超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──琴霧ソラの、ひいては電脳国家インタースカイの技術の総力を結集した電子の翼。それは武器庫へのアクセスラグを可能な限り廃したものだ。それをついぞ使うことがなかったのは、琴霧ソラが自分の実力を過不足なく客観的な評価を下したからに過ぎない。
最弱に最強の翼は似合わない。ならば、自分の信じる最強の戦友のために。
そうして調整に調整を重ねて完成したのが『レーヴァテイル』──大地を灼き尽くしても尚余る火力庫。
アルシュベイトが使用することを前提として設計された拡張装備は、もはや現実を歪めるほどに仮想が侵食してきている。
二刀を構えたシャイニングソウルがダークグリーンへ向けて推進剤を噴射して一気呵成に加速する──が。
《──お?》
それは、あらぬ方向へ空を切った。
急加速からの急制動は致死量の重量負荷がかかるが、もとより機人には潰れる内臓などない。
白煙を引いて止まり、反転して再び狙いを定める。しかしまたもや狙いが外れた。
初速からトップスピードの馬鹿げた加速にシャイニングソウルが鼻(?)で笑う。
《ハハハ! ソラめ、俺を買い被りすぎだ!》
瞠目したくろめだったが、笑いがこみ上げてきた。
「なんだい、全然使いこなせていないじゃないか。あんな大口叩いておいて恥ずかしくないのかな」
《もとより鉄の顔だ。恥いる面もない》
まさに鉄面皮。などと言っている暇もなく、ダークブラックの大剣とダークホワイトの戦斧が振り下ろされる。顔を傷つけられたダークグリーンは怒り心頭だ。
逃げ惑うシャイニングソウルの姿を嘲笑っていたくろめだったが──。
《よし。
「は?」
今、なにか。
信じられない言葉を聞いた気がした。
そして次の瞬間、シャイニングソウルが刀を担ぐ。武者上段。
《──
紫電が奔り、爆音を置き去りにした機人流抜刀術がダークブラックの大剣を打ち返した。鈍く重い金属音が悲鳴のように響き渡る。
返す刀でさらに一撃、左の長刀で傷口にダメ押し。首を押さえるダークメガミから距離を離すと、白い焔の尾を引いていた。排熱機構を全て後方に向けることで補助推進剤としての役割を持たせた結果「なら逆に熱量上げてしまおう」という大胆な発想によって異常なまでの過負荷に対する耐久力を誇る。
だからこそ「レーヴァテイル」と──焔の尾を名付けられた。全てを灼き尽くす名とともに。
白焔の光を率いて鋭角的な軌道を描いたシャイニングソウルの超電磁抜刀術がダークメガミの全身を切り刻んでいく。
《──“舞鶴”》
ガラスの砕け散る音とともに三体のダークメガミからネガティヴ・エネルギーが溢れ出す。亀裂の入った身体はシェアエネルギーによる攻撃で脆くなっていた。だが、あと一手。瞬く間に傷が塞がっていくのを見て、シャイニングソウルは思案した。
《同時撃破は流石に無理があるか。よし、各個撃破に切り替える》
思考一秒、即決採用。
補助翼のように展開された十字に交差したサブスラスターを噴射してダークホワイトに突貫したシャイニングソウルの手には、コンテナミサイルが抱えられていた。
《全弾、持っていけぇぇえええっ!!!》
両肩部に接続された多弾頭マルチミサイルも含めた三桁を優に超える弾幕。予算を考えるだけで胃が痛くなるような湯水のごとく弾幕を見てモニターしていたキャロラインの顔が渋る。
爆発と白煙に飲み込まれるダークホワイトだが、傷の回復のほうが早い。
煙を手で振り払う。だがそこにシャイニングソウルの姿はなかった。
《──対艦刀、装填用意。構え》
琴霧ソラは自分では扱いきれないような兵器ばかりを考案する。中には災害救助用と称して予算案を無理やり落とした訳あり品まであった。だがそれだけの武器を造り、単機で一国を攻略できるような兵装を用意したところで決して敵わないことを知っている。
これら全ては、あの黄金の怪物を前にしたところで何一つ役に立たないからだ。
──ただしそれは、琴霧ソラが使った場合に限る。
対艦刀『ヨモツヘグイ』はその代表例でもある。“チャンバラ”が出来ないソラにとって、それは『アルシュベイト専用』に仕立てた武器だ。モチーフはエヌラスの扱う野太刀だが、それでは機人の長刀と代わり映えしない。ならば、どうするか。
機人が扱うことを前提とした野太刀。重量もサイズも何もかもが規格外の野太刀は、気づけば全長十メートルを越えていた。満足に振るえるはずがないソレを、さて、どうするか──。
──
それを発想して、完成させてしまう辺り兵器開発の才能はあったのだろう。
……実用性はともかくとして。
《チェェェストォオオオオオッ!!!》
機神が吼える。全長十メートルに及ぶ馬鹿げた質量の馬鹿げた対艦刀を振りかざして。
白閃がなぞるはダークメガミの首級。振り抜き、放棄した刀身は電磁投射の熱量によって融解寸前まで赤熱化していた。
絶句するダークホワイトの顔面めがけてシャイニングソウルはさらに電磁抜刀術を重ねる。
首を断たれ、形を保てなくなったダークホワイトの輪郭が薄れて消えていった。
《まずはひとつ!》
ダークグリーンの長槍をかいくぐり、迫る魔術の槍衾を正面から強硬突破する。
