超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──パープルシスター達が心次元の宇宙を飛ぶ。視界の端でシロトラが背面のバーニアを噴射させて跳躍し、足場を乗り継いでいる姿が見えた。ブラックシスターが足場を狙い撃とうとするが、それよりも先に射撃モードのブルースザッパーの照準を合わせられる。
「ユニちゃん。今はディルさん達と合流を急がないと!」
「でも、ここで少しでも足止めできれば!」
「わたし達が直撃したら、無事じゃ済まないんだよ」
シロトラの攻撃は対女神特攻と言ってもいい。こちらが一方的に苦戦を強いられる相手だ。ブラックシスターはX.M.Bを下ろし、パープルシスター達と速度を上げる。
《賢明な判断だ》
遠ざかる女神候補生達の背中を追うようにシロトラもまた、その後を追っていた。
心次元の入口、拠点付近で周囲を警戒していたシュラが広域センサーの生体反応に武器を手にする。遅れてディル達が戦闘態勢へ移った。
ジーンとゼブラが反応のある方角へ狙撃銃を向けるが、そこにパープルシスター達の姿を見つけるとすぐに下ろす。しかし、なにか一悶着があったことだけは確かだ。明らかに焦りと動揺の色が見て取れた。
「ディルさん! 海男さん、うずめさんが──!」
《どうしたぁ!! 何がありましたか! おっぱい揉みますか! どうぞ!》
どすこい! ──自信満々に胸を張って差し出されるわがまま重量級ボディ。その背後でツキカゲとバズが近接兵装を構えて頭をぶっ叩いた。
《すいません、コイツ頭のネジ足りてないんです。うずめさんがどうかしたんですか?》
「うずめの身になにかあったのかい、ぎあっち」
「実は……!」
パープルシスターの話に、シュラ達が唸る。
《なるほど。シロトラ教官がこちらに迫っている、と》
《うずめさんは重傷、現在こちらへ急ぎ撤退中ということですね。ということであれば──副長、前線指揮を一任する! 頼めるか!》
《どすこぉい! 任せろゴウさん、なんてったってこの俺は元特務隊トライアドがひとり! 山のような変態、ディル様だ! 性癖は盛るべき!》
元気に立ち上がる姿にホワイトシスターがちょっと怯えてたりするが、ディルはすかさず部隊に指示を飛ばした。
《支援班! もといシュラ、周辺地域を戦闘区画に指定! マップを共有してくれ!》
《了解! 十秒くれ!》
《強襲班! 零次元へ通じるダンジョン内部の掃討を頼む! 安全を確保次第こちらへ合流!》
《了解、任せとけ!》
《狙撃班! 戦闘区画左右に展開! シロトラ教官を挟撃する!》
《了解。俺は右翼に回る。ゼブラ、左は任せた》
《オーケーだ》
《最後! 重火班は最大火力を叩き込む! ロゼ、フォートクラブ近辺へ先行し、レオルドとの合流を急げ! 作戦内容の伝達も忘れるな! 敵機発見次第射撃開始だ!》
《わかったぞー》
《──戦闘区画設定完了! マップデータを共有開始、次は何をすればいい》
ツキカゲとバズの二人がワープゲートへと消え、ジーンとゼブラの二人は拠点の左右へ移動を始める。ロゼは相変わらずの鈍重さでのんびりと前線へと向かっていった。
《守護女神近衛機兵団副長として今回の作戦目標を「レオルドの離脱」ならびに「シロトラ教官の足止め」に設定する! 俺達の仕事は、女神様を守ることだ! ネプギア様、ここは我々に任せてください!》
「わ、わかりました!」
「……ものすごく真面目にやれるじゃないの」
《すげぇ疲れます!》
(ロボットなのに……?)
