超次元ゲイムネプテューヌZ-血と硝煙と鋼と荒唐無稽- 作:アメリカ兎
「おォッ――!」
『……!』
衝突する魔風と血風。拮抗して空間が歪み、衝撃で指揮者が死んだ。超高速で編まれていく術式と術式が魔術回路を熱暴走させていく。複製品、過去の遺物と言えど――未曾有の怪物として君臨していた地上最強の魔導師を複製することが出来たのは邪神ズアウィアだからこそ。しかしながら、それでも大魔導師が構築していた論外の論理は見よう見まねでしか再現出来なかった。それだけでもネプテューヌ=パープルハート達を片手で相手するほど。ならば本物はどれほどの実力であったのかなど計り知れない。
もはや『緑竜会』の根城は見る影もなくなっていた。壁に走る無数の亀裂がとうとう耐え切れずに崩壊していく。既にクロックサイコの気配は何処にもなかった。騒ぎに乗じて既に姿を消したことにエヌラス=ブラッドハートは舌打ちする。
「いかん、エヌラス!」
「分かってる! パープル、離脱だ!」
「ええ。ネプギア、しっかり掴まってて」
「はい!」
崩壊していく建物の中で、無貌の大魔導師は見上げていた。離脱する様子は見せない。その口元は笑みが張り付いたままだった。
エヌラス=ブラッドハート達が『緑竜会』から離脱して、九龍アマルガムの一画で腰を落ち着ける。ようやく一段落と言ったところだが、無貌の大魔導師という目下の障害は残されたままだ。変身を解いたネプテューヌが苦しそうにお腹を擦る。
「うぅ、今日の晩御飯食べれるかなぁ……」
「本当に大丈夫かよ。ちょっと見せてみろ」
「え、私ワンピースだから……パンツごと見せることになるよ?」
「やっぱいい。腹抱えて呻いてろ」
「……ねぇ、見たい……?」
「ええい頬を赤らめるなスカートの裾を持ち上げるな見せるなァァァ!」
「なんでさー! カルネが『ご主人様はこういう下着がお好み!』って紐パン勧めてくれたんだよ!? 今穿いてるんだよ! 見たくないの!?」
「テメェのパンツが何色の何だろうがどうでもいいわ! というかあの野郎、帰ったら小指へし折ってやる」
「やはり……ロリコンッ!」
「うっせぇ死ねブシドー!」
「というかエヌラスさん、紐パンが好きなんですか……?」
「づぉぉぉぉぉぉうッ!? そこ掘り下げなくていいぞネプギア!」
胸の動悸を抑えながら、エヌラスは改めて現状を整理した。
邪神ズアウィア――まさか復活するとは思いもしなかった邪神が、大魔導師の姿を模して現れた。それだけで国家転覆レベルの大事件だ。さて、どうやって倒してやろうか……そこまで考えて、答えに詰まる。一度は殺した相手だ。だが、それがこと邪神とあっては滅ぼすことなど出来ない。
――ただ一つを除いて。
エヌラスは左胸に手を当てる。“コレ”を使えば、或いは可能性がある。しかし、もしこれを解除された場合は……ネプテューヌとネプギアの顔を見比べた。
『?』
二人は首を傾げ、エヌラスは自嘲する。
「いや。なんでもねぇよ……なんでもな」
もとより守りぬくと決めた相手だ。それならば、何を惜しむ必要があるのか。
「ネプテューヌ。お前はいつだったか俺に聞いたな。あの魔導書が何なのか」
「えっ? そんなの聞いたっけ?」
「テメェ……」
「あ、思い出した。エロ本だっけー」
「ようしお兄さん頭かち割っちゃうぞー」
「ひぎゃあ! ごめん嘘だから! 嘘だからー覚えてますです!」
「あの魔導書な。師匠の形見だ。以上」
「短っ!?」
大魔導師御用達の魔導書。何が記されていたのかまでは言うまい。いまだにその全容は本人同様に不明瞭な部分が多い。エヌラスでさえまだ解読し切れていなかった。
ふと、そこに邪神の気配が流れ込んだ。見上げると、そこには無貌の大魔導師が立っている。その手には赤い十字架の結晶――アンチクリスタル。
『――――』
その口が結んだ言葉。紡いだ絶望の宣言――『トランジション』
そして、無貌の大魔導師は神化した。
人の姿に紅の竜の翼を背負い、金色に輝く十字架を手にしている――そのはずであったが、その手に握られているのは似ても似つかぬ邪悪な赤黒い十字架だった。
「来やがったな、邪神」
「ど、どうするの……? アンチクリスタルじゃ、私達の攻撃通用しないよ!」
「だろうな」
「だ、だろうなって」
十字架が振り下ろされて地面が穿たれ、隆起する。その余波で地面が揺れた。地震が起きたように老朽化した建物が倒壊していく。ネプテューヌを抱え、ブシドーはネプギアを小脇に抱えて避けていた。
「俺はともかくとして、お前ならこいつでどうにかなるだろ」
「それって……」
「過信は禁物だが、ちょっとは保つだろ。ほら、手ぇ出せ」
エヌラスは自分の右手の指にはめていたシェアリングを外し、ネプテューヌの左手薬指にはめこんだ。そのサイズは自動で修正されてピッタリと収まる。
「……」
「何赤くなってんだお前……」
「何か結婚申し込まれたみたいですっごくドキドキした!」
「しねぇからな! ゼッテェしねぇからなテメェとは!」
「でも責任取ってくれるんだよね!」
