超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
砕けた円陣から注ぐ破片を手に、デッドエンドソウルは守護女神達を見下ろす。ゲハバーンは虚数展開を維持する術式に耐えきれなかったのか、砕けていた。
その答えはクロギアの姿が消滅した時点で出ている。
「……クロギアは」
「アレはゲハバーンを御するために用意した魔人だ。アイツの記憶は、それに準じた物に過ぎない。
パープルハートの拳が硬く握られていた。
「どうして、そんなこと……」
「いや、なに。ちょっとした実験だ。魔人を創るのも簡単なことじゃない。“無”から作り出すよりも、元となる“一”があった方が手間が省ける」
実験──邪神の気まぐれのような言葉に、パープルハートが強く睨みつける。怒りを覚えるのは何もひとりに限らない。その場に居合わせている女神達の逆鱗に触れていた。
「あれがお前の妹に似通っていたのは、それこそただの
「っ……!」
我を忘れそうになる。しかし、逆上しそうになる頭に冷水を浴びせたのはグリーンハートの手だった。
ネプギアを自分の妹のように可愛がるベールだが、クロギアにも同様の思いを抱いていた。それでもまだ平静を保っていられるのは、一連の話に思うところがあるからか。
「ベール……?」
「失礼。今の話を聞いて、私も思うところがあります。魔剣ゲハバーンを元に創り出した魔人がクロギアちゃんであるのなら──破壊神を元に作り出されたエヌラスが貴方に酷似していることにも合点がいきます」
「……それがどうした」
「では。貴方達邪神というのは、どのように生まれるのでしょう」
「お前達女神と大差ない。信仰によって生まれる守護女神のように、邪神というのはいわば“システム”のようなものだ」
役割がある。務めがある。もちろんそれは人類にとって良いものとは限らない。
救う神がいるのならば、滅ぼす神もいる。
その言葉にグリーンハートの口尻が上がった。
「エヌラスは邪神を元に生み出された魔人。という見解でお間違いありませんわね?」
「……なにが言いたい」
「いえ、別に。ただ──女神の姿をした魔人がいるのなら、その逆もあり得るのではなくて?」
魔人でありながら、人を救う神格も可能性がある。とどのつまり、大魔導師が創り上げたのは生まれながらに矛盾した神だった。
それが意味するところは──。
「エヌラスは破壊の権能を持っていましたが、それが何を意味していたのか。貴方が一番存じ上げているはずです。貴方が「最後の邪神」であるのならば、エヌラスは──」
言葉を遮るように鳳凰院・鏖花がけたたましい銃声をかき鳴らす。
それを合図に女神は四方へ散った。
(ヌルズが恐れるわけですわ。自身が全てを終わらせる破壊の神であるならば、エヌラスはいわば「全ての始まりの神」になるわけですもの)
世界を終わらせた、
ヌルズは絶望で締めくくる。全てが無くなった後に生まれる原初の希望。
何も持たない無垢なる神。
持たざる神であるからこそ、無限の可能性を選び取ることができる。
ベールがその確信に至ったのは、おぼろげな記憶の中にあるエヌラスとの死闘。その決着。
光に包まれて、無限熱量の中で相打ちになると思っていた。結果は違った。あの光は自分たちの中にある猛争エネルギーとシェアエネルギーだけを“リセット”してくれた。
破壊と創造が同居した矛盾した魔人。そして元となる邪神の記憶によって、その能力を勘違いさせられていた。
大魔導師が何故それほどまで回りくどい真似をして育てたのかはわからないが、“銀の鍵”の答えは出なかった。
いの一番にネクストプログラムを起動させて斬り掛かったのは、ブラックハート。続いて、グリーンハート。双方の挟撃に、デッドエンドソウルが呪術兵装を切り離した。
「……、そんな」
方陣を見上げたブラックシスターが異変に気づく。
欠けたはずの、中断させたはずの虚数展開が再生しつつあった。次元規模の演算が再構築されれば、カオスシスターの犠牲は無駄になる。
だが──もうゲハバーンは無い。止める手段はなかった。
ネクストホワイトの戦斧を受け流し、ネクストパープルの太刀を受け止める。
「随分と荒れているな、パープルハート。そんなに気に食わないか、妹の姿を使われたのが」
「ええ。自分でも驚いているわ。こんなにも他人に怒りを抱くことができたなんて。とても怒っているわ」
「奇遇だな、俺もだ。出来損ないのアイツには常々不快感を抱いていた。不愉快だったよ、ところがどうだ。次元神の奴が俺を駆り出す頃には紛い物なりに俺に並ぶほどときた」
数多の多元宇宙を渡り歩き、死闘を繰り返しながら決着はつかなかった。
「だからお前たち女神には感謝しているよ。
「ッ──!」
ネクストパープルの太刀筋を凌ぎながら、デッドエンドソウルはネクストホワイトの強烈な一撃を利用して離脱する。
「クロギアの犠牲はただの時間稼ぎにしかならない。再構築すればいいだけのことだ。あれだけの魔術、保険くらいは当然だろう? だが」
自分の左眼を指して、不敵な笑みを向けていた。
「虚数展開の要はココだ。今、俺を倒すことができれば機神招喚は失敗に終わる」
「……それなら」
