※この作品はR-18です。

超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽-   作:アメリカ兎

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ep.252 機械人類は守護女神の夢を見るか

 

 電界突破──それは、琴霧ソラ、もといバルド・ギアの持つ最速の拡張装備。

 物質の転送技術、デジタル保存した質量を現実に引き出す技術は軍需産業において目覚ましい発展と活躍を遂げた。

 それを用いれば、電波の届く場所であればありとあらゆる戦争行為を働くことができたはず。しかし、ソラはそうすることはなかった。

 技術の第一人者としての責務か。それとも矜持からか。その転送技術を制限することで経済の発展にのみ活かした。

 

 戦うのが怖かったのではない。彼はその席を自分よりも強い戦友に譲っただけのこと。

 

 そして、ソラが唯一その技術を使用することを許可した人物こそは──。

 

 光を超越(こ)えて、世界の危機を前に一歩も臆さず大地を踏みしめる。

 好敵手(せんゆう)の技の名を借りて。

 

 クァチル・ウタウスの光に触れればたちまち灰燼となって滅び去る。

 “死の灰”が舞う戦場は周囲一帯が更地となりつつあった。

 異形の巨腕を振るう。効果の及ばない手首を長刀で跳ね上げ、逆の手を突き出し、長刀で胴体を貫かんと押し込む。しかし、切っ先は僅かに肉体を削るばかりで致命傷には程遠い。

 両腕だけならば対処できる。だが、厄介なのが副腕の存在。そして自傷も厭わぬ両足の魔術。自らを中心に吹き荒れる魔力の奔流にシャイニングソウルは打つ手がない。

 一撃離脱を余儀なくされる。

 

 磁気加速で距離を離すが、相手は追ってこなかった。代わりに、四つ腕で光弾を連射してくる。ガトリングさながらの弾幕を前に光速移動で回避しながらも、迫る弾を副腕に保持した突撃砲で相殺させて凌いでいた。

 

『敵、移動を開始しました』

 キャロラインのナビに従い、相手を追う。弾幕を目眩しにどこへ行こうとするのか──現在地はゲイムギョウ界のほぼ中心部、コロシアムだ。

 敵の移動経路予測から導き出されるのは、プラネテューヌの市街地。

 成程、道理だ。こちらは相性の悪さを実力でねじ伏せている。活路を見出せるとしたら攻撃の手を休めないことだ。それが防げない以上、市民を人質に動きを制限するしかない。

 

 邪神らしい考えだ。だが、今のシャイニングソウルの機動力は光を超える。転送技術の応用、もはや短距離の空間転移に等しい。その追跡から逃れることなど不可能だ。

 迷わず後を追い、市街地への侵入を阻もうと立ちはだかる。動きを読まれていたのか、シャイニングソウルは短距離転移の着地点で魔力が膨れ上がるのを見た。

 

《ちッ、これは受けるしかないか!》

 同時に、邪神の一挙一動に細心の注意を払う。体勢を崩したところへ時間加速を打ち込まれたらひとたまりもない。

 クトゥグアの爆心地に飛び込む形となったシャイニングソウルは跳躍ユニットで着地点からズレて着地すると、体勢を整えて邪神へ飛び込む。相手は予想通り腕をかざしていた。

 四本の光条を縫うように身を屈める。しかし、間もなくキャロラインが異変に気づいた。

 

『接続エラー? レーヴァテイルに異常が発生しました』

《パージする!》

 背部の懸架ユニットとの接続を解除、切り離すと機関部周辺がごっそりと劣化している。

 相手はこちらの機動力を担っているのがレーヴァテイルであると見抜いた上で、その破壊を優先したのだ。

 時間加速の権能を用いれば容易にこちらの命を奪えると主張するように。

 

『システムチェック。損傷は軽微、戦闘を続けてください』

《わかっている》

 上空のネプギア達は防戦一方のようだ。こちらも早く救援に駆けつけたいが……。

 相手はそれを許すつもりがないらしい。ますます魔力を滾らせて迫っていた。

 “最速”の翼を失った以上シャイニングソウルに対抗手段はない。邪神は勝利を確信して豪腕を振るう。

 

 四肢に触れまいと切っ先で攻め手を見切りながら捌き切る。

 灼熱の蹴撃を長刀で受けたシャイニングソウルの自重量を吹き飛ばす膂力は無骨な外観に見合う威力を秘めていた。

 崩れた体勢に光を束ねた槍が投擲される。身をよじって避けようとするが間に合わない。間一髪のところで張り出した肩部ユニットを掠めたが“パラパラ”と音を立てて剥がれ落ちる装甲に舌打ちをこぼした。

 

 神格者を鎧う変神を遂げた我が身であってもいずれ滅びの運命からは逃れられない。

 ならば、この手にした愛した女神の加護も同様に──。

 シャイニングソウルはそれを失うことだけが唯一恐ろしかった。

 

