超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ユノスダス国内に入りこまれたドラグレイス達にとっては後のない戦況となる。しかしクロックサイコは涼しい顔で、歪めた口元から醜悪な呪文を呟く。その痩躯から放たれる邪気と邪念に心底嫌悪しながらもドラグレイスが先陣を切る。後に続くシルヴィオのステップも幾分かキレが落ちていた。
デッドエンドソウルが手にしていた刀を殺戮院・凶魔に『装填』する。機関部を唸らせながら赤黒い紫電が迸った。
「
鮮血を吹き出しながら殺戮院・凶魔から無数の刃が突き出す。その刀身に紫電が走るのを見てドラグレイスが舌打ちした。
「“富嶽”!」
叩きつけた棺桶から、地面を走る斬撃の数にして三十六。踊り狂うように波打つ電磁抜刀を三人が躱し、防ぎ、捌きながら切迫する。
それを阻むかのように鳳凰院・鏖花の砲門が睨みつけていた。
放たれる弾丸の一発一発が、呪詛を込められた魔弾。威力は大したことはないかもしれないが問題はその数。重機関銃が暴風雨のように叩きつけてくる弾丸を前にしてドラグレイスは進路変更を余儀なくされた。
それを見たクロックサイコは前後から挟み込む形で迫る電磁抜刀“富嶽”を最小限の動きで回避すると銃刀を収める。
「ハハハ、これは少しばかりマズイかな?」
“パチン!”と目の覚めるようなスナップ。指を鳴らして、再び迫る電磁抜刀を迎撃した。
「無駄な足掻きを──」
三人を無視して守護女神達を追いかけようとしたデッドエンドソウルが違和感を覚える。
鳳凰院・鏖花が吐き出す弾丸がまばらになっていく。その異変に間もなく気づき、右目を凝らしてみれば装甲の隙間にどこからともなく現れた虫達が入り込んでいた。
ドラグレイスもそれに気づく。そして自身に迫る弾丸を甲虫の群れが阻んでいた。同時に異臭に鼻を覆う。
「……これは」
「あぁ少しばかり嫌な臭いかもしれないが堪えてくれよ、ドラグレイス。なにせ一度や二度、身を浸した狂気というのはなまじ耐性がついてしまう。これでは少しばかり足りないな」
クロックサイコの腕を這う百足の群れ。肉食甲虫がズボンの裾から入り込み、肌を駆け上がる。手にしていた銃刀の表面を覆い隠していき、やがて埋もれていく。
「あの独立型戦闘支援兵装、一見ただの呪術兵装に見えるが、なんのことはない。戦闘機能を有するプロセッサユニットであると単純明快な答えだ。ならば──私がこれより使うものに対してさほど違和感はあるまい?」
蟲達が引いていく。
クロックサイコの手にひとつの“仮面”を残して。
「大魔導師が死者の魂を
「──」
ドラグレイスは言葉を失った。なぜなら、そんなはずはないからだ。
クロックサイコは神格を剥奪された。有り得ない。
だがたしかに今、長身痩躯の男から放たれるのは信仰の輝き。真っ当な代物ではない。どす黒く、肌に纏わりつくような不快感を伴う邪気、邪念──邪神の瘴気。
デッドエンドソウルもそれには気づいていた。
「貴様が何をしようと今更」
刀に手をかけ、不意に視界の端に黒い影が映る。
最初はそれが自らの操る殺戮院・凶魔と鳳凰院・鏖花だと思った。
しかし──肩に置かれた違和感。ひたりと這わせる指の感触に怖気が走る。
「──ばぁ★」
覗き込む異形の羊を模した仮面から発せられる、いやに甲高い声。
生理的嫌悪を伴う存在に迷うことなく抜刀していた。
仮面に走る一閃。綺麗な断面を覗かせて消え去るはずのそれは──
「あははははハハハハ! あはははハハハハ! ご挨拶だね、ビックリしたかい? ビックリしたね、そうだネ! そうでもなければバッサリしないね、ボカぁね! アハハハハハハ!!」
影法師が蠢く。無数の蟲によって構成された人の姿を模した異形が闇の中に溶けていく。
クロックサイコの足元。蟲溜まりから瓜二つの仮面が這い上がる。
「あぁそうだ。紹介しようか。自己紹介は必要だろうな、そうだろう?」
「うん? そうだね、それはそうだ。それじゃあ改めてボクの自己紹介、ダ!」
「はじめまして、絶望の邪神。ヌルズ・エクス・モルテス、紹介しよう──」
