超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
増加装甲を剥がされた今、シロトラの戦場機動力は他の追随を許さない。
それに唯一並び立つシャニは新型ユニットの移設と調整に手間取っている。残されたディル達にとって、あまりに厳しい戦況の中──心次元では、もう一方で激戦が繰り広げられていた。
重傷を負ったうずめを退避させるためにエヌラスは洗脳状態の四女神を相手に一人残った。
パープルハートの太刀を弾き、ブラックハートの大剣を流し、ホワイトハートの戦斧を捌き、グリーンハートの長槍を防ぐ。防戦一方ではあるが、それでも互いに決め手に欠けていた。
なにも考えなしに残ったわけではないと、くろめは踏んでいる。何か奥の手を隠しているに違いない。だがそれがどんな手段であろうとも“不可能”だと確信していた。
ヌルズ・エクス・モルテスから聞き及んでいた限り、そんな器用な真似ができる人物ではない。だが決して侮るなとも忠告されていた。事実、四女神を相手に拮抗状態にまで持ち込んでいるエヌラスの戦闘能力は楽観視できない。
険しい表情のまま、エヌラスは静かに息を整えていた。破壊の権能が強まっている今だからこそ四女神と互角だが、絶望の邪神はその上をいく。
「──ずいぶんと優しいこったな、女神様。死にぞこないの魔人ひとり倒すのに時間かかるじゃねぇか」
カチンと来たのか、顔を引きつらせるブラックハートを見てエヌラスはほくそ笑む。
「な・ん・で・すっ、てぇ〜〜!! こぉの──!!」
パープルハート達が引き留めようとするのも聞かず、最大戦速で一直線に突っ込んでくる。それを見てエヌラスは自身に磁場鍛装の“負極”を付与した。
大剣の一振りを防ぐと、呆気なく吹き飛ばされていく姿に追撃する。足場から投げ出され、心次元の宇宙空間に放り出された相手にブラックハートが大剣を更に振るうが、そこにエヌラスの姿はなかった。
「ノワール、上よ!」
「っ!?」
電磁加速蹴撃──“アクセル・インパクト”ないし“アクセル・ストライク”はエヌラスの得意とする技だ。だがそれはあくまで魔術の研鑽における近接魔術のひとつ。原理は単純明快、加速して蹴り飛ばすというものだが、その上が存在する。
断鎖術式一号・ティマイオス。二号・クリティアスを用いた近接魔術は時空そのものの歪める局地的な歪曲現象を引き起こす。空間そのものを蹴り飛ばすだけでなく、時間の逆流現象も併発させることで防御不能の一撃となるが──エヌラスはそれを移動技として扱っていた。
空間を跳ねるようにブラックハートの上方を取り、脚を振り下ろす。当然それは断鎖術式を発動させたままの“アトランティス・ストライク”として。
魔術的質量を伴ったかかと落としによってブラックハートの身体が吹き飛ばされ、エヌラスはそれに目もくれず残るパープルハート達に倭刀を構えて立ち向かう。
(いやこりゃ、厳しいな──!)
大魔導師が言っていた。
お前の身体は四女神と戦えるように作っていない、と。つまりそれは、彼女たちの存在そのものを大魔導師が予想していなかったということになる。しかし果たして本当なのだろうか?
壊次元は次元神セロンが超次元より切り離した存在の蠱毒。ならば、大魔導師はそもそも守護女神の存在を知っていたはずだ。
ならばなぜ最初からそう作らなかったのか。──それとも、
それでも。エヌラスが今、四女神と対等に渡り合えるのはこれまでの邪神狩りで培った戦闘の経験に依るものが大きい。己を知り、相手を知る。其の上で彼我の実力差を認識し、さてどうするか。
手札は限られている。使えるものも多くない。だが、諦めることだけは出来ない。
状況を見れば多勢に無勢。本当にそうだろうか、エヌラスはこれまでにも絶望的な戦力差を覆してきた。今回もそうだ。
一度に四人を相手にするのと
「この──!」
「ブラン、お待ちになって」
挑発されたブラックハートを迎撃したことでホワイトハートが続こうとするが、すぐにグリーンハートに制止される。流石に勘づかれたか、エヌラスは舌打ちをこぼして足場に着地した。
「なんだよ、ベール」
「ネプテューヌ。そちらはノワールと。わたくしはブランと同時に攻撃を」
「わかったわ」
「エヌラス。貴方の戦闘力を見くびったことはありませんわ、ただの一度も」
「そりゃありがてぇ、女神様直々のお褒めの言葉とはな」
ホワイトハートとグリーンハートが同時に攻め込んでくる。パープルハートはブラックハートと合流してからくる腹づもりだろう。
ならば──エヌラスは背を向けた。
「は?」
ホワイトハートが面食らい、そのまま磁気加速によって全速力でパープルハートの妨害へ向かう。
