超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
零次元のアジトでうずめにシェアクリスタルを与え、なんとか窮地を脱したネプギア達だがその顔色が明るくなったのも束の間。守護女神近衛機兵団の機体反応がなくなったことがレオルドの口から告げられる。シロトラがもうじき追撃に来るはずだ。
落ち込んでいる暇など無い。
「レオルドさん……」
《俺は、大丈夫っす。ここは一度撤退しましょう》
うずめの傷は深かった。回復するにせよ、体勢を立て直すにせよ。対守護女神決戦兵器として迫るシロトラを相手取るにはあまりにも不利な戦況を強いられている。レオルドの判断は早く、悩んでいる暇などなかった。
超次元に帰還し、うずめの手当をする。最優先事項はそれだ。
《うずめさん。もう少しだけ辛抱してください》
「うずめ。大丈夫かい?」
「海男……レオルド……ああ。俺なら、大丈夫だ。さっきに比べたら、だいぶ身体がマシになった」
弱々しく、なんとか声を絞り出しているうずめの痛ましい姿に海男も不安そうな表情をしている。しかし相手は待ってなどくれない。
ブラックシスターが心次元へ通じるワープゲートを監視していた。モンスターを蹴散らしながら現れた姿に一瞬眉を寄せるが、間違いない。機体のカラーリングこそ純白ではなくなっていたが、機体の外見的特徴は間違えるはずがなかった。
立ち止まり、周囲を索敵。そしてブラックシスターの姿を見つけると一目散に突撃してくる。
「なんてスピード! 早く此処を離れないとマズイわよ!」
先ほどと同じように氷の壁で相手を閉じ込められないか、というホワイトシスターの提案だったが、アレはシロトラを足止めする役目のディル達がいたからこそ出来た時間稼ぎだ。
《ネプギア様、急ぎましょう!》
「は、はい!」
「ネプギア。アンタの気持ちはわかるわ。エヌラスさんのことでしょ?」
「だいじょーぶよ! エヌラスおにいちゃんなら、きっとなんとかしてくれるわ」
「う、うん……きっとまた、ボロボロになっちゃったりしてるけど」
いつものように、満身創痍になりながら。傷ついた身体を引きずって。ネプテューヌ達を連れて帰ってきてくれるはずだとユニ達は信じていた。最悪の結末から目をそらすようにして。
凄まじい速度で迫るシロトラに追いつかれるのも時間の問題だった。アイエフが交戦も止むなし、そうなった場合は自分が足止め役を買って出るしかないと腹をくくったその時──。
《──聞こえるか、万年ビリケツドベ隊長! こちら強襲班班長シャニ!》
超次元へ通じるワープゲートから、もう一機。
マットブラックに黄色いラインで縁取った機影が“飛行”していた。それは、唯一彼らの中で戦闘用に開発された経緯を持つシャニに間違いなかった。
機体動力炉心に直結された大型の兵装パックは、電脳国家インタースカイ国王が軍事国家アゴウのデータを参照して設計した拡張装備。だがそれは彼らの拡張性能を特化させなければ実現不可能とされた。事態は急を要すると判断したメインメカニックであるグラさんが超特急で調整と武装の懸架を終わらせたことで実践投入となったが、シャニは既にそれが一手も二手も遅れていた事実に苛立ちを積もらせている。
《シャニ、こちらレオルド──》《報告など後回しだ! 特務班及び他の奴らは全機大破を確認している! 敵機確認、交戦を開始する!》
制止する暇もなくシャニはレオルド達をすり抜けてシロトラめがけて一直線に突撃していた。あまりにも時間が惜しい。彼の戦闘用人工知能が短気なところは「速戦即決」にある。判断を躊躇している一秒すら惜しむ迅速果断にして電光石火の決断。
二の句を告げる前にレオルドに送信されるのは、とある座標データ。困惑をよそにシャニは一度だけ振り向いた。
《レオルド! “
《無茶っすよシャニ! 一人で足止めなんて──!》
《ふん、貴様ら“資源採掘用ロボット”などと一緒にするな。俺は戦闘用ロボットだ! その俺が遅れを取るとでも? 出遅れた分は活躍で返上させてもらおうか!》
胴体ユニットと直結した飛行ユニットのメインスラスターだけでなく、大腿部のバーニアも噴射してシャニは単騎でシロトラと衝突する。
