超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
プラネテューヌの商店街であることに間違いない。店の通りも並びもアイエフとネプギアの記憶と一致している。その中で、人々の笑顔に囲まれるネプテューヌの姿があった。思わず駆け寄りそうになるが、エヌラスはこれが心象風景を映し出す幻覚だと魔術師の感覚で理解している。
魔術的な知識量で言えばムルフェストも相当なものだ。大魔導師に次いで、あるいは相応に。
エヌラスだけではなく、それはロムとラムも知覚している。だがうまく言葉にできないようだ。二人に代わって全員に説明すると、納得したように頷いている。レオルドの言う夢を見ているという言葉は的はずれな意見ではなかった。
「じゃあこれは、ねぷっちの見てる夢なのか?」
「夢ってのは概ね深層心理の表れだ。だから“願望”と言ってもいいな」
いつものプラネテューヌの景色がそこにはあった。アイエフはその話を聞いてから自分の予想を大きく裏切られたことに激しく自己嫌悪している。どうせプリンに囲まれる夢とか、そういうものを想像していたに違いない。
幻覚のネプテューヌを助けたところで意味はない、エヌラス達は道を引き返すことにした。
──ただレオルドだけは立ち尽くし、その風景を見つめる。
《…………》
「どうしたの、レオルド。戻るわよ」
《あ、了解っす》
みんなが笑顔でいられるプラネテューヌが好きなことを再認識してからレオルドはアイエフの後に続いた。
ぼやけたプラネテューヌは、つまりネプテューヌの心象風景。報告に挙がったラステイションもリーンボックスも、ルウィーもそれぞれの女神達の見ている夢が具現化したものとなっていた。
「欲望全開じゃねぇか他の三女神……!」
「あんなのお姉ちゃんじゃない……」
「おっきいお姉ちゃんいじわるで嫌い!」
唯一まともだったのがネプテューヌだったことに少なからずダメージを負いながら、エヌラス達は歯抜けの足場を歩く。
「レオルド、大丈夫か」
《プラネテューヌのロボットでよかったっす俺……》
「それを言ったらエヌラス、アンタの方こそ大丈夫なの?」
「正直ベールの時は頭がどうかしそうだった」
声優でアイドルで以下略な欲望フルスロットルのノワールはまだかわいいものだった。
身長と胸がコンプレックスだったブランは、まあなんとなしに予想はできていた。性格の悪さはともかく。
ただベールの妹欲しさはどうかしていた。二人もいた。ベールが三人、何が来るっていうんだ。こっちの気が狂う。
思わぬ方角からの精神的ダメージに落ち込むネプギア達を慰めようとレオルドがなにか話題を探すが、それよりも先に接近してくる生体反応に突撃銃を構える。
《接近してくる生体反応有り、数は……二つっす》
「方向は」
《このまま正面》
一気に緊張感が高まり、足音が聞こえてきた。それに混じって悲鳴と爆発音。
角を曲がり、転びそうになりながらも体勢を立て直して背後に向けてハンドガンを連射する姿にはエヌラスも見覚えがあった。その追跡者も。
「ひぃ~、しつこいんだってばマザコングー!」
「貴様はいつになったら私の名前を覚えるんだ小娘ぇ!!」
「あー、ネプギアーーーひっさしぶりーーー!!!」
ダンジョンの中を走ってくる大きなネプテューヌとマジェコンヌがネプギア達に気づき、走る勢いのままネプギアに飛びつく。当然、体格差と速度と体重を加味したタックルじみた衝撃に耐えられるはずもなく、二人仲良く地面に転がっていた。
「お、お姉ちゃん!? なんでここに!?」
「そんなことより助けてよぉ! マジェコン……マザコングが本当にしつこくってさぁ!」
「なぜ言い直した貴様ぁ!」
肩で息をしながら玉のような汗を流している大きなネプテューヌはすでに疲労困憊といった様子で立ち上がるのも一苦労だ。
「ふん、まぁいい! 零次元では世話になったな、貴様ら!」
杖を突きつけてくるマジェコンヌに、アイエフ達は顔を見合わせる。はて?
