※この作品はR-18です。

超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽-   作:アメリカ兎

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ep.215 旅の終わり──明日への望み

 

 戦った。

 戦い続けた。

 戦い続けてきた。

 もうずっと、長い間。

 

 エヌラスは倭刀を振るいながら、四女神たちと火花を散らし続ける。

 

 どこに行っても。

 どこまで行っても。

 記憶を失い。愛犬を奪われ。力を失い。友達を殺し、誰かの涙を後にして。

 ──それでもずっと、戦い続けてきた。

 

 自分の死に場所を探してきた。だけど、死ねなかった。死ねない理由ばかり拾い集めてきた。

 背負って、背負って。背負い続けて、抱え込んで。

 

 心次元。この終焉に辿り着いた次元が自分の死に場所だと言うのなら──それは、なんて幸運なのだろう。

 四女神が自分の最期だというのなら、それはこれ以上無い幸運と言える。

 

 パープルハートの太刀と激しく斬り結びながらエヌラスは妙な心地を覚えていた。

 

「クロス、コンビネーションッ!!」

 守護女神の連撃をいなし、捌き、防ぎ切る。

 

 初めて出会った時のことを、朧気ながら覚えている。だけど、彼女の──ネプテューヌの笑顔を思い出す。

 どんな時でも「なんとかなる」と根拠のない自信に満ちた笑顔で、本当になんとかしてきた。

 主人公補正がどうのこうのとか、エヌラスは知らない。ただ、隣にいるのは居心地が悪くなかった。底抜けに明るい顔を見ているとどうしてもマリーを思い出したから。

 

 この手にかけた初恋の人。陰謀の名の下に捧げられた人間の女の子。最愛の妹さえも。

 ──世界を滅ぼしたいと、本気で願った。全て壊しつくしてやりたいと本気で思った。

 だけど、それは出来なかった。叶わなかった。

 全てを破壊するには、少しばかり──大切なものが多すぎたから。

 

 パープルハートに反撃に出ようとして、避けられた。その背後からまっすぐに突っ込んできていたのは、ブラックハート。

 大剣を突き出したまま、身体を貫いた勢いを落とさずに崩れ落ちたビルの壁面に縫いつける。

 

「あっはははは! 痛いでしょうね、コレ!」

「ったり、めぇだろうがぁ!!! 人の腹にでけぇ穴開けてくれてんじゃねぇよクソボケが!」

 血反吐を散らしながら、エヌラスがレイジングジャッジをブラックハートに突きつけて連射した。守護女神の防御力と言えど直撃を受ければ衝撃でダメージを負う。“ずるり”と嫌な音を立てて腹部から引き抜かれた大剣に、エヌラスは間近でアトランティス・ストライクを叩き込んだ。

 

 商業国家ユノスダス。ユウコがいてくれた。どんなに塞ぎ込んで、落ち込んでいても、自然と足が向かうのはそこだった。

 いつもは口やかましいくせに。いつもは口を開けば金を返せだの仕事しろだの言うくせに。

 自分がひどく落ち込んでいたり、悩んでいたりする時はいつも優しく寄り添ってくれていた。

 ──どうして、ユウコの作る料理はこんなにも胃袋を掴んで離さないのかわからない。

 

 ブラックハートを突き放した、そこへホワイトハートがビルごとエヌラスを薙ぎ払った。吹き飛ぶ身体を射抜くグリーンハートのシレットスピアーを避けきれず、左肩に激痛が走る。

 

 電脳国家インタースカイ。琴霧ソラは、普段から厭味ったらしいくせに、ここぞという時はいつも助け舟を出してくれた。そのくせ面倒ごとには首を突っ込みたくないと小言をこぼして。

 

 軍事国家アゴウ。アルシュベイトがいた。剣姫は……その当時はいなかったけれど。あの二人が問答無用で背中を押してくれた。立ち止まっていても仕方ないのだと。失った痛みを抱えて誰もが生きているのだと諭してくれた。

 