右手には実弾型突撃銃。左手に保持した連装型グレネードランチャー。その自動給弾機構も背中の飛行ユニット頼りだ。しかし、それ以上に特徴的なのが──追従する形で飛行する三基の自立型飛行ドローン。武装企業のアームドビットを小型化させたものだ。
動力源であるエネルギーを充填、射出させることで単機での完全包囲攻撃を可能とされている。しかし、その情報並列処理能力は資源採掘用に開発されたレオルド達に扱うことは不可能だった。
《業腹だが──戦闘用に開発された俺ではなく、お前だけが“可能性”だ。全てを知ったその後でどうするかはお前が決めろ、レオルド!》
緑色の軌跡を描いてシャニがシロトラの前へ立ちはだかる。進路を阻む形でドローンからレーザー照射を放ち、続けざまにグレネードランチャーで迂回させると後に続いた。
二人の姿がゴーストタウンへ消えると──続けざまに激しい銃撃戦が始まる。光弾と実弾が入り乱れ、爆発音、重い斬撃の音に混じってビルが音を立てて瓦解していった。
いくら戦闘用に開発された機体と言えど、単機では限界がある。
それでも。それでもだ──誰よりも気性が荒く、語気も荒ければ指示も手厳しい仲間が。何よりも自分が教官に認められることを望んでいたシャニが、自分から犠牲になることを買って出たのだ。レオルドは足を止めそうになるが、それでもパープルシスター達と共に超次元へ通じるワープゲートを目指してスラスターを噴射して速度を上げる。
零次元の町並みを並行しながら互いに射撃の手を止めることなくシロトラとシャニは駆け抜けていた。進行方向にあるビル壁にまっすぐ突っ込むと、シロトラは背中のバーニアで身体を押し付けるようにして垂直に壁を駆け上がっていく。
それに遅れてシャニが飛行ユニットで追いかけ、ビルの屋上で互いに銃口を突きつけて止まった。
《お前が自ら囮役を買って出るとはな。どういう風の吹き回しだ、シャニ。誰よりも戦果を望んできたはずではないのか?》
《ええ、その通りです。今もそれは変わりなく。教官、俺は貴方の強さに惚れ込んだ。貴方を超えたいと思っていた。仲間たちの誰よりも強く在りたかった──それは今も変わりません》
自分たちと系譜の異なる機体だったとしても、シャニはシロトラの教えを忠実に守ってきた。臨機応変に、かつ柔軟に。刻一刻と変わる戦場では躊躇している暇などない。常に動き回る。足を止めずに。
突撃銃を保持する手を強く握りしめて、シャニが突きつける。
《シロトラ教官! 最後のご指導ご鞭撻のほど、願います。守護女神近衛機兵団最後の一人として、俺は俺の使命を全うします》
本来であれば、シロトラはシャニの相手をせずにレオルド達を追撃するべきだ。
しかし──これまでの活動記録を辿り、手繰れば確かにそこには自分を慕うプラネテューヌのロボット達がいた。彼らは、行き場も記憶もなかった自分に“教官”という居場所を与えてくれたことを覚えている。
《……シャニ。私がお前を相手にするのは、私なりの“ケジメ”だと思え。B2AM、プラネテューヌ国境警備隊指揮官だった私との決別のために》
《ありがとうございます》
《そして──これからの“俺”は、守護女神護衛艦隊ゴッドフリート最後の生き残りとして使命を果たす。例え、教え子であるお前たち全員をこの手に掛けてでも! 俺は──》
シロトラの視界に、ノイズが走る。まただ。自らにそう言い聞かせるたびに、自分の中でなにかが不具合を起こしていた。そんなはずはない。そんなはずはないのだ。
《俺は、女神を殺すためだけに造られたのだから──!!!》
《──俺は、仲間を守るために造られましたよ。教官……貴方とこうなる日のために》
互いに最初から、進むべき道を違えていたのだ。
ただ彼らから与えられた居場所は、とても居心地がよかった。自分の中にある違和感を一時、忘れるほどに。
自分を教官と慕い、プラネテューヌの為に尽力する彼らと共にいた日々はかけがえのない記録として残るだろう。
誰よりも自分に追いつこうと懸命だった教え子と弾丸を交わし、刃を交わし、硝煙の中に身を投じている今の自分に、なんの疑問も抱かなかった。
シャニは最後に一度だけ、遠ざかる背中に視線を向ける。
別次元の守護女神を抱えて突撃加速装置を起動させる万年ビリケツドベ隊長、レオルドは前を見て走っていた。だが、不意に何か思ったのか振り返る。交わすはずのない視線がぶつかり、どちらともなく静かに頷いた。
──原初の活動記録を思い出す。自分がなぜ造られたのか。
