超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
屋上からネプギア達が休憩している階下に戻ってきたエヌラスが室内を見渡す。狭苦しい場所で暑苦しい連中の姿が見当たらないことに安心感を覚えつつ。
「レオルド、ディル達はどうした?」
《他のメンバーは周囲の索敵に向かったっす。それとさっきアイエフさんから連絡があって、ダンジョン周辺の安全を確保したのでこっちに向かってきてるらしいです》
「心強い味方が増えて安心した」
心置きなくあの変態共を押しつけることができる。
──それからしばらくして、アイエフがレオルド達守護女神近衛機兵団の補給コンテナを懸架したフォートクラブと共に合流した。道中の安全を尋ねると、すぐ近くまで警備隊長が護衛を務めてくれていたらしい。プラネテューヌ防衛軍の前線指揮を執るためにすぐ戻っていったが、なんだかんだと面倒見が良いことに苦笑する。
《アイエフさんだヤッター!》
「こら。敵の本拠地なんだから下手に騒がないの。襲撃されたらどうすんのよ」
《逃げます》
「戦う気概見せなさいよ!」
「アイエフ。こいつら多分お前に怒られたくてはしゃいでるだけだからかまうな」
「そうしたいけど、このド変態共の手綱手放したらなにしでかすかわからないのよ」
「うちのメイドもそうだよ。だからこういう時は無視しろ」
心を鬼にして無視してもめげないしょげない、それどころか「新手のプレイですかご主人様! わかりました、このカルネ。放置プレイでも達する領域まで精進します!」とか言い出し始めたので全力で殴り飛ばしたこともある。客観的にその関係性を眺めると、やはり常人には理解が及ばない交友なんだろう。エヌラスは理解したくなかった。
「で? お前ら周囲の索敵してたっつー話だけどなんか見つけたのか?」
《あ。向こうの方角にダンジョンらしき場所と……なんていうか、ぼやけたプラネテューヌ?がありました》
「……ちょい詳しく頼む」
狙撃兵装のゼブラからの報告では──ダンジョンの挟んだ先の廃墟がプラネテューヌの景観によく似ていた、とのこと。
同じく狙撃兵装のジーンが南方の索敵をスコープ越しに確認したところ、ラステイションとリーンボックスらしき景観も確認している。
エヌラスはその報告を聞き終えてから、ネプギア達の意見を求めた。
「エヌラスさんはどうしますか?」
「俺か? 俺だったらとりあえず全部見て回るつもりだが」
「そうですよね。わたしも気になります」
「とはいえ、レオルド達は一緒に動けねぇしな……」
《俺達も空を飛べたらよかったんすけどね……》
「あら、それならフォートクラブを使ってみる? ちょうどミニちゃんの構造を解析してアンタ達に使えそうな機能を付けたのよ」
「ミニちゃん……ああ、アレか」
いつのことだったか、ネプギアがねだるもので用意したミニチュアフォートクラブ──ミニちゃんって呼ばれてるのか。エヌラスはそんなこと思いつつ、もはやアイエフ専用機となってしまっているフォートクラブを見上げる。
基本操作はアイエフの携帯端末から。標準搭載されているミサイルハッチは廃され、あくまでも移動用としての機能を優先されているのか単座型コックピットが搭載されている。確かにユノスダスでも配送用として使われているが、それよりも気になるのは背面に背負われたドラム型ワイヤー・ケーブル。それも大型。どこに繋がっているのかと視線で追っていくと、鋏の中にまで伸びていた。
「わざわざ用意したのよ、アンタ達の使ってるリフトの規格に合わせて」
《マジですか! これなら俺達も向こう岸まで移動できるっすね!》
「……途中でワイヤー切れたら死ぬよなこれ」
沈黙。
「さーてとりあえずプラネテューヌ(仮)まで行くかー。な、レオルド」
《俺っすか!!!???》
アイエフ専用機のフォートクラブが前腕を射出する。対岸の地面に打ち込み、重心を落として多脚アンカーで機体を固定。
