超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──超次元のコロシアム上空に現れたくろめは、そびえ立つ四本の黄金の頂を見渡して不快感に目を細めた。
守護女神システムが弱まったその時に世界が代行者を生み出す。それがゴールドサァドだ。
超次元の常識を改ざんして守護女神を消滅させようとした。だが失敗に終わっている。
邪神を名乗る相手と“取引”もした。その主戦力である魔人たちを預かっている。
──守護女神は戻らない。だから猛争モンスターを雪崩込ませるだけで十分だと思った。しかしどうにもうまくいかない。
我慢の限界だった。所詮は凶暴化したモンスターでしかない。
「……あーぁ、まったく。どいつもこいつも、ダメだなぁ。──クロギア、聞こえるかい? 観光旅行はおしまいだ。君は超次元に残る女神候補生を相手してくれ。黄金の頂を崩してしまえば残るゴールドサァドも片付けられる。他の余計な邪魔者は──オレがやるよ」
くろめの身体から溢れ出す黒い霧のようなエネルギーは、守護女神のシェアエネルギーとは異なる性質を持っていた。膨らむネガティブエネルギーはやがて空を覆う黒雲に吸い込まれ、やがて大きな影となって降り立つ。
数にして三体──ダークメガミの同時召喚。それはヌルズの協力があってこそ為せる暗黒星くろめの奥の手だった。
「──今日が最後だ、超次元ッ! 邪神の手を借りるまでもなく、オレが終わらせてやる!」
──ラステイション防衛軍極東支部が観測した波長は津波のように荒れ狂う。
警報装置の鳴り響く中で、オルタは静かに食事を終えると口を拭った。慌ただしく入ってくるゴッドイーターを一瞥すると席を立つ。
「オルタさん、猛争モンスターだけじゃなくて巨大な人影が──!」
「知っている。ここでの生活は気に入っていたんだが……どうやらそれも今日までらしい」
「あ、どこに行くんですか!?」
ツカツカと足早にアナグラを進むオルタは、やがて外に出ると空を見上げた。
嵐を知らせるような黒い雲に覆われているゲイムギョウ界を見上げて、鼻で笑う。そして、自らの身体を魔力の風が覆うと、そこに立つのは黒い鎧の騎士だった。
ゴッドイーターが神機を携え、慌てて後を追いかける。
目をバイザーで覆った黒騎士は微笑む。
「──私はこれからプラネテューヌへ侵攻する。ラステイションはアイツの縄張りだ」
「アイツ、って……」
ゴッドイーターの脳裏には、一匹の神蝕種モンスターの姿があった。
それこそは仇敵、極東支部にとって忘れがたい宿敵──遠方で雄叫びがあがる。
「私は、私の名に恥じぬ決闘に臨む。いずれ塵と消える我が身ではあるが──」
オルタが思い浮かべるのは“もう一人のアーサー”の姿。
「──この剣を依代に生み出されたからか。どうしてもあの者に王の是非を問わねばならない。ゴッドイーター。貴様もその名に恥じぬように、神を喰らい尽くしてみせろ。達者でな」
オルタは背を向けてプラネテューヌへ駆け出した。その姿はあっという間に森の中へと消えていき、すぐに見えなくなる。
緊急出動要請を受けたリントたちも神機を手に慌ただしく出てきた。
オペレーターの悲鳴じみた声が耳をつんざく。
《神蝕種マガツビ、黄金の頂近辺へ出現!》
「り、了解! ゴッドイーター、出撃します!」
だが。
──アレほどの強大な敵、どう太刀打ちすればいいのだろう。
ゴッドイーターは空に浮かぶダークメガミを見上げて固唾を呑むと、頭を振った。
プラネタワーのテラスから女神化すると、パープルシスターは空を飛んでまっすぐにくろめを目指す。すぐにブラックシスター、ホワイトシスターの両名からも通信が入り、合流した。
しかし、そんな女神候補生たちを阻む一条の光線。
威嚇射撃だったのか、被弾はしていない。
くろめはダークメガミを従えてその様子を見て笑っていた。
ゲハバーンを片手に、もう片方にはX.M.B.B.を。そこには、女神化したクロギア──カオスシスターが道を阻んでいる。
「そうそう、その調子で頼むよ。クロギア」
「……」
女神候補生達が険しい表情をする中、パープルシスターだけは自分と瓜二つの容姿を持つカオスシスターに困惑した顔を向けた。
「ネプギア、ぼさっとしてたらやられるわよ!」
「……うん。でも、ダークメガミが!」
それも三体──以前、零次元で戦ったのはマジェコンヌが融合したダークパープル。しかし今はブラックハート、ホワイトハート、グリーンハートを模したダークメガミだ。
それぞれの進路はラステイション、ルウィー、リーンボックスに向けられている。
シェアリングフィールドで囲うにもカオスシスターが阻む。ブラックシスターの射撃を相殺し、ホワイトシスターの魔術を回避しながらも攻め手を緩めずにX.M.B.B.による牽制していた。その弾道はパープルシスターにも迫る。
(どうしよう。どうしよう──どうしたら……!)