「しっかり聞いてんじゃねぇか!?」
「あ、聞き間違いじゃなかったんだ」
「しまった墓穴掘った!」
「ウヒョーウ、私のテンションがうなぎ登りだよー!」
「ドチクショウがぁぁぁぁ!!」
「……賑やかだな」
「すいません、私の姉が……」
「いや、良い。あの男にはあのような伴侶が必要だ。剣の道に生きると決めた我が身とは違い、エヌラスには己を照らす者が」
「それが、お姉ちゃんなんですか?」
「ふむ。然しながら、ロリコンであるというのは否めんな……」
「本人から凄い否定されてますけど」
「大体なーお前なー、それ俺の手製だからな! ぶっ壊すなよ! 絶対壊すなよ!」
「お手製の婚約指輪!? ロマンチックだね!」
「てんめぇぇぇぇぇぇ!! 後で返せよ、返せよ!?」
「えへー、やだ」
「手首ごともぎ取るぞテメェ!!」
「変態性癖もそこまでこじらせると逆にキモいよエヌラス! ロリコンなのは別に私が得するからいいけどさ!」
「ロリコンじゃねぇって言ってんだろうがァァァァァァッ!!」
アクセル・ストライクが十字架の軌道を逸らした。その斬撃が九龍アマルガムの蒸気を吐き出すビルを何棟も切断して大騒ぎになっている。
チャンスは一度きり。
ネプテューヌを下ろして、エヌラスは――変神した。
ブシドーもまた、ネプギアを下ろすと素手で無貌の大魔導師に向かう。
「ブシドーさん!?」
「心配ご無用。我が身は既に冥府魔道に堕ちた一振りの刀。然らば、折れるまでが我が寿命――しばしの間、剣を忘れて楽しませてもらったよ。礼を言う」
左手を腹の前に持ち上げ、右手の甲を向けるように緩やかに構えた。ブシドーに無貌の大魔導師は十字架を振り上げる――。
「心影流奥秘――“
キィン、――!
それは、金属音だった。甲高い衝突音に、エヌラス=ブラッドソウルもネプテューヌ=パープルハートもネプギアも、対敵である無貌の大魔導師ですらも呆気に取られる。
五指を並べ立てた徒手空拳のブシドーに向けて再び十字架が振り下ろされた。だが、それに突き刺すような手刀を向けて“ガキィン!”と金属音が鳴り響く。通常、ブシドーの腕は断たれ、肉を裂き骨を砕きながら鎖骨、胸骨、心臓の順に切り落とされていなければならない。それこそは論外の論理であった。ただひたすらに剣の道を究めんとする男の辿り着いた境地。
「驚くことはあるまい、大魔導師。貴方が見たかった我が剣の道の果ての果て。拙者が辿り着いた境地、コレこそが我が心影流の秘剣にして魔剣。“魔を断つ劔冑”よ」
「なん、つぅ……デタラメな」
「論外の論理を競うこそが魔術師の闘争ではなかったか?」
「そういうのは
「常軌を逸脱した者に言われるとあっては我が本懐!」
「冗談が通じねぇ……」
無貌の大魔導師が振るう十字架と金属音を奏でながらブシドーは巧みに捌き、その隙を突いてネプテューヌ=パープルハートが剣で胴をひと薙ぎした。だが、それは浅く表面を切り裂いただけで留まり、空いた左手で見向きもせずに衝撃波が吹き飛ばす。
「くっ――でも、エヌラスの婚約指輪のお陰でなんとかやれそうね」
「婚約指輪じゃねぇってんだろうがやっぱ返せよお前!」
「嫌に決まってるでしょ! 後生大事にさせてもらうからね!」
「返せやコラァァァァアアア!」
エヌラス=ブラッドソウルはネプテューヌ=パープルハートと共に無貌の大魔導師と肉薄する。同時に両腕を切り落とし、その首をブシドーの手刀が斬り落とした。だが、相手は元を辿れば赤黒いコールタールのような液体。すぐに元通りに再生した。
その左手に黒い粒のような球体が幾つも浮かび、放たれる。緩やかな曲線を描きながら追尾してくる黒い球体は、エヌラス=ブラッドソウルのイタカによって相殺されたが、その攻撃をかい潜って抜けた数発が足元を直撃する。まるでくり抜いたようなクレーターが出来上がった。
「な、なにあれ!?」
「超小型のブラックホールみてぇなもんだ。当たれば跡形も残らねぇぞ!」
「でもブシドーは切り落としてるわよ!」
「アレは論外!」
魔導師の放つ魔術は構成術式となる“核”が存在する。それさえ潰せば恐るるに足らないのだが――それを、よもや“直感”で潰しているブシドーの前には超重力弾ですら脅威ではなくなっていた。
「エヌラス! 此奴を討つ術は無いのか!?」
「あ? ねぇよんなもん! ――と、言ってやりてぇが、あるんだなこれが。任せろ。パープル、少しだけでいい。時間を稼いでくれ」
「ねぇ、そのパープルって呼ぶのやめてくれないかしら。色で呼ばれるの味気ないのよ」
「お前このタイミングでそういうことぶっこむの!?」
「ほら、ネプテューヌって名前で呼ばないと私ダメな方向に全力で行くわよ? いいの?」
「よくねぇよ何なんだよお前はよぉ! わかったよ! 頼むぞ、ネプテューヌ!」
「もっちろん。任せなさい!」
“後でゼッテェ泣かす……”
エヌラス=ブラッドソウルは人知れず誓っていた。泣かせると決めたのはこれで二人目である。だが、今はそれよりもやらなければならないことがあった。
“銀鍵守護器官”の完全開放だ――。