「零次元で会ったかしら」
《俺は知らないっす》
「アタシも知らないです」
「でもあのおばさん、お姉ちゃん達をいじめたからきらい!」
「う、うん……」
「ええい、いちいち揚げ足を取るな! 話が進まんだろうが!」
エヌラスは無造作に一歩踏み出し、息を吸う。
その身体を紫電が奔る。次の瞬間にはすでに自らの身体を撃ち出していた。
瞬く間に距離を詰められ、マジェコンヌの反応が遅れる。
「なッ──!?」
目を見開き、反射的に魔術で応戦しようとした。しかしそこにエヌラスの姿はなく、視界の端に映った黒い影に視線を向けた瞬間、マジェコンヌの頭部が揺れる。
獣のように地に這いつくばり、その状態から高く振り上げた脚がマジェコンヌの頬を強烈に叩いていた。左手はあくまで倭刀に添え、しかしエヌラスの魔導発勁は右腕だけでも威力に一切の遜色なく発揮されている。
脱力した腕からの鞭打が目蓋を叩き、怯んだ隙に寸頸。背面にまで突き抜ける発勁にたたらを踏む。腕を掴み、別な通路に引き回すと飛び蹴りでマジェコンヌを押し込んだ。
そして抜刀──奔る剣閃は、しかし一太刀も当たってはいない。
「先急いでんだ。邪魔すんじゃねぇムラサキババァ」
震脚。ダンジョンが揺れた、次の瞬間──マジェコンヌが座り込んだ通路が切り崩された。天井も壁も、地面すらも。細切れにされた四方に、そのまま底のない空間へ放り出されそうになるが咄嗟に伸ばした手がなんとか崖を掴む。
エヌラスはそれを見下ろしてから呆れたため息を吐いた。
交渉の余地なし、なにか言おうとする前に指を蹴り落とす。
「貴様、覚えていろよおおぉぉぉぉ──…………!」
フェードアウトしていく姿に、一度だけ覗き込んでからエヌラスは何事もなかったようにロングコートを翻した。
「アイツ急用思い出したってよ」
「あの、エヌラスさん……マジェコンヌ久しぶりの出番だったのでもうちょっと活躍の場をあげてもよかったんじゃ」
「知るか」
無慈悲。根っからのアウトロー気質なのを忘れそうになっていたが、難なくマジェコンヌを撃退(?)したことで大きなネプテューヌが汗を拭いながら胸を撫で下ろしていた。
「助かったぁ~。ありがとねー、エヌラス」
「クロワールがいたからお前もいるだろうとは見当ついてたから驚かねぇけどよ……」
「あ、私がなんで此処にいるか知りたい?」
「別に」
「あれー、なんかエヌラスちょっとノリ悪くないかな……もしかしておこ?」
大きなネプテューヌがそそくさとネプギアの隣まで避難すると、耳打ちする。それに静かに頷かれた。
「それってやっぱり、女神様達が捕まっちゃったから?」
「はい。多分、そうだと思います」
「あちゃー、そっかぁ。私もなんとかクロギアを説得して仲間に引き込めないかなーってずっとお話ししてたんだけどこれがまたガードが固くってさぁ」
「お前めっちゃ元気じゃねぇか」
《えっと、お水いりますか?》
「いいの? ありがとー、喉カラカラだったんだよねー」
レオルド達が軽く自己紹介をすると、大きなネプテューヌは自分の持っているくろめ達の情報を話始める。
クロワールがくろめに協力していること。マジェコンヌもまた同様に。絶望の邪神が今は不在であること。クロギアとラインの戦乙女も同じ場所にいるということ。
《シロトラ教官もいるんですか?》
「え、シロトラ? うーん、どうだろ。私がマジェコンヌに追われるちょっと前に姿を消しちゃったから、どこにいるかまではわかんないかな」
《そうでしたか……》
これで敵陣営の現在の戦力がわかった。あとはネプテューヌ達がどこに囚えられているかだけだ。居場所を知らないか尋ねると、腰に手を当てて胸を張ってみせる。
「ふふん、教えてほしければプリ──」
砲声が轟く。レイジングジャッジのクイックドローが大きなネプテューヌの顔の横を抜けてダンジョンの壁に銃痕を残した。
「テメェの頭を潰れたプリンにされたくなけりゃ案内しろ、次は当てるぞ」
「なんかエヌラスものすごく怖くない今日!?」
《メチャクチャ機嫌悪いので従ったほうが良いかと……》
「んもー、仕方ないなぁ! こっちだよー」
ぷんすかと怒りながらも大きなネプテューヌがエヌラス達を先導する。ただの不機嫌ならばまだ良い、そのうち曲げたへそも直るはずだ。だが、ネプギアやユニ達の感覚はまた違った違和感を覚えている。
「ネプギア、気づいてる?」
「うん……」
「なんだかエヌラスおにいちゃん、すっごくこわい……」
「大魔導師みたいな感じでざわざわしてきちゃう」
「でも、やっぱりエヌラスさんだなぁって」
マジェコンヌを追い払う際に見せた剣技も、見慣れた超電磁抜刀術の乱撃だった。それだけ力が魔神側に偏っていることをエヌラスが知らないはずがない。だからこそなるべく戦闘を避けるようにしている。それが自分の周囲を傷つけるのを誰よりも知っていたから。どれだけ侵食されていても、不器用な優しさだけは変わらないことにネプギアが頬を綻ばせていた。
大きなネプテューヌに案内された先、ダンジョンを抜けた場所ではダークメガミが佇んでいた。警戒するが、まるで糸の切れた人形のように動かない。その胸元のクリスタルの中にパープルハート達が囚えられているのを見て、エヌラスは即座に超電磁抜刀術を放った。
それから一瞬遅れて、くろめが黒い渦の中から姿を表す。その隣にはクロギアがいた。
「おや、せっかちだねぇ。オレが折角返してやろうと思っていたのに」
「──お前が」
もう一人の自分に初めて対面したうずめが怒りの形相で拳を握りしめて睨むが、それはくろめも同様に。まるで自分自身をゴミのように見下していた。
砕けたクリスタルから解放されたパープルハート達が地面に横たわるが、間もなく身体を起こし始める。見たところ命に別状はないようだが──エヌラスは倭刀を収めて、しかしいつでも抜刀できるようにだけはしていた。
「でっかいねぷっちがいるってことは……やれやれ、マジェコンヌは失敗したのか。仕方ないなぁ。本当は君たちの相手をしてやりたいところだけれど、あんなのでもオレの仲間だからね。助けに行ってあげないとならない。まぁ、せいぜい楽しむといいよ」
くろめが指を鳴らす。すると、ダークメガミの輪郭が薄れていき、やがて消滅した。自身もゲートの中に身を隠し、それからクロワールが舌を小さく出してから後に続く。
残ったクロギアだけは、ゲハバーンを手にして静かにこちらの様子を窺っていた。
「エヌラスさん。お姉ちゃん達は──」
「無事なようだが、多分こっから先は洒落にならねぇぞ。構えろ」
笑顔を一瞬見せたネプギアだが、かぶりを振ったパープルハート達が女神武器を手にして──ネプギア達に鋒を突きつける。
「……──え?」
舌打ちをして、立ちすくむネプギアを庇うように前に出た。
斬りかかるパープルハートの太刀と、倭刀が火花を散らす。