超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
──烈光の邪神、クァチル・ウタウスとシャイニングソウルが交戦する一方で女神候補生達はデッドエンドソウルを足止めしつつゲイムギョウ界の上空を覆う魔法円を目指していた。
ホワイトシスターの魔法とブラックシスターの射撃による弾幕で迂回させて距離と時間を稼ぎつつ、詰めようとするのをパープルシスターとカオスシスターがビットで迎撃することで得意とする接近戦に持ち込ませなかった。
「よし!」
足を止めたのを視認してからブラックシスター達が再度上昇する。
「お姉ちゃん達はまだなの!?」
「あの虚数展開を崩さない限り別次元からの干渉は不可能なんです!」
「どうして!」
「えぇと、簡潔に説明すると次元世界を隔離するシャッターのような役割があるんです!」
超次元が他の次元から隔離されている状況であることを理解したブラックシスターが新たな疑問を口にした。
「待って。じゃあこっちから出ていくことも出来ないってこと!?」
「そういうことになります! 右から!」
カオスシスターが撃ち抜いたのはミサイル。どこから飛んできたのかと目をやればデッドエンドソウルの構える左側の呪術兵装、鳳凰院・鏖花から生えていた。その機首には血走った目玉が獲物を探し求めている。
四方へ無造作に放たれたミサイルは女神候補生を目視すると旋回して迫っていた。すかさずブラックシスターが迎撃し、ホワイトシスターが薄氷の壁を形成して防御する。
続けざまに機関銃の対空射撃。
そこでパープルシスターが違和感に気づいた。距離があるとはいえ、得意の電磁抜刀術を使わない。加えて、僅かに動きが鈍くなっていた。
遥か下、地上に目を向ける。そこでは邪神の放つ光線を前に悪戦苦闘しているシャイニングソウルの姿。空にいてもわかるほどの邪気と瘴気から、それがこれまで相手にしてきた物とは比較にならない神格であることがわかる。
「世界一つ消滅させるのになんでそんな手間かけるのかしら」
「多分、バランスを取るためなんじゃないかな。宇宙の」
終わりを迎える世界があれば、新たに生まれる世界もある。だが故意に破壊と創造を引き起こせば他の世界に影響が出るはずだ。それを咎められない為の防御策として対象を隔離する。
次元規模の解体工事だ。だからこそ、悪質極まりない。
「でもアレをどうにかできるの!?」
「……できます。できるはずです、この剣なら」
ゲハバーン。カオスシスターの持つそれは、女神達の犠牲によって完成された魔剣。
「どうするつもり?」
「虚数展開も紐解いてしまえば、魔術の一種です。その術式にゲハバーンの力を注ぎ込んで陣を乱せば……」
「不発になるってことね!」
頷くカオスシスターに、パープルシスターだけは浮かない顔をしていた。
(でも、私たちだけじゃとてもデッドエンドソウルに太刀打ちできない……)
どうにかこうにか膠着状態に持ち込めているのはカオスシスターの助力があってこそだ。虚数展開を中断させるために一時的に離脱した隙を狙われたらひとたまりもない。
しかし、そんな不安に気づいているのかカオスシスターが目配せをする。
「……私に考えがあるの。聞いてくれる?」
デッドエンドソウルは鳳凰院・鏖花から弾幕を展開しながら全速力で女神候補生達を追い上げていた。
ブラックシスターが進路上に「ドルチェ・ヴィータ」を展開する。自分たちが突き抜けた直後に無数の弾幕が降り注ぐ。それを殺戮院・凶魔を盾にする形で強行突破すると、ホワイトシスターが氷塊を叩きつけてきた。
「“
一瞬の溜め。抜刀術である以上、不可避の動作。それを視認したブラックシスターは両断される氷からデッドエンドソウルの姿を視認した瞬間に引き金を引いていた。
二手。迎撃と防御に割いた邪神にカオスシスターはプロセッサビットを展開させる。
「──64式エクスブレイド!」
ビットから射出される大型の刃がデッドエンドソウルを更に突き放した。
距離は更に大きく開く。だが油断は出来なかった。
「……、──“
パチリ、と。紫電を纏う姿にカオスシスターは緊張を高める。
「──“
来た。殺意を滲ませた形相で突き放した距離を詰めてくる。
併走していたパープルシスターとカオスシスターがアイコンタクトを取ると、同時に頷いた。
プロセッサビットを加速形態に装着すると、二人はブラックシスターたちから大きく離れる。
「っ……、ダメ! 追いつかれるわ!」
大丈夫、とカオスシスターは胸中で答えた。
進路を阻む形で立ちふさがるデッドエンドソウルとカオスシスターが切り結ぶ。鍔迫り合う横をパープルシスターがすり抜ける。
「今更虚数展開を止めようなど!」
「止めます。止めてみせます! あの時の私に出来なかったことを、今度こそ!」
「止めたところでどうなる。お前の帰る場所などもう無いだろう」
「……そのとおりです。貴方に奪われました」
勝てなかった。どうにもならなかった。ただ滅びゆく世界を見届けることしかできなかった──
「だけど貴方だって同じじゃないですか。行く場所も、帰る場所もないのは」
「それがどうした。俺は元よりそういう異物だ。生まれるべきではないのだ。存在してはならない邪神だ。それが今、こうして此処にいる。だから滅ぼすだけのこと」
蠢く呪術兵装を抑え込むようにプロセッサビットが動く。複合可変女神武器であるX.M.P.B.B.はその形を巧みに変えてデッドエンドソウルの太刀を捌いていた。
空いた左手に違和感を覚える。その手にあるはずのゲハバーンは無かった。
見上げれば、パープルシスターが魔法円に向かう姿。──その手に魔剣を握りしめて。
出し抜かれた、とは考えていない。
目の前にいる魔人の裏切りも想定していなかったわけでもない。
万が一にでも起こりうる可能性だった。それが起きただけのこと。
「手間をかけさせる──!
