞がる真似だけは避けたい。エヌラスの冷静な指摘にネプギアが謝罪するものの、レオルドは気にした様子はなかった。
ゴウ、ツキカゲ、シュラの三名が周辺の索敵をしている間、街の中で使えそうな物資をうずめと海男が探索する。
それからしばらくして、探索の足がかりとして拠点の設営が出来たという報告に全員が集合した。
バズが必死こいて集めまわった毛布やらシーツで作った簡易ソファにロムとラムが座り込む。やや埃っぽいのは御愛嬌、しかしそのクッション性に太鼓判が押されていた。
食料や水もディルがかき集めた物だけで三日は充分保ちそうだった。
「やっと腰を落ち着かせることができそうだな」
「あれ? エヌラスさんは?」
「えっ!? あいつ、どこ行ったんだ!?」
座り込んだ瞬間にうずめが慌てて立ち上がる。シュラが拠点の壁に広範囲センサーを貼り付けて周辺の生体反応を探知すると、上の階にいることがわかった。居場所からして屋上にいるらしい。
「はぁ~、驚かせやがって……」
「アタシ。様子見てきます!」
ユニが立ち上がり、すぐに階段を駆け上がる。ネプギアも言っていた違和感の正体を直接本人から聞いて確かめるために。
屋上の錆びついた扉を開けると、そこにはフェンスに背中を預けたエヌラスが座り込んでいた。しきりに自分の右手の感覚を確かめるように指を折り曲げている。だが、ユニが来たことにすぐ顔を上げた。
「どうした、ユニ。そんな慌てて?」
「ひとりで何してるんですか、みんな心配してましたよ」
「別に。拠点は確保できたんだ、ひとまず落ち着いて休んでた方がいいだろ」
「それを言ったらエヌラスさんだって。猛争モンスターと戦って疲れてるはずなんじゃ……?」
──ユニはそこで、自分の言葉に首を傾げる。
そうだ、そのはずだ。
ずっと疑問に思っていたことだ。
いつもエヌラスは戦う度に傷つき、満身創痍になっていた。猛争モンスターの軍勢をひとりで蹴散らしたとはいえ、無傷で、それもここまで平気な顔をしていることに違和感があった。
「……ユニ?」
「疲れて、ないんですか?」
「いや、別に……」
「あんなに魔術使ってたのにですか? ……やっぱり、エヌラスさん。アタシ達になにか隠してませんか」
詰め寄るユニに、エヌラスは頭を掻く。隠すも何も、疲れていないのは本当の話だ。むしろ今言われてようやく自分でも認識している。
「隠し事、ね。昔、いけすかねぇクソガキがいたな。喫茶店の店主やっててよ、作る飯は……まぁこれがまた美味いんだが。どうにも性格が気に食わねぇ奴でよ。そいつが言ってたことなんだが──曰く「いい女に秘密は付き物だが、いい男は秘密を聞かない」んだとよ。なんでそんな昔のこと思い出したんだか知らねぇけど」
「いいから、話してください」
「……うずめに話す。呼んできてくれ」
その言葉に唇の端を噛む。
──嗚呼、またアタシじゃないのか。ユニはそれが悔しかった。