「それが出来れば苦労はしないだろうがな」
「言ってくれるじゃねーか。やってやろうじゃねぇかよ、この野郎!」
ネクストホワイトが振り上げた渾身の一撃を、デッドエンドソウルは倭刀で受け止める。重い手応え、確かな感触に直撃しているはずだった。しかし、それを空中で踏み留まっている。
それに目を剥いたのも束の間、返された蹴撃の速度にネクストパープルが身体を受け止めた。
「ブラン!」
「っ~~、平気だ。けど……今のは」
「ええ……あれは」
「あぁ、心配するな。お前達女神に負けてやるつもりなど微塵もない。勝てると本気で思っているのなら全力でかかってこい」
それとも、と区切る。
「それとも──死にかけの魔人ひとり倒すのが全力か?」
「──テ、メェェエエエエエッ!!!!」
ネクストホワイトが咆哮と共に戦斧で斬りかかる。それを倭刀で受け流し、捌き、防ぐことなく避けると小柄な背中に再び電磁加速蹴撃を叩き込んだ。
刃を寝かせる形に構え、刀身を炎が包む。
電磁抜刀術の応用。撃ち出された斬撃がネクストホワイトの頬を掠めた。
「お前たちのその力は、黄金の頂によってもたらされた奇跡の集大成だ。正面から相手してやる理由はない」
ゲイムギョウ界を覆う戦火に気づいたネクストパープルが見たのは、猛争モンスターの群れがなだれ込もうとしているプラネテューヌ。
ラステイションでは防衛隊が市民の避難誘導をしていた。
ルウィーもまた、同じく。
リーンボックスでは武装企業のロボット達が防衛線を築いていた。
その進路はどれも黄金の頂を目指している。中には、魔人に蹴散らされる姿もあった。
「全てを救うなど無理な話だ。正しく選べよ。誰が、何を救うのか」
──プラネテューヌを離れ、零次元へと通じるダンジョンを抜けたレオルドと大ネプテューヌはうずめを探していた。
モンスターしかいない静かな世界に、レオルドの脚部ローラーとブースター音だけが広がる。
「うーん、うずめったらどこ行っちゃったんだろう」
レオルドは、自分の背中に座って周囲を見渡す大ネプテューヌに相槌を打つ。
《向かうとしたら心次元っすよね。でもあんな怪我をしていたら勝てる勝負も勝てないっすよ。それはうずめさんも理解してるはずっす》
「だから早く見つけて連れ戻さないと!」
《あー、そのー……ごめんなさい。実は俺、戻る気なくって……》
「どぇええええ!? じゃあ何!? 私もしかして心中させられちゃう!?」
《でも考えてみてくださいよ。クロワールさんを取り戻せれば大ネプさんはそのまま帰れるじゃないっすか》
「あ、そっか。盲点だったー」
ポンと手を叩いて納得したように笑う大ネプテューヌの顔は、ネプテューヌにそっくりだった。レオルドはその面影から顔を逸らして先を急ぐ。
「ん? 待って。仮に私はそれでいいとしてもレオルドとうずめはどうするの?」
《ギクーッ! いや、そこはほら、俺はなんとかなります!》
「あ、うずめだ」
《どぅわぁあああっ!!! もっと早く言って下さい!》
ずべんどがんどんがらがっしゃーん。派手に転倒する姿が廃墟のコンビニ突撃した。
それをよそにうずめへ駆け寄る大ネプテューヌは残っていたアジトでシェアクリスタルと包帯で治療していた海男も見つける。
「おっきいねぷっち! それに、レオルドまで」
「もー、うずめったら勝手に病院抜け出したりして。いーすんが激おこだったよー」
「はは、悪ィ。でもやっぱ、もう一人の俺がやったことなんだから、俺自身でケリつけねーといてもたってもいられなくてさ」
「二人とも、うずめを引き止めに来たのかい?」
《俺はそういうつもり全くなかったっす》
「意外だね」
レオルドはうずめ達に自分の正体を打ち明けた。
自分がかつて、どのような願いで造られたのか。資源採掘用ロボットとして偽装された自分たちの正体がどのような役割を担っていたのかを。
それが、女神の脅威に成り得る代物であったことも。
「……そうだったのか」
《だから、シロトラに対抗できるとしたら俺が最適のはずです》
「うーん。でもでも、シロトラってエネルギー無効化しちゃうんでしょ? いくらレオルドが女神を脅かしかねない新エネルギーで動いてると言っても」
「それに、レオルドの仲間たちでも無理だったんだろ? お前一人で勝てるような相手じゃ……」
《それについてはご安心ください。もちろん俺なりに勝算はあります》
胴体ユニットを拳で軽く叩いて胸を張る。
《うずめさんは力を温存してください。目的地まで俺が護衛します》
「……悪い。頼む、レオルド」
《任せてください! 女神様を守るのが、俺の仕事っすから!》
先行して周囲を索敵したレオルドが安全を確認すると、まだ痛む身体に鞭を打ってうずめは立ち上がった。
(はは、まったく……たった3日寝ただけで治るとかどういう身体してんだか。エヌラスの奴)
──なんとなく。
もう二度と会えない気がしていた。
あの時、自分たちを逃がすために四女神の前に立ちはだかってから一向に消息は掴めない。
勝てるはずがないと自分が一番わかっていたはずなのに。
その切っ掛けになってしまったのは、他でもない自分だ。
だから、今度は──。
「……悪い夢なんて、終わらせなくっちゃな」
うずめは小さく呟いた。