電磁障壁と実体防壁の四重障壁の後ろにはロケットブースター。相手の攻撃を防御しながら突っ切るという荒業を体現した『ファラリス』の防壁が剥がれ落ちていく。その後ろから出てきたシャイニングソウルはダークグリーンの腹部に長刀を突き刺すと刃を上に捻り上げて上昇した。
逆袈裟に切り抜けて、いまだ傷の残る眼孔めがけて長刀を投てきする。それは寸分たがわずダークグリーンの眼球に突き刺さり、苦悶の絶叫が響き渡った。
その傷口にシャイニングソウルは突撃銃をぶち込んだ。銃弾ではなく、銃身を。
長刀を引き抜く代わりに引き金を引く。
両手に銃を。脇の下から覗く副腕にも機関銃を携えてあらん限りの弾丸を撃ち込む。
白く燃える機体が赤黒い返り血に塗れようとも構わず、最後は無反動砲を叩き込んで離脱すると顔の左半分が吹き飛んだダークグリーンの肢体がダラリと力なく崩折れて消滅していった。
《ふたつ、次!》
ダークブラックが大剣を振り上げる。それを長刀でいなすが、レーヴァテイルに微かな破損が見られた。
黒い大剣が再び薙ぎ払う。だがシャイニングソウルは交差させた長刀で防ぐと大剣の腹に取り付いて最短距離で距離を詰めていく。狙うのは頭部ではなく──剣を握る持ち手だ。
超電磁抜刀が親指を跳ねた。取りこぼした大剣からくろめが逃げ出すと、返す刃で更に指を切り落とす。
一撃で仕留めることはできずとも、指一本切り落とすことくらい造作もない。
相手の戦闘能力を奪ったところで最大戦速。首に長刀を突き立てて抉るように切り抜けていく。
《ラァストォッ!!!》
柄までねじ込んだ長刀を力技で振り払うと地上へ降下する。
熱暴走寸前まで稼働させていた『レーヴァテイル』からは甲高いタービン音が鳴っていた。警報装置がずっと鳴っているが、聞く耳を持たずに引きつった顔のくろめへ一歩踏み出すと担いでいた長刀を突きつける。
《覚悟はいいか、次は貴様だ》
「──規格外、なんて言葉は君みたいな化け物のためにあるんだろうね」
《さて、どうだかな》
ズン、と音を立てて歩み寄るシャイニングソウルの足が──不意に止まった。
くろめの背後。見覚えのある黒い渦から、見覚えのある不吉な黒い影が現れた。
見間違えるはずがない。
ヌルズ・エクス・モルテスはくろめの肩を叩くとシャイニングソウルへ歩み出た。
「アイツの相手はお前では手に余るだろう? アレは俺の取り分だ。下がっていろ」
その言葉に、果たしてくろめはなんと言おうとしたのか。何かを言いかけて、悔しそうに歯噛みして引き下がっていく。それを追わずに見送ったシャイニングソウルの網膜ユニットはヌルズへ向けられていた。
無機質な視線を感じてか、左眼を閉じたままのヌルズ・エクス・モルテスは鼻で笑う。
「アダルトゲイムギョウ界は滅んだぞ。大魔道師も死んだ。お前の帰るべき場所も、もうな──」
い、と最後まで言葉は続かなかった。
それよりも先にシャイニングソウルが踏み込んでいたから。
間一髪のところで避けたヌルズはため息をつく。斬撃を受け止めた地面から伝わる衝撃が建物を損壊させた。
「挨拶のひとつもなしか。アゴウ国家国王の品位が知れるな」
《それがどうした。お前はソラの敵だ。あの日、あの時、あんな状況でなければ俺はアイツを見捨てたりはしなかった》
「復讐か。つまらんことに随分とこだわるな」
《お前と話す舌などない》
シャイニングソウルの長刀が揺れる。ヌルズは即座に変神すると、抜刀した。
交差する超電磁抜刀術から奔る二つの紫電が反発し、周囲に拡散する。バチバチと弾ける火花は、果たして物理的なものだったか。
「いずれ滅ぶ。それが明日か、今日かの違いだ。──超次元もじきになくなる」
笑みを携えたヌルズの左眼が開かれる。
金色の瞳。次元神セロンより簒奪した神の左眼は妖しく輝いていた。
「神眼、開門──せいぜい足掻け、ブリキの国王」
そして、超次元の空が赤く染まり始める。血のように赤く、赤く。どこまでも広がっていく。
禍々しく描かれる魔法円から映し出される景色は──鏡合わせのような超次元の景色だった。
プラネテューヌがあった。ラステイションがあった。ルウィーがあった。リーンボックスがあった。だが、そのどれもが赤い水面の奥に沈んでいる。
「聞こえるか、機神の胎動が。お前にも理解できるはずだ──「あれには勝てない」と。それでも足掻くか?」
《当然だ》
即答だった。弾かれ合う刃が再び交差する。『殺戮院・凶魔』より放たれる斬撃を凌ぎ切ると、今度は無数の銃弾が壁となって阻んだ。
《お前が奪おうとしている明日は、アイツが! エヌラスが守りたかった今日だ! アイツは諦めなかった、ただの一度も諦めようとしなかった! それが今日までの俺達を繋いできた! ならば俺は、エヌラスの
あの日、託された。
帰ることが敵わないと知っていながら、愛した女神のために赴いたのだ。
《俺は絶対に諦めん! 世界が滅びようと最後に男と女が生き延びればこちらの勝ちだ!》
「ははは! あぁ、機械風情でも夢を見るのは自由だ──輝望、断つべし」
《夢すら見ない日々など退屈だろう──仇敵、断つべし》
空に浮かぶ不吉な魔法円の針が動き出す。
──次元世界滅亡までのカウントダウンが始まった。