 魔力防壁で無理矢理魔力の槍を粉砕して、銀鍵守護器官の再生能力で左肩の傷口を治癒させる。エヌラスが空中で受け身を取ると今度はパープルハートが太刀を振りかぶる。

 超電磁抜刀術(レールガン)で先の先。切っ先が閃くよりも先に打ち払う、だが──それが狙いだったのだと、穂先を構えるグリーンハートの姿を視界の端に捉えてエヌラスが舌打ちをこぼした。

 

「同じ手を二度も使うとお思いでしたら、大間違いですわ!」

「──クソッタレが」

 倭刀の鞘で長槍を打ち払うが、グリーンハートが食いついてくる。距離を取りたいエヌラスにしてみれば相手のペースに呑まれることだけは避けたかった。

 

超電磁抜刀術(レールガン)、確かに相手にするとこれほど恐ろしい抜刀術もありませんが。明確な弱点がひとつ──それは、必ず“納刀”しなければならないこと」

 そう。グリーンハートの言葉通りだ。それは致命的な動作、抜刀術である以上、“電導(コイル)”の充填も兼ねて鞘に納めなければならない。

 刺突を繰り返すが、その動作ひとつ取ってもグリーンハートの妙技が光る。緩急のみならずフェイントを加え、僅かな払いで呼吸を外してくる。だが決して手を緩めない。エヌラスに納刀させる暇を与えようとはしなかった。

 

「使ってる側がそいつは、一番よく知ってる! だから正解だ、ベール! こういう状況ってのは、一番やりづれぇ!」

「……言いませんわよ?」

「槍だけに!」

「なんで言うんですの……」

「だから──」

 槍を倭刀で払い、エヌラスは納刀する。当然、グリーンハートの長槍を防ぐ得物がなければ身体を貫かれるだけだ。“だからこそ”身体で受け止める。

 穂先が再生を終えたばかりの左肩を貫き、すかさず引き抜こうとしたグリーンハートが引っかかりを覚えて目を凝らせば、アトラック=ナチャで縫い止めていた。

 

「っ!?」

「やり返す。倍にしてな──超電磁抜刀術(レールガン)……!」

 回避不可能な至近距離にあって、直撃は免れない。

 しかし。

 

「ベール、しっかり持ってろよ!」

 ホワイトハートが下方から急襲し、長槍を力のかぎり打ち上げた。肩口から切り抜けた穂先によって魔術回路が断線、エヌラスの超電磁抜刀術が電圧降下によって不発に終わる。

 グリーンハートは柄を離さず、長槍を巧みに回転させながら身を翻した。勢いを乗せた刺突が今度こそエヌラスの胸を貫き、廃墟の壁面に叩きつける。

 

「ごッ、ハ──!」

 壁に縫い留められる形になった姿に向けて、ブラックハートが大剣を大きく振りかぶっていた。左肩の痛みで倭刀を手放しそうになるが歯を食いしばって堪える。

 嫌な音を聞いた。肉を千切るような、耳障りな生理的嫌悪感を催す音。ビルの壁面に足を当てて、エヌラスは電磁加速蹴撃で身体から槍を引き抜いた。

 

 ──ブラックハートが大剣を振り下ろす。

 間一髪。しかし、すかさずパープルハートのクリティカルエッジが避けたエヌラスの身体を地面に叩き伏せる。

 

「……ちょっと、ノワール。あなたアレで外すってどういうこと?」

「馬鹿言わないで。外したんじゃないの、避けたのよ。ほんっと、戦闘のこととなるとバカみたいに手強いんだから──でも」

 ブラックハートの口が笑みを作った。

 宙を舞い、地面に落ちるものを見て頷く。

 

「でも──流石に“片腕”で私達に勝てるなんて、どんなバカでも考えつかないでしょ?」

 同意するパープルハート達が見下ろすひび割れた地面の上で、真っ黒な右腕は闇の中へ溶けるように消えていった。シミ一つ残さず、まるで最初から()()()()()()()かのように。

 

 エヌラスは感覚のなくなった右腕を見て、それから鼻で笑った。

 左腕だったらどうしようもなかったが、最初から使い物にならなかった右腕だったからこそ痛みのショック症状で気絶することだけは避けられている。

 元より、ずっと。

 使い物にならない腕を、引きずっていたのだから。

 

