超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
そうこうして騒いでいる間にもスピカとカルネの二人は破壊ロボの解体作業に取り掛かっていた。装甲はそれほど厚くないのか、カルネの朱い太刀で溶断されると中に詰められている部品がボロボロとこぼれ落ちていく。スピカの縦横無尽な弾幕に晒されて何箇所も爆発していった。それに搭乗している技術者の悲鳴が音響兵器の如く九龍アマルガムに響き渡っていく。
『ぎにゃあーーー!? ヤメテー、ヤァメェテェー! お代官様そのようなご無体なー! おのれおのれ大岡越前! 天誅! あ、そーれ!』
巨大なドリルを振るうが、一対のアームは根本から二人の手で破壊された。
『あ、ダメだこれ!』
重力に引かれて落下していくドリルが足元に落ちる。その頭頂部に二人が着地すると、それぞれの得物を構えた。そこからの眺めは壮観としか言い様がない。まさに、混沌の渦中とでも言うべき街の有り様は破壊ロボの頭こそが台風の目とでも言いたげに――もしそうなればまさしくこの台風を引き起こしている破壊ロボは一刻も早く壊すべきだ。
突如、カルネは自害する――《ハザード・ランプ》に朱い太刀が突き刺され、その内部で燃えている超常燃料物質を直接太刀に纏わせた。
スピカの手には、棺桶。どこから取り出したのかと聞かれればスカートの中からである。
『鳴神・火雷』と携行魔砲『
球体関節から煙を吐きながらカルネは大きく息を吸い込み、吐き出す。その熱い吐息はまるで竜の息吹のように小さく火をまとっていた。
「ねぇねぇスピカ。これ、ドラゴンみたいじゃない? ぎゃおー」
「遊んでねぇでとっとと引きずり出すぞ。一発シメる」
「へいへいほーい」
粗暴な口調でスピカが棺桶状の魔砲を担ぎ上げて振り下ろす。衝撃でグラリと身体が傾き――。
『あ』
破壊ロボは横転した。街が倒壊していく。魔導生命体が大勢潰れ、ついでに施設がいくつも潰れていった。その被害は破壊ロボの登場と進行よりも遥かに多い。
「…………」
それを見ていたエヌラスは悟りを開いたような表情で見上げていた。
ネプテューヌは「おー……」と何か感心している。
ネプギアは呆然としていた。
ノワールは「あー……」とこの後の事後処理を想像して眉間を押さえる。
プルルートは足元で絶命している魔導生命体をつついていた。
街に乾いた風が吹いていく。瘴気を纏った、混沌とした風――キチッ――蟲の羽音が混じる。
「む」
ブシドーがふと、手を止めた。魔導生命体達の様子がおかしい。何かを畏れるような、目に見えぬ恐怖に怯えて、或いは抵抗するように威嚇の声をあげる。対敵である彼らに背を向けて、皆一様に横転した破壊ロボを睨んでいた。
バトラーがすん、と鼻を鳴らす。嗅ぎ慣れない臭いに顔をしかめ――。
“まさか――!?”
脳裏に蘇る恐怖の記憶に、クイーンの側へ移動した。
「クイーン、此処は危険です」
「ですが、バトラー。まだ調査の方が」
「それどころではありません!」
言うが早いか、破壊ロボから吹き飛ぶ二つの人影。見間違えようもない、それはスピカとカルネだった。メイド服の裾が擦り切れて、ブシドーとバトラーが受け止める。
その白肌に虫が一匹、這っていたがすぐに逃げ出した。
「よもや――貴様とは」
骸骨と道化の仮面。身を覆い隠すマント。長身痩躯の中にどれほどの臓腑を詰められているのか予想もつかない。超常の中に生き、魔物を飼い慣らし、魔蟲を操る狂気の神格者――クロックサイコ。
破壊ロボの壇上、まるでスポットライトを浴びた役者のようにそれは声を張り上げた。
「レィディィィィーーースゥ、アーーーン、ジェェェェェントォォルメェェン! アーッヒャッヒャッヒャ! すごいネ、素晴らしいネ! 感動的だネェ!」
不気味に不快に不可解なけたたましく笑う道化師を見た、その瞬間からエヌラスは両腕の感覚がないことを忘れて吠える。怨敵にして宿敵にして仇敵。不倶戴天の敵の名前を。
「クロォォォォォックッ!!!」
「やぁやぁやぁ、ハローハロー! 元気ぃしてたかナ? “腕の怪我”は治ったようだねぇ、感心感心だヨ! と言っても君は全然、全っ然、ゼェェェェンゼン気づいてなかったけどネェェェ!」
エヌラスの身体から迸る怒りが魔術回路を奮起させる。両腕からの灼けるような痛みをねじ伏せて“動かない”はずの両腕に二挺拳銃を“握りしめて”引き金を引いた。
灼熱の魔弾と冷厳の魔弾が絡みあうようにクロックサイコに向かうが、しかし、それを阻むように無数の蟲が威力を削ぎ落とす。そこに懐から取り出した奇怪な銃を取り出すとアッサリと相殺された。
「あァこれ。返すヨ」
そう言って、クロックサイコが担ぎ上げたのは――スピカが落とした携行魔砲『
「エエーット、なんだっケ? あぁそうだそうダ。妹さんの棺桶だったネ!」
「――――テェメェェェェェッ!!!」
「我、埋葬にあたわず! 中身はカラッポだったけどネェェェーー!!」
スピカが放った時とはまた毛色の違う魔砲が放たれる。ネプテューヌ達が防御しようとして、エヌラスは飛び出した。
「あ、ちょっと!?」
「テメェだけは許さねぇ! テメェだけは、絶対に赦さねぇ!」
「ヒャ!?」
それは、純粋な怒りだった。大切な物を奪われた一人の男の、感情の爆発。痺れるような指先の感覚を握りしめた防御障壁で魔砲を殴り返す。クロックサイコもそれは予想だにしていなかったのか、驚愕に身体を竦めた。その爆風に煽られて、ノワールが思わず目を覆う。
「そこ動くんじゃねぇぞぉ! 今殺してやる、今すぐにでも殺してやる!」
「アアいいとも! 来てもいいヨォ!
