超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
相性、というものが存在する。それは全てにおいて。属性相性然り、攻撃然り、防御然り。
シャイニングソウルは物理的な攻防で一二を争う。スピードは他に譲るが、それを補って余りある戦闘能力を誇っていた。
それを上回るには魔術しかない。だがそれも生半可な代物では歯が立たない。デッドエンドソウルは出力の落ちた殺戮院・凶魔を横目で恨めしく見つめると舌打ちをこぼした。
普通の魔術であるならば泥沼化するだろう。
だが、アレが放つ魔術はある種、機械人類にとって天敵と言える代物だ。
対峙した異形の邪神が動く。手を向け、その掌が光に包まれた瞬間──刹那、シャイニングソウルは直感的に防御ではなく回避を選んだ。
光線が木々を薙ぐ。背後で雪崩のような倒木の音に、キャロラインから通信が飛んできた。
『恐ろしい兵器です。防ぐのは悪手かと』
《……解析を頼めるか》
『すでに始めています』
《助かる》
『こちらで解析を終える前に、倒れないでください』
《俺を。誰だと思っている。その前に倒すかもしれんぞ》
光を放つというだけであれば見切れる。しかし、それにどのような魔術が込められているのかは定かではない。回避に専念しつつ、牽制射撃。
しかし、相手は避けすらしない。突撃砲の銃弾は跳弾し、無反動砲の直撃にビクともしない。
ならばと次の手を打つ。シャイニングソウルが持ち出したのは炸裂弾頭。本来ならば対戦車ロケットとして使われるものだが、これも例に漏れず機人仕様だ。
一撃でビルを倒壊させる破壊力を持つ弾頭を、邪神は億劫そうに腕から光を放って迎撃する。
光の中でみるみる失速していき──急速に劣化していくと、最後は錆ついて鉄くずとなって風化した。
《なんだあれは──》
『あくまでも仮説ではありますが、おそらくは時間経過による経年劣化かと。なぎ倒された樹木の損傷箇所が著しく枯渇しています。急速に水分を失い、枯れ落ちている状態から「時間加速」の魔術であると思われます。当たらないように回避に専念を』
《回避に専念、か。あの四本の腕からか?》
こちらは直撃すれば即死。対してあちらは頑丈な物理耐性。魔術防御も当然備えているだろう。それでいてダークメガミのような巨体ではなく等身大。となればレーヴァテイルによる規格外兵器の命中精度も期待できないだろう。
デッドエンドソウルならまだしも、こうも的確な
──だが、目の前の邪神は殺戮院・凶魔から取り出した魔導書から産み落とされた。規格外のプロセッサユニットを構築していた核のひとつと見ていい。
動力源のひとつを抜き出したのならば性能が大なり小なり低下しているはずだ。
《……だから、か。コイツを俺の足止めに置いていったのは! ならば相応に追い詰めていると判断した! 打って出るぞ!》
『くれぐれも直撃は避けて下さい。防御も論外です』
《確約はできん!》
異形の邪神を前に臆することなくシャイニングソウルは踏み込む。臆したところで手立ては所詮この手に握りしめた太刀しかないのだから。
接近しようとした矢先、膨大な熱量が渦巻く。路端の石でも蹴飛ばすように邪神が足を浮かせるだけで熱波が地面を這い回った。草木は枯れ、土は割れ、殺意を持ってシャイニングソウルに迫る。踵で地面を踏み、急減速から全身を使ったロールで熱の津波を避けると光弾が放たれた。
それを樹木をなぎ倒す形で防ぎながら左側面より急襲を仕掛ける。しかし、その太刀は届かなかった。代わりに機体表面を撫でる冷風に、シャイニングソウルは既視感を覚えるとその場から跳び下がる。
知っている。識っているのだ。覚えている、忘れるはずがない。
それもそうだ。当然だ、そのはず。
なぜならあれは──
知らず知らず、太刀を握り込む手に力を込める。空気が揺らめくほどの圧力に、異形の邪神は四つ腕を垂らして笑うように頭を小刻みに揺らしていた。
『あの魔術……』
《……有り得る話だ。だが何故だ。エヌラスと同じ魔術だと?》
その名を口にした瞬間、異形の邪神は身動きを止める。
じっと。ただジッと、顔の亀裂を歪ませたまま制止していた。
シャイニングソウルがそれを危険信号と判断したのは、ただの直感。いわゆる「地雷を踏み抜いた」空気に等しい感覚だけがひしひしと伝わってくる。キャロラインも疑問を腹に落とし、モニターを注視した。
右足に纏う灼熱のフォウマルハウトは、クトゥグアと同等。左足に纏う極寒の狂風はイタクァのものと見ていい。加えて、両腕と、両肩の副腕から放つ時間加速の魔術は防御不可。