 犯罪国家九龍アマルガム。大魔導師の策略。狂い時計の陰謀。全てはただ、箱庭の世界を壊すために。次元神の規律を粉砕するためだけに。

 大魔導師。神を創ろうとした男。地上最強の魔術師。魔道の一点にのみおいて、神を超越した男。超常災害、黄金の獣。狂気の渦中にあって、なおもそれを正気と据える怪物。だが、誰よりも無垢な明日を望んだ独りの人間だ。

 未知が欲しい。誰も知らない明日が欲しい。ただそう願い、邁進してきただけの傑物。そのためならばどんなに人の道を外れてもかまわないと。

 箱庭の世界にある全てを使ったとしても、その世界の総てを救うことなどできないと気づいたただ一人の男。

 

 ──だから作った。だから望んだ。だから託した。絶望の魔人に。

 

 たった一言の祝福(のろい)を授けて産み落とした。

 

 諦めるな。と。

 

「エヌラス、いい加減に降参する気になったかしら? あなたがもうちょっと、大人しくしてくれたら優しく終わらせてあげるけど」

 銀鍵守護器官の再生が終わるなり、エヌラスは自分の身体を左腕で押して立ち上がった。

 割れた額から血が垂れる。

 潰れた左目は固く閉じられていた。

 左肩は真っ赤に濡れて。

 胸は貫かれ、背中にまで達している。だがその傷口も塞がっていた。

 右腕は──そこにない。肘から先が綺麗に消えてなくなっている。

 

 それでも、まだ。

 絶望の魔人は立っている。

 血のように赤い瞳が、まだ燻っていた。闘志の炎を絶やすことなく。

 

「なんだ、降参してほしいのか? ずいぶん弱気じゃねぇか、ノワール」

「──強がりはよしなさい。立っているのがやっとなんでしょ!? 左腕一本でどうやって戦うつもりしてるのよ!」

「あぁ? バカぬかすな。腕一本ありゃ十分だ」

 

 戦った。

 戦い続けた。

 戦い続けてきた──ずっと。

 この日のために。

 旅の終わりにたどり着くために。

 

「……ネプテューヌ、気づいていますか」

「なにかしら?」

「エヌラスの傷をよく見てください。特に、右腕を」

 グリーンハートに耳打ちされて、パープルハートが目を凝らす。

 言われて、右腕を見れば──血が止まっていた。

 心臓が動いている以上、全身を巡る血液は絶えず流れるはずだ。だがそれが無い。

 むしろこれまでが異常だったのだ。ただの一度たりとて、四肢の欠損もなく五体満足でいられたことが。

 それを可能としてきたのが銀鍵守護器官という無限の魔力貯蔵庫だったのだが、欠損した部位の再生は叶わないらしい。

 

「これはわたくしの予測ですが。エヌラスの身体は、治せますが作れないのではないかと」

「……なるほど、そういうことだとしたら納得がいくわ」

 これまでの戦いを振り返ってみても、そうとしか考えられない。尋常ではない耐久性能を誇っていたのはエヌラス自身のダメージコントロールもあるだろう。

 だがそれもここまでだ。

 

 鞘に納めたままの倭刀を片腕で振るう。整息。紫電を纏い、エヌラスが帯電した。

 赤い紫電。それ即ち、血液の魔力分解に他ならない。

 初めて魔術を教えてもらった時から、ずっとそれは変わらない。

 

「はっ、どんだけイキがろうがここが年貢の納め時ってやつだ!」

「自慢じゃねぇが税金なんか納めたことねぇわバーーーカッ!」

「……いや、それは……マジでダメなんじゃねぇか?」

「ブラン、言い負かされてどうするの……」

「あんな勢いで開き直る奴につける薬があると思うか、ノワール」

「ごめんなさい。私が間違って…………間違って……?」

 ブラックハートが考え込み──。

 

「…………今の流れで私が謝るのおかしくないかしら?」

「俺は悪くねぇぞ」

『どこが!?』

 エヌラスは鼻で笑う。

 ──自分の身体が、今にも崩れ去ろうとしているのに。

 それでも、まだ。

 

「そんじゃ、続きといこうか──女神様よ」

 この足は止まらない。

 今そこにある人々の希望に向けて、明日の望みを託すために。

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