※この作品はR-18です。

超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽-   作:アメリカ兎

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ep.239 世界が終わる前に、できること

 ユノスダス国内から叩き出され、電脳国家との国境線にまで追い詰めた天骸ヌルズは無数の弾丸と砲弾と爆撃によって身動きを封じられる。そしてその切れ間を縫うようにして剣姫が肉薄して白兵戦を仕掛けてくるが、一撃離脱。弾薬補給と装填を終えるなり、最新型の身体に馴染んだ元トライデント──国王親衛隊一番機ゼロワンが即座に剣姫を抱えて離脱する。

 絶え間なく舞い散るチャフグレネードの銀片によって電磁抜刀を封殺された天骸ヌルズの損害は著しく、呪術兵装の装甲が剥がれていた。

 ドラムマガジン式対物ライフルの弾頭を無数に叩き込まれる。削ぎ落とすように装甲の破片が吹き飛び、衝撃に身体が引っ張られていた。

 弾丸の雨の中を縫うように剣姫が駆け出す。拳を引き絞り、振るわれる野太刀の腹を手で打ち払うと正中線に沿った五段突きが瞬く間に打ち込まれる。

 分厚い面頬が砕かれ、その奥から憎悪と憤怒に満ちた赤い瞳が睨みつけていた。エヌラスと瓜二つの顔をしていながら、似ても似つかない雰囲気に剣姫は違和感が拭えない。

 

 既に超次元の守護女神たちは離脱している。これ以上の交戦はヌルズにとって無意味なものだ。しかし、そうしないということはまだ何かを目論んでいる。

 ──狙いは最初から“銀の鍵”だった。それを持っていたのが超次元の守護女神だっただけのこと。

 剣姫は魔術の類てんで駄目。まるっきり才能がない。むしろいらないとまで豪語している。

 

「ふんっ!」

 気迫と共に打ち込む二段突き。受けに回り、天骸ヌルズが捌く。しかしその手を掴み取り、甲冑組手からの投げに転じる。

 相手は頭から爪先まで武装した大具足だというのに剣姫は構わず投げ飛ばした。

 空中で相手が体勢を整える前に地対空拳術で四肢に衝撃波を叩き込むことで体勢を崩す。

 

「対空一三式──! “赤城”!」

 都合十三発の連弾がヌルズを空中に縫い留める。続く掌底が打ち出す衝撃に貫かれて今度こそ天骸に亀裂が走る。それを好機と見た剣姫の瞳に信仰の光が灯った。

 

「吹っ、飛べぇっ!! “烈風”っ!!」

 空気の壁をぶち抜く音速を越えた正拳が天骸を穿ち、ヌルズ本体へ到達する。転がりながら天骸は無数の鋼片となって壊れていく。子供がおもちゃ箱をひっくり返すように散らばる残骸を踏みしめて、拳から熱気を漂わせながら剣姫は歩み寄る。

 

「立て。貴様の顔など、何度殴ってもおれの気がすまん」

 天骸を喪失したところで呪術兵装攻略戦術に依然として変更無し。このまま封殺するつもりの剣姫だったが、立ち上がるヌルズ──デッドエンドソウルは不敵な笑みを浮かべたまま口端の血を拭う。

 

「──凶魔、鏖花。解放」

 殺戮の徒花が開く。

 剣姫が背後の気配に気づいた時には、すでに呪術兵装二基が連隊に奇襲を仕掛けていた。その凶刃と凶弾の哀れな被害者となった機人たちに目もくれず、剣姫はデッドエンドソウルに立ちはだかる。

 

「お前が助けに行かなければ大勢犠牲になるぞ」

「それがどうしたぁっ! 覚悟の上だ、みな死ぬ時は最前線だと誓いを立てている!」

 殺戮院・凶魔による電磁抜刀を、身を挺して防ぐ機人がいた。その一瞬のうちに弾丸を撃ち込む部隊がいた。

 鳳凰院・鏖花による無数の凶弾から盾を重ね、味方を庇う部隊があった。切れ目のない弾幕と見るやいなや、突撃していく。

 チャフグレネードの効果が薄いと即座に判断し、持ちうる火力を叩き込む力押し。奇襲であったにも関わらず、連隊はすぐに統率を取り戻す。指揮系統の乱れをまとめあげるのはゼロワン──シルフィだ。