念のためエヌラスがワイヤーを揺らしてみるが、ビクともしなかった。
「戦車も牽引できる強度のワイヤーよ。ちょっとやそっとじゃちぎれないから安心しなさい、レオルド」
《使い慣れたリフトケーブルっすけど、改めて思うと命綱無しっすもんね……》
不安そうに振り返れば、ディル達お留守番組が力強く頷いている。このまま尻込みしていては進まない。エヌラスは刀の鞘をワイヤーに引っ掛けるとそのまま対岸まで滑降していく。
着地と同時に前転することで衝撃を逃し、服の土埃を払い落とす。強度は十分そうだ。パープルシスター達は飛びながら万が一に備えている。
「ほら、行くわよレオルド」
《う、うう……了解っす──!》
機体の左腋下に常備している牽引フックを引っ掛けてレオルドがアイエフを背負って移動した。一瞬だがフォートクラブが重心を再度安定させる。冷や汗をかく思いをしつつも、なんとか対岸に辿り着いた。
《そっちは任せたっすよー!》
《任せろ! エロ本とか探しておくから!》
「戻ったらぶち殺す。そこで待ってろ、ディル」
《よしみんな! 真面目に働こう!》
超電磁抜刀術の構えを見せるエヌラスを見て蜘蛛の子を散らす如くディル達が駆け足で散開する。その様子を見てから、プラネテューヌらしき景観の場所を目指してダンジョン内部を進むが案の定と言うべきかモンスターの巣窟となっていた。
パープルシスター達と協力して進むが、思い悩んでいるエヌラスの表情を見てアイエフが声を掛ける。
「どうしたのよ、小難しい顔をして」
「いや。この次元世界、結局のところなんなんだろうなと思ってな。滅んでるっつーのは、まだわかる。散々見てきた光景だし。だがモンスターもいる、街に食料が残ってる、水もある。そんでもってやっぱ人間だけがそっくりそのままいないのが不思議でな」
「此処に来る途中の零次元だったかしら? あそこも似たような感じよね」
「まだ向こうのほうが地面はしっかり残ってたけどな」
確認するように地面をつま先で叩き、エヌラスはうずめに視線を投げた。零次元の崩壊した場所はダークメガミによる被害が出た場所だけだ。となれば、この心次元はその結末、ということになる。
「エヌラスさん。うずめさんから聞きましたけれど……お姉ちゃん達を攫った黒幕は」
「ん? ああ、俺も知ったのは合流する直前だったけどよ」
話を適当に流しつつ、エヌラスは道を塞ぐマシンソルジャーに向けて倭刀を振るう。関節部を狙った斬撃で達磨にするなり唐竹割りで一閃。流れるように三機を斬り伏せていた。
「ただやっぱ気になるのが、人間がいないってことだ」
《なにか気がかりなことでも?》
「神様っつーのは、基本的に信仰心が必要な生き物だ。そこは守護女神であるうずめやネプギア達がよーく知ってると思う」
むしろ常識と言ってもいい。
「だから、その信仰を集める相手がいない世界にいる守護女神ってのは。どんな奴だろうと思ってよ。零次元だとモンスター達がそうだったりそこら辺にシェアクリスタル落ちてたりしたけどな」
アイエフが驚愕しているが、そこはそれ。
「──俺の知ってる限り。他人の信仰を必要とせずに存在する神様なんてのは、池に小石を投げ込むいたずら感覚で人類滅ぼしかねない邪神だけだ。そんな連中が許せなくて殺して回って旅してたが……」
頭を掻きながら先頭を歩くエヌラスが、飛びかかるスライヌを前蹴りで容赦なく蹴り潰した。
「最後の最後に、気を抜いたのがバカだったな。こんなんだから俺は大魔導師にいつまで経っても追いつけないし、いつまでも半人前扱いされんだ」
いつまでも人間性を捨てきれず、しがみついて、しがらみに囚われて足を取られながら。遥か高みの頂点に座す怪物を追い続けている。
──超次元に辿り着けたこと自体が奇跡だったのだから、それだけでよかったのだ。
それまで通り、邪神を殺すことだけを考えていればよかったものを。どうして絆されてしまったのか。それを一度は全て拒んだはずなのに、やはり捨てきれなかった。
