超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
プラネテューヌの諜報部であるアイエフは西に東にとてんてこ舞い。猛争モンスターの制圧に首都防衛隊を動員しているだけでなく、自らも前線に立っていた。
こんな時に限ってレオルドは不在、ミリオンアーサーとチーカマが助力を申し出てくれたおかげでなんとか戦線の崩壊は免れている。
──あれから三日。たった三日しか経過していない。
相手の勢いが弱まったのを機に、一気に戦力を投入。なんとか押し返すことに成功すると、アイエフは肩を大きく落とした。
「こんな時に万年ビリケツドベ太郎はいないし、肝心のエヌラスは戻ってこないしで散々だわ」
改めて国境警備隊「B2AM」が如何に有能だったかも再確認する。変人の巣窟だったけども。
「ここは私たちでなんとかするしかないだろうな」
「そうね。ねぷ子達はアダルトゲイムギョウ界にいるらしいから、すぐ戻ってくるでしょうけど……」
「何か気になることでも?」
チーカマの質問に、アイエフは小さく相槌を打つ。
「ええ。まだ憶測の域を出ないけど、こちらがこんな状況なんだもの。それは相手からしたら絶好の好機のはず、なのにけしかけてくるのが猛争モンスターだけっていうのは何か引っ掛かるのよね……」
「確かにちょっと消極的な気がする」
「チーカマだったらどうするつもりなんだ?」
「うーん……そうねぇ。女神様がいないと分かったら、乗り込んで教会を叩くとか?」
「な、なんて恐ろしいことを考えるんだ……!」
ミリオンアーサーは恐怖した。アイエフは理に適った戦術に頷いている。
「教会を狙う、もしくは黄金の塔を叩く。そうすれば守護女神やゴールドサァドといったこちらの主戦力を大きく制限することができる。……そうするだけの戦力が相手にも無い、とは考え難いわ。魔人達を温存してるのもなんでかしら?」
ラステイション防衛軍極東支部には魔人の一人がいまだに滞在しているらしいが、一宿一飯の恩義のためにモンスターを蹴散らしているらしい。律儀なことだ。その報告はアイエフも目を通している。現在まで目立った行動はない。しかしミリオンアーサーは眉を寄せていた。
「ラステイション防衛軍極東支部の魔人とは、どんな相手だ?」
「あら、言ってなかった? まぁ色々あったから教えるの忘れてたかも。黒い鎧に金の髪、ちょうど貴方の持ってるソレと同じような真っ黒な剣を持っている魔人だそうよ」
「────」
思わず剣を握る手に力が入る。
オルタ──“もう一人のアーサー”が野放しにされていることに胸がざわつく。
極東支部ではマガツビを引き続き追っているらしく、オルタのことは眼中にない。そのため両者の間で無用な衝突が起きることもなく日々を過ごしているらしい。
ふと、アイエフの携帯が着信を知らせる。相手はネプギアからだった。
「もしもし、どうしたの? ──そう。こっちもひと段落したところよ、今から戻るわ」
「どうしたんだ?」
「ネプギアからよ。うずめが目を覚ましたって。こっちは防衛隊に任せて、アタシ達も一旦戻って休みましょ」
「そうね、賛成。こっちの作戦も決めないといけないし」
互いに顔を見合わせてから、チーカマ達はその場を後にする。
うずめの病室では、すでにコンパやイストワール、ネプギアが集まっていた。そこへアイエフとミリオンアーサーにチーカマも入ると流石に狭い。賑やかなのは良いことだが仮にも怪我人、丁重に扱うものだ。しかし、うずめはと言うと気にせず食事を口に運んでいる。
「イストワール様、各国の教祖様達からは何か連絡はありましたか?」
「特に進展はないそうです。はぁ……困りました、あれからみっかも経っているのにまだネプテューヌさん達はお戻りにならないなんて」
「もしかして、向こうで何か起きているのかも……」
ネプギアの何気ない一言に、場の空気が重くなる。慌てて手を振って訂正した。
「あぁぁ、違います! 何か起きているって言っても悪いことじゃなくて、お姉ちゃん達のことだからまたなんかハプニングに巻き込まれてるっていうか!」
「ネプギア。それは全然フォローになっていないと思う……」
「あぅ……」
ミリオンアーサーの冷静なツッコミにネプギアが肩を落とす。
「──うっし、ごちそうさま! いやー美味かったー」
「お粗末さまですぅ」
そんな空気を吹き飛ばすように、うずめは手を叩いて合掌する。コンパが手早く食器を片付けるために離席した。
イストワールはうずめの顔を見て思い出したように不安げな表情で眉を寄せている。
「ぎあっち。俺は心次元に行こうと思う」
「そんな、一人じゃ無理ですよ! それに怪我だってまだ……」
「わかってる。でも、このままここで待ってたって仕方ないだろ?」
「そうかもしれませんけれど……」
「アタシもその意見に賛成よ、ネプギア」
「アイエフさんまで」
ただし、それはネプテューヌ達が戻ってきてからの話。アイエフはそう付け足した。
「そうですね。もしもこちらでネプギアさん達からの報告にあったダークメガミが出てこられたら、甚大な被害が考えられますし……」
「そ、そうですよ。うずめさんがいなかったら“シェアリングフィールド”だって展開できないんですから」
「そんなこと言われたって、アレは結局大量のシェアエネルギーさえあれば展開できると思うぜ? ぎあっち達なら多分できるんじゃねーかな? 知らねーけど」
「……そうかなぁ」
