超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ユノスダス国外に引き離された天骸を纏ったヌルズを追撃するのは軍事国家アゴウより飛来してくる質量兵器の数々。編隊機動を組んだ機人達が統率の執れた一糸乱れぬ連携で止まぬ弾丸の襖を展開していた。
「小賢しい真似を──!!」
《煙幕展開!》
重装甲フォートクラブの両肩部から発射されるスモークディスチャージャー、アンダーバレルから放たれる煙幕。投擲される発煙筒の束。色とりどりの煙幕に覆われていくヌルズが視界を奪われる。
その煙幕の中から抜け出そうとするヌルズに正確無比な弾丸が打ち込まれた。重くのしかかるような質量に目を凝らせば、それは対物ライフルの弾頭。
《こちらストーム部隊、配置についた!》
《こちらタイフーン、いつでもやれる!》
《弾丸の嵐を食らわせてやれぇえええっ!!
それは人体では決して運用不可能なドラムマガジンを備えた中隊支援火器。機人達の背丈ほどにもなろう大口径ライフルからは猛犬の遠吠えの如く弾丸が凄まじい勢いで叩き出されていた。
煙幕に覆われたヌルズに対して、網膜ユニットを赤外線に切り替えた機人たちは鮮明に一挙一動を捉えている。容赦なく弾丸を撃ち続けるが、支援火器の冷却が追いつかない。砲身の交換を終えるまでの間にまた別分隊が動き始めていた。
《電子戦闘用意!》
《ッかぁぁー、やりたくねぇー! 機械の身体で!!》
軽口を叩きながら、アゴウの邪神制圧連隊は手にした黄色いラベルの手榴弾を次々に投擲していく。それは煙幕に紛れ込み、ヌルズの足元へ転がっていった。
爆ぜる爆弾からは無数の金属片が溢れ出し、花吹雪のように舞い散る。それは間違いなく機人たちにとって不利なはずの兵器だ。それをなぜ使うのか──だがヌルズはすぐに理解することになる。
対軍事国家攻略呪術兵装「天骸」の表面装甲。電磁装甲から放電されていく。制御を失った電磁波が金属片によって無数に散逸していくのを見て、ヌルズはすかさず電力供給を止める。
(っ……コイツらは……!!)
明らかに対策を練ってきている。戦闘練度、連携力、その他全てにおいて動きに迷いがない。
整列する機人たちが道を開ける中をただ一人歩く守護女神がいた。
「見くびるなよ、ヌルズ! おれの国はもう二度と邪神などに遅れはとらん!」
機人の一人が差し出した長刀を受け取り、担ぎ上げて歩く。
「電磁抜刀などというバカのひとつ覚えになどおれは負けんっ! おれも、アルシュベイトも! そのために築き上げてきた戦術だ、覚悟はいいかッ!!」
かつて一度は邪神に敗北を喫した。
だからもう二度と負けないと誓った。もう二度と泣かないと誓った。
あの日、涙と共に敗北は捨て去った。
ヌルズが右肩に担ぎ上げた野太刀から電磁抜刀を放とうとする。しかし、装甲に張り付いた金属片から電力が散乱してしまう。そして機人たちは決して距離を詰めようとしてこない。遠距離からの射撃と砲撃による質量攻撃によって拘束してくる。
《砲兵部隊、ッてぇぇぇーーッ!!!》
《相手は邪神だ! 条約違反なんか気にする必要ねぇ、ぶちかませッ!!》
《いやそれはちょっと気にしろ!?》
迫撃砲弾がヌルズに降り注ぐ。爆炎と衝撃で天骸の表面装甲が赤熱化していた。
誰かが気化爆弾を採用したような気がするが犯人を問い詰めている暇はない。
ヌルズ本体に損害は与えられないことは周知の事実。だが、その装備は別だ。そしてその挙動を封じ込めることによって優位に立つ。絶対に相手へアドバンテージを与えない戦術。
“前世”の記憶を取り戻したアルシュベイトと剣姫の立案した「対邪神戦術」は、ヌルズに対する絶対的なメタ戦術とも言える。そのデータを残したソラの意志を継いで、あらゆる兵装の使用許可を与えた。
兵装使用制限──無し。
目標──敵対象の完全制圧。
これほど単純明快な作戦もない。
「貴様がどれほどの兵装を使おうとおれ達はその全てを制圧するだけの火力を用意している。電磁抜刀の攻略をおれが考慮していないとでも思っていたのか」
知らぬ技ならばまだしも、知っている。それは誰よりもよく知っている。その剣に敗北を喫したことも、不意を打たれたことも。
──その仕手が、涙を呑んでいたことも覚えている。泣きながら戦いたくないと言っていた姿も。
それが何を意味していたのかも今となっては胸が痛くなるほど判る。