ブラックシスターが訝しむ。何がどう疲れるのだろうか。
《副長。今回の作戦について懸念事項がある。もし、シロトラ教官が我々の防衛網を抜けてレオルドの追撃に専念した場合はどう対処する?》
《ジーン、その疑問はもっともだ! ぶっちゃけ俺もどうすべきか悩んだ!》
《……ディル。それならば俺に考えがある。ホワイトシスターのお二人にご助力願いたい》
「わたしたちに?」
「えっと……うまくできるかな……?」
ゴウの提案内容は難しいものではなかった。しかし、それは──彼らにとっても背水の陣となる。そのことにパープルシスターが言葉を挟もうとしたが、ディルは首を横に振った。
《これは俺達にとって、セインとグラーフの弔い合戦でもあります。ならばむしろ逃げ場がない方が覚悟が決まるというもの。ご安心ください、ネプギア様。他の女神候補生様も》
《レオルドがきたぞー》
ロゼからの報告に、ディルが背負っていた双門機関砲を構えて腰を落とす。
《いずれ避けては通れない戦い。この作戦は俺達全員で完遂してみせます。海男さんもレオルドと合流次第、うずめさんと一緒に撤退を!》
「ああ。わかったよ」
《教官もきーてーるーぞー》
通信に銃撃と砲声がノイズ交じりに聞こえてきた。
「っ……、此処はお願いします! みなさん!」
《砲撃開始! 巻き込まれるなよ!》
背中から突き出た
《──こちらツキカゲ! ダンジョン内部の掃討完了、これより合流する!》
《了解! さぁて、聞いた話じゃ追加装甲付きと来たもんだ。勝算はあるか?》
《……ひとつだけある。『プランG』だ》
《なるほど。それで行こう! それとゴウさん、もうひとつ提案だ──》
フォートクラブのワイヤーを伝って移動すると、ロゼがシロトラへ向けて大口径ガトリング砲を連射していた。その弾幕から逃れるように空中で急転換するが、上空から榴弾が雨のように降り注いでくる。空中で炸裂する近接信管の爆風に煽られて濃紺の機影が体勢を崩していた。しかしその状況下であっても右肩のエネルギーキャノンでレオルドを狙ってくる。
全方位型バリアユニットを展開してロゼが庇うが、一撃で形成した障壁が引き剥がされた。
《レオルドー、行けー》
《りょ、了解っす! ロゼさん! アイエフさん、でっかいねぷっちさんもあともうちょっとの辛抱っす! がんばってください!》
「ひぃ~、ひぃ~、もうへとへとだよぉ~! レオルド乗せてよー、ロボットなんだからいいでしょー!」
《今はけが人抱えてるんでごめんなさい!》
「薄情者ー!」
ぷんぷんと怒りながらも大きなネプテューヌは先行するレオルドの後を追いかける。
《逃すか!》
《さーせるかー!》
ロゼは高出力エネルギーランチャーに持ち替え、シロトラの足場を破壊すると照準が逸れたエネルギーバズーカがあらぬ方向へ飛んでいき廃墟の壁を破壊した。崩れ落ちる瓦礫と破片から慌ただしく走り去っていく背中を見送り、やがてひび割れた足場からフォートクラブが落下していく。
「あーーー!!! アタシのフォートクラブ! 幾らすると思ってんのよ、メチャクチャ高いんだからねーーー!!!」
《アイエフさん今はそれどころじゃないっす!! 走って!》
「訴えてやるーーー!!!」
レオルド達の最後尾。殿を務めるロゼの弾幕にシロトラは砲撃を叩き込むが、堅牢さで言えば守護女神近衛機兵団随一を誇る装甲を撃ち抜くのは容易ではない。その上、障壁発生装置も備えているロゼは戦線維持能力が非常に高い。
元々は災害救助用として開発された機体だ。優れた積載量、地形をものともしないホバー機能によって悪路であっても大量の物資の運搬業務を可能とする──それが今、大きな壁となってシロトラに立ちはだかっていた。