ネプギアが少し考え込む。対ダークメガミ用の戦闘領域の展開。シェアエネルギーさえあれば自分たちにも可能かもしれない、という言葉にあーでもない、こーでもないと呟いていた。
「わたし一人じゃ無理かもしれないけど、ユニちゃん達とならできるかも……」
「きっとぎあっちならできるって。他の女神候補生たちもいることだしさ」
「そうですね、今はお姉ちゃん達がいないんだからわたしがしっかりしないと。いーすんさん、わたし早速ユニちゃん達に連絡してきてもいいですか?」
「はい、かまいませんよ」
会釈してからネプギアが病室を後にする。
「……これは私なりの仮説ですが、もしかするとうずめさんの不調は、シェアエネルギーの極端な低下が招いているものかもしれません。今は超次元もだいぶ不安定な状態みたいですし、その波長にも当てられていることが考えられます」
「それなら話は早い。零次元に戻っちまえばこっちのもんだ」
海男達ならきっとまだシェアクリスタルの在庫を抱えているはずだ。
「で・す・が! 今日一日は安静にしていてください。いいですか! わかりましたね! くれぐれも! 抜け出したりしないように!」
「お、おう……」
やたら圧が強いのも多分エヌラスが全部悪い。病院からの脱走常習犯なものだからイストワールまで関係者各位に謝罪して回っていた。そのため監視の目が厳しい。
うずめは気圧されてぎこちなく頷くことしかできなかった。
──『Ages』からプラネテューヌへ戻ってきたレオルドは猛争モンスターを撃退しながらもなんとかハネダシティの近郊まで辿り着く。
《や、やっと戻ってこれたっす……》
ルウィー国境線からまさか三日も掛かるとは思わなかった。向かう時は一日もかからなかったというのに。
崖から見下ろすハネダシティの灯りは安心感を覚える。辺りはすっかり暗くなっていた。夜はモンスターと鉢合わせる可能性も高い。レオルドは国境警備隊の肩書の名残から、念の為周囲を巡回して回ることにした。
──人気のない街道から外れた草原に佇む少女の姿を頭部カメラが捉える。
その後ろ姿は紛れもなくネプギアだったが、レオルドは注視した。彼女の纏う空気がどこか重く暗い。こちらに気が付き、振り返った彼女の目を見てすぐに気づく。
魔人の一人であるクロギアだ。どこか薄ら暗い印象を受ける相手に、レオルドは歩み寄る。
《こんな夜遅くに出歩いていたら危ないっすよ、クロギアさん》
「…………どうして私を気に掛けるんですか?」
《どうして、って。何かおかしいっすかね》
首を傾げるレオルドに、クロギアはじっとりとした目を向けていた。
「だって、私……貴方達の敵なんですよ。プラネテューヌの……」
《そうかもしれないっすけど。でも俺にとっては尊敬する女神様っすよ》
「──私が、此処ではないゲイムギョウ界を滅ぼした女神だったとしても?」
その言葉に《うーん……》と、腕を組んで悩む。
《──だとしても。俺の知っているネプギア様はそんなことする人じゃないっす。お姉ちゃんが大好きで、いっつも仲良しで。プラネテューヌのみんなが大好きな女神候補生ですし》
「…………、……」
《だから。クロギアさんも同じっす。そんなことをしたんなら、きっとそうしなきゃならない理由があったんだと思います》
レオルドの言葉にクロギアは言葉を失い、涙を堪えながら頭を抱えていた。
「──そんなこと、言わないでくださいっ。私は、だって、私は……! 自分の手で……」
《そんなに辛そうな顔してる人と、俺は戦えないです》
「でも、私……エヌラスさんから機神の右腕を奪って──」
《うーん。それは俺の預かり知らぬところなんでエヌラスさん次第っすね。それに、ほら。ここには皆がいるじゃないですか。クロギアさん、そんなに後悔しているんなら俺達と一緒に戦いましょうよ》
「……皆さんが許すはずないじゃないですか。無責任なこと言わないでください」
《そう、っすかね? 確かに無責任かもしれませんけど、みんな喜ぶと思うっすよ》
どうして? そう言いたげな潤んだ瞳に、レオルドは正直に答える。
《ネプテューヌ様なんて「妹が増えたー!」なんて喜びそうですし、ベール様だったら大歓迎して受け入れてくれるはずっすよ。ブラン様もノワール様も、多分……嬉しいと思います》
「…………本当に、そう思っているんですか?」
《はい。だけど、多分俺がそれを見届けることはできないのが残念っすね》
「どうして?」
《俺はシロトラと決着をつけてきます。勝ち目なんかないかもしれないっすけど、でも……俺はプラネテューヌの国境警備隊で、守護女神近衛機兵団の隊長っすから。俺が守るべきプラネテューヌのために全力を尽くします》
「……守るべき、プラネテューヌのため」
《はい。だからクロギアさんも、自分のやりたいことをやるべきです。なんていうか……
押し黙るクロギアに、レオルドは自分のクレジットを少しばかり手渡した。
困惑したように、自分の手に握らされた金額と顔を見比べる。
「これは……?」
《宿泊費っす。俺はこのままプラネタワーに帰ります。多分、最後のメンテナンスになるので使ってください。こんな夜に女の子が一人で歩いてるのはやっぱり危険っすからね、それでは》
何かを言い掛けたが、その声は腰部ブースターの点火音にかき消されてレオルドを呼び止めることはできなかった。
「──ありが、とう……」
その小さな感謝の言葉は、口に出すだけで少しだけ──ずっと淀んで、重苦しかった心が軽くなった気がした。