銃声に背を押されて、機人達の喝采に応えて剣姫は長刀を手に歩み寄っていた。
天骸の電磁抜刀を封じたところで、十刀流の手数は埋められない。しかし、それを遥かに上回る物量作戦。一発一発の弾丸は大した脅威ではない。それでも対軍事国家攻略呪術兵装である天骸は、あくまでも外付けの“武装”だ。いかに邪神と言えども覆せない法則がある。
煙幕が薄れる中、天骸の間合いに踏み込んだ剣姫は横一文字に長刀を構えた。背部の副腕が動いた刹那、既に刃は閃いている。機械仕掛けの腕が跳ね飛ばされるのを合図にヌルズが動いた。
剣姫が僅かに呼気を整える。──胸中によぎるのは、この手の届かなかった友達。
ドラグレイス。琴霧ソラ。──そして、エヌラス。
銀桜が舞い降りる中で、剣姫は分厚い刃を打ち込む。機人用に調整された長刀、それを自らの手の延長線として軽々と振るう膂力は尋常なものではない。
副腕が振るう野太刀の四本を二の腕から斬り飛ばし、跳ね上げた刃の腹に土を乗せて顔に浴びせかける。あまりに実践的な殺人剣、返す刃で残る副腕の二本を断ち切り、一寸刃を止めて呼気を整えた。
「チェェストォオオオッ!!」
打ち下ろした刃を跳ね上げ、再度打ち下ろす。叩き込まれた刃が最後の副腕をねじ切ると同時に長刀が歪な悲鳴をあげて叩き折れる。それを投げ捨てると、剣姫は無造作に機人へ手を差し出していた。そこへ誰がともなく懸架していた長刀を投げ込むと掴み取り、そのまま次の動作へ移る。
アゴウ国防剣術の理念とは──“攻撃は最大の防御”を体現した戦術。
対敵より損害を与えられる前に叩き潰す。
アゴウを象徴とする剣姫が編み出した戦術、だからこそ剣術と名乗っているが実態は少々異なる。
電磁抜刀を封殺した上で、尚も苛烈な連撃が天骸の大鐙を歪ませた。野太刀を引き抜いたヌルズが横薙ぎに振るう。それを十文字に交差させる形で受け止め、長刀を回り込ませるように掻い潜ると長刀を打ち上げる。その刀身に信仰の淡い光を上乗せして
野太刀の間合いをかいくぐったところで機人用に調整された長刀は超重量で叩き割ると同時に研ぎ澄ませた刃で押し切るという手法が用いられている。これは緻密な動作を苦手とする機人たちでも刀のような切れ味を発揮させるためだ。
剣姫は得物を迷うことなく捨てる。無手の拳に込められた怒りの鉄拳が天骸の脇腹を下からえぐりこむようにカチあげた。
アゴウ国防剣術とは名ばかり。剣姫の四肢から放たれる、それ即ち軍事国家を象徴とする武威である。ゆえに刃たり得ずとも無手の白兵戦もまた国防
剣姫の拳が天骸に打ち込まれるたびに、鈍く重い金属の悲鳴じみた音が聞こえてくる。それに機人たちは恐れ慄いていた。
アレが常に自分達に叩き込まれていた拳なのだから無理もない。
相手が機械だろうが鎧武者だろうがお構いなしに剣姫の鉄拳は装甲を穿つ。退屈しのぎに鍛錬を朝から晩まで練り上げるのは伊達ではない。
背面に背負った蜘蛛の腹部に足刀が打ち込まれる。重心を崩した天骸に合わせて放つ裏拳が空気を唸らせてみぞおちを殴りつけた。肩が触れるほど近づき、片腕で相手の視界を遮りながら放たれる正拳突き。その一撃にはたまらずヌルズも後ずさる。
すかさず剣姫は後ろへ下がると、吠えた。
「砲兵、放てぇぇええっ!!」
空気を震わせる号令に間髪入れず従う対物ライフルを構えた機人部隊。剣姫の姿はそこにすでになく、横から攫う形で
間もなく降り注ぐ無数の黒い雨。砲弾、弾丸、あらゆる質量兵器が爆炎と土煙の中にヌルズを慈悲も容赦もなく叩き込む。爆薬を搭載したフォートクラブまで突貫させる始末。
地図を書き換えるほどの総火力を叩き込まれていく姿を尻目に、ゼロワンは迂回するように部隊と合流すると剣姫を降ろした。
「ヌルズ、貴様はさぞ疑問だろうな! 対軍事国家攻略呪術兵装がなぜおれ達に通用しないのかを。たわけが、貴様は何も理解していない! それは“アルシュベイト攻略専用兵器”であっておれと、アゴウ国民を想定していないからだ! アイツに勝てるからといっておれに勝てると自惚れるなよ! 貴様に遅れを取ったのは人様の土地だからだ。壊次元ならば遠慮などいらん、勝手知ったる神の庭だ! 存分に叩き壊してやる!」
《一応ここユノスダス領内なので商業国家国王にバチクソ怒られますよ》
「………………お、おぉ。うん、ちょっと怖くなってきたぞ後のことが」
邪神などよりもよっぽど怖い。