「
「アァーッヒャッヒャッヒャッヒャ! そこまでしちゃう、そこまでヤっちゃう!? 熱心だネ! 感心だヨ! ダ・ケ・ド――」
偃月刀の一撃も、二挺拳銃も、光速の飛び蹴りも――エヌラスの攻撃は何一つクロックサイコには届かなかった。掠りもせず、ただの一撃すら触れることが出来ずに終わる。刀と一体化した多機能型の奇怪な銃を巧みに取り回して、フェイントからの蹴りがエヌラスの頬骨を打った。
「無駄、なんだよネェ。今のキミじゃ弱すぎてま・る・で、お話にならないネ! 駄目だヨ、駄目だネ、駄目駄目だネ!」
刀が跳ね上がり、銃口の下からエヌラスを切り裂く。たたらを踏んで、尚も進もうとする身体を貫いた。それでも止まらず、仮面を鷲掴みにするが今度は蹴り飛ばされる。
「ああ、そウそウ☆」
思い出したように指を立てて、それが手首ごとふっ飛ばされた。エヌラスの右手には真紅の自動式拳銃が握られている。だが、羽虫の耳障りな音と節足をわななかせてムカデが集まるとすぐに元通りに手が形成された。二度、三度その感触を確かめると――再現シーンのようにもう一度指を立てる。
「ああ、そうそう☆ ボクに構うのはいいけど――誰が彼女達を守るんダァイ」
「――――」
ネプテューヌ達を見やって、そこでエヌラスは背筋が凍った。ブシドーとバトラーが魔導生命体の生き残りを駆逐している。クイーンも側にいる。
「テメェ――!」
「キミはそうだよネェ、そうしちゃうだろうネ。こうしちゃうだろうネ。自分以外の誰かがボクの手に掛かって殺されちゃうのがイヤで嫌で堪らないだろうネ。だからこうしちゃうんだろう? 敵わないって分かってても、どうしても魂の衝動は抑え込めない! そうだろう、エヌラスっ! だってキミの本質は“憎悪”と“怒り”なんだからサァッ!」
クロックサイコの刀が起き上がろうとするエヌラスの肩口を貫き、仮面が眼前に迫った。視界を覆い、鼻先が触れるほどに近い二人の間に火花が散る。
「ブチ殺したくて堪らないだろウ!? 殺して殺して殺し尽くしたくて、キミはワタシをそうしたくて堪らないってのは知ってるヨ! 落とし物は“あと何個”かナ! そこでヒントをあげようと思ってネ!」
「くたばれ」
「傷口に塩を塗りこまれるよりはイイダロ~?」
刀が抉るように傷口を広げた。だが、今はその痛みよりも怒りの方が優っている。それを面白くなさそうに鼻を鳴らして、クロックサイコは鼻先に指を当てた。
「ボクが拾ったキミの能力。洞窟に置いてきちゃった☆ それがどこか知りたいかい? 教えよう! 教えてあげるとも、サ! アヅール洞窟だヨ! でも道中は危険が一杯で大変だろうネ! だからそこでキミに試練を与えよう!」
大仰に手を広げると、エヌラスの肩から血が吹き出る。その真新しい傷を即座に魔力で塞ぐなりエヌラスは偃月刀を振るった。クロックサイコの胴体が横薙ぎに真っ二つにされる。だが、
「かくれんぼがいいかい? それとも鬼ごっこ? もちろんキミが鬼でボクが逃げる側! 今のキミを見たら鬼でも逃げ出すだろうネ! 鋼の鬼神でも例外じゃないヨ!」
「アイツは逃げねぇ」
「そーっだったそうだっタ。それは盲点!」
何事もないように胴を流れた蟲が無数に地面に散らばるだけで平然としていた。稀代の怪物にして狂気の魔人は冗談のように不死性で理不尽に立ちはだかる。
「――で、話を戻すとね。つまり彼女達の誰かをボクが連れ去らうからキミは死に物狂いで探しに来て欲しいんだ」
「――――」
「誰がイイ? ん、彼女達の誰を酷い目に遭わせたいかナ?」
ジロリと仮面の視線がネプテューヌ達に向けられて――さすがにブシドー達の不利を悟ったのかネプテューヌ達が変身する――その中で一人だけ、変身しないまま立ち向かう少女がいた。手を叩き、クロックサイコがエヌラスに視線を戻す。
「決ーめた。彼女にしよう! その方が盛り上がるだろう、ギャーハハハハハハ!」
「テメ、待ちやがれぇ!」
「待ーたないっ。じゃあ十秒数えてから追いかけてきてねぇ~!」
「ごはァ――ッ!」
起き上がろうとする身体を細身とは思えない脚力で踏みつけるとエヌラスは破壊ロボの装甲にめり込んだ。その目の前で無数の蟲となって消え去る姿に手を伸ばす、が――届かない。
「待、ち……やがれェ――クロォォォォックッ!!」
絶叫だけが空しく響く。