打ち合う合間に、ブラックシスター達からの横槍が入った。デッドエンドソウルはパープルシスターを追い、遅れてカオスシスターが再び加速する。
「ちょ、クロギア! 待ちなさいよ!」
──わかってる。
──私は造られた魔人。
──ゲハバーンを制御するために造られた女神。
──あの魔剣から流れ込んでくる記憶が私をずっと苦しめてきた。
──このゲイムギョウ界を壊すために用意された
──もうひとりの私を見た時、羨ましかった。妬ましかった。恨めしかった。
──どうして私は、ああじゃなかったんだろうって。
追従するカオスシスターの射撃に、デッドエンドソウルは失速した。ふらりと揺れる身体が反転する。瞬間、加速した。
交差する一瞬に電磁抜刀術を打ち込まれるのを武器を盾に防ぐ。衝撃で横殴りに吹き飛ばされるが姿勢を立て直すとすぐに急上昇した。
鳳凰院・鏖花が胎動する。魔力を含んだ弾幕を、ビットを盾にしながらカオスシスターはパープルシスターに追いつく。
──ずっとひとりで悩んでた。
──ずっとひとりで苦しんでいた。
──どこに行けばいいんだろう、って。
──また消えてなくなる世界を傍観していればいいと、そう思っていた。
魔法円から放たれる瘴気が目に見えて色濃くなってくる。息が詰まるほどの邪気と、邪神の胎動にパープルシスターは息を呑む。カオスシスターがひったくるようにゲハバーンを奪うと、急上昇していく。
それを追い抜くデッドエンドソウルは、担ぐように野太刀を構えていた。
──でもやっぱり、それでも胸のモヤモヤは消えなくて。
──それでもどこか、頭のどこかで悩んでた。
──でも、わかった。たった一言で、私はやっと気づいた。
──《やりたいことをやるべきです》
──《なんていうか……後味悪いじゃないっすか》
「
「ッ──!」
──私のやりたいこと。
──私がやるべきこと。
──女神候補生の私が、本当にやらなきゃならないこと。
──そんなのは決まってる。
──大好きなお姉ちゃんの代わりに、ゲイムギョウ界を守るんだ。
ブラスターブレイドを盾にして直撃を免れる。だが、ひび割れる複合型可変女神武器の亀裂が広がっていく。それでもプロセッサビットは無事だ。
デッドエンドソウルが二の太刀を繰り出すよりも先に、カオスシスターはゲハバーンにビットを装着させた。
大きく振りかぶる。全身で投てきした長槍はビットの推進力を得て加速していき、魔法円に到達すると激しく反発し合っていた。
返し刃を受け止めたブラスターブレイドが粉砕される。カオスシスターは自分に向けて手を伸ばすパープルシスターに投げた。
舞うように翻った太刀が、カオスシスターの胸を貫く。
「────」
パープルシスターがブラスターブレイドを掴み取ると、外部装甲が一斉解除された。
その中から現れたのは、自分が手にしているM.P.B.L.と瓜二つの女神武器。
デッドエンドソウルが刃を押し込むとカオスシスターの女神化が解かれる。
「……ちっ、これだから女神の模倣品は」
太刀を引き抜かれるとクロギアの身体は重力に従って落下していく。
デッドエンドソウルが見上げた魔法円に奔る亀裂。完全崩壊には至らなかったが、術式の一部が挿入された異物によってエラーを吐き出している。やがて、魔法円の一部が決壊した。巨大なステンドグラスが砕け散るように破片を撒き散らして。
鮮血の空の先に広がる青空を見た。
そこから落ちてくる四人の姿に、クロギアは微笑む。
あたたかい陽の光を背にした女神化の光を浴びて。
急降下してくるパープルハートの必死に伸ばした手が、身体を抱える。
「クロギア! あなた、どうして……!?」
「……おねえ、ちゃん」
自然と涙が溢れてきた。
「──ごめん、なさい。わたし……まもれなくって、こんなことしか、できなくって」
「……いいのよ。謝らないで」
「泣いて……くれてるの? お姉ちゃん……私のために」
「当たり前じゃない! 大事な、世界で一番大切な妹ですもの! どこの世界のネプギアだとしても!」
「────」
「そうでしょう? クロギア。私の方こそごめんなさい。来るのが遅れて」
「……、よかった」
クロギアの安堵しきった声と、顔から力が抜けていく。
身体の輪郭が淡く輝いていた。パープルハートの手の中から、重さが消えていく。
「──よかっ、たぁ……わたしの、だいすきなお姉ちゃんだ…………」
「────」
クロギアは、初めて笑った。
それはネプギアと何一つ変わらない笑顔で。
パープルハートの手に抱かれたまま、その姿は光となって空に消えていく。
後には、何も残らなかった。
──それは、エヌラスの時と同じように。
空っぽになった手を見つめて、静かに握りしめたパープルハートはデッドエンドソウルを睨みつけていた。