横から突っ込んでくるエヌラスの倭刀を受け止めるが、押し当てた足の前蹴りから突き飛ばされる。その反動で断鎖術式の連続起動によってホワイトハートに向かうと振るわれる戦斧を避けて方向を調整して頭を蹴りつけた。
「くっ!」
グリーンハートの長槍を紙一重で避けながら納刀する。だが、あまりに近い。ワンインチでは抜刀は出来ない、しかし──エヌラスの手に奔る紫電に目を見開く。
「
鯉口に充填された正極と負極の臨界点を、親指で撃ち出す。光速で打ち出される柄頭がグリーンハートの腹部を強烈に打ちつけた。息をつまらせて出来た隙にエヌラスは改めて超電磁抜刀術を放った。
四方に散り散りになった四女神が復帰するまでの僅かな時間で整息する。左腕にまとわりつく紫電を振り払い、鼻で笑った。自分を引き止めようとする戦乙女の姿を幻視してしまったからだ。
(……なげぇ旅だったな、本当に)
最初から、今日という日までずっと戦い続けてきた。超電磁抜刀術をこれまで幾度となく使ってきた。倭刀の鞘は手に馴染み、柄を握れば自ずと手が動く。まるで刀自身が意思を持つかのように。
──付喪神。そんな言葉を脳裏を掠め、エヌラスは頭を振った。
「ばかいえ……化けて出るなよ、お前は」
倭刀に言葉を投げかけて、その場から飛び退く。頭上から降り注ぐ32式エクスブレイドに混じってブラックハートがヴォルケーノダイブで突っ込んできていた。遅れてパープルハートが同時に攻めてくる。
大剣と太刀を捌いてエヌラスがパープルハートを蹴り飛ばし、距離を取った。文字通りの横槍、グリーンハートが眉をひそめる。
「よく避けましたね」
「胸が目立つからな、お前は」
たゆん。──当然胸の話題を出せばカチンとくるのがもう一人。問答無用で機嫌を損ねる白の女神が氷塊を打ち出して逃げ場を塞ぎながら戦斧で空気を薙ぎ払いながら横薙ぎにしてくる。
倭刀の背に左手を押し当て、身を屈めながら一撃を敢えて防ぐ。
全身を置き去りにしたような衝撃にエヌラスが歯噛みしながらも耐え、大きく後退っていった。怒り心頭で振るった一撃に倭刀が砕け散るが、すぐに魔力で刀身を再生させる。
「はぁ……ブラン」
「……うるせぇな。ついカッとなっちまってやったんだ。反省はしてる」
「ならいいのですけれど。これでは仕切り直しですわね」
五分にまで持ち込めているのは、くろめにとってまだ想定内だ。絶望の邪神の圧倒的な力を知っている。その搾り滓同然の男が四女神相当なことくらいは。だがわからないことがある。
「ひとつ、オレから質問をしてもいいかな。エヌラス」
「なんだよ、くろめ」
「……君はこの状況を逆転できる一手があるのかい?」
パープルハート達もそれは引っかかっていたのだろう。武器を下ろして視線で問いかけていた。
「君が持っているのは、破壊の力。それだけだ。そんなもので彼女たちをどうにかできると本当に──」
「思っちゃいねぇし、逆転の一手なんかねぇよ」
エヌラスの言葉に今度は四女神が絶句する。くろめも言葉を失っていた。
「ただ、こんな機会逃すわけにいかなくてな」
「エヌラス、貴方……一体何を考えてるの?」
「俺は“希望の証明”がしたいだけだ。ハッキリ言うが、お前たちがヌルズに勝てる確信が持てない。当たり前だ、死にかけの俺ひとり殺すのに手間取ってる女神が勝てるはずがねぇんだ」
ヌルズ・エクス・モルテス自身が言っていたことだ──女神の力が総結集すれば、可能性があるのだと。しかしそれは、暗に四女神では“足りない”という意味でもあった。
うずめがいる。ネプギア達女神候補生がいる。神次元の守護女神達もいる。総力を賭して挑めば勝算があるということは、当然対策をしたはずだ。
そのための魔人達であり、心次元のくろめは思わぬ拾い物だったのだろう。
「最初からそのために?」
「当たり前だろうが。こんなバカみてーな考え、言ったらメチャクチャ怒るだろお前ら。俺程度の絶望踏み越えられないようじゃ困るんだよ。わかったらもうちょっと気合入れて殺しに来い──そうでもねぇと、いつまでも終わらねぇだろうが」
胸中で琴霧ソラに向けて謝罪する。
命がけで救ってくれた命を、わざわざまた捨てるような真似をしたと知ったら怒るに違いない。
だが、お前が救おうとしたバカはこんな生き方しか知らない正真正銘のバカなのだから──文句があるなら地獄で殴りに来い。その時は、倍返しにして殴り返してやる。
「わかったら本気で来い。そう簡単に死なねぇのはお前らがよく知ってるだろうが」
パープルハート達が武器を持ち直し、構えた。
「……貴方はそんな生き方しかできないのね、エヌラス」
「ああ。こんな生き方しか出来ねぇんだ。バカだからよ」