超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
ゲイムギョウ界に残された時間は決して長くないことをシャイニングソウルは理解していた。
事実、ヌルズ・エクス・モルテスの宣言に誤りはない。
アレには勝てない。彼の破壊神は、超次元だけでなく、それに連なる次元すら破壊するという確信があった。
召喚を果たしたその時に、自分がどこまでやれるか。一太刀浴びせることすら叶わず倒れてしまうかもしれない──。
だが、そんな不安を抱えながらもシャイニングソウルは諦める気など毛頭なかった。
なぜならそれは──自分が戦禍の破壊神が認めた“
機神の振るう剣戟を受け止めるニ基のプロセッサユニット。遠近両用型の攻撃補助。単騎で女神一人分の戦力。本体合わせて三人同時に相手している手数を前に、シャイニングソウルは一歩も退かなかった。
不退転の進撃に嘘偽り無し。電磁抜刀を正面から防ぎ、受け止めた上で打ち返す。
懐かしさすら覚える超光速抜刀術の手応えに、鼻で笑う。──いなくなってから日は浅いというのに、すでにもう遠い日のように思えてならない。
好敵手と認めた相手がいないこの先の人生など、何を恐れて生きるというのか。
《──ォオオッ!!》
シャイニングソウルの気迫一閃が殺戮院・凶魔の装甲を深く断ち切る。
切り裂いた装甲が蠢き、傷口を塞ごうとするのを見て再び長刀を突き刺した。
あろうことか。
そのままぶん回して鳳凰院・鏖花に叩きつける。そしてもう一本を同様に修復される装甲に突き刺し、癒着させるとヌルズへ二体まとめて振り抜いた。
力技、強引な荒業に防御が遅れる。まとめて吹き飛ばされたところへ、シャイニングソウルは両肩に連装ミサイルポッドと両手にロケットランチャーを抱えて引き金を引く。
爆発。爆炎。衝撃と黒煙が立ち昇り、その中から飛び出す人影に跳躍ユニットの推進力で殴りかかる。
ダメ押しと言わんばかりにヌルズの顔面に弾丸のような鉄拳が突き刺さり、木々を薙ぎ払いながら遠ざかっていった。
生来、アルシュベイトは荒っぽい。それを王たる自負と自覚で控えているだけだ。
盗み見るのは天空の魔法円。ゲイムギョウ界の終わりのカウントダウン、そして──ネプギア達のいるシェアリングフィールド。その内部の様子は伺い知れないが、女神候補生達に加勢するつもりはない。
各国の状況も芳しくないことは理解していた。それでも今、自分に出来ることは絶望の邪神を斬ることだけであることも理解している。
アダルトゲイムギョウ界が消滅した。──その言葉の意味がわからないわけではない。
もとよりエヌラスひとりに押しつけていた負債を正しく払う形になっただけのこと。ならばその帳尻合わせに剣を振る。
迫る無数の銃弾と砲弾を炸裂装甲で強硬突破して、刃の怪物を殴り抜けてシャイニングソウルは愚直なまでに驀進した。
ヌルズ・エクス・モルテスの電磁抜刀をものともせず迎撃する。
一閃。腕を断ち切り、鋼鉄の脚部が骨を砕き、臓腑を潰す感触と音を聞く。だが──。
口腔からおびただしい血を吐き出しながらも邪神は笑っている。
その左眼に妖しい黄金瞳を宿して、輝かせながら。
「──“
《────》
シャイニングソウルの前でヌルズ・エクス・モルテスの肉体が再生する。時間を巻き戻したかのような。まるでダメージがなかったようにプロセッサユニットも無傷で稼働していた。
時間干渉を可能にする次元神の左眼を宿している以上、想定の範疇だ。
その姿を見ても絶望することなど決してない。
終わりがない戦いなどとうの昔に踏み越えてきた。
──だから今度は。
今度こそは。
この手で未来を切り拓く。
「諦めろ、アルシュベイト。いい加減理解できただろう? 貴様の武装では俺を殺し切ることなどできん。あの電脳国家国王がどれほど手練手管を尽くそうと、権謀術数を張り巡らせていたとしても。お前達の武装には
《それがどうした。俺はただ誰よりも先に最強の座に就いただけのつまらん男だ。その俺をひとり殺せん程度の邪神に超次元の未来を奪わせなどはしない》
「これだから輝望の男は困る。大概に折れろよ」
《その面で諦めるなよ、絶望。解釈違いも甚だしい》
シェアリングフィールドの内部では、カオスシスターと女神候補生達が激突していた。
ゲハバーンを接続した独自の可変機構を持つブラスターブレイドは女神武器に形を変えてパープルシスターのビームブレイドを弾く。
プロセッサユニットに攻撃機能を持たせたビットはホワイトシスターの2人を牽制していた。
ブラックシスターの射撃も魔法で防御している。
その合理的な戦闘機能を持たせた姿にネプギアは感心すると同時に、悲しい気持ちが込み上げてきた。
