※この作品はR-18です。

超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽-   作:アメリカ兎

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ep.217 最後の信徒

 

 ──心次元の天に登る光の柱を見て、ディルが唸った。シェアエネルギーによる奔流。膨大な光量を見るのは、これで二度目だ。それが意味する物は守護女神の新たな力、女神信仰の極限進化──『ネクストフォーム』の発動。

 猛争の力に取り憑かれたアフィモウジャスを一閃の下に伏した強大な力を目の当たりにした。それを見て、誰もが未来を確信したのだ。

 しかし。

 ディル達はそれが今、誰に向けられた力なのかを理解している。合流したシュラの手で換装されたバリアユニットでシロトラのエネルギー弾を防御しながら、左肩に展開させたミサイルユニットを一斉掃射した。

 

 白い機影は背中のツインバーニアを噴射しながら凄まじい速度で疾走していく。弾幕は全てビル影に飲まれ、飛び出したシロトラの射撃を回避する。

 その進路を阻むようにツキカゲとバズの二人が片腕で差し迫り、一閃のもとに伏していく。脚部ユニットを損傷したゼブラの狙撃がシロトラの体勢を崩した。

 犠牲を払いながら、まだどうにか膠着状態に持ち込めている。だがその均衡が破られるのは時間の問題だった。

 残ったのは、特務部隊トライアドの三名。ディル、シュラ、ジーン。そして最古参のゴウ。

 

《強襲班が全滅か。かなり苦戦を強いられるなコレは》

《ハハハ! 最初からだけどな!》

 交戦開始から、既に二百秒余りが経過している──これまでの最長記録を更新中だ。ディルが快活な笑い声を挙げているがこれ以上は厳しいだろう。

 多く見積もっても、三百秒以上の時間稼ぎは不可能だ。だがそれでも、誰一人として撤退の意思を見せることはない。

 

 体勢を崩したシロトラに打ち込まれるシュラの散弾銃が大きくノックバックさせ、その隙を見逃さずにディルとゴウがスラスターで加速して突撃していく。重量級の機体に押され、踏みとどまろうにも重量任せの突進によって後退を余儀なくされていた。

 ジーンは背中の遊撃兵装を強制解除すると、胴体ユニットを袈裟斬りにされて機関部の停止したツキカゲの背面から強襲兵装を懸架して接続する。

 

《俺が代役を努める。元強襲班だ。ゼブラ、狙撃は任せる》

《無茶言ってくれる! やったろうじゃないか!》

 

 シロトラを廃ビルの一階に押し込んだことで、ゴウの背面。特別兵装である高威力特化型榴弾砲が展開する。炸薬量を大幅に増加させることで大型目標、敵施設ないし、拠点制圧に最適化させた榴弾砲は、しかし、高精度の砲撃と引き換えに連射性能を犠牲にされた。装填数、一発。

 ジャイアント・キリング。それこそが『プランG』と呼ばれる所以──。

 

《正気か貴様ら──!?》

 シロトラの焦りとも取れる声色に、ディルがまたニヤリと意地の悪い声色で返した。

 

《アンタは強い! 俺達よりも遥かに! 越えることはできずとも、此処で盛大に足を引っ張ってやろうじゃないか!》

《バカを言うな。それを使えば──》

《大破は免れないだろうな! だがそれで大金星取れるならロマンティックにオール・インだ!》

 大破。それは、機体フレームを残した“修復不可能”を意味する。彼らにとっての「死」だ。

 それでも、ディルとゴウは躊躇しなかった。

 

 

 

 砲声が轟く。爆炎と地鳴りを響かせて、廃ビルが盛大な音を立てて崩れ落ちていく。戦闘区域の仕切りである氷の壁がビリビリと震えて、やがて亀裂が走った。爆風と土煙がシュラ達を飲み込み、やがて収まる。

 廃ビルは見るも無惨に跡形もなく瓦礫の山となっていた。爆破解体でも一撃でこうはならないだろう。

 シュラとジーンのデータログからディルとゴウの機体反応が消失する。

 

《…………》

 重苦しい空気に包まれ、遠くから聞こえてくる剣戟の音に武器を握る手を強めていた。

 シロトラの機体反応が消失していない。それが意味するところを痛感していた。

 仲間の死を嘆く暇もなく、瓦礫が突如吹き飛ばされる。シロトラのブルースザッパーの砲撃形態による脱出は功を奏し、甚大な機体損傷を受けながらも脱出に成功した。

 

 象徴的な純白のトレードカラーは煤と土埃で汚れ、見る影もない。超至近距離で受けた榴弾の自爆特攻によって損壊した頭部ユニット、無理な砲撃によって右腕部の関節部から火花が散っている。それだけではない、背面のツインバーニアも片方がひしゃげていた。左腕のマニュピレータも指が欠けている。

 これまでにない損壊にシロトラは静かに唸っていた。

 

《……褒めてやる。ここまで私を追い込んだことはな》

《よしてくださいよ。まるで奥の手があるみたいな言い方──》

 

《無い、とでも思っていたのか》

 

 ガション、と。音を立ててシロトラの背面から何かが排出される。それにシュラが目を奪われた。それは一枚の光学式ディスクだったが、灰色の地面に落ちるとすぐに数字の羅列となって消滅していく。だが、そこに込められていた情報量はこれまでに見たこともない。データ容量の許容量を遥かに超えていた。

 ジーン達の眼の前でシロトラの機体がみるみるうちに修復されていく。時間を巻き戻すようにして。関節部から出ていた火花は収まり、欠けていた指が生えてくる。ひしゃげたツインバーニアは紙細工のように形を整えられていく。