戦況は悪路の一途。悪化していると断言できる。
──アルシュベイトは知る由もない。かつて彼方の青き星で邪神クァチル・ウタウスを相手にエヌラスは一度敗北を喫していることを。
しかし、彼は直感した。ヌルズの言葉を思い出す。
“──之なるは、かつて彼方の青き星で絶望と死闘を演じた一柱の神だ”
《……エヌラス。お前は俺の知らない場所で、知らない星で。これほどの強敵と死闘を繰り広げたのか。
お前は──》
どれほどの苦痛と困難と死線を越えてきて。
どんな思いで戦い抜いて、帰ってきたのか。
どれだけの傷をひた隠しにして笑っていたのか。
何故俺は今まで何一つとして気づいてやれなかった。否、気づいていた。だが、それを言葉にするにはあまりにも古傷が多すぎた。傷をえぐられることがどれだけの痛みを伴うのか知っていたからこそ、口に出せなかったのだ。
どんな戦いを乗り越えてきたのか、と。
不出来なお前のことだ。どうせ泣くほど嫌々ながら女と別れを告げてきたのだろう。
今にして思えば、後悔ばかりだ。
どうして俺はいつも誰かに伝えておくことをいなくなってから思い出すのかと。
──そんな
“──頼んだぜ、最強”
《──お前は当然これに勝ったのだろう?》
長刀を天に掲げ、切っ先を横一文字に突きつける。
《ならば! 俺が負ける道理は無いッ!!! お前が勝てる相手に負ければ“最強”が廃る!》
そうだろう、
俺はお前が認めた“最強”なのだから。
お前が全てを破壊する絶望ならば、俺は道なき明日を照らす無限の輝望だ。
シャイニングソウルは跳躍ユニットを噴射させた加速力を乗せて踏み出す。もとより無血無傷の勝利など眼中にない。
腕の一本や二本、足の一つ二つ程度はくれてやる腹づもりだった。
異形の邪神が吼える。臓腑の奥底から憎悪を吐き出しながら、四つ腕から穢れた光を放つ。
光線、光弾。光刃は触れるものを全て腐敗させていた。草木も、岩も、土も建造物も何もかもが触れるだけで塵となって消えていく。
降り積もる“死の灰”の中でシャイニングソウルは太刀を振るう。自らの身体を構成する物は全て機械だ。光に触れればたちまちくず鉄と化すだろう。だが幸いにも、効果があるのは光に触れた部分だけのようだ。
肩を掠める光に、脚を掠める光弾に攻めあぐねる。肉薄していながらも長刀による一撃は頑強な四肢に阻まれた。
その手応えは大木に斧を打ち込んだ感覚に近い。僅かに欠けた部位は、瞬く間に塞がっていく。つまりそれは、一撃必殺は望めないということ。苦戦必至。
『アルシュベイト、貴方の援護は』
《無用だ! 余計な犠牲が出る!》
長刀で腕を払う。右腕、左腕。返し刃で左肩、右肩の副腕。
──どうするか。どう打破すべきか。
──お前ならどうしたのだ、エヌラス。
紫電が奔る。シャイニングソウルの身体を駆け巡り、それはレーヴァテイルより発せられた。
一人だが、
《──そうだな、ソラ。今の俺には、お前の翼がある! 超えるぞ、俺と、お前で!!》
キャロライン! 名前を叫ばれて驚きに身を竦める秘書は目を丸くしていた。
『な、なにか?』
《
『一体なにを……』
《光を
『そんなことが』《出来る》
言葉を待たず、断言する。
《出来る。俺には到底届くことのなかった速度の壁だが、今の俺にはそれが出来る!》
『わかりました。アンジー!』
《了解。データ移行まで約五十八秒》
《到底間に合わん、全削除だ!》
《了解しました》
人工知能によって行われる拡張装備の
《──許せよ、我が鋼鉄の友よ。今だけは俺が
クァチル・ウタウスの巨腕が叩きつけられた。しかし、そこにシャイニングソウルの姿はなく、地面にクレーターを作っただけで終わる。
【…………】
周囲を見渡し、見つけた。
シャイニングソウルは全身に青白い紫電を纏い、淡く輝いている。
白銀の武神はゆらりと両手の長刀を揺らして構えた。
《電界突破──これが俺達流の“
刹那、クァチル・ウタウスの眼前より姿が掻き消える。残光の尾を引いて。
それは直感に等しかった。左肩の副腕を持ち上げると同時に、全身が沈み込むほどの衝撃に襲われる。
腕を見やれば、先程よりも一寸ばかり深く長刀によって切れ込みを入れられていた。
《光速を
【────!】
激怒した。烈光の邪神は、天を仰ぐほどに身体を逸らして咆哮する。
己の身に傷をつけたという事実が逆鱗に触れた。邪神の矜持に誰よりも誇り高くあった。それは苛烈なほどに、邪神の名を貶める同族すら処分することに躊躇がないほど。
だからこそ幽閉されたのだ。遥か彼方の時の牢獄に。
そしてシャイニングソウルの前に立つ彼もまた、同様にその性格を引き継いでいる。
《俺の