ゲハバーン──女神の命と引き換えに強大な力を得る魔剣。それを手にしたもうひとりの自分はきっと自らの手で女神のみんなを──。
自分一人だけが残されたゲイムギョウ界で、自分一人だけが戦い続けてきた。愛しい人のいない世界を。
大好きなお姉ちゃんも、大事な友達のユニちゃんも。ロムちゃんもラムちゃんも。
女神のみんなのいない世界。それを守ることがどれだけ重いことなのか。
「……お願い、話を聞いて! わたし達と一緒に──!」
「一緒に戦って? そんなのできるわけない!」
相手は自分だ。道を誤った自分だ。誤った世界線の自分だ。なら、何を言おうとしているのかくらいわかる。カオスシスターに言葉を遮られてパープルシスターが弾き飛ばされる。
「わかるよ、それくらい。だって貴方は、何も失ってないんだもん! いいなぁ……! 羨ましいな……わたしもそうだったからわかるよ! ユニちゃんも、ロムちゃんも、ラムちゃんも。お姉ちゃんもノワールさんもブランさんもベールさんも! みんないるんだから! でもわたしのゲイムギョウ界にはもう誰もいない!」
「──だから、わたし達のゲイムギョウ界も同じようにみんないなくなっちゃえばいいの? そんなの、許せるわけない!」
「じゃあわたしはどうしたらいいの!?」
エクスマルチプルブラスターが銃口を開く。その周囲にビットを展開させた拡散射撃がパープルシスター達を襲った。
弾幕を避けるうちに散り散りにされた女神候補生に向けてカオスシスターが舞うように斬撃を繰り出すミラージュダンスで一撃離脱。そして再びビットを展開して弾幕を形成した。
(あの武器……!)
「わかってる。わかってるよ。貴方を倒しても、貴方の代わりにわたしはなれないことくらい。
“クロギア”だもんね。大好きなお姉ちゃんがそう呼んだんだもん。いいよ、それで」
カオスシスターの声が震えている。出会った時からずっと情緒不安定なところがあったが、今はそれが如実に出ている。声色に危うさがあった。
「──ユニちゃん」
パープルシスターの呼びかけに、ブラックシスターが呆れたように肩をすくめる。
目を見ればわかる。きっとなにか考えがあることくらい。そしてそれが、自分たちにとても迷惑をかけるようなことなのだ。それでも決めたのだろう。
「わかってるわよ。ネプギアの考えていることくらい。自分で納得いくまでやりなさい!」
「ごめんね」
ポツリと小さく呟き、パープルシスターは無謀にも弾幕の只中にひとり突撃していく。
それを無茶と引き止めるよりも先に、ブラックシスターとホワイトシスター達は集中砲火を浴びるパープルシスターの援護に回っていた。
その姿を恨めしく、羨ましく思いながらカオスシスターは歯噛みする。接近を許したパープルシスターのビームブレイドを同じくブラスターブレイドで受けながら。
「……聞きたいことがあるの」
「なに?」
「──貴方の記憶にある“お姉ちゃん”は、こんなことを望んでいたの?」
「────」
その言葉はカオスシスターにとって禁句に等しい。
お姉ちゃん。大好きなお姉ちゃん。もういないお姉ちゃんの話。だってこの手で──。
そのお姉ちゃんの最期の言葉。思い出せない。思い出したくない。
「ううん。そんなはずないよね。だって、わたしの知ってるお姉ちゃんはプラネテューヌに暮らすみんなの笑顔が大好きだもん。夢に見るくらいに」
心次元で見た、ネプテューヌの心からの願望。
それは今のプラネテューヌと変わらない光景だった。
シェアは万年最下位だけど。赤字経営ギリギリセーフというかアウトだけど。それでも笑っているみんなに囲まれて過ごすのがネプテューヌの願望だった。
そんなネプテューヌが、ゲイムギョウ界の崩壊を望むはずがない。
「ううん、そんなはずない。だってお姉ちゃんは──」
「──黙って。お願い。わたしと同じ顔で。同じ声で。わたしが一番聞きたくない言葉を言わないで!」
「──ゲイムギョウ界のみんなが、大好きなんだから」
ゲハバーンを振り上げてパープルシスターを跳ね除ける。
わかっている。知っている。忘れるわけがない。だけど、思い出したくない。黒く、妖しく澱んだ紫色に輝く魔剣を見る度に。
大好きなお姉ちゃんの記憶が蘇る。
「お願い。わたし達に力を貸して。今度はわたし達といっしょにゲイムギョウ界を守ろう?」
「…………そんなの、できっこないよ」
言葉は沈み、俯きながらもプロセッサビットだけは変わらず弾幕を展開していた。それは女神候補生達を拒むように。
涙が頬を濡らしても、乾いた笑いだけが込み上げてくる。
カオスシスターは笑っていた。泣いて、笑って、困ったように首を傾げている。
「だって──わたし、もうなにがただしいのか……わかんないよ」
わたしは、この力で。
この翼で。
この手で。
──どこに向かえばいいんだろう。