 

《戦闘用に作られた俺の持つ、緊急修復(リペア)ディスク。これを使わせたのは、お前たちで“二度目”だ》

《だが、それも無限じゃないでしょう?》

《当然だ。これを使えるのは、三度まで。俺の背面に背負ったディスクコンバータが焼き切れるからな。そして──お前たちに“次”など無い!》

 シロトラの全身から放たれるエネルギーの余波にシュラ達が後ずさる。

 

《リペアディスクを使わせた褒美だと思え。俺の全力を見せてやる──》

 全身が青く、青く染め上げられていく。塗装が剥がれ落ちるように。あるいは、穢れを知らない無垢な白さを汚していくように。

 それは彼らにとっても“エース”を象徴するパーソナルカラー。濃紺色の機体からはエネルギーの奔流がとめどなく溢れ出ていた。これまでの戦いはエネルギー出力を抑制した状態だったことに打ちのめされる。

 

《少々時間をかけすぎたな……これ以上俺の邪魔をするな》

 腰を落とし、シロトラが踏み込む。

 戦術機動において、他の追随を許さない走破性能がさらなる加速を見せたことでジーンが強襲兵装で前に出た。

 銃弾を弾き、ブルースザッパーの先端からエネルギー弾を連射する。背面の突撃加速装置を起動させることで回避するものの、それ以上の速度で追従してくると青い刃が閃いた。それを咄嗟の判断で防ごうとしたが、突撃銃ごと腕が切断される。防御が意味を為さず、突きつけられたブルースザッパーによってジーンの機体反応が消失した。

 脚部の損傷を抱えたままのゼブラが辛うじて狙撃銃で隙を突くが、左腕部の肘関節から青い粒子が排出されると凝縮され、やがてそれはスティック状の塊となって形成された。

 肘鉄を振るい、徹甲弾を弾き落とすと向き直る。

 

《……そんなんアリっすか、教官》

 武器を形成する機能が有るなどと、一度も話してくれたことなどなかった。絶句するゼブラに対して、シロトラはただ《ああ》とだけ短く応える。

 

《俺に蓄積された膨大な戦闘記録の“再現”だ。戦友の形見だと思え》

 ゼブラに切っ先を突きつけ、放たれるエネルギー弾をシュラが投擲した爆薬が相殺させた。

 

《……シュラ、俺のことはいい。自分の身を守ってくれ》

《特務隊は仲間を見捨てない。教官だってそう教えてくれただろう?》

 もはや覆すことは敵わない状況であっても、最後までシュラはシロトラへ立ち向かう。ゼブラもまた、大口径実弾狙撃銃の装填を急ぐ。

 リロードが終わる頃には、すれ違いざまにシロトラの刃によって右腕を切断されたシュラが連射された光弾の直撃を受けていた。元々最軽量機体として設計されていた同時期の顔馴染は、呆気ない最期を迎えている。しかし、抜け目なく左腕で投擲した爆薬が宙を舞うのを見た。

 その眼から光が失われていくのを見ながら、ゼブラは照準を定める。

 倍率の高いスコープと頭部ユニットを連動させ、覗き込んだ照準から放たれた弾丸は真っ直ぐに爆弾を誘爆させた。だが、黒煙の中からほとんど無傷のシロトラが歩み出てきたことでゼブラは肩を落とす。

 

《最後まで上手くいかないもんですね、教官殿》

《……────》

 眼前に突きつけられるブルースザッパーから光弾が放たれれば、瓦礫に座り込んだ自分は間違いなく大破する。どんなバカでも、万年ビリケツドベ太郎だったとしても想像に易い。だが、シロトラはどこか躊躇するような素振りを見せていた。

 

《教官、あなたが崇拝する女神というのがうずめ様だっていうことは理解しました。だけれども、今。あなたが消そうとしている女神も“うずめ”様だ。従っている女神も“うずめ”様だとしたら……教官。あなた一体、どっちの女神を信仰しているんですか》

《…………》

《最後くらい、答えてください》

《……それでも“私”は、最後の信徒として殉ずるだけだ。この滅び去った世界に残された守護女神のために》

 ブルースザッパーがゼブラの動力を停止させる。

 ──全機、沈黙。制圧完了。敵性反応がないことを確認すると、シロトラは零次元へ通じるゲートを封鎖している瓦礫の山に向けてブルースザッパーを水平に構えて両手で保持する。

 刀身半ばより分割され、内蔵機構を展開させてエネルギーを充填していく。

 

《……そうだ。そのためだ。“俺”は、女神を殺すために造られたんだ──そのはずだ。“私”は》

 

 だが、本当に──?

 

《っ……黙れ》

 無数のノイズが走る。本当に自分は守護女神を殺すために造られたのか。ならば何故猛争モンスターと戦うために仲間達と共に戦ったのか。過去の映像記録。それを人は“思い出”と呼ぶのだろう。

 仲間がいた。沢山の。彼らのように、仲間に囲まれて、共に戦い、共に栄華を担っていた……はずだった。だがいつからか道を違えてしまったのか。何故自分だけが、生き残ってしまったのか。

 人々のために。そう、プラネテューヌの人々のために──。

 

 ──守護女神オレンジハートを──!

 

《黙れ……貴様らに何がわかる。貴様ら程度の信徒に、何がッ!!!》

 

 エネルギーの奔流が激情と共に放たれる。凍てついた瓦礫を消し飛ばし、零次元へ通じるゲートをこじ開けた。排熱するブルースサッパーを閉じてシロトラが駆け出す。

 かつての教え子達を置き去りに、目を背けて。

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