大仰に広げた腕に示されて「それ」は大きく両手を天に掲げた。
「これが私の“プロセッサユニット”だ」
「呼ばれて飛び出すジャンジャジャ~ンッ☆ ボクも「
「よぉし自己紹介できてえらい」
「一応神様だからネ! えらいヨッ!」
クロックサイコは確かに神格を剥奪された。当人に変神能力はない──それもそうだ。そのはずだ。だが信仰心は失われてなどいない。
そして何を崇めているかなど誰も知るはずがなかった。
「な、ん……?」
「説明するまでもないと思うが。これも偶像崇拝、という形だ。何ら不思議な話ではないだろう、ドラグレイス」
「そんなバカな話が──」
「通用するんだなこれが。君は生まれ損なった女神を信仰している。だが私は、崇拝する形を“創り上げた”のだ。そしてそれが、どのような信仰を集めているかなど……言うまでもないか」
身体を構成する無数の蟲。それらは今もデッドエンドソウルの呪術兵装の装甲の隙間に入り込み、内部機構を荒らしている。
「やれやれまったく。どいつもこいつも、相性というものを考えない脳筋ばかりで目に余る」
「仕方ないネ! バカだからネ!」
「この世で最初に“バグ”を引き起こしたのは人間などではない。人ですらない蟲だ。ならばそれは──神をも食らう厄災となる」
呪術兵装が機能停止すると、デッドエンドソウルはそれを迷うことなく転送した。
「さて、これで厄介な飾り物は取り払われたわけだが。これで負けたら洒落にならないぞ」
「勝ち目あるかナァン?」
狂い時計──ゴアは身体を覆うマントの下から二丁の銃と刀が一体化した奇妙な武器を持ち出した。むしろそれこそが本来、見慣れた「クロックサイコ」の姿であることにドラグレイスは妙に納得してしまう。
しかし、これでは振り出しに戻っただけだ。劣勢に押し込まれた物量差を埋めただけの話。自分たちにできるのはこれでもまだ“時間稼ぎ”程度のこと。
「──そうか。嗚呼、そうか。成程。お前たちは死にたいわけか」
閉ざされたままの左眼を押さえ、デッドエンドソウルが堪えきれない憤怒を露わにしていく。
全身に滾る激情が異界の熱を帯びているからかクロックサイコの蟲達でさえ寄りつけない。
「よもやコイツを貴様らのような成り損ないに使うことになるとはな──」
電磁抜刀。だがそれはあらぬ方角に向けられていた。そしてその斬撃は異空間を切り開く。
「世界の終焉さえ待ちきれんというのなら望み通りにしてやる! ──“
切り裂かれた空間から這い出したのは、漆黒の蜘蛛。そしてその姿に、ドラグレイスは見覚えがあった。かつて繰り返される輪廻の箱庭の中でエヌラスが用いていた対国家攻略呪術兵装の中に酷似している。
一刻も早く、一秒でも早く、“
そしてそれは、エヌラスが最強の軍神を降すためだけに創り上げた対軍事国家攻略呪術兵装『天雷』を模していた。
無数の鋼片が舞い、デッドエンドソウルの身体を余さず覆っていく。
「──さて、思わぬ虎の子が出てきたが? アレを前に勝ち目があるか、俺達に」
「ないかもネェン? いタァ!!」
ドラグレイスは見向きもせずゴアの顔面に裏拳を叩き込んだ。
「そのふざけた口を閉じろ」
「おやおやおやおや、上の口かナ? それとも下の口かナ? ドヒャー!!」
今度は金属バットのフルスイングでゴアの仮面を吹っ飛ばす。涼しい顔でクロックサイコはそれを避けていた。
「アレを黙らせろ」
「私の意思ではないから無理だね♪」
こいつ……! ドラグレイスは大鉈で笑顔のクロックサイコの顔をふっとばしてやろうかと思ったが、それどころではない。
『天骸』を装填したデッドエンドソウルが担ぎ上げるのは野太刀。おおよそ人間相手に振るわれるような代物ではないが、相手は情け容赦のない邪神だ。そしてその背面──黒蜘蛛の節足から覗く八本の太刀が蠢いている。
異形の十刀流による電磁抜刀を相手にしなければならないことにドラグレイスは懐から小瓶を取り出していた。
“黄金の蜂蜜酒”を服用するのは、なにも今回が初めてではない。僅かな酩酊感の後に、澄んだ思考と視界が捉えるのは魔力の気流。
「──さすがにもたんかもしれんな、こればかりは」