──ブランドネーム“夜叉”。それが君に与えられた名前だ。私達が唯一戦闘用ブラスト・ランナーとして設計した君には、仲間を守る使命がある。レオルドを守れ。
──君達は、プラネテューヌの未来を左右するエネルギー源で動いている。我々の手に余る代物だ。それを“環境汚染物質”として人々の手から遠ざける。
──この機密情報を、君にだけ与える。
──だからもしも、その時が来たら……君が選ぶんだ。
──君たちがどのように生きていくのか私達が決める権利はない。無責任かもしれない。だが、どうか許してほしい。
紙一重でエネルギー弾を回避し、突撃銃でシロトラの脚部を狙う。だが、慣性を無視した急制動からの跳躍。バーニアで落下を加速させながらの唐竹割りが迫る。
直撃する──! 咄嗟に防御機能を起動させようとしたその時。
《青いの! 少しずれろ!》
つんざく砲声。彼方より響き渡る重厚な発射音がシロトラの身体を吹っ飛ばした。空中で狙撃を受けて廃ビルの中へ転がり込む姿を視認してから、シャニは狙撃位置を割り出す。
距離にして四百メートル。傾いたビルの頂上。辛うじて残っている足場──そこにいたのは、武装企業の警備隊長だった。右手の大型スナイパーキャノンの砲口から硝煙が漂っている。
《警備隊長、何故貴様がここにいる!? 持ち場を離れるな!》
《ダンジョン内部の安全は確保済みだ! 部下に待機命令も出してある! もしも生きて戻れたら特別報酬も用意してやると言ってな! まったくふざけた連中だ!》
第五世代型。機体の小型化とビット本体の生存率に、武装の大型化が特徴的な武装企業の機体は、しかし機動力そのものは第四世代に劣っている。それでもコアユニットに搭載されているメインブースターによってある程度の滑空は可能だ。
《貴様も! 邪神の連中も! 我ら武装企業の邪魔をする連中はみな死ねばいい! だがその前に、企業の再建が最優先だ! 甚だ不愉快だがな、此処は共闘作業と行くぞ。足を引っ張るなよ青いの!》
《……今は黒いんだが》
むしろ青いのはシロトラの方だ。その事実に警備隊長から音割れした電子音声に依る怒号が飛んでくる。
《な ん だ と 貴 様ぁ──!!! パーソナルカラーをそう気安く変更するな! それがどれだけ味方との連携能力に損害を出すか知らんのか!! 友軍識別反応がなければそのまま撃ち抜いていたところだ!》
《ふんっ、いちいち口やかましい現場監督だ。警備隊長から改名しろ》
《無駄口を叩くな! こちらで援護する! 来るぞ!!》
警備隊長の電子音声に、シャニが滞空状態から高速機動に推力を切り替えた。直後、空を穿つ三日月型のエネルギー波がビルを薙ぎ払う。
直撃したはずのシロトラの機体は、全身から発せられる過剰なエネルギーオーラによって損傷を軽微に抑えられていた。シャニはその波形を分析する。
光学兵器であればまだ理解できた。しかし、実弾兵器ですらダメージを通さないとなると──いや。もっとも初歩的な物を見落としていた。
《エネルギーの無効化……そうか。“運動エネルギー”すら無効化する防御膜ということか!》
《馬鹿な!? そんなもの机上の空論だ!
《だが現に俺達の前にいる! 他に説明がつくか?》
《信じられるかそんな物!
それが何よりも問題だ。しかし、そうでなければシロトラの馬鹿げた機動力に説明がつかない。
《その通りだ。警備隊長──対守護女神決戦兵器として俺に搭載された機能のひとつがそれだ。“幻想殺し”とでも呼ぼうか》
攻撃に転用すれば、それは相手のシェアを相殺し、防御機能すら無効化する。攻防一体、あまりに理不尽な性能差。しかしシャニはそこに致命的な弱点を見出していた。
シロトラのバックパック。肩から伸びる大型のツインバーニアに挟まれる形で背負っている変換器。そこは常に稼働状態にあった。外部に露出させることで“幻想殺し”の機能を確保しているに違いない。
《警備隊長。弱点は背面だ。バーニアに挟まれているバックパックを停止させることができれば勝機はある》
《それがどうした! 私に狙撃しろとでも言うのか!》
《俺が全力で隙を作る! その一瞬で撃ち抜け!》
《なるほど完璧な作戦だ! “不可能”という点に目を瞑ればだがな!!!》
《だがやるしかない! 信じるぞ、貴様の腕を!》
《嗚呼いいだろう! ただし賞与はしっかり貰うぞ!!》