ダークメガミによる破壊は、零次元で目の当たりにした。
破壊された治らない次元の傷。もしもその被害が超次元で起きてしまったら──パープルシスターは言いようのない焦りに駆られて斬り込もうとした足を射止めるように海洋上空を一条の光が貫いた。
その光はまっすぐにくろめを狙っていたが、すぐさまダークメガミ──ダークグリーンが手で防いでいる。
射線から、それがリーンボックスから放たれたものであることは明白だった。
「今の、は……」
《──聞こえるか、ネプギア! こちらアルシュベイト!》
「! は、はい! 聞こえています!」
《状況は理解した。ダークメガミは俺が引き受ける》
「そんな! いくらなんでも無茶です!」
《俺を信じろ! ──“アイツ”が信じた最強をッ!》
軍事国家アゴウ国王。アダルトゲイムギョウ界最強の一角──アルシュベイトは大型のスナイパーレールキャノンを排熱しながら武装企業の輸送ヘリに吊られてコロシアム上空へ向かう。だが相手からの反撃を想定していなかったわけではない。
すかさず連結部を切り離し、ダークグリーンの攻撃から身を躱すと跳躍ユニットを点火。同時に“シュミクラムユニット”で追加武装を展開。飛行ユニットを背負い、自らの身体を暴力的な推進力で無理やりかっ飛ばす。
《シェアリングフィールドはそちらで使え! 事情はイストワールから聞いている!》
でも、とパープルシスターが尻込みする。それをピシャリと叱るような口ぶりでアルシュベイトは有無を言わせなかった。
《迷うなッ! こちらは俺に任せろ!》
「────、はい! 信じますっ! ユニちゃん! ロムちゃん、ラムちゃん!」
パープルシスターの呼ぶ声に、残る三人が同時にシェアクリスタルを構える。
『シェアリングフィールド、展開っ!』
──プラネテューヌの上空に浮かぶ光の中へ女神候補生とカオスシスターの姿が消えた。
それを一瞥してから、くろめはコロシアムにゆっくりと着地する。
「……アダルトゲイムギョウ界最強の軍神、聞きしに勝る馬鹿とは聞いていたけど。まさかこれほどとはね」
飛行ユニットを解除して降下すると、アルシュベイトはコロシアムに火花を散らしながら着陸した。肩を揺らすように歩を進める。
その背後が陽炎で揺れていた。
《キャロライン。放送回線のジャックはできるか》
《問題ありません。繋ぎますか?》
《頼む。ベストフレンドの流儀に則ろう》
《了解。回線、繋ぎます》
ハァド大戦ですでに経験済み、手慣れた動きですぐにゲイムギョウ界の放送をジャックすると衛星からの映像を流す。一時の混乱だが、映し出される軍神の姿に誰もが目を留めた。
《──ゲイムギョウ界の諸君、俺だ。軍事国家アゴウ国王、アルシュベイトだ》
静かな名乗りに、見上げるのは三体のダークメガミ。
《ハァド大戦の出来事は記憶に新しいと思う。プレジレントが引き起こした守護女神代理戦争──その真の目的は、今この時のためだった。守護女神が不在の時、誰が我々を守るのか》
一歩、踏み出す。それだけで地面が揺れたかのような錯覚すら覚える。
《俺達が守るべきは、俺達の場所だ。そうだろう──そこはみなが信仰し、愛してやまぬ守護女神が帰ってくる場所でもある。……すまんな、俺は生来、言葉が上手い方ではない》
さらに一歩、踏み込む。アルシュベイトは左手にシェアクリスタルを浮かべて握りしめていた。
《だが約束しよう。この俺に“敗北”のニ文字はないと──
「最初から全力で来るのかい? それじゃあ後が無いと言っているのも同然じゃないか」
くろめの嘲笑をアルシュベイト──シャイニングソウルは真っ向から睨み返す。
ダークメガミが咆哮すると、ダークホワイトが大斧を振り下ろした。
高層ビルを優に見下ろすほどの巨体から振り下ろされる武器は、唸りを上げてシャイニングソウルに迫る。ダークメガミの一撃はコロシアム諸共、相手を粉砕してみせるはずだ。
くろめはそう確信してやまなかった。だが──シャイニングソウルは両手に握る長刀を交差させてその一撃を
大地が叫ぶようにひび割れ、衝撃が走った。
《チェェェストォオオオッ!!!!》
──鬼気迫る咆哮と共に、シャイニングソウルはダークホワイトの大斧を打ち返す。
「…………は?」
目を白黒させて大きく身体を後ろに仰け反らせるダークメガミの姿を呆然と見つめていた。
──ありえない、ありえるはずがない。起こり得るはずがないんだ。こんなことが。
《……貴様は、俺がただの一度でも“全力”を出したのを見たのか?》
シャイニングソウルが両手の長刀を地面に突き立て、柄頭に手を置く。
《俺は今、怒りに燃えている。鉄と歯車ばかりの腸が煮えくり返っている。無二の戦友を二人も失った。この身体では涙のひとつも流せない、愛する女の涙を拭うことすらできない。だが──怒りだけは別だッ! 泣いて膝を折ることなど俺はしない。惜しもうと、悔やもうとも還ってこない命に払う敬意は前進あるのみ。──俺は託された》
特徴的なアイラインが睨みつけるようにくろめの姿を捉えていた。
《無二の
長刀の柄を握り、振り上げると衝撃波がコロシアムをビリビリと震わせる。
《覚悟はいいか三下。今日の俺は、女神すら凌駕する存在だッ!!!》
シャイニングソウルの全身から放たれている光はシェアエネルギーなどではない。
それは、鋼の戦友と好敵手の二人を邪神に葬られた一人の男の純粋な怒りだった。