「……エヌラスさ──」
「あー、もー、いいや。やめやめ。今はこんなこといってる場合じゃねーんだったわ。一人反省会なんか俺バカだからなんべんやってもわかりませーーーんクソッタレ。お、そろそろ出口だ」
ポカンと間の抜けた顔をする一同に振り向いてから、エヌラスは小首を傾げながら笑う。
「知ってんだろ。俺がハッピーエンド至上主義なの。ネプテューヌ達全員助けて、超次元に戻って、くろめもクロギアもシロトラも。どっかに隠れてる絶望の邪神も、もののついでにセロンのクソボケ野郎も全員ぶっ飛ばしておしまいにしようぜ。な?」
全部終わりにして、笑顔で迎えるハッピーエンド。そのためにここまで来たんだ。
《そうっすね。それがいいっす、俺も。言うだけならタダですし!》
「そうだぞー、タダより高いものなんかねぇんだからなー。プライスレスのうまい話なんかそこら辺に転がってるはずがねぇんだから気をつけろよネプギア」
「わ、わたしですか!?」
「ネット広告とかであるだろそういうの。引っかかるなよ?」
「そんなのに引っかかるわけないじゃないですかぁ! ……プリンの広告だったらお姉ちゃんが飛びつきそうですけど」
「目に浮かぶのが困るわね……」
緊張感がとけたのか、苦笑いを浮かべるパープルシスターとアイエフに続いてブラックシスターも、ホワイトシスターの二人も頬をほころばせている。そんな中で、うずめだけはエヌラスの背中を見ていた。
レオルドと肩を並べて雑談に花を咲かせている。しかし、どうしても頭を離れなかった。
(……ハッピーエンドがいいなんて、わかりきってることじゃねぇか。なのに、なんでだよ……なんであんな、寂しそうに笑うんだよ……!)
まるで自分には手に入らないとわかっているように。
つい、手に力がこもる。
絶望の魔人だと言っていた。守護女神の敵だと。平和の敵で、自分の存在が平和を乱すのだと。だからわかっている、エヌラスは自分で言っていて本能で理解している。だから恋い焦がれて病まないのだ──笑顔の花で満たされたハッピーエンドを。
そこに自分が立つことがないと、諦めて。
「──エヌラス」
「うん? なんだよ、うずめ」
「俺達、仲間だよな」
「……急に何を言い出すんだよお前。当たり前だろうが」
「だから。だから……絶対に俺は、仲間外れになんかしねぇって約束する! 助けられるもん全部助けて、手が届く限り救ってやるから! ──諦めんな」
うずめの言葉に、エヌラスは手を振った。
「諦めたことなんか、ただの一度もねぇよ。俺は」
嗚呼、それは嘘だな。──うずめはそう思った。諦めの悪い男が求めて病まない物なのだから、それはきっと諦めても諦めきれない、叶わない願いを捨てきれないだけだ。
ゼブラが確認したプラネテューヌに辿り着いてから、エヌラス達は妙な感覚に包まれる。風景が一変し、気づけば街の喧騒に身を置いていた。パープルシスター達もそこがいつものプラネテューヌであることに安心したのか女神化を解除する。
「ここは……プラネテューヌ、よね?」
「どっからどう見てもそうだな。プラネタワーあるし」
親指で指した方角にはプラネタワー。見慣れた商店街。レオルドも周囲を見渡すが、頭部ユニットを軽く叩いていた。
「叩いちゃダメですよ、レオルドさん。頭部は精密機器が詰まってるんですから」
《あ、はい。ごめんなさいネプギア様。いや、その……俺の頭がどうかしたのかと思いまして》
「もしそうならアタシ達みんなどうかしちゃったってことになるわよ?」
《だってここ、どっからどう見ても俺等の知ってるプラネテューヌじゃないっすか。夢でも見てるんっすかね?》
「たまにお前めちゃくちゃ鋭い時あるよな……」
《ギャグの切り口がっすか? エヌラスさんには負けます》
静かに倭刀を抜いた辺りで全員からエヌラスは止められる。誰が切り口鋭いボケナスだチクショウ。