 

《ストーム、ハリケーンとタイフーン部隊は下がれ! フォートクラブ、防壁展開! 白兵呪術兵装には接近するな! 射撃型には一撃離脱でかかれ! “黒の部隊(ビースト)”! 支援を頼む。煙幕展開!》

《──了解》

 低い電子音声で応えたのは、黒で統一された部隊。曰く付きの分隊は鏖花を煙幕の中に招待すると白煙を肩で切りながら超音速巡航で横をすり抜け、斬撃と射撃を織り交ぜて手榴弾を足元に投げ込む。

 爆発を置き去りに晴れた煙幕に合わせて、連装マイクロミサイルが矢継ぎ早に打ち込まれると反転。陽動と撹乱を引き受けていた。

 四方に散開し、高度優勢からの十字砲火を浴びせる。攻撃を引き付けている間にシルフィが接近すると至近距離から対物ライフルを押しつけて徹甲弾を撃ち込んだ。銃座の基部から溢れ出す赤黒い鮮血と悲鳴じみた奇怪な絶叫に気味悪さを覚えながらも、銃口が向けられると同時に離脱する。

 

 弾幕をものともせずに接近してくる凶魔に対して、連隊は苦戦を強いられていた。と、その時──蟲の群れがどこからともなく現れる。

 それは凶魔の目の前で人の形をとると、中から腕が伸びた。

 呪詛を込めた魔弾によって凶魔の装甲が異臭を放つ。網膜ユニットを拡大すれば、装甲が腐食していた。人体に硫酸を浴びせられるような痛みに悶絶しているのを呆然と機人たちが見つめる中。

 

「おヤ? おやおやまァ! 呼ばれてないけどジャンジャジャ~ン!」

 ──ぅゎでた。そう言いたげな空気が蔓延する中、ゴアは気にせず首をグルリと逆さまに回転させながら凶魔を観察。そのマントの下からもう一人、クロックサイコが身を乗り出した。

 

「はて、さて。同じ手が二度も通用するとは思えない相手だが、どうだろうか。こちらは任せたまえ、剣姫」

「礼は言わんからな!」

 何故ならキモいから。

 剣姫はぐるりと肩を回して首を慣らす。

 

 天骸の装甲の大半を失ったヌルズが、右肩に担ぎ上げた野太刀に紫電を奔らせる。その動きを見逃さまいとする剣姫だったが、違和感に眉をひそめた。

 相手の殺気がこちらを向いていないことに疑問を抱く。それに答えるようにヌルズが口を開く。

 

「守護女神は取り逃がしたか」

 だが。と言葉を続ける。

 

「だが、アイツらが戻る頃に超次元がどうなっているかなどお前たちは考えもしないだろう?」

「貴様……! 何をした」

「何もしていない。俺はな。あちらはあちらの取り分だ。知ったことではない。そしてお前たちも俺にとっては取るに足らない相手だ。わかるか? 俺がこうして直接手を下す理由などない」

 ヌルズ──デッドエンドソウルが跳躍した。右肩に野太刀を携えたままの高度優勢に剣姫は迎撃体勢をとる。しかしやはり、その剣気はこちらを見てなどいなかった。

 ならば、どこに──? そう疑問に思った矢先に、まさかと振り返る。

 

「確か次元転送装置は、ユノスダスにしかないはずだったな?」

 紫電が半壊した天骸を崩壊させながら野太刀を連結させていく。

 剣姫はそこでヌルズの狙いがユノスダス教会であることに気づき、大地を蹴った。

 

「もう遅い! 電磁抜刀(レールガン)──“天骸”!」

「チェェストォオオオオッ!!!」

 鞘から放たれる超光速の抜刀術を止める術などない。

 ユノスダス教会に直撃するかに思われた抜刀術は、しかし剣姫の拳によって逸らされた。わずかに逸れた剣先がユノスダスの城壁を切り崩し、民家を巻き込み、教会を掠める。損害は著しく、しかしそれが半壊した天骸の限界だったのか今度こそ崩壊して消滅していく。