 肉体を失い、機械の身体を得た今。自我を自分たらしめるものは、もうコレしかない。

 我が身、我が生命を失うことに一片の恐怖もない。

 だがこの手にある女神の加護──愛だけは手放せない。

 

 それ故に、シャイニングソウルの剣は守りに偏っていた。らしからぬ剣戟に自覚はある。どのように攻めたとて、勝ち筋が見通せないこともまた事実。

 機動力を大きく削がれたことで相手の攻撃を受ける機会が増える。致命傷ではないが、確実にダメージは蓄積していた。

 

 モニターしているキャロラインの顔色が渋る。相手は規格外の邪神、想定外の事態に自分は本社でコンソールを叩き、眺めていることしか出来ないのかと。

 

『──救援を向かわせます、持ちこたえて下さい』

《不要だ! 繰り返す、救援は不要!》

『しかし』

《構うな! 皆が戦う理由は女神のためだろう! 俺ではない! 信仰を胸に一度は散らした命だ、今更惜しむものなど何もない!》

 その声は絶えず中継されていた。

 猛争モンスターたちの脅威に立ち向かいながら、人々は耳を傾ける。

 ルウィーで。ラステイションで。リーンボックスで。プラネテューヌで。

 

 ──アダルトゲイムギョウ界は次元神の規定通り滅びた。キンジ塔を残して。

 今ここにいるのは亡国の機人でしかない。だがそれでも。

 

《俺を俺たらしめるものなど、この剣ひとつあればそれで十二分に事足りる!》

 キャロラインは静かに胸に当てた手を握りしめる。薄暗い部屋の中で。

 ──この方は本当に社長によく似ている。女神信仰の狂信者。

 

《奇跡が女神の特権ではないことを示さねばなるまい。──そうだろう、好敵手(せんゆう)》

 

 邪神の脅威、依然変わらず。魔力の嵐に毅然と立ち向かい、丁々発止。シャイニングソウルはクァチル・ウタウスを前に引かなかった。

 上下左右から不規則に繰り出される拳撃を迎え撃つ刃は振り抜くことなく止めている。打ち払った勢いで逆の腕を防いでいた。しかし、両足の魔術に対しては後手に回る。

 

 自爆に等しい暴発を目の当たりにして体勢の崩れたシャイニングソウルは、顔面を狙う掌に光が集まるのを見た。

 刹那、迷う。そして気づけば身体は動いていた。

 胸中で謝罪する。この光を切り抜けた後に刺し違える覚悟で。

 

 ──光を断ち切る白刃に、呆然とする。互いに無防備となっていたのは僅か数秒。

 だが、勝敗を決する天秤が傾くにはあまりに短い時間だった。

 

 刃に目を向ければ、依然変わらず輝いている。変化は見られなかった。

 

《────》

 

 クァチル・ウタウスは胸中に浮かぶ疑問を振り払うように再び光を放つ。

 今度はそれを迷いなく長刀で一閃した。

 刃は、変わらず白く輝いている。

 

《そうか……、そうだったな》

 なにを恐れることがあったのか。

 何度輪廻を繰り返しても。世界の真実を知っても、隣にいることだけは変わらなかった。

 それこそがなによりの証明。

 

 クァチル・ウタウスが放つ光弾をかいくぐり、長刀を振り下ろす。叩き込まれた衝撃は先程までとは比べ物にならないほど重い。腕に沈み込む刃を振り払おうとするのを逆の長刀で跳ね上げる。

 それでも残り二つの腕があった。手を包む光が身体に触れるよりも先に返す刃が弾く。

 

【──!】

 削られる身体に、怒りが身体に満ちる感覚を覚えた邪神が吼える。

 その視界を覆う鉄拳。岩肌に叩き込まれる機械の拳の破壊力たるや凄まじく、初めてクァチル・ウタウスの足が地面から浮いた。

 大樹が嵐に舞い上げられるように吹き飛び、倒れる。

 

 宙に投げた長刀を掴み取り、柄頭に手を置いて地面に突き立てる。剣礼。

 結局のところ、己の武勇を馳せるのは手にした剣以外に残っていない。

 その四肢に紫電が奔る。──磁気加速は残り一度が限界。

 

 シャイニングソウルの思考は、簡潔なものだった。

 あらゆる銃撃、砲撃、生半可な魔力を有する攻撃の一切は通用しないと。

 ならば斬るだけのことだ。

 