──それから間もなくレオルド達が合流するが、すぐにディルが背中を押してワープゲートに向かわせる。
《ディルさん!?》
《グズグズするな万年ビリケツドベ太郎! 此処は俺達に任せろ!》
《でも、それなら俺も一緒に》
《どすこぉぉいッ!》
ぐわっと眼前に迫る張り手でレオルドが押し戻された。
《いいかよく聞けレオルド! 俺達の勝利とは、お前の作戦領域離脱だ! 勝利条件を見誤るなドベ太郎! わかったら行け!》
《相手は教官っすよ!?》
《だからこそだ! ──俺からひとつ頼みがある、レオルド》
《……なんすか》
《予約していたエロ本を代引きで受け取っておいてくれ》
《アンタ本当にブレねぇっすねぇ!? 了解! 健闘を祈ります!》
「レオルドさん! 早く!」
パープルシスターが息を切らした大きなネプテューヌを抱え、アイエフをブラックシスターが抱えている。
残るホワイトシスターの二人が頷くと空高く舞い上がった。
「いっくよー、ロムちゃん!」
「う、うん! 大魔導師のおじちゃんを参考にした、わたし達の魔法……!」
ルウィーで滞在していた大魔導師は、二人に魔術を教えるわけではなかった。ただ「見て盗め」とだけ伝えてアホのような魔術を乱発。そこから着想を得て独自に完成させた広範囲魔法。
どういう原理か、よくはわからない。だが大魔導師は雪だけでなく氷の結晶から家具を作り出していた。雪像を自由自在に動かしてルウィー職員達にトラウマを植えつけたのも記憶に新しい。
「「フリージング・ウォール!!」」
ホワイトシスターが杖を高く掲げて振るう。粉雪が舞い降りていき、徐々にその結晶を大きくしていき──雹のように降り注ぐとシュラ達が設定した戦闘区域に合わせて巨大な氷の壁を形成していく。
廃ビルが白く凍りつき、瞬く間に拠点周辺は氷の世界となった。
《お二人共、流石です! あとは我らにお任せを!》
「うまくできて、よかったぁ……」
「うんうん! みんなもがんばりなさいよー!」
ワープゲートへ二人が消えたのを確認してから、ディルはシュラに合図を送る。
破壊力特化型リモコン爆弾が廃ビルの柱を粉砕し、ゲートを塞いだことで守護女神近衛機兵団の退路を完全に断った。だがエヌラスであれば難なく突破できるだろう。
──刹那の静寂が訪れる。
《──勝算は限りなく零に近い。だが、此処でシロトラ教官の追加装甲だけは引き剥がすぞ》
《やれやれ。結局シャニのやつは間に合わなかったか》
《アイツせっかちだから今頃調整急かしてるでしょうねー》
バズの言葉に、ディル達が笑い合う。違いない、と。
戦闘エリアに突入してくる反応に全員が武器を手にした。
爆音と、爆炎を引き裂いて姿を現したのは《ライデンHⅡ増加装甲》に身を包んだシロトラ。その足元に転がるのは──ロゼの右腕だった。
ブルースザッパーの刀身を放熱で揺らしながら、周辺状況の変化を確認する。
《シロトラ教官。お久しぶりです》
《……そこをどけ》
《断る》
シロトラの言葉に鋭く言い放ったのは、ディルだった。
《アンタは俺の兄弟を殺した。俺達の仲間を殺した。許すわけにはいかない──すまないがここで少しばかり付き合ってもらうぞ、シロトラ教官!》
《……本気で勝てると考えているのなら、甘いな》
《勝てるなんて思っちゃいないさ。なぁ?》
全員が同意する。
勝算もない。勝機などもってのほか。全てのプランが上手くいったとして、シロトラを撃墜できるなどと誰も考えちゃいない。
一撃でもいい。少しでもいい。僅かでもいい。
全てレオルドに賭ける。
勝てる可能性に全てを託す。
《ただ一度ばかり、アンタに俺達の成長を味わって欲しいだけだ──作戦開始!》
俺達は、そのために造られたのだから。