 直撃こそ免れたものの、崩れた教会を見てヌルズは鼻で笑う。

 

「これで次元転送装置は使えまい」

 クロックサイコの介入によって凶魔と鏖花は機人達に抑え込まれていた。これ以上の継戦は無意味だと判断し、二基を回収するとヌルズは腕を抑える剣姫を見下ろす。

 電磁抜刀を防いで無傷とはいかなかったのか、右腕から血を流している。拳は割れ、肘まで引き裂かれた傷は痛ましく、気丈に振る舞っているが相当な激痛のはずだ。

 

「俺が手を下すまでもなく、愛する臣民と共に滅びを迎えるがいい」

 ヌルズが姿を暗闇の中に消すと、残されたのは凄惨な戦いの痕。ありったけ叩き込んだ火力の弊害で地面は掘り返され、草木は燃え尽き、これがユノスダス領土で行われたのだから後が怖い。剣姫はちょっぴり血の気が引いた。

 

《御姫! 医療班急げ!》

「おれの怪我のことなどいい! ユノスダスの被害は!」

《現在調査中!》

 剣姫は顔をしかめている。それは痛みからくるものではなく、辛うじて手にした勝利が意味を成さないことからだ。

 自分だけに用意されていた医療班の治療を受けていた剣姫のもとへクロックサイコがゴアを引き連れてくる。

 

「さて、だいぶまずい状況になっているわけだが。これからどうするかね?」

「超次元の守護女神たちは送り出せた。ひとまずその一点で言えば作戦は成功している」

「それを喜ぶ暇などないな」

「その通りだ」

 肩を落としながら包帯を巻かれている剣姫のもとへ、もう一台のフォートクラブが爆走してきていた。その上に乗っている人物の顔を見てますます顔が青ざめる。

 怒り心頭のユウコが飛び降りると剣姫の肩に手を置いてガクガクと揺らし始めていた。

 

「お前はよぉ!!! 人様の国の土地で無闇矢鱈と総火演みてぇな真似しかできねぇのですかぁ!!」

「すまん!! 悪かった!! おれの責任だがやめろユウコ!」

「それで。あのクソボケ邪神はどこ行ったの」

「ひとまず撤退にまでは追い込んだ」

「うちの教会半壊したんだけど」

「許せ。おれの腕一本ではあれが限界だった」

「……許す! それで御姫、これからどうするの。次元転送装置も壊れたんだけども」

「お前が無事ならおれはそれでよかった」

 だが、自分たちがこれまでと同じように世界の滅びを前に無力であることに変わりはない。

 

「えっしょえっしょ……怪我大丈夫ですか?」

「む? まぁこの程度はな」

《腕一本をこの程度って言わないでください》

「友達を腕一本で助けられるのだから安いものだ!」

「御姫」

「なんだ、ユウコ」

「私達に残された時間、少ないかもしんないけどさ。そんな無茶しないでね」

「わかった。それで、なぜエヌラスの元カノがここにいる。一緒に避難したはずではないのか」

「まぁ私もそのはずだったんだけどさ。まーいつもの大魔導師のせいで面倒な状況」

 かいつまんで話せば、キンジ塔にマリーと“銀鍵守護器官”を届けなくてはならない。それが一体全体どうして世界を救うためになるのかわからないがそれもいつものことだ。

 

「マリーちゃんは私が責任持って送り届けるから、御姫は安静にしてて」

「それでその後はどうするのかね?」

「そうだネ! 無計画だネ!」

「えっと……キンジ塔を起動させるために神格者のみんながこの次元から離れてもらわないと困るんだけども……」

「その肝心の次元転送装置が壊されたんだ。おれ達に逃げ場など──いや、あるな」

 おそらくそれは、ヌルズですら失念していた。そうでなければ破壊せずに撤退しないはず。

 応急手当を終えた剣姫は立ち上がり、ユノスダスから視線を外した。

 

「クソメガネの国になら、もしかしたら何か手段が残されているかもしれん」

「となれば動きは決まった。まずユウコはマリーをキンジ塔へ、御姫はインタースカイで次元転送の手筈を整える。ということでいいかな?」

「いいんじゃないかナ!」

「お前が言うな」

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