《邪神よ。俺はお前の名を知らぬ。だが覚えておけ。貴様らが理不尽に命を奪うように、貴様らは理不尽に殺されるのだと》

 戯言を──。クァチル・ウタウスが手に光を宿すのと、シャイニングソウルが踏み出すのは同時だった。

 無数に放たれる光線、光弾、触れれば腐敗し、万物を壊死させる殺意を凝縮させた権能を振りかざす邪神に最短距離を最速で一直線に進む。愚直なまでに、その愚かさはむしろ清々しさすら覚えた。しかし油断なく魔力を打ち出す。

 

 踏み出した足を軸に、逆の足を引いて跳躍ユニットを腰を捻りながら吹かす。身体を回転させて回避運動と同時に減速することなく距離を詰める戦術機動(マニューバ)は連続機動させた際の軌跡が蛇に似ていることから『コブラ』と呼ばれていた。

 無論、それを可能とするだけの跳躍ユニットの機動性と体捌きを要求される高等技術。──本来であれば、アルシュベイトと同タイプのユニットでは行うことができないとされている。

 

 瞬く間に剣の間合いに相手を収めた。だがインファイトは相手の土俵である。

 副腕を打ち払い、捌き、シャイニングソウルの重ね十字の長刀が右腕を手首から断ち切った。逆袈裟で左副腕、右副腕を跳ね上げる。残る左の腕を蹴り飛ばし、至近距離からのコブラ機動で背面に回った。

 

 それをすかさず烈火の回し蹴りで追撃しようとするが、そこに機人の姿はない。そして、あり得ない機動から顔面に拳を叩き込まれた。

 背面に回り込んで即座にブレーキを掛けると超信地旋回で逆の機動を描く『ダブルコブラ』機動をアルシュベイトに使わせたのはクァチル・ウタウスで四人目である。

 

 たたらを踏む相手にすかさず長刀を叩き込む。左副腕をへし折り、迫る右の副腕に長刀を突き刺す。左の拳を見て、シャイニングソウルは胴体を長刀で押し込みながら外へ回り込んだ。

 間合いを外された相手の拳が左肩を吹き飛ばすが、大上段から打ち込んだ長刀が左腕と左副腕を叩き落とす。

 

 再生を終えた右拳はクトゥグアの炎を纏いながら迫っていた。左手で手首を打ち上げると、シャイニングソウルは懸架ユニットに長刀を納める。

 右副腕に突き立てた長刀を掴むと、捩じ切るように奪い取った。ボロボロと崩れ去る副腕に空気が揺らめくほどの激情を見せながらクァチル・ウタウスが腕を振り下ろす。

 

 シャイニングソウルはそれを避けなかった。

 左肩に打ち込まれた拳に触れるだけで機械の身体は風化していく。

 痛みもなければ喪失感もない。だが、それに当惑したのは邪神本人だった。

 

《──“超電磁抜刀術(レールガン)”》

 バチリと音を立てて、紫電が護国の機神を白く照らす。

 

《天雷》

 それは、好敵手(せんゆう)が手にした対軍事国家兵装。

 ならばこれは、戦友と、好敵手の手を借りた最速にして最強の一撃である。

 

 シャイニングソウルは最後の電界突破、磁気加速を回避ではなく攻撃に転じた。

 光速を越えた神速の抜刀術は長刀の重量を絶大な破壊力でクァチル・ウタウスに打ち込まれる。それは左肩口から深く胴体に入り込み、身体を形成する“核”に迫った。

 遅れて再生した左副腕が光を宿す。

 

《チェェストォオオオオッ!!!!》

 

 押し切る形で“核”を断ち切るのと、クァチル・ウタウスの拳が頭部ユニットを半壊させるのはほぼ同時だった。

 ボロボロと朽ち果てていく邪神の肉体が灰の塊となって散っていく。その身体を形成していた心臓である魔導書は紫色の炎に包まれて塵となった。

 

《礼を言うぞ、邪神よ。お前の存在が、俺を俺たらしめる愛の証明をしてくれた》

 半壊した頭部、残された右目の網膜ユニットが邪神を見下ろす。

 

『アルシュベイト、機体損傷率が四割を超えています』

《そのようだな》

『そのようだ、って……貴方は何も感じないのですか?』

 右腕は、動く。無くなった左腕の分、身体のバランスに気を遣えば腕一本でまだ戦える。

 無くなった顔の左半分に触れて、それでもまだ不思議と自分に死神の迎えが来ないことを確かめたアルシュベイトは変神を解除した。これほど長時間、変神していたことはない。

 

《大魔導師曰く、俺は最も「魂の輪郭」というやつを自覚しているらしい。だからか、俺は機械の身体が壊れたところであまり気に留めん》

 それでも今後の戦闘行動に支障をきたす。至急、救急ユニットの搬送を手配したキャロラインの声を聞いてから空を見上げる。

 

《────》

 

 そして、見た。

 不吉な赤い空で、ヌルズの凶刃に貫かれるクロギアの姿を。

 

 

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